Tous les chapitres de : Chapitre 31 - Chapitre 40

50

第三十章:霧を追う者たち

混乱の収束とともに、最初の都市には仮初めの静けさが戻っていた。リィナたちはそれぞれ、短い安らぎのひとときを思い思いに過ごしていた。傷を癒やす者、食事を楽しむ者、眠りを貪る者……。だが、その静寂は、決して永遠ではなかった。夜明け前、街の塔に設置された監視鈴が鳴る。風を断ち切る鋭い音が、リィナの耳を打った。「……また、来たの?」そう呟いたのは、タカフミのページを開いていたレオナだった。「違う。今度は……去っていく音だ。」アマネの杖が微かに震え、彼女が目を閉じる。「霧の主……ネーヴァ・ヴォイド。奴はもうこの都市にいない。けれど……“残響”がある。人の心に囁いた声が、未だに都市に染み付いてる。」その言葉に、一行は集まった。「逃げたってことか。」銃を肩に担いだリィナが、静かに呟く。「いや、“転移”だろう。精神干渉が彼の力なら、人と街の“境界”をたやすく越えられる。」フィアの分析に、全員がうなずいた。「だったら、俺たちが分かれて追うしかない。」ルークが立ち上がる。隣ではヒナコの剣が光を反射していた。「一都市ずつ洗うのは効率が悪すぎる。行動を分散して、奴の“痕跡”を探る。そういうことだな?」アベルが煙草に火を点けながら言った。「ちょっと賭けにはなるが……他に道はない。」「俺とショウで北へ行く。古い文献に、似たような精神干渉が起きた記録がある。」カイルの言葉に、ショウが不安げにうなずく。「……大丈夫。君がいれば、怖くない。」「私たちは光の神殿都市へ行くわ。」アマネがアベルを見上げる。「あそこには聖なる結界がある。霧の主でも、完全に隠れることはできないはずさ。」「じゃあ、私は空から。コウジと一緒に上空から都市間の移動経路を探る。霧が流れる“風”を読めば、奴の動きも読めるはず。」ブーメランを片手に、フィアが軽やかに笑った。「ボクたちは、彼を
last updateDernière mise à jour : 2025-07-06
Read More

第三十一章:拳の覚醒、心の核を穿て

夕暮れの空が、まるで血のように赤く染まる中――カイルとショウは、小さな村の外れに立っていた。村人たちは怯え、家々の窓を固く閉ざしていた。「ここだな……奴が現れるって情報があったのは。」カイルが呟き、義手に小手・ショウをしっかりとはめ直す。「こわい……でも、やるんだよね?」小さな声で、ショウが尋ねた。「おう。お前が一緒なら、何でもやれるさ。」カイルは笑いながら答えた。だがその時、霧のような影が地を這い、音もなく村を包み込む。「ネーヴァ・ヴォイド……!」その名を呟く間もなく、影の中から黒衣の男が現れた。「哀れな者たちよ……この村の記憶と共に、沈黙の中に還れ。」不気味に響くその声と同時に、村人たちが目を失い、意味もなく叫び、互いを傷つけ始めた。「やめろ……何をしてるんだ!」カイルが走り出すが、その前に一つの巨体が立ちはだかる。漆黒の大剣を握る男――「お前……あの時の……!」だがその瞳は、もはや人のものではなかった。怒りと痛み、そして理性を失った炎が揺らめいていた。「どけ……俺は……止められなかった……だからせめて……!」呻くような声とともに、大剣が振り下ろされる。カイルは必死に防御し、かろうじて受け流す。「この人……苦しんでる……!」ショウが震えながらも訴える。だが、ネーヴァ・ヴォイドの声が、嘲るように響く。「その男はかつて、自らの手で都市を救えなかった。今度もまた、村人を守れず、自らの剣でその命を奪うことになるだろう……。」すると、村人の群れが彼らの間に割り込むように動かされる。大剣使いはその光景に目を見開き、動きを止めた。「やめろ……やめてくれ……!」その隙を突こうとするネーヴァ・ヴォイド――だが、その瞬間。「ショウ、いけるか!」「うん……覚悟は、できてる!」小手が淡い光を放つ。義手の拳が、熱を帯びていく。
last updateDernière mise à jour : 2025-07-06
Read More

第三十二章:再起の火、交わる言葉

夕暮れの色が、戦いの痕を優しく包み込む。焼けた瓦礫、崩れかけた村の門。そこに座り込んだのは、覚醒に至れなかったルークとライナ、そして、理性を失いかけた大剣使いの青年だった。「……やっぱり、俺じゃ駄目なのかもしれない。」ルークがぽつりと呟く。その手には、未だ真の輝きを得られぬビームサーベル――ヒナコ。「駄目じゃないよ。」その声は、ヒナコからだった。「むしろさ、あんたの“迷い”がちゃんと私に伝わってきた。それって、悪いことじゃないと思う。」ライナも、焚き火の前で項垂れていた。「覚醒って……なんでできないんだろうね、イオリ。」「そりゃお前……俺とお前の距離がまだちょっと遠いからだろうな。」とぼけたような声だが、優しさがにじんでいた。「お前は、俺を“道具”として見てたかもしれない。でも、それじゃダメなんだ。“武器”ってのは、ただの力じゃねぇ。“信頼”で初めて、本物になる。」ライナは、ゆっくりと目を閉じて頷いた。「……わかった。もっと、ちゃんと向き合う。私自身の弱さも、あなたの存在も。」その時、大剣使いの男が、ようやく口を開いた。「俺は……また、同じ過ちを繰り返すところだった。」彼の声は、静かで、深く沈んでいた。「何もできなかった過去が、ずっと俺を縛っていた。だけど……カイル、お前たちが俺を止めてくれた。」「止めたのは、ショウの一撃だよ。」カイルが微笑みながら答える。「でも、撃てたのは俺が信じてたから。あいつなら、俺の気持ちを絶対に受け止めてくれるって。」ショウは小さく、でも力強く言った。「……ぼくも、強くなりたい。だから、誰かを傷つけるのは……もう、嫌だよ。」誰もが、何かを乗り越えようとしていた。 自分の弱さ、過去、痛み。 それらを抱えたまま、前に進もうとしていた。「俺は……皆と一緒に、ネーヴァ・ヴォイドを倒したい。」大剣使いが、そう告げる
last updateDernière mise à jour : 2025-07-07
Read More

第三十三章:信じる力、断ち切る刃

滅びた都市に再び、霧が満ちていた。かつて繁栄を誇ったその場所は、今や荒廃の象徴。灰と瓦礫が舞い、かすかな残響だけが風に溶けてゆく。だが、その中心に――“それ”はいた。四天王、ネーヴァ・ヴォイド。 沈黙する監視者。 霧のように揺らぐその姿は、見る者によって形を変える。「ようこそ、勇敢なる“武器持ち”たちよ。今日は少し……遊びをしようか。」その声は、頭の中に直接響く。まるで記憶をなぞるように。気がつけば、仲間の姿が揺らいでいた。リィナがルークを睨みつけ、アベルがカイルに銃口を向ける――そんな幻覚が彼らの視界を覆ってゆく。「やめろッ、俺じゃない……っ!」ルークが叫ぶ。だが目の前のリィナは、剣を構えたままだ。「お互いの心を疑えば、信頼などすぐに崩れる。さぁ、壊しあえ。お前たちの“絆”とやらの脆さを見せてくれよ。」笑うネーヴァ。だが。「……違う。」その声は、燃えるような決意とともに放たれた。立ち上がったのは、カイルとショウ。「俺たちは、そんなに脆くねぇ!」カイルが叫び、義手の小手――ショウがそれに応える。「ぼ、ぼく……もう怖くない!」二人の魂が共鳴し、ショウの小手に光が走る。「覚醒――“貫く意志”!」飛び上がるカイルの拳が、霧のような幻影を貫き――その中心に潜むネーヴァの核を、正確に撃ち抜く。「なっ……!」ネーヴァが後退する。そのとき、もう一つの光が生まれた。「まだ……終わってない。」静かに立ち上がったのは、傷だらけの青年と、その背にある漆黒の大剣。「お前が俺たちを欺き、操ったあの夜……俺は、何もできなかった。」彼の頬に走る傷は、かつて都市が滅んだ日の記憶。「でも、今は違う。今は――仲間がいる。」「俺を信じてくれた、こいつが……!」彼の背で、無口だった大剣が低く唸
last updateDernière mise à jour : 2025-07-07
Read More

第三十四章:記録の清算、懺悔の祈り

滅びた都市の中央、かつての議事堂の広間に、灰が舞い、風が静かに吹き抜ける。そこに立つのは、一人の男――記録守(アーカイブ・キーパー)を名乗る者、オルネウス。「……来たか、“異世界の武器たち”よ。」彼の声は静かだが、空気に揺らぎをもたらす重みがあった。「ネーヴァ・ヴォイドは、確かにここでその生を閉じた。だが、その爪痕は深い。この都市に、魂の歪みと記録の矛盾を残したままだ。」一同が集まる中、彼の眼差しが、漆黒の大剣――その内部に宿る“魂”に注がれる。「君だ。君は、“あの運転手”であり、“罪を背負った魂”でもある。あの惨劇の震源でありながら、今なお戦おうとする者……。」静かに、大剣が地面に突き刺さる。刃の奥から、重々しい声が響いた。「……俺は、あの日、ハンドルを切れなかった。ただ、それだけのことだ……だが、ただそれだけで、命が失われ、誰かの人生が狂った。」その声に、仲間たちは耳を傾けた。「俺は……謝りたい。だが、誰に?許されるはずもない。あの日の俺に戻れたとしても、同じように、手は震えて動かなかっただろう。……情けない、未熟な、ただの人間だ。」誰も言葉を挟まなかった。風が、一度だけ広間を吹き抜けた。だが、最初に口を開いたのは、カンテラの中の“先生”だった。「それでも、君は今ここにいる。そして、君の声を、子どもたちも、仲間たちも聞いている。」次に、ブーメランの“コウジ”がふざけた調子で呟く。「運転ミス? それ、俺だって日常茶飯事だし。まあ、こっちは武器になってから転がってばっかだけどな!」その軽口に、場の空気が少しだけ和らいだ。「……人は、過ちを犯す。それを否定するのではなく、向き合うことに価値がある。」アマネがゆっくりと言った。「生きてる者も、死んだ者も……それを無駄にしないと、あたしは思いたいねぇ。」そして、ナギが大剣を見つめて言った。「俺は、お前を信じてる。だって、あの時、お前が俺たちのために剣を振るってくれたから。
last updateDernière mise à jour : 2025-07-08
Read More

第三十五章:閑話休題・武器たちの休日

旅の途中、隊は久方ぶりに静かな夜を迎えていた。 魔物の気配もなく、火もよく燃える。 その夜は、戦いではなく――“手入れ”の時間だった。「さて……今日こそ、ちゃんと磨くよ。」リィナがそっと銃――ナギを膝に乗せる。 布でゆっくりと金属部分を拭うと、ナギが気恥ずかしそうに呟いた。「……そんなに見つめないでよ、照れる。」「うるさい。あんた、最近ちょっと焦げてたでしょ。」「しょうがないだろ、炎の中に突っ込んだんだから……。」それでも、布の動きはどこか優しかった。 「よっしゃあ、俺たちも始めるか!」カイルは薪を組み替えながら、ショウを手に取った。 小手に宿る少年の声が震える。「だ、大丈夫だよ。僕、壊れてないと思うけど……。」「壊れてたって、直してやる。俺が“お前を守る”って決めたんだからな。」火に照らされた義手と小手の接続部分を、丹念に拭っていくカイルの手は、不器用ながらも丁寧だった。 「ふぅん……光加減、悪くないわね。」ヒナコ――ビームサーベルが呟く。 ルークは研磨用の布を使って、柄の中に仕込まれた光源ユニットを清掃していた。「こういうの、剣道部ではやらなかったから、ちょっと緊張する。」「ふん。構えは良いのに、手入れで戸惑うとは……でも嫌いじゃない、その真面目さ。」ヒナコの声が、微かに照れていた。 「さてと、俺たちの番かねぇ。」イオリ――神のハンマーが軽口を叩く。 ライナはハンマーの打面を見つめながら、真剣な表情を浮かべていた。「叩いてばっかりで、こんなときしかゆっくり話せないから……今日はちゃんと聞いてね。」「はっはっ、重い言葉だなあ。……だけど嬉しいよ。ありがとな、相棒。」 「うん、調子は……いいわよ。」フィアが頬を染めながら、ブーメラン――コウジを磨く。
last updateDernière mise à jour : 2025-07-08
Read More

第三十六章:誇りなき剣に、誇りを問う

風の止んだ高原。そこはかつて、騎士たちが名誉を賭けて剣を交えた決闘の地だった。そこに立つのは、かつての騎士団長――ハウリオス・ヴァルト。漆黒の外套を纏い、冷笑を浮かべるその姿は、歴戦の気迫に満ちていた。「ようやく会えたな、“神の剣”の使い手よ。……名を名乗れ。」「ルークです。……この子は、“ヒナコ”っていいます。」「“子”とは……ずいぶんと軽い物言いだな。」ヒナコが眉をひそめる。「軽くないよ。ただ、私はアイツと並んでいたいってだけ。」その声には、確かな覚悟が宿っていた。ハウリオスは剣を抜いた。刃にはかつての騎士団の紋章が刻まれている。「誇りなき者に、誇りの剣は振るえぬ。……一対一の決闘を所望する。」リィナたちが止めようとするも、ルークは首を振った。「わかってる。これは俺たちの戦いだ。」そして始まった、一対一の剣戟。だが、剣と剣がぶつかり合うたびに、ルークの動きは鈍り、ヒナコの魔力も共鳴しない。「くそっ……なんで、覚醒できない……!」「見えすぎているのだ。“なぜ覚醒できないのか”という迷いが。」ハウリオスの剣が唸り、ルークの膝をつかせた。「お前たちには、誇りがない。ただ、“強くなりたい”という願いだけが先走っている。……だが、それだけでは足りぬ。」敗北は、静かに決まった。ハウリオスは剣を収め、背を向ける。「一週間後、同じ場所で再戦を所望する。誇りを携えて来い。でなければ、俺はお前たちを“偽りの剣”として斬る。」そしてその姿は、風に溶けるように消えていった。地に伏すルークと、唇を噛みしめるヒナコ。だが彼らの背に、仲間たちの温かな気配が集まっていた。「立とう、ルーク。ヒナコ。お前たちの剣は、まだ折れていない。」「一緒に、見つけよう。“お前たちの誇り”を。」次なる戦いまでの七日間が、静かに、そして熱く始まった――。
last updateDernière mise à jour : 2025-07-09
Read More

第三十七章:剣の誇り、鉄の赦し

剣士ルークと“神の剣”ヒナコは、敗北の痛みを引きずっていた。ハウリオス・ヴァルトに打ちのめされ、未熟さを突きつけられた二人は、次なる決闘に向けて鍛錬を重ねていたが、どこか迷いが拭えなかった。「ヒナコ、俺たちは……なにが足りないんだ?」「誇り、かな。たぶん……自分に誇りを持ててないと、剣の意味って消えるんだよ。」かつて全国大会でベスト8に名を連ねた剣士の魂であるヒナコは、その技術とプライドを胸に、今もなお模索していた。「ルーク、あんた自身はどうしたい?誰のために剣を振るうの?」「……守りたいんだ。誰かのために、ちゃんと立てる自分でありたい。それが……俺の誇りになるなら。」ヒナコは微笑んだ。「なら、もう迷わない。あたしも――もう一度、誇りを握るよ。」 一方その頃、ライナと“神のハンマー”イオリもまた、自らに課せられた問いと向き合っていた。「……“裁く”って、なに?」ライナの問いに、イオリが答える。「人の過ちを叩いて止める。それが俺たちの“力”の本質だ。だが……それだけじゃ、世界は変わらない。」「赦すって、難しいね。だって、簡単に許していいことなんて、きっとないのに。」「でも、裁くだけじゃなく、“赦す”覚悟があるやつだけが、本当に人を救える。俺は……お前の手で、そういう力になりたい。」鉄と火の魂を持つハンマーは、ライナに“覚悟”を求めたのではなく、“選択”を委ねた。四人の旅は、再び交差する。剣とハンマー――その誇りと赦しは、やがて一つの強さになる。「俺はもう逃げない。今度は、俺たちの“誇り”を持って、立ち向かう!」「うん。あたしの刃は、もう迷わない!」「お前が赦せるなら、俺はどんな過ちも叩き直してやるさ。」「じゃあ、叩く先を間違えないようにね。私たちは、敵と、仲間の区別をつけられる人間でいよう。」決闘の刻は迫る。だがその前に、彼らは自らの心に打ち克つ必要があった。そして、彼らは確かに一歩、強くな
last updateDernière mise à jour : 2025-07-09
Read More

第三十八章:誇りを賭けた再戦

決戦の日は、曇天だった。〈ヴァルト騎士団旧訓練場〉。今は使われることもなくなった広場に、静かに風が吹く。かつて多くの騎士たちが剣を振るい、己を鍛えたこの場所に、ふたたび剣が集う。「……来たな。」黒衣をまとい、かつて騎士団長として恐れられた男、ハウリオス・ヴァルトは、一振りの細剣を片手に待っていた。「遅れてすみません……でも、僕たち、今度こそ本気でいきます。」ルークの声は、前回よりも確かだった。隣にはヒナコがいる。かつては剣道全国ベスト8の少女、今は神のビームサーベル。「ふん……前回の君たちは未熟だった。だが、あれから一週間。何かを得たなら、それを“剣”で示してみせろ。」彼の言葉には、冷たさの奥に、かすかな期待が混じっていた。「わかった、じゃあ見せるよ。……俺たちの“誇り”を!」ヒナコの刃が光を帯びる。ルークの腕に宿る力が、確かな覚悟として形を成す。「――覚醒!」蒼い光が彼らを包む。剣と使い手、互いを信じた先に辿り着いた、共鳴の極地。その刹那、ルークの動きが変わった。重さがない。迷いがない。それはまさに――騎士の剣。「見せてもらおう、“誇り”という名の一撃を。」ハウリオスが構えを取り、ルークが駆ける。剣と剣が、激突した。同時に別の場所では、火花を散らすもうひとつの鍛錬が続いていた。「……ライナ、あたしたちも動かなきゃいけない。」イオリが言う。神のハンマーとして、人を打つことの意味と向き合い続けてきた。「うん、わかってる。……“叩く”って、怖い。でも、それが“裁き”であって、“赦し”なんだって、少しずつだけど思えてきた。」二人もまた、静かに覚悟を育てていた。「……終わった。」訓練場の風が止む。剣を交えた二人が、互いの間合いで息を整える。「見事だった。誇りを知った剣――悪くない。」そう呟いたハウリオスは、初めて口元に薄い笑みを浮かべた。
last updateDernière mise à jour : 2025-07-10
Read More

第三十九章:静寂の王座、ささやきの玉座

地平を埋め尽くすような黒の岩塊と、空に渦巻く紫の嵐。 そこは、魔界――かつて幾多の魂が落ちた、無明の地。中心に構えるは、重厚な玉座。 だがその主、魔王ゼル=ヴァルグは、まるで“王”としての自覚を失ったかのように、静かに佇んでいた。「……また、終わりが来るのか。」その声はかすれ、けれども力を秘めていた。かつて彼は、“選ばれた存在”だった。 力で世界をねじ伏せる役割を、天にも地にも求められた――そして今。「静かすぎるな。あの騒がしい四天王たちも、もう戻らぬか……。」応える声はない。 かつて幾度となく鳴り響いた怒号や狂気の咆哮すら、今はただ風に溶けていた。「ねえ、寂しい顔してる。」ふわりと、香のような声が舞い込む。 現れたのは、魔界の外交官――ラミル=ファエラ。 艶やかな微笑を浮かべ、その身を黒い布で包みながら、ゆったりと王の前に立つ。「あなたって本当に不器用ね。世界を手に入れても、何も持ってない。」「口が減らぬな、ラミル。」「ええ。だって私は、あなたを“見届ける”役目だから。」ラミルは軽やかに姿を変える。 かつて倒れた四天王の姿。かつて戦った勇者の面影。 すべてを真似ることはできても、心までは写し取れない。「……もう、あとは終わらせるだけなの?」魔王は黙したまま、遠くを見つめていた。そこには、誰もいないはずの“地上”があった。 けれど、かすかな祈りのようなものが、風の中に混じっていた。「もし、誰かが“違う答え”を見つけたなら――私は、それを見てみたい。」ラミルがぽつりと呟いた。「見届けろ。お前の目で。」魔王の声は、確かに響いた。 寂しさと期待とを同時に孕んだ、絶対者の声。魔界に、再び波紋が広がりはじめていた。
last updateDernière mise à jour : 2025-07-10
Read More
Dernier
12345
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status