紗夜は珠緒に連れられて職場の環境に少しずつ慣れていった。勤務先は長沢家からそれほど遠くなく、普段は車で十数分もかからない距離だった。「みんなー」珠緒は紗夜を連れてワークスペースの中央に立ち、手を叩いて皆の注意を引きつけて紹介した。「こちらは新しく入ったフローリストで、これから一緒に働くことになるわ!」紗夜は礼儀正しく微笑み、軽くお辞儀をした。「紗夜と申します。どうぞよろしくお願いします」その言葉が終わると、周囲からは歓迎の拍手が起こった。「やるじゃん夏見社長、どこからこんな綺麗で気品のあるフローリストを見つけてきたの?」「私の後輩だよ」珠緒は紗夜の肩に腕を回して自慢げに言った。「どう、羨ましいでしょ?」「めっちゃ羨ましいよ!」「こんな美人と一緒に仕事できるなんて、やる気が湧いてきた!」紗夜は皆の言葉を聞いて少し恥ずかしそうにし、白い頬がほんのり赤く染まった。「はいはい、もうその辺でいいから、さっさと仕事に戻って。今月の業績、ちゃんと私を驚かせてよね?」珠緒はそう言って、紗夜を引き連れてひとつのオフィスに入った。広さはそれほどでもなかったが、必要な設備はきちんと整っており、しかも独立したオフィスだった。紗夜は、この待遇が新人である自分には少し贅沢すぎると思った。「先輩......これは、ちょっと良すぎるんじゃ......皆と一緒に仕事したほうが......」「いいから座って」珠緒は彼女をオフィスチェアに座らせ、念を押すように言った。「忘れないで。君は創作担当として特別に招いたんだから」「でも......」創作担当とはいえ、特別扱いまでは......「安心して。成績が悪ければ、ちゃんと給料から引くつもりだからね?」珠緒は冗談めかして、でも少し真剣な口調で言った。「だからここで落ち着いて、しっかり稼いでくれればいいの」紗夜は、珠緒が自分の不安を払おうとしてくれているのがわかって、最終的に「わかった」と頷いた。海羽の他にも、こんなふうに助けてくれる珠緒がいて、本当にありがたかった。仕事を持てたことで、これから一人で生活していくための基盤が整ってきた。今もらっている給料は6000万円には遠く及ばないけれど、「弥花」の顧客資源を活用すれば、高級フラワーアレ
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