カチコチカチコチ……静まり返った応接間に、秒針の音が聞こえてくる。重厚なカーペットが敷かれた室内はとても広く、調度品はどれも高級なものばかりだ。しかし、それもそのはず。ここは『ドレイク』王国の中でも屈指の財力を持つテイラー侯爵家だからだ。「……」先程から緊張した面持ちで、1人の女性がソファに座っている。彼女は見事なプラチナブロンドの長い髪に、宝石のような緑の瞳の女性だった。そして彼女の正面に座る男性は、真剣な眼差しで書類を見つめていた。彼はシルバーブロンドに琥珀色の瞳が特徴の美しい青年である。27歳の彼は、この屋敷の当主であるニコラス・テイラー侯爵その人だ。これから、2人は重要な取り決めをすることになっている。「ジェニファー・ブルック。これが、君の全ての釣書か?」不意に声をかけられた女性――ジェニファーは顔を上げると、丁度ニコラスが書類をテーブルに置いたところだった。「はい、そうです」「そうか……現在、25歳。完全に行き遅れだな」行き遅れ……その言葉にジェニファーの顔がカッと熱くなる。「今まで何故結婚しなかった? ずっと家で家事手伝いだけをしていたようだが……それで出会いが無かったのか?」ズケズケと尋ねてくるニコラスの目はとても冷たいものだった。「家事手伝いだけをしていたわけではありません。シッターの仕事もしていました。ただ、殆どボランティアのようなものでしたので、釣書には書きませんでした。結婚しなかった……いえ、出来なかったのは……貧しくて持参金を用意……出来なかったからです……」持参金を用意できないということは、致命的な問題だった。「君は、仮にもブルック男爵家の長女なのだろう? それなのに持参金を用意できなかったのか?」「釣書にもありますが、私は両親を8歳のときに亡くしています。そして叔父夫婦が私の後見人として、3人の子供たちを連れてブルック家に来ました。全員私よりも年下です……今では人数が増えて5人になっています」「なるほど、ブルック家を食い潰されてしまったというわけか? それだけじゃなく家事手伝いまでさせられているということだな?」「そ、それは……」確かにニコラスの言う通りではあったが、肯定する訳にはいかなかった。そんなことが叔父夫婦の耳に入れば、大変なことになってしまう。「まぁいい。そのお陰で亡き妻の遺言
Terakhir Diperbarui : 2025-06-26 Baca selengkapnya