All Chapters of 異世界リロード:転生者達の武器録: Chapter 11 - Chapter 20

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第十章:千の声、ひとつの銃声

夜明け前の静寂は、土を這う音によって破られた。「っ……また来た!」ルークが即座に剣を抜く。リィナも銃を構えた。今度は、迷いも、戸惑いもない。「数は……前より多いぞ。」アベルが低く唸る。アマネの杖が発光し、仲間たちに小さな結界を張る。地の裂け目から、壁の影から、木の上から――“幼体”たちが這い出てくる。前よりも速く、前よりも統率されて。「繭の子……進化させてきたな。」銃の声が唸る。「でも、こっちも、進んだんだ!」「ルーク、回り込んで!距離、開けすぎ!」「了解!」少年の動きに、訓練の成果が見える。無駄がない。息が合っている。リィナのトリガーに合わせてルークの剣が閃き、一体、また一体と幼体を消し飛ばしていく。「アベル、右後方に流れてる!結界の調整頼む!」「言われるまでもねぇ!」アマネの結界が一瞬で補強され、横合いからの奇襲を防ぐ。「ショウ、いける?」「……うん!」カイルの拳に魔力が収束し、地面を穿つような一撃が炸裂。吹き飛ばされた幼体が樹に激突し、霧のように散る。それでも、数は止まらない。千の声が、母を呼ぶように鳴いている。「母さん……母さん……母さん……。」その呼び声に、リィナの胸が締めつけられる。(この子たち……生きようとしてる……でも……。)「負けない!」叫びと共に、引き金を引いた。空気が砕けるような轟音。銃から放たれた弾は、魔力を帯び、一直線に幼体の密集地を貫い
last updateLast Updated : 2025-06-25
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第十一章:決戦の兆しと旅の再開

霧が晴れた朝、廃墟の調査に向かったのはルークとアベルだった。かつて栄えた都市――ヴェルデン。魔界の侵攻で滅び、今や誰も寄りつかない“死の街”。「こいつは……間違いねぇ。奴の“瘴気”が残ってる。」アベルが土をひと掴みして睨む。枯れた花びらのように、地面から黒い粒がふわりと舞う。「ここに……繭の子がいるんだね。」リィナの声に、銃が静かに答える。「あぁ、完全に巣を作ってる。次に子供たちが生まれるのも、時間の問題だ。」空気が緊張した。「今なら、叩ける。まだ増えきってない。」ルークが言った。だが、全員が黙る。「……でも、こっちの力もまだ足りない。」リィナの声は震えていたが、間違いなく“前よりも前を向いていた”。「今行っても、潰されるだけ。だったら……今は、仲間を集めよう。」「戦うために、逃げるってわけだ。」アベルが煙草に火をつけた。それは、彼なりの肯定だった。数日後、彼らは旅を再開していた。地図に記された未踏の都市群を目指して。その道中――魔物に遭遇した。甲殻に覆われた巨大な獣。以前ならば叫んで逃げていたであろう敵。だが今は違った。「ルーク、挟み込む!」「了解!」「ショウ、こっちに一発頼む!」「がんばるっ!」銃声と剣戟。拳と魔力。結界と回復。数分後、魔物は倒れ、大地に沈んでいた。「……楽勝だったな。」ルークが肩で息をしながら笑う。「いや、慣れてきただけさ。油断するなよ。」アベルが言う。だが、その顔にも苦みのない安堵があった。
last updateLast Updated : 2025-06-26
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第十三章:火を囲み、帰り道を想う

夜。星が近くにあるような感覚―― ここは天空都市〈フリューゲル〉の外縁、風の神殿の裏手。 旅の仲間たちは、焚き火を囲んでいた。風の音も遠のき、街灯の届かぬ静寂の中。 戦いの熱も冷め、自然と話題はやわらかくなっていく。「なあ……もし、元の世界に戻れたら、何をしたい?」ルークが、不意に切り出した。誰もすぐには答えなかった。 だがそれは、口を閉ざす理由ではなく、想いを探す時間だった。「……帰ったら、母ちゃんに言うんだ。『もう働くな』って。」アベルがぽつりと言った。「ずっと、ひとりで店、守ってたからな。俺はもう、大丈夫だって、言いたい。」「……ええ子や。」アマネの声が、いつもより少し低く、優しかった。「ぼくはね……ふつうの学校に行ってみたいな。」ショウが、小手の中から声を漏らす。「みんなと同じ時間に起きて、同じ制服着て、同じ教科書読んで……すっごくつまんないって言ってみたい。」その言葉に、誰かが「それ、最高の贅沢だよな」と呟いた。「わたしは……どうだろう。」リィナが空を見上げる。「何もない場所にいたから、“帰る”って言える場所がない。でも……誰かの帰る場所にならなきゃって、思うようになった。」それは、確かに彼女が変わった証だった。そして、銃――主人公の声が静かに響く。「……俺は、神に言われたんだ。“魔界を滅ぼせば、身体と魂を戻してやる”って。」「やっぱり、お前だけ何か知ってるのか?」アベルが身を乗り出す。「多少な。でも……奇妙なことに、肝心の“自分自身”の記憶が曖昧なんだ。」「え……?」「名前も、家族も、通ってた学校も……断片はある。けど、どこかに靄がかかったみたいに、全部が中途半端なんだ。」誰もすぐには言葉を返せなかった。「他の武器たちは、それぞれの過去を語る。でも俺だけ、思い出そうとすると、神の言葉だけが先に浮かぶん
last updateLast Updated : 2025-06-27
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第十二章:空を駆ける刃、風の訓え

〈フリューゲル〉――風と雲に抱かれた天空都市。地上とはまるで別世界。 白と青を基調にした都市は、どこを歩いても心地よい風が流れていた。 だが、その風は気まぐれでもあった。「ようこそ、よそ者さん。」空から聞こえる声に、リィナたちが顔を上げた。現れたのは、銀髪の少女――フィア。 背に羽はない。だが彼女は、風を纏うように軽やかに宙を舞っていた。彼女の足元で回転するのは、奇妙な形のブーメラン。 それは自らの意思で空を舞い、彼女を支えていた。「彼が、神の武器……ブーメランの“コウジ”さん。」「あいあい、お初にお目にかかります~。元気にしてましたか、異世界生活!」ブーメランが飛びながら喋った。 その声は軽薄で、妙に現代的だった。「いやぁ、まさか死んで転生したら武器になるとはね!もうね、保険も利かない世界ってほんと困るよね。まぁ、会社に出勤しなくて済むだけマシか!」「……テンション、高くない?」ルークがぼそりと呟く。「気にするな。あれはたぶん、恐怖を隠すために喋り続けるタイプだ。」アベルの冷静な分析が入った。「さて、早速だけど――空の戦いってのを、身体で覚えてもらおうか!」フィアが叫ぶと同時に、彼女とコウジは一気に上昇する。「ルーク、リィナ!ついて来い!俺たちのブースト使え!」カイルの指示で、魔力で滑空する魔導板が展開される。「お、おおおおおおおっ……!」地上が遠ざかる。風が顔を叩く。 視界が開け、都市全体が見下ろせる場所で、空中の訓練が始まった。「空の戦いで重要なのは、“位置”と“風”だ!」フィアの声が風を裂く。「ブーメランは斬撃じゃない。“軌道”そのものが武器になる。見てなさい!」彼女がブーメランを投げる。一度離れたブーメランが、ぐるりと回り、 訓練用の魔物人形を三体、同時に貫いた。「……すげぇ
last updateLast Updated : 2025-06-27
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第十四章:知の都にて、父と母が願うもの

霧の森を越えた先に、塔のようにそびえる都市があった。名を――アルス=アーカイヴァ。天を突くほどの大図書館を中心に構成されたその都市は、各地から寄贈された魔導書や禁書が保管されている“知の要塞”だった。「ここに、“神の武器”が一冊あるらしい。」アマネが言った。「魔導書の形で、長らく誰の手にも馴染まなかったって話だ。」案内されたのは、図書館最上階の“沈黙の間”。そこにあったのは、分厚く革装丁の魔導書。“彼”は開かれるのを待っていた。「その本、開けるのは……私だけみたい。」そう呟いたのは、金髪の女性――レオナ。控えめで落ち着いた雰囲気を持つ彼女は、図書館の管理者でもあった。「私は……子供を持てない身体で。だけどこの本には、子供を想う声が詰まってたの。だから、開けた時、わかったの。彼が……“お父さん”だって。」魔導書が微かに震えた。「娘を守れなかった。それでも……誰かの親でいたいんだ。」それが、魔導書の中の魂――タカフミの想いだった。だが彼らは、思いがけない発言をする。「……繭の子を、保護したいと思っているの。」リィナたちは一斉に言葉を失う。「彼は、ただ“家族”を求めてるだけ。“敵”と呼ぶには、あまりに寂しすぎる。」レオナの言葉に、感情の波が走る。「甘いこと言ってる場合じゃない! 奴は人を襲い、子を生み続けているんだぞ!」アベルが立ち上がる。「知ってる。でも、彼は“人間だった”。人と同じように、傷ついて、変わって……そして、壊れたんだ。」タカフミの声が、本の中から響いた。「俺の娘も、壊れていた。……けれど、最期に俺を“父さん”と呼んでくれた。それだけで、生きる意味が戻った気がしたんだ。」沈黙が落ちる。誰も、すぐには反論できなかった。「俺たちの旅は、戦うことばかりだ。けど……それがすべてじゃないかもしれない。」銃が
last updateLast Updated : 2025-06-28
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第十五章:揺らぐ影と、迫る焔

灰色の廃都ヴェルデン。 静まり返った廃墟の中心で、繭の子が再び姿を現した。その小さな姿のまま、彼はただ佇んでいた。 “彼ら”を、待っていた。リィナたちはレオナとタカフミを伴い、慎重に距離を詰める。「……おまえたちか。また、兄弟たちを壊しに来たの?」繭の子の声は怒気を孕んでいたが、どこか揺れていた。「違う。今回は話をしに来たの。」レオナが前に出る。 彼女の手には、魔導書――タカフミが静かに輝きを放つ。「あなたが“家族”を求めているのは知っている。……だから、ただ滅ぼすことだけが道じゃないって、伝えたくて。」「家族……。」繭の子が一歩、後ずさる。 その目に、レオナとタカフミの姿が映る。父と母の幻影が、彼の瞳に交差する。 その瞬間、全身が震えた。「やめて……それ、やめてよ……!」声が裏返り、彼は耳を塞ぐ。「そんなふうに優しくされたら……僕、わかんなくなる……!」悲鳴のような叫びとともに、繭の子は黒い糸を伸ばし、空へと消えた。静寂が戻った瓦礫の中。 そこに、踏みしめるような重い足音が響いた。「……あいつ、役に立たねぇな。」炎を纏った男が現れる。 一行の誰もが、息を飲んだ。「俺は――四天王、グロム・ザ・スコーチ。次は、俺が行く。」燃え盛る大剣を背に、彼は一瞥を投げた。「子供たちを置いて逃げたあいつを、今度こそ戦士に育て直してやるさ。……裏切るなよ、“繭の子”。」その言葉の意味が深く、重く、どこか不吉に響いた。一方、リィナたちは繭の子の反応に明らかな“迷い”を感じていた。「完全に魔物になりきっていない……感情がある。自我が残ってる。」「なら……説得も、可能性のひとつとして持っておくべきだ。」銃がそう提案すると、アベルは渋い顔をしながらも頷いた。「否定はしねぇ。戦うばっかじゃ、救えねぇやつもいるっ
last updateLast Updated : 2025-06-28
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第十六章:鉄と焔の街、静かなる開戦

地鳴りが響くような音と共に、彼らは鍛冶屋の都市〈ラグナ・アアンヴァル〉へと足を踏み入れた。街のいたる所で火が灯り、鉄が鳴る。 建物は石と金属で構成され、壁面には歴代の鍛冶師の名が刻まれている。「この街、全部が“工房”なんだな……。」ルークが驚いたように周囲を見渡す。「火の精霊に祝福された大地だ。……かつては、戦士たちの武具もここで鍛えられていた。」アマネが説明する。 その中に、ある一本の巨大な剣が展示されていた。「これが……“神の大剣”?」街の人々はそう信じていた。 鍛冶師たちは代々この剣を神格化し、手を加えることもせずに守っていた。しかし、銃は違和感を抱いた。「……これ、違うな。魂の“気配”がない。これは“神の武器”じゃない。」その時、ひとりの少女がハンマーを肩に担いで通りかかった。年の頃は十六か十七、目に煤と決意を宿した新米の鍛冶師――ライナ。「私が持ってるコイツ……“叩け”って言うの。まるで生きてるみたいに。」彼女の肩の上で、ハンマーが低く震えた。「やっと気づいたか。俺が“神の武器”だよ。しかも叩く専門。振り回すなよ、いいな?」とぼけた声で、ハンマーが話し出す。その夜、火の塔が赤く染まった。現れたのは、焔を纏う男――四天王、グロム・ザ・スコーチ。「ここは俺が鍛冶師だった街だ。だがもう不要だ。思い出も、誇りも、全部――焼き尽くしてやる。」彼の言葉は、かつてこの街に生きた“人間としての記憶”を滲ませていた。「神の大剣?違うな。あれはただの“形見”だ。俺が鍛えた、最初で最後の“人としての誇り”……だが、それも今日で終わりだ。」燃え盛る大剣を抜き放ち、彼は宣言した。「三日後――この街を滅ぼす。準備をしておけ。“英雄”どもよ。」その宣戦布告に、都市は混乱に包まれた。しかしリィナたちは、そこに留まることを選ぶ。「逃げる選択もある。でも、この街に
last updateLast Updated : 2025-06-29
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第十七章:裁く者の槌、燃える街の前夜

神のハンマーは、火の精炉の上でじっとしていた。「……あの男、グロム。焔の中に迷いがあったな。」「わかるのか?」リィナが尋ねると、ハンマーがくるりと回って返す。「まぁな。伊達に人の嘘ばっか見てきたわけじゃない。俺、中の人間――“裁判官”だったからさ。人の目と声の奥、見通すの得意でね。」とぼけた口調に反して、声にはどこか重みがあった。「彼は、“滅ぼしたい”より、“終わらせたい”に近い。……過去の自分を、記憶ごと焼き払おうとしてるんだ。」リィナたちは静まり返った。「つまり、繭の子だけじゃない。魔物たちは、“ただの敵”じゃなくなってる。」アベルが低く言った。「人格と記憶を持っている。……それをどう扱うかは、戦う俺たち次第だ。」銃が言葉を継いだ。一方で、街では戦いに向けた準備が進んでいた。 「ルートAの住民、東の地下工房に避難完了!」「鍛冶炉封鎖、完了!」「火薬庫、封印済み! 危険区域には結界設置を!」住人たちは命令に従い、火花の舞う工房街から次々に退避していく。「ライナ、おまえは本当に残るつもりか。」老鍛冶師が険しい顔で言った。ライナは黙ってハンマーを担ぎ、うなずいた。「こいつが、私の“選ばれた相棒”なんだ。だったら……戦場にも立たなきゃ。」「ほぉう、こっちとしては心強い限りだが……なるべく顔は壊すなよ?可愛い顔してんだから。」ハンマーの軽口に、ライナはくすっと笑う。都市防衛の中核は、工房街を拠点に形成された。高温の風を遮断するための耐炎結界。 迫撃を察知する魔導警戒網。 近接・遠距離の連携を重視した迎撃配置――一行は各自の特性を活かし、三日後の“灼熱の襲撃”に備えた。リィナとルークは砦の屋根で射線確認。 アベルとカイルは地下通路の爆破装置と罠を設置。 アマネは避難所の結界を巡回。 タ
last updateLast Updated : 2025-06-29
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第十八章:焔に抗い、消えゆく微笑

灼熱の轟音が、街を包んだ。――グロム・ザ・スコーチ、到来。彼の姿は、かつて鍛冶師だったなどとは思えないほど“焔そのもの”と化していた。 背に燃え盛る大剣を背負い、ただ歩くだけで道が溶ける。「……っ! なんて火力……!」リィナが撃つ魔力弾が、炎の壁にかき消される。「来い。“英雄”ども。貴様らの成長、見てやろうじゃないか!」その言葉は、挑発というより、審判に近かった。戦いは、開始早々から苦戦の色を濃くした。ルークの剣は火に弾かれ、アベルの罠は熱で作動前に溶ける。 カイルの拳も通じず、銃の弾丸すら、焔の鎧を貫けない。「くっ……くそっ! 強すぎる……!」ライナが振るうハンマーすら、彼の大剣に砕かれかけた。「まだだ……! 覚醒すらしてない俺たちが、このまま負けてたまるか……!」リィナの叫びが空に響く。だが――その声さえ、炎に飲まれそうになった、その時。「やめて……!」空間がねじれ、空が裂けた。 黒い糸が絡みつき、グロムの動きを止める。「お父さん……お母さんを、いじめないで……!」現れたのは、繭の子。レオナとタカフミを見るその目には、今にも崩れそうなほどの悲しみがあった。「お願い、消えないで。せめて……せめて、僕の中に……!」そして繭の子は、糸の結界でグロムごと自らを包み込む。「……また、会おうね。今度は……たぶん、違う僕だけど……。」その声が、焔とともに消えた。魔界への強制送還―― 一瞬にして空間が閉じ、炎の大剣とともに、静寂が戻った。ただ残されたのは、灰と、煙と、悲しみだった。「勝った……のか……?」「……違う。守れなかったんだ。あいつも、この街も、完全には。」誰かがつぶやく。リィナは拳を強く握った。「強くなる。もっと……もっと強くならなきゃ、あの子を、止められない。」
last updateLast Updated : 2025-06-30
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第十九章:名を与えるという祈り

防衛戦の余波が過ぎた翌日。煙の抜けた空の下、火の神殿跡地で一行は集まっていた。その中で、ハンマー――元裁判官の魂が、ぽつりと口を開いた。「……覚醒ってのがあるんだよ。神の武器にはな。」その言葉に、皆が振り向いた。「覚醒……?」「そう。神を“降ろす”んだ。……使い手が、神格化することでな。」ハンマーの声は珍しく低かった。軽口ではなく、真実を語る裁判官の声だった。「そのとき、武器と使い手は一体化する。意識も、感情も、力も全部が融合して、“神の座”に近づく。」「でもそれって……すごく危険じゃないの?」アマネが鋭く問いかける。「危険どころか、ほとんど“壊れる”んだよ。普通は。」静寂が落ちる。「……魂の強さ。意思の硬さ。それがなけりゃ、神になろうとした使い手はただ壊れるだけだ。……神格化は、力を得る行為じゃなく、“神に近づく試練”なんだ。」誰も、すぐには言葉を返せなかった。 その夜、リィナは焚き火の前に一人、銃を抱えていた。「……僕には、何もない。」銃が呟いた。「アベルには過去がある。ショウには願いがある。アマネには記憶がある。……でも僕は、名前すらない。」彼の声は静かだったが、深い諦めの気配があった。リィナは、しばらく黙っていた。やがて、彼女はそっと銃を胸に抱き、言った。「じゃあ、私がつけてあげる。」「え?」「名前。“君”が、君であるために。」火の灯りの中、リィナの瞳はまっすぐだった。「―
last updateLast Updated : 2025-06-30
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