休日の前夜。仕事も早く終わり久しぶりに重光と食事に出かけることにした。「めずらしいっすね。今日はいいんすか?」 重光はネクタイを緩め、手を拭いた後のおしぼりで顔まで拭きながら皮肉交じりで言う。「たまには男同士でビールと枝豆というのが恋しくなるんだよ。お前だってそうだろ。いつも二人の奥さんと食事よりはこうして男同士というのがいいと思うことがあるんだろう? だから今日もこうして付き合ってる」「違いないですね」「それに……」「それに?」「明日は二人と出かける予定だしな」「マジっすか? なんかもう本当の家族みたいっすね。どうするんですか? 本気で結婚するつもりなんですか?」「うん…… どうなんだろうな……」「どうしたんすか?」「どうもな…… 罪悪感があるんだよ。ほら、僕はあくまでも既婚者で、彼女も既婚者だ。これは不倫なんだろうか……」「はあ? なに言ってんすか。もう不倫なんて死語っすよ。今の世の中じゃあ不倫なんてめったに成立しないですよ。 いいですか。倫理に反するから不倫であって、今は結婚しててもさらに結婚できるんです。だから法律的に見ても倫理に反してるとは言えませんよ。そりゃあどっちかがすでに二人と結婚しているんならそれもあるんでしょうけど」「僕の時代にはそういう考えがなかったからなあ、どうも……」「古いっすよ。それにそもそもオスという生き物は同時に複数の相手を愛することができる生き物なんですよ。そりゃあメスっていうのは哺乳類の場合、妊娠中は他の精子は拒むわけで、だからこそ相手を独占しようとする本能が起こりますよ。でも、オスっていうのは同時にいくつもの相手に精子を撒くことができる。つまりこれこそがオスが同時に複数の相手を愛することができるという理論です。だから生物としての本懐からすれば妻と夫が一人対一人と言う関係性はオスからすればその方が倫理に反する行為なんですよ」「ま、まあ、それはそうなんだが……」「それに、モルモン教やイスラム教では一夫多妻は当然ですよ。強いオスが多くの相手と交わり多くの子孫を残すのは生物の生存競争の上で必要なことです。猿やオオカミの群れだってそうです」「君は…… 女の敵だな」「そうっすか? でも、法律はオレの味方っすよ」「ふう……。でも、僕は人間だよ…… 猿やオオカミの例を持ち出されても…… それにイスラムなんかでは男が戦争で死ぬことが多く、どう
Last Updated : 2025-07-09 Read more