All Chapters of 望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした: Chapter 201 - Chapter 210

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7-12 嘘の言葉

「ジョナサン……クッ!」伯爵は自分に全く懐かなかったジョナサンに苛立ちを覚え、睨みつける。「これで分かったでしょう? ジョナサンは人見知りが激しい子供です。いくら貴方が祖父であろうとも、断じて渡せません! ましてや自分の孫を睨みつけるような相手なら、なおさらだ!」ニコラスは強く言い切った。すると――「アハハハハッ! これは愉快だ!」室内に突然笑い声が響き渡った。するといつの間にか、パトリックの姿がある。「パトリック……何故ここにいる? 俺は客間にいろと言ったはずだぞ!?」ジョナサンを抱きしめたまま、ニコラスが強い口調で尋ねる。「まぁ、そんな固い事言わないでくれよ。こんな面白い余興、俺も参加させてくれてもいいだろう? それに、会いたかった人達もいるしね」パトリックはジョナサンを一瞥すると、次にジェニファーに視線を移して笑みを浮かべる。「……?」笑顔を向けられたジェニファーは不思議に思ったが、相手は高貴な男性なので会釈した。その様子をシドは歯を食いしばり、見つめている。「何が余興だ! ふざけるな! 他人事だと思って勝手なことを言いおって!」一方、「余興」と言われた伯爵は怒り心頭でパトリックを怒鳴りつけた。「フエェエェ……」伯爵の怒鳴り声に怯えて、ジョナサンはニコラスの胸に顔をうずめる。「ほら、伯爵。あなたが大きな声を上げるから、お孫さんが怯えているじゃないですか? そんなことじゃ、永久にお孫さんと暮らせませんよ?」肩をすくめるパトリックにニコラスは言い返した。「何を言う! ジョナサンは俺の大事な子供だ! 伯爵などに渡せるものか!」すると伯爵が冷たい眼差しをニコラスに向ける。「あぁ……そのようだな。どうやら私はジョナサンに完全に嫌われてしまったようだから、諦めるとしよう」「ええ。当然のことでしょう」毅然とした態度を取るニコラス。しかし、次に伯爵はとんでもないことを口にした。「ただし、それには条件がある。ジェニファー! お前がテイラー侯爵家を出ることが条件だ!」伯爵は初めてジェニファーの名前を口にした。「え!?」「何だって!?」「そんな……!」ポリー、ニコラス、シドから驚きの声が洩れるもジェニファーは沈黙している。「ジェニーを見捨てるような薄情者に、大切な孫を託せると思うか? 今後一切ジョナサンと関わらないと
last updateLast Updated : 2026-01-10
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7-13 ジェニファーの頼み

 ジェニファーの言葉に一瞬、その場の空気は凍り付いた。「好きな人って……まさか、従兄弟のことか?」震える声でニコラスが尋ねるも、ジェニファーは黙ったままだ。ジェニファーが沈黙したのは、何故ダンのことがこの場に出てきたのか分からなかったからだ。けれどニコラスはその沈黙を肯定と受け止めてしまった。「……そうか……彼のことが……」ポツリと呟くニコラスに、シドはもうこれ以上黙って見ていることが出来なかった。「ニコラス様! ジェニファー様は……!」その時、伯爵が高らかに笑った。「アハハハハハッ! やはり、お前はそういう人間だったか! 金だけが目当てだったのだな! 好きな男がいるなら、さっさと離婚してここを出て行くがいい! ニコラスから少しは金を貰ったのだろう? その金があれば、その男と戸籍が汚れても再婚してもらえるのではないか!?」「伯爵! これ以上ジェニファー様を侮辱しないで下さい!」チャキッ!ジェニファーに対する暴言に我慢の限界が来てしまったシドは、ついに剣を抜いて伯爵に突き付けたのだ。「キャアッ! シドさんっ!」「シドッ!?」初めてシドが剣を抜いた姿を見て、悲鳴を上げるポリーとジェニファー。「フウェェエエ……」ジョナサンも驚き、再び泣き顔になる。「シドッ!? 何をする!?」ニコラスもシドの行動に驚いていた。騎士であるシドは常に冷静沈着な男だった。ましてや自分の感情に任せて、誰かに剣を向けるなど初めてのことだったからだ。(へ~これは面白いことになってきたな……)その様子を腕組みしながら面白そうに見つめるパトリック。一方、剣を向けられた伯爵は冷静だった。「ほぅ~面白い。たかが騎士のくせに、この私に剣を向けるのか?」「……」シドは黙ったまま、剣を向けている。「いいだろう。斬りたければ斬るがいい。どうせ、もう私はこの世に未練などないからな。愛する妻をたった数年で亡くし……唯一の希望だった愛娘まで亡くしてしまったのだ。この際だ、いっそひと思いに殺してくれないか? そうすれば死んで2人に会えるからな」伯爵は両手を広げた。「……ジェニファー様に謝罪するつもりは無いのですか?」恐ろしい程に冷え切った声で尋ねるシド。「何故、私があんな卑しい娘に謝罪しなければならない?」「何……?」シドが一歩前へ踏み出した時――「やめて
last updateLast Updated : 2026-01-11
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7-14 伯爵の本音

 ジェニファーが走り去って行くと、途端にジョナサンが泣き出した。「フウェェェェ~ン……マァマッ! マァマァ~ッ!」「駄目だ……ジョナサン。ママは……もうここからいなくなるんだ。これからはパパがずっとそばにいるから」泣いているジョナサンをニコラスは抱きしめた。「ニコラス様!? 本当にこのままジェニファー様を行かせてしまうつもりですか!? 伯爵の言いなりになってどうするのですか!」シドは自分の立場も顧みず、伯爵を睨みつけた。「そんな……ジェニファー様は本当にジョナサン様を置いて、ここから去るつもりなのですか……?」ポリーの目に涙が浮かぶ。「マァマ~! ウワアアアンッ! マァマ~……」「頼む……ジョナサン。泣かないでくれ……」グズグズ泣くジョナサンをニコラスは、ただあやすだけしか出来なかった。本当はジェニファーの後を追いかけたかったが、『来ないで』と言われた以上、追いかけることが出来なかったのだ。(知らなかったとは言え、俺は今まで散々ジェニファーを傷つけて苦しめてしまったのは事実だ……。あれ程恋い慕っていた女性だったというのに……俺には彼女をここへ引き留める資格はないのだから……)「マァマッ! マァマ~! ウワアアアアーンッ!」ジョナサンがジェニファーを求めて激しく泣く様子を見て、伯爵がポツリと言った。「ジョナサンは……本当にジェニファーを慕っていたのだな……」「当然です。ジェニファー様は本当に愛情をこめてジョナサン様のお世話をしていらっしゃいました。そういう優しさをジェニー様は御存知だったからこそ、ジョナサン様を託されたのではありませんか?」シドは冷たい視線で伯爵を見る。「……そんなことは、分かっていた……」伯爵が俯く。「私だって……ジェニファーが心優しい娘だということは分かっていた。使用人達から2人の様子を聞かされていたからな……。私は身体が弱く、たった1人きりの娘と言う事で……あの子を甘やかして育ててしまった。学校にも行けないジェニーの為に、友達を作らせようと近隣の貴族たちに声をかけて同い年の少女たちに会わせたこともある」ポツリポツリと語る伯爵。「……だが、皆ジェニーの我儘に付き合いきれずに去って行った……。それで最終的にジェニファーを呼んだのだ。従姉妹だし、金を渡してジェニーの相手をさせればいいだろうと。そうすればイヤ
last updateLast Updated : 2026-01-12
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7-15 パトリック

 4人が応接室で話をしている頃――ジェニファーは自室を目指して歩いていた。「……ハァ……ハァ……」まだ体調が完全に良くなっていないのに、走ったせいだろう。ジェニファーの足元はフラフラとおぼつかない。(まだ調子が悪いわ……でも明日はここを出て行くと言ってしまったのだから、早く準備をしないと)でも行く宛てなど何処にも無い。今更叔母の所へ戻れるはずも無かった。(取り合えず、ここを出たら何処かホテルでも見つけるしかないわね)歩みを速めた時。バランスを崩して転びそうになってしまった。「アッ!」「おっと!」床が目の前に迫って来た次の瞬間、突然力強い腕で背後から引きあげられた。転びそうになったことよりも、背後から抱き上げられたことに驚いてジェニファーは振り返った。するとパトリックが笑みを浮かべて話しかけてくる。「大丈夫かい? 危ないところだったな」「ありがとうございます。……あの、もしかすると貴方はパトリック様ですか?」ジェニファーは遠慮がちに質問した。「そうだけど……俺のことを知っているのかい? それは光栄だな」「は、はい……。あの、放していただけますか?」パトリックは未だにジェニファーを右手で抱きかかえたままだった。「あ、これは失礼」パトリックが手を離し、ジェニファーは一定の距離を取って離れた。「今ほどは転びそうになったところを助けていただき、ありがとうございます」頭を下げてジェニファーは礼を述べる。「いや、別にお礼を言われる程のものじゃないさ。それより今、俺の名前を口にしたよね? 何故知っているんだい?」「あの……ニコラス様とシドから話を聞いていたからです……」警戒しながら答えるジェニファー。何しろパトリックはニコラスを暗殺しようと企んだ人物なのだ。「話? へぇ、2人は俺のことを君に何と伝えていたのかな?」「そ、それは……」ジェニファーが答えに詰まると、パトリックは何かに気付いたかのように頷いた。「なるほど……その様子なら、ろくな話を聞かされていないのだろうな。ひょっとして兄上を暗殺しようとしたことがあるとか? 違うかい?」「え!?」思わずジェニファーの肩が跳ねる。「やはり、そうみたいだな。でもそれは誤解さ。確かに兄上は暗殺未遂に何度もあっているけれど、俺は一切関与していないよ。全部母上が独断でやったことなん
last updateLast Updated : 2026-01-13
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7-16 イボンヌ

 まさかニコラスの命を狙っていた相手から「面倒を見る」と言われるとは思いもしていなかったジェニファー。(いくら行くあてが無いとしても、パトリック様にお世話になるわけにはいかないわ)そこでジェニファーは丁重に断ることにした。「いいえ。御心配して頂くのはありがたいことですが、その必要はありません。行くあてならありますので、どうぞお気遣いなく」「へぇ? それじゃ、どこへ行くのか教えて貰えるかい?」それでもパトリックは引こうとしない。「それはパトリック様には言う必要は無いと思います。あの……もう、よろしいでしょうか? そろそろ部屋に戻って、ここを出る準備をしなければいけないので」「え? ちょっと」パトリックの顔に困惑の表情が浮かぶ。「それでは失礼します」そのまま通り過ぎようとしたとき、パトリックがジェニファーの左手首を掴んできた。「何処へ行くんだい? まだ話は終わっていないんだけど?」「あの……放していただけますか?」「ジェニファーが嘘ばかりつくからだろう? 本当は他に好きな相手も、行くあてだってないじゃないか。俺は気の毒な女性を放っておけるほど薄情な男じゃないんでね。兄上と違ってさ」その言葉には、さすがのジェニファーも黙っていられなかった。「いいえ、ニコラス様は薄情な人ではありません」「薄情じゃないか。だって、兄上が本当に好きだった相手はジェニファー。君だったのだろう? それなのに性悪なジェニーを君だと勘違いして結婚したんじゃないか」未だにパトリックはジェニファーの手首を握りしめたまま離さない。「性悪なんて……ジェニーを悪く言わないで下さい。私は、ジェニーに色々なことを教えて貰ったんです。テーブルマナーも。それに学が無い私に勉強を教えてくれたのだってジェニーなんです」「へぇ? 自分が本来結婚するはずだった相手を奪われたのにかい?」「それは……あなた方がニコラスを……!」そのとき。「私達が、どうしたと言うのかしら?」突然廊下に女性の声が響き渡り、ジェニファーが振り向くと見事な赤毛の女性が立っていた。(え……? 誰? もしかして……)「母上、どうしてここにいるんです?」ようやくパトリックはジェニファーの手を離した。「そんなのは、あなたを捜していたからに決まっているでしょう? 突然部屋を出て行ったと思えば、いつまでたっても
last updateLast Updated : 2026-01-16
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7-17 イボンヌ 2

「どうしたの? パトリック、そこをどきなさい。私は今、そこの女性に用があるのよ」苛立ちを含んだ声で命じるイボンヌ。「まぁまぁ落ち着いて下さい、母上。そんなに怖い顔で見つめているので、彼女が怯えているではありませんか」「何ですって!? 私の顔の何処が怖いというのよ!」「初対面の相手から、いきなり睨まれると誰だって怖いと思いますよ。大体、大した話はしていませんから。ただ、ちょっと城の中を歩いていたら迷ってしまったので偶然通りかかった彼女に部屋の案内をしてもらっていただけですよ」「え……?」パトリックの作り話にジェニファーは驚き、小さな声が漏れた。するとパトリックは振り向き、笑顔を向けながら目配せする。「君、ありがとう。もう行ってもいいよ」それは、まるで「早くここから立ち去れ」と言われているようにジェニファーは感じた。「はい、それでは失礼いたします」パトリックの意思を感じ取ったジェニファーは会釈し、立ち去ろうとしたとき。「あ! ちょ、ちょっと! お待ちなさい!」「ほら、母上。部屋に戻っていましょう。兄上に怒られますよ」「何よ!? ニコラスの言うことを聞けというの!? 貴方は悔しくないの!」「まぁまぁ、落ち着いて。ここは兄上の城なのですから……」「そんなことだから、貴方は当主の座を奪われるのよ!」背後では興奮するイボンヌと、それを宥めるパトリックの声が聞こえている。けれどもジェニファーは振り返ることなく、足早に自分の部屋を目指した――****(どうやら行ったみたいだな)イボンヌと並んで歩きながら、パトリックはジェニファーが去って行く様子をチラリと見た。「ちょっと! 話を聞いているの!? パトリック!」「ええ、勿論聞いていますよ。母上」愛想笑いを浮かべるパトリック。「どうして、こんな状況でヘラヘラ笑っていられるのよ! 話し合いの場から追い出されてしまったというのに!」「でもそれは仕方ないのではありませんか? 何しろ僕たちは招かれてもいないし、連絡も入れずに訪ねてきたのですから。それでも追い出されなかっただけマシだと思いませんか?」「そんなのは当然よ。こっちは汽車を何日も乗り換えて、ここまで来たのだから。それにしてもニコラスはなんて生意気なの……当主になって、ますます生意気になったわ。私が選んだ使用人達を全員クビにするなん
last updateLast Updated : 2026-01-17
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7-18 イボンヌの計画 1

「母上、本気で言ってるのですか? この城にはジョナサンに伯爵だっているのですよ?」「ええ。そんなこと分かっているわ。それにニコラスの再婚相手もいるのよね? まだ会ってもいないけど」「……」パトリックは返事をしなかったが、心の中では安堵していた。(一緒にいた女性がジェニファーだと母に気づかれなくて良かった。だが考えてみれば元々母はジェニーに会ってもいないから分からなくて当然か)イボンヌはニコラスが結婚相手を見つけたことにより、当主の座を奪われてしまったのだと決め込んでいた。当然、ニコラスの結婚式に出席するはずもない。しかしパトリックはニコラスが選んだ結婚相手に興味があったので式に出席し、当然ジェニーの顔を見ていた。だからこそジェニファーが結婚相手だと気づいたのだ。「それにしてもニコラスの結婚相手は随分失礼ね。血が繋がっていなくても私はニコラスの義理の母親よ。挨拶に来るのは当然じゃないの!」イボンヌの苛立ちは続いている。「落ち着いて下さい、母上。ここは兄上の城ですよ? 誰かに聞かれたらどうするのです?」(大体ジェニファーは兄上が何度も暗殺の危機に遭っているのを知っているのに、わざわざ挨拶に来るはずない。誰だって身の危険を感じるに決まっている。尤も企んだのは全て母で、俺は関わっていないが……一緒にされるとちょっと心外だな)パトリックはジェニファーを一目見た時から気にいってしまったのだ。しかもあんな話を聞かされては、傍観などしていられない。「確かにそうかもしれないわね。話の続きは部屋に戻ってからにしましょう、急ぐわよ。パトリック」「はい、母上」苛立つイボンヌを宥めるようにパトリックは笑顔で返事をするのだった――****「母上。先ほどの話の続きですが、本当にこの城で兄上を襲わせるつもりですか?」先程の部屋に戻ると、早速パトリックは尋ねた。「ええ、当然よ。何の為に選りすぐりの私兵を10人も連れてきたと思っているの? それにしてもニコラスが当主になったせいで、すっかり権力を奪われてしまったわ。手狭な屋敷に追いやられるし、支給金が三分の一まで減らされてしまうし。これはあまりに横暴よ」ソファに腰かけ、膝を組むイボンヌは苛立たし気に爪を噛んだ。「母上……でも、今だって十分な生活が出来ていると思いますが?」(この人は何も分かっていないのか?
last updateLast Updated : 2026-01-18
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7-19 イボンヌの計画 2

「決行するなら今夜がいいわね。今日はここに泊めて貰って、真夜中に私兵たちを使って襲撃させましょう。早速周辺に待機している私兵たちに伝えてこないと。幸いニコラスも、あの忌々しいシドも今この場に居ないからチャンスよ」イボンヌは頷きながら、物騒な計画を立てている。その姿を見ながら、パトリックはゾッとした。(我が母親ながら、なんて恐ろしい人なんだ……ジェニファーやジョナサンまで殺すだって!? 冗談じゃない!)イボンヌの暴挙を止める為、パトリックは説得を試みた。「待ってください、母上。兄上はともかく、ジェニファーやジョナサンを殺すなんてさすがにそれはやり過ぎです。 そうは思いませんか?」「何がやり過ぎなの。いい? ジョナサンはニコラスの実子なのよ? ニコラスが死んだら次の当主はあの子になってしまうでしょう!? 私たちは権力争いに負けてしまったのよ!? つまりあの2人がこの世に存在する限り、永久にあなたには当主の座は回って来ないのよ!? それを分かっているの!?」話をしている内に徐々にイボンヌは興奮し、ヒステリックにパトリックを指さした。「ですがジョナサンはまだ赤子です。1人では何も出来ないのですよ? それに母上も御覧になったでしょう? 赤子を手にかけるなんて、夢見が悪すぎます。そうは思いませんか?」「何が夢見が悪いよ。……まさか、パトリック。ジョナサンに情が湧いたとでもいうつもりじゃないでしょうね?」「僕に限らず、人は誰でも愛らしい存在には情が湧くのではありませんか? 母上だって猫が好きでしょう?」自分の感情を読み取られないように、パトリックは笑顔で答える。「まぁ確かに猫は可愛いけれども……つまりあなたにとってのジョナサンは犬や猫のような存在と同じようなものなのね?」「ええ、そんな所ですね。一応、あの子と僕は血の繋がりもありますし。なので手懐けてしまえばよいのです。我々に決して歯向えないようにね」「なるほど……つまり、操り人形にしてしまえば良いということね?」「その通りです。命を奪うのはいつでもできますが、今はまだその時では無いと思います」すると少し、イボンヌは考え込むような素振りを見せた。「確かに一理あるわね。今はまだ見逃しておいて……うんと、この世に絶望させてから命を奪うのもありかもしれないわ」「ええ、まぁそういうことです」イボンヌ
last updateLast Updated : 2026-01-19
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7-20 イボンヌの計画 3

「落ち着いて下さい、何も命を奪うことは無いでしょう? そうだ、ならこういうのはどうでしょう? 兄上が死んだら僕が当主になる、そして未亡人になった彼女を妻に娶るのです。ジョナサン共々、2人を懐柔してしまえばいいのですよ」イボンヌを説得させるためとはいえ、これはパトリックの本心でもあった。それほどまでに、ジェニファーのことを気にいってしまっていたのである。パトリックには生まれながらに人を見る目――洞察力が備わっていた。世渡りが上手なのも、イボンヌのような母親とうまくやっていけたのも全ては優れた洞察力のお陰。ほんの少しの交流しか出来ていないが、ジェニファーがどれ程気立ての良い女性か見抜いていたのだ。するとイボンヌが眉を吊り上げた。「はぁ!? 一体何を言ってるの!? 何故、貴方が何の後ろ盾も無い貧乏人と結婚しなければならないの! しかもニコラスのお下がりなんて冗談じゃないわ! いいこと、パトリック。私たちは侯爵家の者なのよ? それ相応の身分のつり合いが取れる女性との結婚で無ければ認めないわよ! それともまさか私に内緒で、何処かで会った事でもあるの? それで気にいってしまったとでも言いたいのかしら?」「いいえ。そういう訳ではありませんよ。ただ僕は未だに結婚もしていなければ、婚約者もいないじゃありませんか。次期当主になるには結婚して箔をつけた方がいいかと思ったのですよ。そうだ、ついでにジョナサンを養子にするのも名案だとは思いませんか?」「いい加減にしてちょうだい! パトリック! そもそも何故あなたは今まで結婚していないのか、それはこっちが聞きたいわ! 今までどんなに条件の良い女性を紹介しても、婚約にまで至らなかったじゃない! 一体何故なの!?」イボンヌはヒステリックに問い詰めてくる。「それは……」(まさか、次期当主になりたくなかったからだとはさすがに言えないしな……)そこでパトリックは適当に言い訳をすることにした。「結婚の決め手になるような女性がいなかったからですよ。どうせ結婚するなら、単なる政略結婚ではなく愛情深い家庭を築きたかったからですよ。見合いした女性達はう~ん……こう言っては何ですが、自分のことしか考えていないような人達ばかりでした。いざというとき、僕を支えてくれるようなタイプでは無かったのです」「だったら、ジェニファーとかいう娘なら良
last updateLast Updated : 2026-01-20
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7-21 話し合いの行方

—―今を遡る少し前ニコラス達はパトリックが居なくなったことに気付かず、話し合いをしていた。ソファに力なく腰かけていた伯爵にニコラスは尋ねた。「伯爵、先程の発言ですが……ジェニーでは子供の世話は出来なかったと言いましたよね? それはジェニファーなら出来ると認めているということですよね?」「ああ、そうだ。私の知るジェニファーは面倒見の良い少女だった。……それに大人になった今でも働き者だと言うことは手紙で知っていたからな」伯爵の発言に、その場にいた全員が驚いた。「え……? 知っていた……?」ポツリと呟くシド。「そ、そんな……」目を見開いて、伯爵を見つめるポリー。「一体どういうことですか!? まさか手紙を出していたのですか!?」ジョナサンを抱いたまま強い口調でニコラスが尋ねると、伯爵が首を振った。「勘違いするなよ? 私からは一度もブルック家に手紙を出したことも無ければ書いたことも無い。ジェニファーの叔母が勝手に私に手紙を送りつけていたのだ。お金が無くて、資金援助をして欲しいとな。ジェニファーがどれだけ必死に働いているかも手紙に書かれていた」「……それで、伯爵はその手紙をどうしていたのですか?」押し殺した声でニコラスが尋ねる。「別に。手紙を読んで、燃やした。それだけだ」素っ気なく答える伯爵に感情を抑えられなくなったのか、声を荒げた。「燃やしたですって!? 返事を書くなり、援助をしたりはしなかったのですか!?」「そんなのは決まっている。弟はとっくに亡くなっているのだ。金銭を要求してくる図々しい赤の他人の為に、何故私がそんな真似をしなければならない!?」伯爵も負けじと声を荒げ、話を続けた。「本当に、しつこい女だった。いくらこちらが無視しても、何十通も手紙を書いて寄こしてきた。最初は単なる金銭の要求だったが、私が何も反応しなかったからだろう。その内、いかに自分たちの生活が貧しくて苦しいのか訴えてきた。ジェニファーは外で働き、使用人を雇えないから家でも働き詰めだと。可哀そうな姪を助けようとするつもりは無いのかとな。自分は一切働きもせずに……勝手な女だ」「それで……ジェニファーの状況を知っていたわけですね?」「でもそれも5年程前の話だ。向こうもいい加減諦めたのだろう。手紙はもう届いていない。だが今だってジェニファーは働き者で面倒見が良いのだ
last updateLast Updated : 2026-01-24
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