「もう、あなたったら。こんなところで何やってんのよ。そんなのさっさと断りなさいよ」 振り返り、彼女の顔を見つめる俺を、腕組みをしたまま、少し呆れた表情の彼女はスタスタを俺の傍に歩み寄り、俺の空いている方の腕に彼女の腕をからめて歩き出した。妻が一緒にいるとは思っていなかった客引きは素直に引き下がり、ホールドしていた手を離す。 しばらくはそのまま、二人腕組みをしたまま歩いてから立ち止まり、彼女の方を見た。 「もしかしてわたし、余計なことしました? 本当は前澤さん、あのお店に寄りたかったとか……」 「い、いや…… そんなことはない…… 助かったよ」 「なら……いいんですけど」 そう言いながら顔を少ししかめるとき、左の目を瞑り、同時に左の口角を上げるところまで元恋人に似ているなと気づく。その表情に心躍る何かがあることは否定できない。 「わたしも家、同じ方向みたいなので、一緒に帰りましょう」 そして歩き出す新垣さんと肩を並べてネオン街の中を歩く。たしかにこうして歩いていれば声を掛けてくる客引きはいないだろう。少し落ち着いた俺は、いましがたの新垣さんの行動を思い出して少しおかしくなってきた。彼女は俺の妻のふりをして客引きを撒いたのだ。 「し、しかし、いくらなんでも妻のふりというのは……」 「変ですか?」 「そ、それは……まあ。たぶん年齢的に見れば親子という方が自然じゃないかなあ」 「そうですか? 別にわたし達くらいの歳の差夫婦なんて別に珍しくもなんともないですよ。特に最近は…… さっきの客引きの人だってそれで納得していたみたいですし。それに、親子でこんなネオン街を歩いている方がよっぽど不自然だと思いません?」 その言葉を聞いてふと我にかえった。思えば今、俺は若い女性と二人でネオン街を歩いているのだ。もしこの状況を誰かに見られたとしたらいいわけなどできないだろう。一刻も早くこのネオン街を離れなくてはならないと少しばかり焦ってしまった。 目の前にあった曲がり角を、彼女を先導するように曲がる。しかしそれは大きな間違いだった。まがった先はネオン街を離れるどころかホテル街だった。慌てて踵を返しながら、 「す、すまない。道を間違えた…… そ、その…… 少し飲み過ぎたようだ……」 焦る気持ちがありあまり、通路わきに置いてあったごみの詰まったポ
Terakhir Diperbarui : 2025-07-09 Baca selengkapnya