ソファの上で、ふたりの肩がわずかに触れたまま、部屋の空気は静かに落ち着いていた。何かを語るでも、何かを強制するでもなく、ただそこに同じ呼吸が存在していた。深夜の室内はエアコンの低い駆動音と、時折外から届く車の音だけが響いていた。高田の手は新しい絆創膏に包まれ、わずかに熱を持っていたが、その温もりさえも、今は心地よく感じられた。大和は背もたれに軽く体を預けて、天井を仰ぐように目を向けていた。落ち着いたまなざし。疲れているはずなのに、不思議とその顔には穏やかな色が差している。「……連絡をくれたん、初めてやな」ぽつりとこぼれたその声は、どこか柔らかかった。問いでも詰問でもない、ただの気づきのような言い回し。咎めるような響きはどこにもなかった。高田はその言葉にすぐには答えず、わずかに視線を落とした。小さく瞬きをし、濡れたままの前髪を指で払う。その指先に、まだ少し痛みが残っている。「……それは、“喜び”で、合ってる?」沈黙の中にぽつりと落とされた、高田の問い。その声は、ぎこちなかった。問いかけという形を取りながらも、どこか確かめるような…あるいは、初めて発音する言葉を探るような響きを持っていた。大和は一瞬、目を丸くして、それから思わず吹き出した。「せやな。正解。大正解や」笑いながらも、その目元には温かな光が宿っていた。高田の言葉に、確かに心を動かされていたのだと、表情が物語っていた。高田はと言えば、その反応に目をしばたたかせてから、ごくわずかに唇の端を上げた。微笑と言っていいのか迷うほどの、ほんのかすかな表情の変化。それでも、その変化が彼にとってはどれほど大きなものだったか、大和は理解していた。「……むずかしいな、人の感情って」小さく高田が呟く。声はほとんど囁きに近く、聞き取るには耳を澄まさなければならないほどだった。けれど、その中にある真剣さは紛れもなかった。「むずかしいよ。でも、ちょっとずつ覚えていけばええ。こうやって一個ずつ、正
Last Updated : 2025-07-01 Read more