Semua Bab ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~: Bab 1 - Bab 10

29 Bab

第一話 梅乃

第一話    梅乃一八八一年  吉原 仲《なか》の町《ちょう》  「花魁《おいらん》、通ります」 三原屋の禿《かむろ》が大きな声を出す。派手な着物に、高下駄《たかげた》を履《は》く。 そして大きな傘の下、繰《く》り出す足は外に半円を描くように引きずる。花魁の外八文字《そとはちもんじ》という歩き方である。 顔は白く塗り、大きな瞳に淡い桃色のシャドウ。 薄い口元に、小さい紅が美しさを引き立てている。 こうして店の外にある引手茶屋《ひきてちゃや》まで客を迎えに行くのだ。 引手茶屋とは、規模の大きい妓楼《ぎろう》に対し、遊女《ゆうじょ》の予約をする茶屋の事である。 客は引手茶屋で指名をし、ここで指名した遊女が迎えに来てから妓楼に行くシステムとなっているのだ。 この花魁こそが主人公である “三原屋《みはらや》の梅乃《うめの》 ”  吉原の梅乃花魁である。梅乃が花魁を襲名《しゅうめい》し、吉原の街を練り歩く姿は遊郭をアピールする絶好の機会であった。 梅乃は二十歳にして、老舗妓楼《しにせぎろう》『三原屋』の頂点になる。 そんな伝説、梅乃花魁の物語である。一八六九年 吉原の春。妓楼がひしめく吉原に、多くの遊女が在籍する店がある。ここ、三原屋である。三原屋は吉原、江戸町一丁目にある大見世《おおみせ》である。そんな三原屋は、早朝から一日が始まる。「こら、梅乃! しっかりなさい」「すみません……姐さん」 そう言って、頭を叩かれていたのは梅乃である。梅乃は八歳。 まだ子供である。梅乃は三原屋に来て一年、つまり七歳の時から妓楼で働いている。子供の頃から妓楼で働く子供は少なくない。家が貧困で売りに出される者……身寄りが無く、拾われた者などだ。「姐さん、良い天気です。 ほら!」 梅乃は窓を開け、青空を見せた。 「あぁ……いい天気でありんすなぁ」 梅乃は、教育として花魁の傍《そば》で作法を学ぶ。その教育係が、 “三原屋の花魁、玉芳《たまよし》である ” 玉芳は、老舗妓楼の花魁を八年間 勤め上げている。そして、梅乃は玉芳の付き人のようなことをする。これを禿《かむろ》と言う。 つまり見習いだ。「梅乃もここに来て一年だろ? まだ慣れないのかい?」玉芳はキセルを吸いながら梅乃に小言を言う。「すみません……」 そう言って、バタバタと走
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-22
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第二話 花見に馳せる夢

第二話    花見に馳(は)せる夢江戸に春が到来した。春の知らせとは桜である。 桜が咲けば春の訪れを意識するようになるものだ。ここ吉原は、高い壁がある。出入り口にある大門(おおもん)は、唯一の出入り口であるが妓女や禿は外に出る事を許されない。引退や、身請けが決まったら外に出られるようになる。それまでは “籠の中の鳥 ” なのである。 そして外からの情報も少なく、春の訪れを知るのは仲の町(吉原のメイン通り)に咲いている桜の開花なのである。「綺麗……」 梅乃は、同じ歳の小夜と桜を見に来ていた。 小夜も顔立ちが良く、髪は梅乃と同じ髪型であるがオットリしていて庇ってあげたくなる感じの女の子であった。二人は親に捨てられ、吉原の大門の前に置かれていた者同士で仲が良かった。「私、大きくなって稼げるようになったら……」 何かを言いたげな小夜は、話し途中で黙ってしまった。 「稼げるようになったら……?」 梅乃は続きを待っていた。 「うん……稼げるようになったら、両親に会いたい……って思ったの。 でも、顔も名前も知らないし……」 小夜は下を向いてしまった。(確かにそうだ……稼いでも探偵らしき者を雇っても、名前も顔も知らないのであれば……この名前さえも本当に親が付けたものか分かったものじゃない)梅乃は冷静に解釈をしていた。「戻ろう……また、お婆(ばば)がウルサイからさ」 梅乃は小夜の手を引っ張り、妓楼に戻っていった。すると、妓楼の大部屋から怒鳴り声が聞こえる。「アンタが盗んだのね」 などと言い、妓女同士で喧嘩をしていた。(またか……) 梅乃は子供ながらに、何度もいざこざを見てきた。いつもは口喧嘩で済むが、今回は殴り合いにまで発展してしまった。『ガシャン……』 と、音がした。どうやら、妓女の一人が皿を投げつけたようだ。(これはガチのやつだ……)そして横を見ると小夜が震えていた。「小夜、見ない」 梅乃は小夜の前に立ち、喧嘩を見えないようにしていた。それから妓女の喧嘩はヒートアップしていく。そして梅乃は我慢が出来ずに妓女に声を掛けた。「すみません、姐さん……何を喧嘩されているんですか?」すると、「コイツ……私の簪(かんざし)を盗んだのよ!」 一人の妓女が言うと、「私が盗む理由(わけ)が無いじゃないか!」 相手の妓女が言う。「ふう…
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第三話 豪華絢爛

第三話    豪華(ごうか)絢爛(けんらん)あれから二年。 梅乃は十歳になった。「花魁、失礼しんす……」 玉芳の部屋に勝来がやってきた。最初の禿だった菖蒲は十五歳になり、下級の妓女となっていた。それにより、禿の最年長は勝来である。「本日の予約は……」 勝来が予定を読み上げると「へー 初見(しょけん)さんか……」 玉芳は驚いていた。玉芳が驚くのも無理もない。少し前だが、戊辰戦争が起こり 上野周辺は瓦礫(がれき)や死体の山であった。ここ吉原も、彰義隊の避難所として利用している為、戦争に巻き込まれたくない客は遠のいていった。「少し、客さんは戻ってきたのかしら……?」玉芳はキセルを吹かしながら空を見ていた。吉原は幕府公認の妓楼街であったが、大政奉還により幕府が権力を失う。大名は吉原から足が遠のき、金が安く済む夜鷹を使っていた。また吉原に来ても大見世である三原屋を使わず、吉原の壁側にある河岸(かし)見(み)世(せ)を使う客も増えていった。吉原の妓楼は四つのランクに分けられていた。三原屋のような格式が高い見世は、大見世。格式が低く、引手茶屋を通さずに遊べるのが小見(こみ)世(せ)。 その中間にあるのが中(なか)見(み)世(せ)である。そして、吉原を囲むように川の水が溜まったのが『お歯黒ドブ』と呼ばれ、そのドブの近くにある見世が、河岸(かし)見(み)世(せ)と呼ばれていた。河岸見世は安く、格式など無い。年季が明けて、行くところが無くなった妓女が多く在籍する。また、三十路過ぎの女性が多いところでもある。そして戦争により、一気に客足は遠のき三原屋も経営が苦しかった。「久しぶりに、景気よくいこう」 玉芳は嬉しそうであった。この落ち込んだ景気を回復しようと、強く思っていたのだ。玉芳は一階にいる “鑓手(やりて)婆(ばば) ” の所に出向いた。鑓手婆とは、妓楼の一階に座り、妓女の管理や会計などを行う人である。三原屋で言えば『采』である。「お婆(ばば)、今日の客さんは どんな方?」 玉芳は采に聞くと「確か……金貸しの旦那とか言ったね。 アチコチの妓楼に顔を出すヤツさ…… そこいらで品定めでもしているんじゃないかい?」「お婆、今日は車を出してくれない?」 玉芳は、珍しく采に頼み事をした。「そりゃ構わないけど、ケチられたらどうするん
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第四話 継がれし想い

第四話    継がれし想い 「ほら、いつまで寝ているんだい!」 朝の五時、梅乃は大声で起こされた。 「ふえ……?」 寝ぼけ眼で梅乃が目を覚ますと、妓女の大部屋が騒がしい。  “キョロキョロ……” 大部屋を見ると、全員が起きていた。 「起きた?」 小夜が梅乃の横に、チョコンと座る。 「なんで、こんなに早いの?」  「知らないの?」 小夜が驚いたように言った。 「江戸町二丁目の近藤屋が店を閉めるんだって!」 小夜は焦ったかのように話す。ここ吉原には五つの町が存在する。そこは大門(おおもん)から、突き当りの水道(すいど)尻(じり)までの約二百三十メートル真っすぐな道を仲(なか)の町(ちょう)という大通りがある。その仲の町の両脇には、引手茶屋が多数あるそして、東西に分けられた町がある。東側には、伏見町、江戸町二丁目、角(すみ)町、京町二丁目西側には、江戸町一丁目、揚屋(あげや)町、京町一丁目 がある。その中でも、江戸町は大見世が軒(のき)を連ねていた。「へー 近藤屋がね……」 梅乃には、まだピンと来ていなかった。同じ江戸町で、大見世だった近藤屋が閉めてしまうことの重大さに気づくのは、まだ先のことであった。その噂は三原屋でも独占していた。普段なら色恋や、たまに来る舞台役者の話しでもちきりなのだが、今回は近藤屋の話しでいっぱいだった。それは、近藤屋が閉鎖することにより三原屋も妓女を引き取るからだ。ある程度、大見世である三原屋だが定員はある。良い妓女が来れば、売上の悪い妓女は去らねばならない。それは、他の中見世や小見世に行かなければならないということであり、年季が明けるまでは避けたい事態である。このピリつい空気に、梅乃と小夜も察してきた。「お前たち、禿は良いよな……時代が被らなくて……」 妓女の一人が言う。 しかし、いつの時代にも大変な時期はある。梅乃たちでさえ保証はないだろう。そんな中、やはり近藤屋の妓女が三原屋にやってきた。「よろしゅう、お頼み申しんす……」近藤屋からは、四人の妓女を引きとった。 「おや? 貴女は此処の禿だったの?」 近藤屋から来た、一人の妓女が梅乃に話しかける。 この妓女は、花緒と言う。 「はい。 ご存知だったのですか?」 梅乃は驚いたように話す。 「えぇ、いつも桜の木の下で泣いていたで
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第五話 下世話なヤツラ

第五話    下世話なヤツラ「おはようございます」 梅乃は昼見世の時間前に、玉芳の部屋に行くと「ふわぁぁ……おはよ」 少し寝ぼけている玉芳が返事する。 それから玉芳と梅乃が小さい声で会話をしていた。 「なに? 本当かい? 行くよ」 玉芳が布団を蹴り上げ、起床した。 梅乃が話したことは、三原屋の妓女と余所の見世の妓女とで喧嘩になったとの噂を玉芳に話したのだ。 「場所はどこだい?」 玉芳は気合が入っていたが、何故か顔が嬉しそうであった。 「なんか花魁……楽しそうですね……」 梅乃は小さい声で玉芳に言うと、 「そんな事ないわよ! 心配なだけさ」 『ふんす!』 最後に気合を入れていた。 (これは、絶対に楽しそうだ……) 梅乃は思っていた。 そして喧嘩の場所へ来た。 「お~♡ やってる~♡」 玉芳が とっても嬉しそうにしている顔を、梅乃は初めて見た。 「待ちな……」 そして玉芳が割って入る。 「なんだい?」 威勢のいい妓女が玉芳を睨んだ。 「ほう……言うね~ 私を知っての言葉かい?」  玉芳は長いキセルを くゆらせながら言った。 「この喧嘩に玉芳花魁が出るのは……いただけないね」 喧嘩をしている妓女の一人が言った。 「ウチの見世に文句あって喧嘩しているんだろ?」 玉芳が睨むと 「???」 相手の妓女たちが首を傾げた。 「???」 言った玉芳も、相手の反応に首を傾げた。「って……アンタ、誰?」  「私は鳳仙楼(ほうせんろう)の二代目鳳仙だよ」「私は長岡屋の喜久乃……」「……」 玉芳は、ポカンと口を開けていた。どうやら喧嘩の場所を間違えていたようである。『ポカッ―』 玉芳は恥ずかしさのあまり、梅乃の頭を叩いた。「お前、ウチの娘じゃねーじゃねぇか!」 「もう少し先なんですが、花魁が勝手に喧嘩を見つけて乱入したんじゃ……」「それを早く言え!」 追撃の一発で、梅乃を叩いた。そして喧嘩の場所へ「待ちな!」 玉芳が参上した。「なんだい?」 喧嘩をしていた妓女が、玉芳を睨む。 「念の為だ、見世を聞こう……」 玉芳は、さっきの間違いから恥ずかしさを知ってしまったようだ。 「小菊屋の高吉(たかよし)だよ」  「ふむ……お前は?」 「花魁、私をお忘れですか??」 玉芳は、妓女の顔を覗き込む。 「ウチの松代(まつしろ)姐
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第六話 縁日

第六話    縁日「おはようございます。 いい天気ですよ、花魁」 小夜が窓を開け、玉芳を起こした。「―眩しい。 それに、昨日は飲み過ぎた……」 玉芳は頭を押さえている。「今日は、九(く)朗(ろ)助稲荷(すけいなり)様の縁日でございます。 花魁も支度なさってください」吉原の四方には稲荷社がある。 その中で、特に信仰を集めていたのが京町二丁目奥の九朗助稲荷である。九朗助稲荷では毎月、午(うま)の日は縁日とされている。出店が並び、毎回賑わっていた。「うぅぅ……頭が痛い……」 玉芳は重い体を起こし、着替えていた。この縁日は、花魁たちのパレードのような催しがあり「花魁、通ります!」 この掛け声から、見世の行列が始まる。「三原屋、玉芳花魁が通ります」 梅乃も元気よく、声を出していた。この花魁道中で、世間を下に見るような仕草が一段と人気を博していた。 しかし 「頭が痛い……」 玉芳の頭痛は改善されなかった。 「もう少しです。 花魁……」 勝来が気を利かせ、言葉を掛ける。そして、九朗助稲荷に到着し、三原屋全員で手を合わせた。 「お前たち、いなり寿司を食べようか」 店主の文衛門が、妓女や禿にまで振舞っていた。 「おいしい♡」 梅乃と小夜も、喜んで頬張っていた。 縁日を楽しみ、妓女たちの数少ない笑顔が溢れる中、問題が起きた。 「―花魁?」 玉芳が倒れてしまった。 当然、他の見世の妓女や客も居る中の事態で、周囲はザワついていた。 妓女は車を呼び、玉芳を乗せて三原屋に戻った。「お医者様……どうでしょうか?」 文衛門が聞いていた。「様子見……ですな」 妓女に体調の異変など、当たり前である。長年、妓女をやっていると梅毒に掛かるリスクがある。妓女の平均寿命は二十三歳くらいと言われていた。そのほとんどが梅毒である。  「貰ったかね……」 玉芳は、半分は覚悟していただろう。 文衛門は、玉芳の頭を撫でた。 三原屋でも梅毒に侵され、亡くなった者も少なくない。 “最後には優しく…… ” が、文衛門の決まりであった。 「あら……その優しさ……やっぱり、そうでありんすか……」 文衛門の優しさが、玉芳は察したようだ。 そして、三原屋には重い空気が流れた。 中には、次の花魁が誰になるかの話しまで出だしたのだ。 (玉芳花魁が梅毒と決まった訳じ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-26
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第七話 禿

第七話    禿「会いたかった……」 近江屋の禿は、小夜の手を握っていた。「あ、ありがと……私、小夜。 あなたは?」「私、静(しず)。 よろしくね」 笑顔の二人に、梅乃がヒョコッと顔を出す。「小夜~♪ お友達?」「うん。 静って、近江屋の禿なんだって」 小夜は上機嫌であった。内気な性格で、梅乃しか友達が出来なかった小夜が、自力で友達を作ってきたのだ。「良かった♪ 私、梅乃。 よろしくね♪」こうして三人の禿は仲良くなっていった。時間が空いた時は、よく三人で話しをする仲になっていった。「そういえば、この前の妓女の事なんだけど……」 小夜がお歯黒ドブで亡くなっていた妓女の話を切り出す。「あぁ、秀子さんね……」 この話しになった途端、静は表情が暗くなった。「いい人だったの?」 「うん。 私にとってお母さんみたいな人だったの……」「そっか……」 「お母さんか……どんななんだろう」 梅乃が小さい声で言った。「お母さんは?」 静が、静かに聞くと「知らない……私と小夜は、赤ちゃんの時に大門の前に捨てられていたんだって」 梅乃も声が小さくなっていた。「そっか……私は、家が貧しくて売りに出された」 静も、なかなかの人生であった。「みんなで良くなるように願掛けしようか?」 小夜の提案で、桜が散ってしまった木の下で手を繋いだ。“ニギ ニギ ” 「みんな良くな~れ♪」他の見世であるが、同じ禿同士で仲良くなった三人であった。「梅乃~ 小夜~」 玉芳の声がした。「はいっ」 「昼見世の時間、茶屋に行くよ! 用意して」玉芳が昼間から営業が入ったようで、付き添いを言われた。そして茶屋に入り、玉芳は茶屋の主人と話しをしている。梅乃と小夜は、少し離れた場所で待機をしていた。「梅乃ちゃん、小夜ちゃん……」 二人を呼ぶ声が聞こえ、振り向くと「静ちゃん」 「えへへ。 今日はどうしたの?」 静の表情は明るかった。「今日は、花魁と一緒に来てるの」 「私も♪」どこの禿も、やることは一緒である。用事が住んだらしく、玉芳が振り向き「梅乃、小夜 行くよ」 と、言った時である近江屋の妓女、小春が茶屋に来ていた。「小春じゃない?」 玉芳が、声を掛けた。「あぁ……玉芳 花魁」 小春は頭を下げた。小春は玉芳より年上で、年季が明けてやり手婆になるらしい。
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第八話 覚悟の時

第八話    覚悟の時「えっ? こんな昼間に共ですか?」 梅乃と小夜が驚く。「そう。 勉強をしましょう」 玉芳は、そう言って出かける準備を始めた。そして向かった先は、仲の町にある瓦版《かわらばん》であった。「ごらんなさい。 ここに沢山の記事があるでしょ! ここから文字や出来事を頭に入れなさい」 梅乃と小夜は、瓦版を覗き込んだ。「これは何て書いてあるんですか?」 小夜が玉芳に聞くと、「これは、法度。 禁じられてる事を言うのよ」 玉芳は丁寧《ていねい》に教えていた。そこに鳳仙が現れた。「おや? 玉芳花魁、今日は昼間からどうしました?」「あぁ、鳳仙か……この娘たちの勉強さ。 妓楼の中での勉強は限られるからね」玉芳が二人を外に連れ出したのは、妓女としてだけでなく一般教養《いっぱん教養》も大事だと思っていた。「なんで、妓女だけの教養だけじゃダメなんだい?」鳳仙は不思議に思って、玉芳に聞いた。「そりゃ……もし、誰かに身請けされても一般の教養が無いのに吉原を出たら不便だしね。 できる限りの事はしてやりたいのさ」玉芳の言葉に鳳仙も小さく頷いた。「それなら、私もやるわ。 それだったら、禿たちの学校でも作ってあげたいね」一流の花魁は、物分かりが良すぎていた。 また、それが世間知らずで育った証拠でもある。それから日中の午後は玉芳と鳳仙の部屋、交互《こうご》で禿たちの勉強を行った。「私ですか? まぁ、それくらいなら……」そして、講師として妓楼で働く男性が招かれた。妓女であれば吉原から外には出られず、情報も少ない。 ここは、男性に習うのが一番だと玉芳は思っていた。まず、読み書きから始まった。捨て子である梅乃と小夜は一生懸命に勉強していた。また、鳳仙に付いている禿も頑張っていた。「ほら、絢《あや》。 アクビしない」鳳仙が注意している。鳳仙楼の禿は絢という。 絢は男の子みたいに髪が短く、快活《かいかつ》な女の子である。そして、親の借金返済の為に吉原に売られた禿でもある。そして勉強が始まって、数週間が過ぎた頃「しかしさ~ 面倒見が良いよな……ただ、本当に禿の将来を思ってだけ?」鳳仙は唐突《とうとつ》に聞いてきた。「そうよ……ただ、私には時間が無いから……」 玉芳の言葉に、鳳仙は合点《がてん》がいった。(確かに、玉芳は三十近くなる。 
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第九話 母の声

第九話    母の声五月、桜の花が全て葉に変わった頃、一人の妓女が吉原から出ていく。長年、三原屋のトップに君臨していた玉芳が身請けされるのだ。「本当に、この時が来るなんてね……」 采が涙ぐみ、話す。「今まで、本当にありがとう……母様《ははさま》」 そう言って、玉芳が采に抱き着いた。三原屋は、とてもファミリー感覚な妓楼である。「父様《ととさま》も、本当にお世話になりました」 ここでも玉芳が文衛門に抱き着いた。一階の大部屋では、祝賀ムードになっていた。妓楼の見世先には大量の花が届き、幕《まく》まで出していた。「おや、梅乃は?」 玉芳がキョロキョロして梅乃を探していた。「こんな所に居たのかい……」 玉芳は、台所に座っていた梅乃を見つけた。「すみません……なんか、急に寂しくなって……」 梅乃は、涙をポロポロと流しながら話していた。「また、会いに来るから」 玉芳はニコッとして、梅乃の頭を撫でた。「もうじき、大江様が到着されます」 男性従業員の言葉が聞こえ、一斉に支度に取り掛かるのであった。「梅乃、小夜、しっかり勉強をするのですよ」 玉芳は、母親のような口調だった。そこには、梅乃も、小夜も同じ気持ちでいた。妓女としてだけではなく、母親のような存在であった玉芳の引退に、幼い二人には厳しい現実であったのだ。そして、大江より先に花魁同士で しのぎを削《けず》ってきた仲間が祝福に訪れてきた。「玉芳花魁……おめでとう」 長岡屋の喜久乃と、鳳仙楼の鳳仙である。「なんだ~ 来てくれたの?」 玉芳は、この上ない笑顔だ。「当たり前じゃないか! 大見世の花魁同士だよ」 玉芳を始め、喜久乃や鳳仙と言った大見世の花魁が集結した三原屋は賑やかである。ただ、一般の妓女からすれば天上人である。 生きた菩薩の三人の空気に圧倒されるばかりであった。「紹介するわね。 喜久乃花魁と鳳仙花魁よ!」 玉芳は、二人を三原屋に紹介していた。「あれ? あの娘《こ》は?」 喜久乃がキョロキョロしながら言い出した。「あの娘?」 玉芳が首を傾げる。「ほら、禿の元気な娘よ。 梅乃だよ」 鳳仙が説明した。「あぁ、台所で泣いてるわよ」 玉芳は、苦笑いで答えた。「仕方ないか……本当に母親みたいだもんね」 鳳仙は勉強会などで、玉芳が率先していたことを知っているだけに梅乃の気持ちも解っ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-01
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第十話 月下の涙

第十話   月下の涙 昼見世の時間、菖蒲は張りから外を眺めていた。 そして、誰かが通れば笑顔を振りまくが苦戦をしている。 「はぁ……」 菖蒲はため息をついていた。 「菖蒲姐さん……」 張り部屋の外から梅乃が声を掛ける。 「なんだい? 今は昼見世の時間。 何の用だい?」 「はい。 コレを持ってきました」 梅乃は、張り部屋の戸を少し開けて紙を中に差し出す。 「んっ? 何これ……ぷっ」 菖蒲が紙を見て吹き出した。 その紙は、梅乃が書いた菖蒲の似顔絵であった。 「なんだい? もう少し、上手に描きなさいな……」 菖蒲は笑っていた。 「へへへ……姐さんの笑顔が見たくて描きました」 梅乃は戸の反対側でニコニコしていたが、菖蒲には見えていない。 「でも、姐さんが笑ってくれたので良かったです♪」  梅乃の存在は、菖蒲や勝来にとっても『小さな、お天道様』 のようであった。 「梅乃……」 さっきまで、ため息をついていた菖蒲とは別人のように笑顔になっていた。 「……」 采は黙って、それを見ていた。  そして翌日の昼見世の時間、「信濃、ちょっと来な」 采は、信濃を呼ぶ。 「はい。 どうしました?」 「お前に、二階の部屋を与える。 そこが、お前の仕事場だ」 采の言葉で、大部屋がザワザワとしている。 これは実質、信濃の昇格という意味が伝わった。 二階に部屋を与えられると言うことは、花魁または花魁に近い売上を上げている妓女の特権である。 三原屋には、玉芳以外に部屋を与えられていた妓女は居なかった。 売上の高い妓女が、夜の相手と酒宴の時だけ使う程度だったのである。 一般の妓女は、大部屋に仕切り板、現在のパーテーションを置いて営みを行っていた。 これが部屋を割り当てられるのは凄い出世である。 「付いてきな」 采は、信濃を二階に案内した。 「この部屋を使いな」 采が案内したのは、玉芳の使っていた部屋であった。 「この部屋……玉芳花魁の部屋じゃ……」 信濃は、ゴクリと唾を飲み込んだ。「そうさ。 今日から、お前がトップだ!」 采はニヤリとして信濃を見る。「私が花魁に……?」「それは、これからのお前次第だ。 客も、環境も全てが変わる……それでも、やれるか?」 采は覚悟を試していた。「やります。 やらせてください」 信濃の目が変わった。 「よし
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-04
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