第三十一話 鬼か菩薩か梅乃と采は、玉芳が引退してからの出来事を話した。大きく話しをすると二つ。 鳳仙の癌と、梅乃の拉致である。この話しで玉芳の顔が険しくなる。「あの……まず、赤子の話しをしませんか……?」 梅乃が提案すると、玉芳の鋭い目が梅乃に刺さる。「あはは……しゅいません……」 梅乃が身体をすくめる。「まぁまぁ……無事に出産できて良かったよ。 それで名前は何て言うんだい?」 采が玉芳を落ち着かせようと、赤子の話題を振ると「あぁ……名前? 佳《よし》よ」 名前を話す玉芳は、何処かキョロキョロしている。「佳か……って、何をキョロキョロしているんだい?」 采が玉芳の行動を気にしていると「何か、雰囲気が変わった?」 玉芳が聞くと「そうかね?」 采が佳を抱いたまま言う。「小夜と、そこの禿! コッチにおいで」 玉芳が言うと、小夜と古峰は恐る恐ると近づく。玉芳が禿二人の腕と、着物の裾をまくる。すると、二人の身体からアザが出てきた。「ほう……」 玉芳の顔が険しくなる。「随分と腐ってしまったのかしらね……」 「玉芳……」 采は小さく声を漏らす。「中から腐ると、営業にも影響すると言ったのはお婆じゃないかしら?」玉芳が采を睨む。「言ったね……」 「ねぇ、お婆。 これは何?」 玉芳が小夜の腕を掴む。「……」 采や妓女たちは言葉を詰まらせる。玉芳が立ち上がり、妓女に声を出す。「お前たち、営業成績が悪くなったのは自分のせいだよ。 禿のせいじゃない。 今後、禿を叩くのは止めなさい」 「禿も、叩いたり意地悪された妓女には協力するな。 お前たちは子供でも人なんだ。 立派に成長していく義務があるんだ!」 玉芳の言葉は見事だった。その話しを聞いた禿の三人は涙を流す。「佳、おいで」 玉芳は赤子を抱き、二階へ向かう。そして、玉芳が自身で使っていた部屋の前に来た。「入るよ」 玉芳が信濃に声を掛け、襖を開ける。「玉芳花魁―?」 信濃が驚く。「久しぶりだね。 調子はどうだい?」 「まずまずです……お子さん、可愛い♪」 信濃が玉芳に近づく。「お前、どうして花魁になれないか知っているかい?」 玉芳が切り出す。「いえ……」「この子たち、禿の面倒は誰が見ている?」 「菖蒲と勝来が多いかと……」「そうだろうね……だから花魁になれないのさ」
Terakhir Diperbarui : 2025-08-15 Baca selengkapnya