Semua Bab 幸福配達人は二度目の鐘を鳴らす: Bab 61 - Bab 70

76 Bab

第61話

「もう、あなたったら。こんなところで何やってんのよ。そんなのさっさと断りなさいよ」  振り返り、彼女の顔を見つめる俺を、腕組みをしたまま、少し呆れた表情の彼女はスタスタを俺の傍に歩み寄り、俺の空いている方の腕に彼女の腕をからめて歩き出した。妻が一緒にいるとは思っていなかった客引きは素直に引き下がり、ホールドしていた手を離す。  しばらくはそのまま、二人腕組みをしたまま歩いてから立ち止まり、彼女の方を見た。 「もしかしてわたし、余計なことしました? 本当は前澤さん、あのお店に寄りたかったとか……」 「い、いや…… そんなことはない…… 助かったよ」 「なら……いいんですけど」  そう言いながら顔を少ししかめるとき、左の目を瞑り、同時に左の口角を上げるところまで元恋人に似ているなと気づく。その表情に心躍る何かがあることは否定できない。 「わたしも家、同じ方向みたいなので、一緒に帰りましょう」  そして歩き出す新垣さんと肩を並べてネオン街の中を歩く。たしかにこうして歩いていれば声を掛けてくる客引きはいないだろう。少し落ち着いた俺は、いましがたの新垣さんの行動を思い出して少しおかしくなってきた。彼女は俺の妻のふりをして客引きを撒いたのだ。 「し、しかし、いくらなんでも妻のふりというのは……」 「変ですか?」 「そ、それは……まあ。たぶん年齢的に見れば親子という方が自然じゃないかなあ」 「そうですか? 別にわたし達くらいの歳の差夫婦なんて別に珍しくもなんともないですよ。特に最近は…… さっきの客引きの人だってそれで納得していたみたいですし。それに、親子でこんなネオン街を歩いている方がよっぽど不自然だと思いません?」  その言葉を聞いてふと我にかえった。思えば今、俺は若い女性と二人でネオン街を歩いているのだ。もしこの状況を誰かに見られたとしたらいいわけなどできないだろう。一刻も早くこのネオン街を離れなくてはならないと少しばかり焦ってしまった。  目の前にあった曲がり角を、彼女を先導するように曲がる。しかしそれは大きな間違いだった。まがった先はネオン街を離れるどころかホテル街だった。慌てて踵を返しながら、 「す、すまない。道を間違えた…… そ、その…… 少し飲み過ぎたようだ……」  焦る気持ちがありあまり、通路わきに置いてあったごみの詰まったポ
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第62話

 いつも毅然とした態度の新垣さんの言葉が震えていた。 彼女が今言っている言葉は冗談などではないようだ。 「お、俺は、結婚、しているんだ……」 「だから…… なんだというんですか……」 「い、いや、結婚しているということは…… つまり…… そういうことなんだ……」  自分でもいったい何を言っているのかよくわからない。 「もう、そういう時代じゃないですよ……」 「わ、わかってる。わかっている……けれど……」 「わかっているけれど……奥さんのことを愛してる……ですよね」 「え……」  それは、思ってもいなかった言葉だった…… いままで妻に対し、〝愛している〟なんて感情を意識したことなど無い。  しかし、言われてみればたしかに、彼女の言葉を否定するだけの言葉は見つからない。たしかに十九年前、愛のない結婚をしたということはまぎれない事実かもしれない。しかしそれからの月日を重ねていくうちに積み重ねた想いでの数々、娘の成長に合わせて一喜一憂した日々を共有してきた。その日々のうちにお互い、かけがえのない存在になっているのではないだろうか。安にそれは絆というべきものかもしれない。しかし五十年生きてきた人生を振り返り、愛を伴わない絆なんてものを発見するには至らなかったように思う。これまでの十九年間で妻の幸福を祈らなかったことなど一度もないし、同時に彼女の幸福こそが俺の幸福でもあったのだ。だから…… 「ああ、俺は妻を愛しているんだ……」  初めてその言葉を口にした。本人に対して一度も言ったこともない言葉を、まだあって間もない、娘ほどの歳の少女に対して初めて打ち明けた。  それは、この目の前の娘ほどの歳の女性に心惹かれている自分自身の戒めの意味もあったかもしれない。 「妬けちゃいますね…… でも、わたし、これであきらめたわけじゃないですよ」 「え……」 「前澤さんが奥さんをどれほどに愛していたとしても、だからと言って別の人を愛せないなんて思ってませんから。前澤さんの隣はまだもう一つ空いていますからね。ライバル多いみたいですけど、わたし、頑張りますからね」 「あ、ああ……」  俺には、そこまではっきりと意思表示する彼女を否定するだけの言葉は持ち合わせていない。  それは、彼女自身がこれから悩んで選び取って行かなければならない事であって、俺がどうこう
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第63話 ~如月優樹菜のケース

アタシにはちゃんとした人生設計がある。まず、大学に進学してやりたいことをちゃんと学ぶ。そしてそのうえでなるべく年配の、なるべくお金を持っている立派な人物と結婚して子供をもうけ、育児の手が収まり始めるころに大学でのキャリアを活かして就職。そして仕事のキャリアを積んだ後、若い男性社員をゲットして二度目の結婚をする。新卒で独身の男性はわずかな初任給を税金でごっそり持って行かれることに頭を悩ませているので比較的落としやすい。それに若い進入社員にしてもそこで一度結婚しても、また数年後に同じ方法で若い新卒の女子社員を見つければいい話であって、この結婚計画に無理はない。アタシが考える最も有効的な結婚二回の使い方だ。 しかし、そんなあたしの人生設計を台無しにしかねない事件が起きた。 アタシを、従兄のたくみくんと無理やり結婚させようというのだ。 おそらくことの主犯はおばあちゃんなのだろう。父親の口から語られてはいるが、所詮婿養子である父親は祖母の傀儡でしかない。 祖母は考え方のとても古い人間で、どうやら昨今の『重婚制度』に対して批判的らしいのだ。そこで、一度目の結婚を近親者とさせることで、疑似的な『非重婚』状態をつくろうというのだ。 昨今、そういった行動を推奨するものがあるというのは聞いてはいたが、まさか自分に身に降りかかることになるなんて思いもよらなかった。 これはもはや政略結婚ではないだろうか。いや、そんな生易しいものではない。これは策略結婚だ。「ちょっとそこ、座りなさいよ!」 祖母の謀略の告げられた応接室からなかば逃げ出すようにたくみくんを連れだし、自室のベッドの上に座らせようとする。しかし、たくみくんはおろおろと落ち着かない状態で立たまま、一歩も動こうとはしない。「……え? ひょっとして緊張してる?」「あ…… お、おんなのこのへや……」「え? なに? なにをいまさら言ってるのよ。昔から何度も来ているでしょ」「え、あ、うん……」「なによ、もう。だらしないったら……」「え、あ、うん……」 相変わらずうじうじしているたくみくんの両肩に手を置き、ぐっと下に押し付ける。それでようやくその場にあぐらをかいて座った。アタシはその横のベットの上に腰を下ろす。「ねえ、たくみくん。ああいう時はたくみくんからもなんか言ってよ。たくみくんも嫌でしょ。なんのことだか、わけのわかんない理由を並べられ
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第64話

「うわーそれはさいなんだー」  子供のころからの幼馴染である志穂が、ブロンドに染め上げられた長い巻紙を指でくるくるといじりながら、まるで他人事のようにつぶやいて見せた。  高校を卒業して就職した志穂は、すぐにでも結婚するものだろうと思われていたが、結局誰と結婚するでもなくアパレルの仕事を始め、その大半を税金で持って行かれることにぶつぶつと文句をつぶやく日々を送っているのは、彼氏の大貴と晴幸もおなじだ。どちらも卒業と同時に志穂と結婚するつもりでいたのだが、直前になって結婚を渋った志穂に困惑しているようだ。もっとも、大学に進学することになった耕介は、彼女の結婚相手という二枠のどちらも埋まらなかったことにひとまず安堵をしたようだ。 「でもさ、優樹菜。その幼馴染の従兄のこと、この先好きになるって可能性はないわけ?」  高校からの同級生、ゆかりは呑気なことを聞いてくる。 「それはゆかりっちのところが特別なだけよ。ふつう、幼馴染と恋愛なんて漫画の中でしかありえないことなんだから」  ゆかりはどちらかと言えば古風な考え方を持つタイプで、いまだに重婚制度になじめないでいる。本人は隠しているつもりだろうけれど、周りからしてみればバレバレだ。最近、幼馴染だった近所の男性と恋人同士になった。彼は大学を卒業して就職しているが、ゆかりが大学に通うということもあって結婚は先延ばしになった。  彼氏からしてみれば、重税をしのぐためにもいち早く結婚したいのだろうし、ましてやゆかりが大学で別にいい人を見つけてその人と結婚したいと言い出すのかもわからないというのによく平気でいられるものだと感心する。  ゆかり曰く、「彼がそんな人じゃないことはよくわかっているわ。なにせもうかれこれ一八年もすぐ近くで過ごしてきたんだもの」とはいうが、結婚して約二十年のアタシの両親がそれ程までに互いのことを理解し合っているのかどうかは怪しいものだ。まして、結婚して四〇年たってから熟年離婚するカップルだって、重婚法成立以前はたくさんいたのだと本で読んだことがある。 「ホント、ゆかりのところの幼馴染は特別よ。アタシの従兄のたくみくんなんて、そりゃあもう、ものすごいヲタクで、三次元女に興味なしとか言ってるからね。アニメのキャラクターを『俺の嫁』とか言ってるから。しかもそのキャラ、ひとつとかふたつじゃないんだ
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第65話

「――で、お父さんは誰なの?」「それがね…… わからないのよね…… まあ、可能性があるのは三人いるんだけど……」「そうか…… それは大変ね。 その三人の候補はどう言っているの?」「うん…… 耕介はね、進学したばかりだしー、あんまりいい顔しなかったなー。大貴と晴幸は就職組だから、ふたりとも自分の子供で間違いないって言い出すし……」「なんかややこしいことになってるわね」「まー、しかたないんだけどねー。そのへんちゃんとかんりしてなかったあーしがわるいっちゃーそこまでのはなしだしー」「で、どうするの? 普通に考えるなら結婚せずに、出産してDNA鑑定して、相手を決定してから結婚ってことになるんだろうけれど……」「うーん。実はー、つわりがひどくて家でじっとしているあいだー。そのことずっと考えてたんだけどー、もし、子供産まれてからDNA鑑定してー、耕介の子だったとするじゃん? その時ってー、耕介はあんまり結婚に乗る気じゃないし、そしたらなんか耕介に悪いかなーって」「え? アンタ何言ってんの? 悪いって…… 自分の子なのに結婚するのは嫌とか、虫のいい話じゃない?」「でもさー、生まれてくるこの子からしてみればー、それを心から喜んでくれる人のほーが幸せかなーって…… それにね、大貴と晴幸はお腹の子が自分の子かどうかなんてあんまり関係ないみたいなんだよね。卒業して、就職した時、子供がいた方が税金が安くなるわけでー、子供がどうかとゆーよりはそっちのほーが大事みたい。それにー、あーしも仕事始めたばかりで寿退社とかなんかちょーしくるうしー、出来ればギリマデ仕事して、産んだらまたっ記したいかなーって」「まあ、わからなくもないけれどね。男からしてみれば別居婚で育児に参加するわけでもないし、それが自分の子かどうかなんて関係ないと言えばそれまでだからね。大事なことは出産軽減税率が受けられるかどうかってことなんでしょうから」「でしょー。それをかんがえるとさー。こっちとしても父親が誰かなんて別にどーでもいーことなのよー。どのみちあーしの子供ってことには変わりないわけなんだしー」「それを考えるとなんだかさみしい気もするわね。これから生まれてくる子供たちって、父親からの愛情を受けずに育っていくものなのかな」「うんうん。だからね、あーし、とりあえずはシングルマザーになろうかなって……」「シングルマザーに?」「
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第66話 ~佐伯義久のケース

「こんな偶然もあるものなのね」 と、彼女は言った。 同じ出来事に対し、それを偶然と呼ぶのか、あるいは運命と呼ぶのか、それはいたって大きな違いだろうと思う。 同期の前澤薫から、「身内に不幸があったので仕事を休ませて欲しい」と連絡があった時から、もしかするとと考えてはいた。 父からも親友に不幸があり、明日葬儀に出るという話を聞かされていた。 なにも歳で体の不自由な父が葬儀に参列するためには誰かが付き添ってやらねばならないから自分が明日、休暇を申請して付き添うということにしたというわけでは無い。 父が、どうしても自分にも葬儀に参加してほしいという打診があったからだ。 前澤さんとは同じ結婚式場でプランナーとして働いている。 実質のリーダーである彼女と、肩書の上でのマネージャーである自分が同じ日に休みが取れるのは、ちょうどその時期が結婚式場の閑散期でもあったからだ。 前澤さんのお母さんが急に亡くなり、彼女の葬儀で僕は前澤薫と偶然、いや、運命的に対面することになった。 ひととおりの葬儀も終わり閑散とし始めた葬儀場の裏手の隅に座り込み、僕と前澤さんは少しばかり話をした。 しばらく前に前澤さんは、家の方でちょっとしたもめごとが勃発しているというようなことを言っていたのだが、その日彼女は僕に何があったのかをすっかり話してくれた。 それもまた、、彼女の母の弔事にもつながると言って。 彼女の母が急に自分の孫、つまり彼女の娘とその従兄とを結婚させると言い出した事件のことを聞かされた。一時期、一族騒然となった出来事ではあったが、それからひと月もしないうちに言い出した母に急な不幸があり、おそらくこれでうやむやになったのだろう。時代遅れな考え方とともに、母は死ななければならない運命だったのかもしれないと、どこか自嘲めいた話しかたに対し、僕はそれと似たような話があったことをふと思い出した。 僕の父には若いころからずっと付き合いのある親友があった。 それが今回亡くなった彼女の母、それと一足先に彼岸に旅立っている彼女の夫だということは言うまでもない。 僕がまだ若いころに、父は親友とよく飲みに出かけ、酔っぱらって帰ってくると必ず僕に『許婚』についての話をした。 父の親友の娘と、僕とを将来結婚させるのだという話だ。 僕と母とはそれを酔っぱらいの戯言だと笑っていたのだが、あるとき父がそれをまじめな話だ
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第67話

 ――結婚しよう。「えっ、今なんて?」 彼女が不意にそういった。 基本聞き役に徹している僕は、なにも口になどしていない。まして心の声が彼女に聞こえたなんてこともないだろう。 いや、いっそのこと聞こえてしまってくれれば簡単なのだが。  訪れた沈黙の中、やはりどこかから声が聞こえる。 どうやら、薄い壁の一枚向こう側で誰かが話をしているようだ。 かすかに聞こえるその会話と、思わず訪れた沈黙。 悪気はないのだが、自然と沈黙はその会話に耳をそばだてさせる。「ねえ、少しは喜んだらどうなの?」前澤さんの娘の声だ。「そりゃあさ、おばあちゃんが死んでしまったことには変わりないけどさ。これでアタシ達、結婚しなくてもいいんだよ?」「……」 どうやら話の相手は、結婚の話を持ちかけられていた従兄のようだ。「ねえ、黙ってないでなんか言ったらどうなの? あたしに言いたいことがあるからってここに呼びたしたのはたくみくんなんだよ。 それなのに、さっきから黙ってばかりで……」「……」 どうやら前澤家の女性一族は誰もが気が強いらしい。その前にたじろぐはっきりしない男に自分を重ね、少しばかり同情の念を抱いてしまう。心の中で、つい、しっかりしろとエールを送りたくなる。「あ、あのね……」 ようやく男が口を開いた。「ぼ、ぼくと…… け、結婚しよう!」 会話に耳をそばだてていた僕と、前澤さんは思わず顔を向きあい、彼女は目を丸くした。 無理もない。薄い壁の一枚向こう側で、娘がプロポーズを受けているのだ。 「はあ? なにいってんのよ。おばあちゃんが死んじゃったんだから、もうアタシタチが結婚する理由なんてないんだって!」「……そ、そうじゃないんだ。じ、実は……」「……じつは? ……なによ?」「おばあちゃんに入れ知恵をしたのはぼくなんだ。そ、その…… ゆきなちゃんと結婚したくて……」「えっ、はあ? なに? どういうこと?」「ぼ、ぼくはずっと前からゆきなちゃんのことがす、すきだったんだ。おばあちゃんの性格はよく知っていたから、世間であんな方法があるって話を聞いたらきっと乗ってくると思ったんだ…… だから…… ごめん……」「……」「……ごめん」「い、いいわよ。わかったから。もう……」「……ごめん」「んもう、そこはゴメンじゃないでしょ。アタシだって、好きだって言われて、嬉しくなかったわけじゃないよ。初めてだったし……だれ
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第68話

 薄い壁一枚向こうの情景を想像しながら息をひそめる僕たち。 前澤さんは、少しだけ頬を赤らめている。 祖母の葬式の日にもかかわらず、しっかりと青春している若い二人が愚かしくもあり、いらだたしくもあり、そして何よりもうらやましい。 応援したいなんて言っていた僕がなんともちっぽけだ。僕なんかよりもよほどにしっかりと自分の気持ちを伝えているじゃあないか。 死んでいくもののことなんてどうでもいい。これからを生きる者たちのために日々はあるのだ。「ねえ、前澤さん……」「は、はい……」「ぼ、僕たちも……」 若い二人に感化されてしまったのか、年を取ってしまった僕まで愚かしい行動に出ようとしている。 向かいで、前澤さんはまっすぐに僕のこと見つめかえす。「僕たちも……戻ろうか……」「え、あ、はい…… そ、そうですね……」 黙って立ち上がるいい年をした二人。 身の回りのすべてをなげうって行動に移すには年を取りすぎているし、守らなければならないものだってたくさんある。 これから先、時代も考え方もいろいろ変わっていくものなのだろう。 それに合わせて、僕たちは少しづつ替わって行けばいい。 先を急がなければならないほどに、僕たちは若いというわけでは無いのだから…… 昨晩。酔った父から聞かされた話がある。 昔から父は酒癖が悪く。酔ってしまうと分別が聞かなくなる兆候がある。 父が話したその言葉は、酔った勢いで言ってしまったことなのか、あるいは酔ったふりをしてでも誰かに言っておきたかったことなのかは定かではない。  父と、前澤さんの母とは、かつて恋人同士だったらしい。父が誰かもわからない片親のもとで育った父は、由緒正しき前澤家にはふさわしくないと結婚は反対され、父の友人であった人物が替わりに彼女と結婚することになった。 古い時代の考え方で、結ばれる運命になかった二人はそれぞれの子供たちにその縁を結んでほしいと計画したのがあの『許婚』の話だったというのだ。 無論。許婚なんて自由恋愛の時代に育った僕たちにとって何の効果もなさなかったわけで、むしろそのことが災いして二人の縁は遠のいてしまったのかもしれない。 しかし、その物語の結末は、まだ決まったわけでは無い。  僕はふと考える。 前澤さんのお母さんは、孫たち二人を本当に結婚させるつもりはなかったんじゃないだろうか。そんなことを言い出すことで、若い二人に本
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第69話 あんな彼には ~重光朋絵のケース~

 夫婦三人での生活で一番に気を遣わなければならなかったのは夜の生活だった。 おそらく正輝さんに「今日はどちらと枕を共にするのか選べ」などと言ったところで「じゃあ今日はこっちで」などと素直に答えてくれるとは思えない。空良はそれの解決策として一度寝室を三つに分け『夜這い』の制度を提案した。しかし、ある夜、わたしは正輝さんの部屋に夜這いを掛けた時、部屋に入ってから内側から鍵をかけるのが普通だったが、その日はうっかりしていた。布団の中で盛り上がりつつあったところで、不意に寝室のドアが開いた。鍵をかけ忘れたことに気付いたがもう遅かった。一瞬目を丸くして見てはならないものを見た空良だったが、やがて丸い目を狐のように細めて笑った。「アタシも参加しちゃおう!」 阿修羅観音の顔は三つで一つ。それぞれが外側をむいてバランスよく調和をとっている。 それと同じことで三つの顔が内側に向き合ってもやはりちょうどいいバランスが保てる。 三つの顔の唇をその中央で一つに重ねると完璧なほどにぴったりとひとつになる。わたしの舌と正輝さんの舌が絡み、正輝さんと空良の舌が絡み、空良とわたしの舌が絡む。三人の愛はちょうどきれいにバランスが保たれる。  空良はわたしにそっと教えてくれた。実はつい最近まで空良と正輝さんとの間に男女の関係はずっとなかったというのだ。 はたで見ている分では二人の夫婦仲は決して悪いようには見えないし、事実、悪くはない。どちらかと言えば仲睦まじい夫婦で互いに愛し合っていることも事実だ。しかし、夫婦と言うものはそう簡単なものではないらしい。結婚したばかりのわたしには想像すらできないことだったのだが…… 正輝さんが元職場の上司と始めた事業も安定しはじめ、それなりの収入も得ることができるようになったこともあり、結婚して初めのうちは子供を早く作ろうと必死で、いや、子供をつくろうとなどしなくとも毎晩のように交わりあっていた。それでもなかなか子宝には恵まれず、それにともない夜の営みも減っていったと言うのだ。そしていつの間にかお互いの中でなんとなく子供をあきらめる雰囲気が起こっていることに気付きだした。そして空良は気持ちをより仕事の方へと注いでいった。  それから度々、仕事で疲れているを理由に誘いを断ることもあった。一度断られれば、次に誘う時にも相手が仕事で疲れているのではないかと気にしていま
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第70話

三人での夫婦生活。それは空良の期待通り大きな変化をもたらした。新婚夫婦である正輝さんとわたしの間には当然のごとく夜の営みが自然な形で訪れる。しかしそれは一つ屋根の下で暮らす三人にとっては特殊な出来事。わたしとの営み、それが一つ屋根の下での出来事なら空良の目を気にしないわけにはいかない。正輝さんは気を遣い、不公平のないよう、わたしと同じ回数だけ空良と交わる。しかもそれはわたしとの新婚生活のおかげで取り戻した、夜の営みにうつる自然な流れで。ある夜のちょっとしたハプニングをきっかけに、わたしたち夫婦は三人同時に夜の営みに参加するようになった。いわゆる3Pと言うやつだ。3Pと言うやつをしたことがあるという人が一体どれくらいいるのだろうか? それについてはよくわからないが、そんなに多いものではないだろうと思っている。そしてやったことのある人でないとわからないかもしれないが、それはなかなか悪いものとは言いにくい。まず、他人のセックスと自分のセックスとを間近で見くらべるなんてことそうそうあるものではない。アダルトビデオを見ればわかるなんて言うものではない。あれは所詮ショーパフォーマンスとしての映像であって、実際の行為とはかなり違う。むしろその違いをちゃんと理解していないバカな男には心底あきれるくらいだ。そして女同士と言うものは一見友達同士に見えても本質的に常にライバルなのだ。目の前で相手が自分を越えているのであれば、自分もまたそれを越えようと切磋琢磨する。プレイはどんどん大胆になり、エスカレートしていく。まあ、正輝さんからすればたまったものではないのかもしれないけれど。  やがて完璧だと思えたバランスにも少しづつ陰りが見え始めた。 ――わたしのおなかに新しい命が宿った。 男性が最も浮気をするのはいつか? その答えは信じられないようなことだが、『妻の妊娠中』というのが一番多いらしい。 誰が何と言おうがやはり男という生き物は定期的に誰かとセックスをしなければならない生き物らしいのだ。 だが、重婚さえしていればそんなことは大した問題ではなかった。 妻が妊娠中、夫の相手が出来なくても、もうひとりの妻が相手をすればいいまでのことだ。これはどう考えても浮気ではない。  空良はわたしの妊娠中、正輝さんと何度も交わった。目標はわたしの子と同級生を儲けることだった。 しかしその願い
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