紗夜は一瞬、言葉を止めた。確かに、今回は仮病だったとしても、次はどんな理由を持ち出されるかわからない。紗夜は小さく息を吐いた。「先にシャワー浴びてくるよ」その言葉を聞いて、文翔は口元にかすかな笑みを浮かべた。紗夜が入浴を終えて出てくると、文翔もすでに隣の客間のバスルームでシャワーを済ませており、彼女を見るなり、気を利かせたように横へ少し身をずらした。「どうぞ」彼はベッドを軽く叩き、まるで寵愛を待つ妃が招くような仕草を見せる。紗夜は唇を引き結び、布団をめくって横になった。すると文翔はすぐに身を寄せ、腕を伸ばして彼女を抱こうとする。だが触れる前に、紗夜が冷ややかに言った。「近づかないで」文翔は仕方なく、黙って手を引っ込めた。「寝よう」一日中動き回っていた紗夜もさすがに疲れており、そう言ってベッドサイドの灯りを消した。G国にいた頃は、どれほど仕事で疲れていても、ベッドに入るとなかなか眠れなかった。だが今は、背後から聞こえてくる規則正しく穏やかな寝息を耳にしているうちに、不思議と乱れていた気持ちも落ち着いていき、彼女はそのまま目を閉じた。文翔は、彼女の呼吸がゆっくりになったのを確認してから、そっと目を開けた。慎重に近づき、探るように腕を伸ばして彼女の腰に回す。拒まれないことを確かめると、さらに身を寄せ、胸が紗夜の背中にぴったりと触れるまで近づき、両腕で彼女を抱きしめた。その状態にようやく満足し、彼は再び目を閉じた。その夜は、彼にとって三か月ぶりに、心から安らかに眠れた夜だった。目覚めるのが惜しいほどに。やがて朝の光が差し込み、柔らかな温もりが部屋を満たすころ、文翔の意識はゆっくりと浮上した。無意識に隣へ手を伸ばすが、そこには何もない。一瞬、呆然としてから、彼ははっと目を見開いた。そこに紗夜の姿はすでになかった。彼はすぐに起き上がり、ふらつきながら部屋を出ると、ちょうど稲垣と鉢合わせた。「旦那様。朝食をご用意しておりますが、お部屋にお持ちしますか?」文翔が気にしているのは、それだけではなかった。「......彼女は?」「ああ、奥様なら朝早くにお出かけになりました。お忙しいご用事があるそうで」文翔はまぶたを伏せ、胸の奥にぽっかりとした喪失感が広がるのを
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