そう言い終えると、彼は振り向き、ほとんど懇願するような、どこか無垢さを帯びた目で海羽を見つめた。「海羽、約束するよ、ひとつ読んだらすぐ帰るから」その様子は、まるで飼い主に置いていかれた大型犬のように、しょんぼりとして情けない。海羽は、このふたりの「名演技派」を見比べて、頭が痛くなった。今日ここで「だめ」と言えば、今夜は誰も安眠できないと分かっている。ついに彼女は折れ、仕方なくうなずいた。「やったー!」瑚々はたちまち涙を引っ込め、一輝の腕の中からぴょんと飛び降りる。彼の大きな手を引き、さらに海羽の手もつかんで、自分の部屋へとぐいぐい引っ張っていった。子ども部屋は広くない。小さなベッドに机、壁には幼い柄のシールが貼られている。三人で小さなベッドのそばに集まると、空気が一瞬にしてどこか微妙になる。一輝は枕元に腰掛け、瑚々は真ん中に横になる。海羽は少し居心地悪そうにベッドの端に座った。「ママも上に来てよ。そんなに遠いと見えないもん」瑚々が隣をぽんぽんと叩く。海羽は仕方なく少し中へ寄った。二人の腕が、どうしても触れ合ってしまう。その瞬間、一輝の鼓動がひとつ飛んだ。海羽から漂う、あの懐かしい淡い香りが鼻先をかすめ、心が落ち着かなくなる。「......どれ読む?」彼は咳払いをし、童話集を手に取ってぎこちなさを隠そうとする。「『白雪姫』!白雪姫がいい!」瑚々が挿絵を指差し、目を輝かせた。こうして一輝は、何十億もの契約書を読み上げても一度も噛まないその低く響く声で、ぎこちなく童話を読み始める。「む、むかしむかし......遠い国に、ええと......王様とお妃さまがいました。ふたりの間には......かわいいお姫さまが生まれました。その肌は......雪のように白く......」正直、読み方は上手とは言えない。海羽は心の中でそっと突っ込む。けれど瑚々は夢中になって聞いている。大きな瞳で瞬きもせず、父を見つめている。灯りの下で物語に集中する男の横顔と、満ち足りた、どこか誇らしげな娘の表情を見つめながら――海羽の胸に、これまで味わったことのない、「家」と呼べるぬくもりが、静かに込み上げてきた。――こういうのも、悪くないかもしれない。その思いが浮かんだ瞬間、自
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