エントランスまで歩きながらニコラスは伯爵に尋ねた。「伯爵、馬車を回すように言いますか?」「いや、構わなくていい。ここからホテルまでせいぜい徒歩10分ほどの距離だ。懐かしい『ボニート』の町並みを歩いて帰ろうと思っているからな」伯爵はジェニーが亡くなってから一度も、この地を訪れていなかった。その理由は当然……。「それはジェニーを思い出すからですか?」「当たり前だ。だからあの別荘だって手放したのだからな。ここへ来れば、いやでもジェニーのことを思い出してしまう……。だから今まで躊躇っていたのだ。そう言えばジェニーは、あの別荘に咲いているポピーが好きだったな。あんな地味な花の何処がいいのかと思い、理由を尋ねたことがあった」「ジェニーは何と答えたのですか?」「外で逞しく、可憐な花を咲かせている姿が好きだと言っていた。そう言えば、この城にもポピーが飾ってあったな。懐かしいものだ」「ポピーの花はジェニファーがあの別荘まで足を運んで摘んできた花ですよ」すると伯爵が足を止めて、ニコラスを見つめた。「……何だと? ジェニファーがこの花を?」「はい。ジェニーが好きな花だったからだと、シドに伝えたそうです」「そう……だったのか」「伯爵、ジェニファーは……」「言われなくても分かっている!」ニコラスの言葉を塞ぐように、伯爵はきっぱり言った。「先ほども言ったが……本当は分かっていた。ジェニファーがどれだけ気立ての良い娘なのか。ただ……ジェニーがあんなことになって……誰にこの悲しみや怒りをぶつければ良いのか分からなかったのだ……自分でもどうかしていたと思っている」「それなら、先程の発言は撤回してくれるのですね?」「私はもう部外者なのだ。2人のことなのだから、自分たちで決めれば良いだろう。色々言って……悪かったと思っている」ニコラスをじっと見つめる伯爵。「伯爵……」「もう見送りはここまでで結構だ」それは「自分に構うな」と言ってるようにニコラスは聞こえた。「分かりました。なら後は彼に任せます」ニコラスが背後を振り返ると、付き添っていたフットマンがお辞儀をする。「……分かった。もうここへ来ることも……ジョナサンに会うことも無いだろう。元気でな。ニコラス」「はい。伯爵もお元気で」すると伯爵は口元にフッと小さな笑みを浮かべ、フットマンを伴って去って行
Terakhir Diperbarui : 2026-01-24 Baca selengkapnya