翌朝、喫茶のママはここ数日顔を見せなかった2人をにこやかに迎えて、トレーニングウェアの音川にはゆで卵を2つ、後ろ髪を寝癖で跳ねさせている泉にはシャインマスカットを数粒サービスで出すと、そそくさとカウンターへ戻った。二人の様子を眺めるのに特等席だ。 泉の大きな瞳はよく開かれ、まるで音川の注目を得よう必死に輝く星のようであるし、その瞳にぶつかると音川は照れたような苦笑いを浮かべて、少し視線を逸らす。 そして、恐らく、お互いにそのことに気が付いていないのが初々しくもどかしい。「起きたら音川さんが居なかった」喫茶のママは聞き耳を立てていたわけではないが、聞こえてくるものはしょうがない。お泊りしたのね、と密かに頷く。「よく眠れたようで」「客間で寝たんですか?ソファ?」「客間」あらあら、音ちゃん奥手だったのねとママの目は少し驚きに開かれるが、続いた音川の返事に、こりゃ駄目だわ、と静かに首を振った。「変わってやろうか?泉が寝室を使えばいい」「あのベッド、独りでは広すぎます」「マックスがいるだろ」「いくら彼が大柄な猫でも、さすがにまだ余りますよ」一旦、ママは意識的に耳を遠ざけることにした。新地の高級クラブで働いていたころに培った技だ。このまま音川の朴念仁ぶりを聞いてしまうと叱りに行きかねない。モーニングを大方食べ終わった頃、「仕事モードになる前に」と音川は切り出した。「例の件、独りでどう対応するつもりだったのか教えてくれる?」「あ……はい」泉はアイスコーヒーのグラスをテーブルに静かに置いて居住いを正した。「調べたところ、やはり証拠が無いとどうにもならないと言うことが分かったので……動画で記録しようと思っていました」「どうやって?」「通勤用のバックパックの肩紐にカメラを取り付ければ、前方のものは全て撮影できるので。カメラをオンにしたまま通勤していれば、そのうち……」やはり、泉は自分を囮にするつもりだった。 確かに警察沙汰には暴力を受けたという証拠が必要なのは事実だ。このなんとも矛盾したシステムは、
Terakhir Diperbarui : 2025-09-12 Baca selengkapnya