All Chapters of 望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした: Chapter 181 - Chapter 190

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6-17 揉めるメイド

 この日を境にジェニファーの生活は一転した。脱輪事故から2日後――ジェニファーの寝室では誰がお茶を煎れるかということで、ポリーとココが言い争いをしていた。「ジェニファー様のお世話をするのは私です。テイラー侯爵家から専属メイドを任されて、こちらのお城に一緒に来たのですから」「私はこの城で働いているメイドよ。私の方が良く分かっているわ。ジェニファー様のお世話なら私に任せなさいよ」「私は旦那様に直接、ジェニファー様のお世話を頼まれたんですよ!?」「ニコラス様は、全ての使用人にジェニファー様のお世話をするように話していたと今朝の朝礼で執事長が言ってたでしょう!」睨みあうポリーとココ。「あ、あの……2人とも。落ち着いてくれるかしら?」テーブルの前に座ってポリーとココの言い争いを見つめていたジェニファーが見かねて声をかけた。すると同時に振り向く2人。「「落ち着いていますよ??」」「ジェニファー様、私が直に旦那様にお世話を言い使ったのだとココさんに言って下さい」「いいえ、ポリーさんよりも、この城で働いている私の方がお世話に向いています。そうは思いませんか? ジェニファー様」「え? そ、それは……」2人に同時に迫られて、戸惑うジェニファー。その時。「どうぞ、ジェニファー様」淹れたての紅茶がジェニファーの前に置かれた。「え?」驚いて見上げると、銀のトレーを手にしたシドがじっと見つめている。「あ、ありがとう。シド」シドが紅茶を煎れてくれたことに戸惑いながらもジェニファーは礼を述べると、彼は口元に笑みを浮かべた。「いいえ、どうぞお飲み下さい」「あ! シドさんっ!」「いつの間に!?」突然現れたシドに、ポリーとココが同時に声をあげる。「部屋の前を通りかかったら、2人の言い争う声が聞こえてきた。何度声をかけても気づかないからそのまま中へ入ってみると、ジェニファー様に煎れるお茶の件で揉めていた。このままでは埒が明かないと思って、俺がお茶を煎れただけだ。……いかがですか? ジェニファー様」傍らでお茶を飲むジェニファーにシドは尋ねた。「ええ、とても美味しいわ。ありがとう、まさか騎士のシドからお茶を煎れて貰うとは思いもしなかったわ」「滅多にお茶を煎れることは無いのですが……そう仰っていただけると嬉しいです」平静を装いながら答えるが、シドの両
last updateLast Updated : 2025-12-17
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6-18 存在価値

「電話って……一体、何のために?」尋ねるジェニファーの声が震える。「申し訳ございません。詳しくは聞いていないのですが、恐らく誤解を解く為かと思います」「誤解を解く?」何のことか分からなかった。「それは恐らくフォルクマン伯爵がジェニファー様に抱いている負の感情のことだと思います」するとポツリとジェニファーがポツリと本音を口にした。「別に誤解では無いのに。理由はどうあれ、あの日ジェニーの具合が悪いのを分かっていて、町に遊びに行ったのは事実なのだから」「ですが、それこそが誤解ではありませんか。ジェニファー様が町に行かれたのはジェニー様から命令されたからですよね? ジェニファー様が拒否したにも関わらず、自分の立場が上なのをいいことに、命令したようなものです!」「シド……」いつになく、強い口調のシドにジェニファーは言葉を無くす。「! あ……も、申し訳ありません。つい、大声を出してしまいました。驚かれましたよね……? もしかして怖がらせてしまいましたか?」伏し目がちに尋ねるシド。ジェニファーにだけは、どうしても自分のことを恐れられたくは無かった。「少しは驚いたけど別に怖くは無いわ。だって子供の頃からシドは優しい人だって知っているから」「ありがとうございます。そろそろ城の見張りの交代時間なので、失礼します」赤くなった顔を見られない為に部屋を出て行こうと踵を返したとき、ジェニファーが呼び止めた。「待って、シド」「な、何か?」「前から聞きたかったのだけど……、何故こんなに厳重に城の警備をしているの?」「それは……ニコラス様を暗殺の危機から守る為です」「え!? だってそれは子供の頃の話でしょう? 今はニコラスが当主になったからその心配は無くなったのでは無かったの?」ジェニファーの顔が青ざめる。「そうなのですが……現状は警備を怠ってはいけない状況です」「そんな……。それじゃ、ジェニーと結婚している時もニコラスは暗殺の危機に置かれていたの?」「それは少し違います。あの時は、そのような状況ではありませんでした」「どうして?」「フォルクマン伯爵という後ろ盾があったからです。あの方は伯爵家の中でも名門でした。鉱山を所有している為、かなり資産家で権力をお持ちの方だったのです。その娘であるジェニー様と婚姻されていた時は平穏なものでした」「そう…
last updateLast Updated : 2025-12-18
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6-19 夕食の席 

――17時執事長のカルロスがジェニファーの部屋を訪ねてきた。傍にはココが控えている。「ジェニファー様、お身体の具合はいかがですか?」ソファに座っていたジェニファーは笑顔で返事をした。「はい。ゆっくり休ませていただいたお陰で良くなりました。お城の皆様には感謝の気持ちで一杯です」「いえ、ジェニファー様のお世話をするのは当然のことですから。では今夜の夕食はニコラス様と御一緒でもよろしいでしょうか?」その言葉にジェニファーは驚いた。「え? 私とですか? ニコラス様がおっしゃったのでしょうか?」「ええ、勿論です。では18時半になりましたら、お迎えに参ります」カルロスが部屋を去ると、ココがジェニファーに話しかけてきた。「ジェニファー様。ニコラス様とお食事なら、お着換えいたしましょう!」「え? 着替え……そうね」ジェニファーは白いブラウスにブラウンのロングスカートという、いつもの普段着姿だった。(そうね……ニコラスの前で、あまり失礼な格好はしてはいけないわね)「分かったわ。それなら着替えることにするわ」幸いクローゼットの中には、『ボニート』へ来る前に購入した服が入っている。「ではお手伝いさせて下さい!」こうしてジェニファーはココの助けを借りて着替えを始めた――****――18時半一足早く、ダイニングルームでニコラスはジェニファーが来るのを待っていた。ジェニファーとの食事は今回で2度目だが、前回とは訳が違う。何しろ今回はジェニファーが実は、あの時のジェニーだったことが発覚して初めて共にする食事だったからだ。(前回は冷たい態度で接してしまったからな……)そんなことを考えていた時。「ニコラス様、ジェニファー様をお連れいたしました」執事長が車いすに乗ったジェニファーを連れてダイニングルームに現れた。「あぁ、御苦労……!」車椅子に乗ったジェニファーはネイビーカラーのスリーピースドレスを着ていた。その有様は、生前のジェニーを彷彿させる。思わず途中で言葉を失うニコラス。執事長はジェニファーをテーブルの前まで車椅子を押して連れて来た。「ありがとうございます」「いえ、それでは失礼いたします」ジェニファーが執事長に礼を述べると、彼はニコリと笑みを浮かべて去っていった。「あの、ニコラス様。わざわざ車椅子まで用意して頂き、ありがとう
last updateLast Updated : 2025-12-19
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6-20 恐れていた言葉

 全ての食事が並べられると、ニコラスはジェニファーに優しく声をかけた。「ジェニファー。今夜は堅苦しいことは抜きにして、好きなように食べてくれ」「あ、ありがとうございます」ジェニファーと呼ばれたことですっかり恐縮する。テーブルの上に並べられた料理は全て難しいマナーなど一切不要なものばかりだった。(ひょっとしてニコラスは私の為にこれらの料理を用意してくれたのかしら?)ニコラスの気遣いが嬉しい反面、悲しくもあった。何故なら自分のような者にはテーブルマナーなど学ぶ必要も無いだろうと言われている気がしてならなかったからだ。(ジェニーだったら……お手本になってくれて、私にテーブルマナーを教えてくれたのに……)じっとテーブルの料理を見つめていると、ニコラスが声をかけてきた。「どうしたんだ? 食べないのか? それともどこか具合でも悪いのか?」「い、いえ。そんなことはありません。どれも美味しそうです」顔を上げて返事をすると、ニコラスが心配そうな顔で見つめている。(駄目ね、私って……すぐに否定的な考えになってしまって)「では、お食事いただきますね?」「ああ、食べよう」こうしてニコラスとジェニファー、2人きりの夕食が始まった――「あの、ニコラス様。ジョナサン様はどうしているのでしょうか?」食事をしながら、ジェニファーは尋ねた。「ジョナサンなら、食事が終わってもう眠っている」「もう眠っていたのですね。あの、寂しがってたりはしていませんか?」「寂しくならないように、今は仕事中も常に一緒にいるようにしているが?」「そう……ですか……」自分の意図している考えとは別の答えが返って来たので、ジェニファーは失望した。(駄目だわ、ニコラスには私の聞きたいことが伝わっていないのだわ……だけど自分の方から、私がいなくてジョナサンが寂しがっているかなんて聞けないわ)こんなことを聞いて、己惚れていると思われたくはなかった。するとニコラスが話しかけてきた。「ジェニファー。今夜は誘いに応じてくれてありがとう。俺との食事は嫌かもしれないが、大事な話があるんだ。聞いてくれるか?」「い、いえ。そんな嫌なんてことはありません。それで大事なお話というのは何でしょうか?」するとニコラスは少しの間口を閉ざし、手元のワイングラスを飲んだ。「実はフォルクマン伯爵にジェニーの手
last updateLast Updated : 2025-12-22
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6-21 届かぬ想い

「あ、あの……解放って……?」尋ねるジェニファーの声が震える。「言葉通りだ。君と離婚をすると言う事だ。だが、今すぐ離婚するわけにはいかない。戸籍の問題があるからな……書類の提出は1年後にはなるが、ここを出てくのはいつでも自由だ。ジェニファーの意思を尊重するよ」「そう……なのですね……」(つまり、私に出て行って欲しいと言うことなのだわ……)自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。しかし、オレンジ色の燭台に揺れる光の下では顔色が悪いことにニコラスが気付くはずも無い。 そして、ジェニファーの心をえぐるようなニコラスの言葉は続く。「すぐここを出るのは体調のこともあるから難しいだろう。だから今は自分の身体のことだけを考えて、よく休んでくれ。ジョナサンの世話も大丈夫だ。いずれにしろ、君はここを出て行くわけだからジョナサンにもジェニファーがいない生活に、慣れさせなければいけないしな」「慣れさせる……? ジョナサン様は、私を恋しがっているということですか?」尋ねる声が震える。「確かに、それはあるが……でも大丈夫だ。ジョナサンはまだ1歳だ。今はジェニファーのことを恋しがっているが、いずれ忘れるときがくる。だからそんなに気にすることは無い」「そ、そうなのです……ね……?」もうこれ以上ニコラスの話を聞いているのは限界だった。目頭が熱くなり、今にも涙がこぼれ落ちそうになるのをジェニファーは必死で耐えた。「ああ、ジョナサンのことは気にしないでくれ。それよりも今はジェニファーの今後のことを考えよう。ここを出た後だが、叔母の住む家には戻りたくはないだろう? だから色々な形で生活に困らないだけの支援は出来るだけしていくつもりだ」今迄の自分の行動を悔い改めたニコラスは、ジェニファーに笑顔で語る。だがそれは返って逆効果だった。(あんなに笑顔で話すなんて……それほど、私に出て行って貰いたいということなのね……)「はい……ありがとうございます。今後の生活のことまで考えて下さって、ありがとうございます」弱々しく返事をするジェニファー。「そんなのは当然のことさ。何しろジェニーの遺言を守る為に俺は君の自由を奪い、戸籍迄汚すようなことをしてしまったんだ。だから一生、生活に困らないように金銭の保証をすることを誓おう」「いいえ、金銭の保証などして頂かなくて大丈夫です。私がこ
last updateLast Updated : 2025-12-23
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6-22 すれ違う気持ち

 夕食が終わりに近づく頃。「ジェニファー、今までの俺の非礼を何か形に残るもので詫びたい。欲しい物とか望みの品があるなら遠慮せずに言って欲しい。何かあるか?」笑顔で尋ねてくるニコラス。「何でも……ですか?」「ああ、そうだ」「……」ジェニファーは口を閉ざす。(ニコラス……本当にもう私を必要とは思ってくれないのね? 私の望みは一つしかないのに。ここに残ってジョナサンの傍にいたいの………2人の本当の家族になりたいだけなのに……)けれど日時の指定はされていないものの、いずれニコラスからはここを出て行くように言われている。それなのに、ずっとテイラー侯爵家に置いて欲しいと言えるはずも無かった。「どうしたんだ? ジェニファー」ニコラスが声をかけてきた。「い、いえ。何でもありません。そうですね……突然のことなので、今すぐには思い浮かびません。少し考えさせて頂けませんか?」何もいらないと言っても、ニコラスは納得しないだろう。そこでジェニファーは当たりさわりの無い返事をした。もし、今この場で言える願いがあるとするなら……。「あの……ニコラス様。食事も済んだことですし……少し疲れたので部屋に戻ってもよろしいですか?」「え? あ……そうか。気付かなくてすまなかった。部屋まで送ろう」「いえ! 大丈夫です! 1人で戻れますから!」ニコラスが立ち上がろうとするのを、ジェニファーは止めた。「だ、大丈夫なのか?」予想外の大きな声に思わずニコラスは戸惑う。「はい、今夜は美味しいお食事をありがとうございました」ジェニファーは会釈すると、自分で車椅子の向きを変えて車輪を回して閉ざされた扉の前まで進んだ時。「扉なら俺が開けるよ」ニコラスが立ち上がると、ジェニファーに声をかけた。「……ありがとうございます」前を向いたまま返事をするジェニファーを見て、ニコラスは思った。(……後姿もジェニーにそっくりだ。だが、今まで彼女はずっと嘘を……いくら記憶があやふやだったとしても、違いに気付かなかったなんて……俺が本当に求めていた女性はジェニファーだったのに……)ニコラスはジェニファーに近付き、金色の髪に触れたい気持ちを押し殺して、扉を開けた。「本当に1人で大丈夫なのか?」「はい、大丈夫です。失礼いたします」ジェニファーは一度だけ振り返り、会釈するとダイニングルー
last updateLast Updated : 2025-12-24
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6-23 シドの説得

「シ、シド? 一体何を……?」突然抱きしめられたことでジェニファーは動揺した。「……で下さい……」ジェニファーの髪に顔をうずめるシドの口から、くぐもった言葉が紡がれる。「え? 何て言ったの……?」「泣かないで下さい……」今度は、はっきりとジェニファーの耳に届いた。「シド……」するとシドはジェニファーの身体を離し、両肩に手を置いた。「ジェニファー様。俺は……」そこで一度シドは言葉を切る。本当はこの場で、ジェニファーに自分の気持ちを告げたかった。幼少期からニコラスの専属騎士になる為、厳しい訓練を受けてきたシドは感情さえ殺すように指導されてきたのだ。誰かに心許すことなく、与えられた任務だけをこなしてきたシドは周囲から「冷血騎士」と呼ばれていた。(自分にとって特別な存在など出来るはずない……そう思っていたのに……だが、ジェニファー様はニコラス様の……)「どうしたの? シド」まだ涙を浮かべているジェニファーの涙をシドは持っていたハンカチで、そっと拭った。「そんな風に、1人で泣かないで下さい。俺はニコラス様の護衛騎士ですが、ジェニファー様の味方ですから」「シド……」「辛い事や悩み事があるなら、ポリーや俺をいつでも頼って下さい」自分の恋心を押し殺し、ジェニファーを見つめる。「心配してくれてありがとうシド。でも私なら本当に大丈夫だから」「何が大丈夫なのですか。俺では頼りになりませんか? ジェニファー様の力になりたいのです」「で、でも……」尚も食い下がってくるシドにジェニファーは戸惑う。(どうしてシドはここまで私に構おうとするのかしら? でもそこまで言うなら……)「それなら、私のお願いを聞いて貰えるかしら?」「はい、何でしょう」「ジョナサンに会いたいの。私からはニコラスに頼みにくくて……シドから話してもらえないかしら?」「分かりました。今すぐニコラス様に話をしてきます。絶対にジョナサン様に会わせてさしあげます」シドは大きく頷いた――**** その頃、ニコラスは自室でジョナサン相手に手を焼いていた。「ウワアアアアンッ!! マァマッ! マァマァ~ッ!!」「ジョナサン、ママには会えないんだ。その代わり、パパがいるだろう?」ニコラスは必死にあやすも、ジョナサンは一向に泣き止まない。「パパ、ヤッ! マァマ~ッ! アァァアア
last updateLast Updated : 2025-12-25
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6-24 願い叶って

「だが、もうジェニファーに頼らないと決めたんだ。これ以上、俺の都合で迷惑をかけるわけには……」ためらうニコラスにシドは叱責する。「そんなことを言っている場合ですか!? ジョナサン様がそんなに激しく泣いているのに、泣き止ませることが出来ないではありませんか!」「そ、それは……」「ウワアアアアンッ! マァマッ! ドコ? マァマァ~ッ!」顔を真っ赤にさせ、増々激しく泣きじゃくるジョナサン。「ジョナサン様はジェニファー様を自分の母親だと信じてやみません。今だって、こんなにママと呼んで求めているではありませんか? それにジェニファー様がジョナサン様に会いたいと申し出てきたのですよ!?」「え……? ジェニファーがそう言ったのか……?」「はい、そうです。ジェニファー様が俺に、ジョナサン様に会わせてもらいたと願い出てきたのです!」「そんな……ジェニファーが……? 俺には願いは何もないと言っていたのに……」泣きじゃくるジョナサンを抱きしめるニコラス。「それは、自分からはニコラス様に頼みにくいからと話されていました」「成程……やはりジェニファーに会いに行ってたのか。まぁ多分、あの様子ではそうだろうとは思ったが」「……申し訳ございません。ですが、どうしてもジェニファー様を放っておくことが出来なかったので」シドは頭を下げた。「いや、謝ることはない。確かにシドの言う通り、俺ではジョナサンをどうにかできそうにないからな。それでは今すぐ、ジェニファーの元へ行こう」ニコラスは泣いているジョナサンを抱きかかえたまま部屋を出ると、シドも後をついてきた。そこでニコラスは足を止め、振り向いた。「シド」「はい」「ジェニファーの部屋には俺が1人で行く」「え? ですが……」「これは俺とジェニファーの問題だからな」「!」その言葉にシドの肩がピクリと跳ねる。「シド、今夜の仕事はもう終わりにしていい。部屋でゆっくり休んでくれ」「……分かりました。では、俺はこれで失礼いたします」「ああ。又明日」ニコラスはそれだけ告げるとシドをその場に残し、ジェニファーの部屋へ向かった。「ジェニファー様……」シドは遠ざかるニコラスの背中を見つめ……唇を噛みしめるのだった――**** その頃。ジェニファーはポリーが淹れてくれたハーブティーを飲んでいた。「いかがですか? 
last updateLast Updated : 2025-12-26
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6-25 その日が来るまで

 今、ジョナサンはジェニファーのベッドの上でスヤスヤと気持ちよさそうに眠りに就いている。「……よく眠っているな。今迄は何度も愚図って目を覚ましていたのに」「そうだったのですか?」ニコラスの呟きに、ジェニファーは驚いて振り向く。「ああ。それで俺もその度に起きてジョナサンを寝かせつけるのに苦労していたのだが……今夜はいつも以上に酷かった」「……」その話をジェニファーは黙って聞いていたが……やがて、意を決したようにニコラスを見上げた。「その事ですが……私がここを去る日まで、ジョナサン様の傍に居させていただけないでようか? どうかお願いいたします」「去る日までって?」本当は、ずっとここにいて欲しいと告げたい気持ちを押し殺してニコラスは尋ねた。「それは、私がいなくてもジョナサンが大丈夫になるときまでです……。だから、提案させてください。3人で一緒に過ごす時間を作って欲しいのです。 私とニコラス様2人で面倒をみれば……いずれジョナサンは私がいなくてもニコラス様だけで大丈夫になる……と思うんです」ジェニファーは精一杯の勇気を振り絞って自分の考えを口にした。(ニコラスは私のことを良く思っていないのは分かっているわ。だけど……こうでもしなければ……)ニコラスの反応が怖くてジェニファーは俯いた。すると……。「……いいのか?」「え?」予想外の言葉にジェニファーは顔を上げた。すると目を見開いて自分を見つめているニコラスがいる。「本当に、ジェニファーはそれでいいのか? 俺が2人の傍に居ても……」ニコラスの瞳にはジェニファーの姿がはっきり映し出されている。こんなに真っすぐな瞳で見つめてくるニコラスは子供の頃以来に感じられた。「は、はい。お願いします」ジェニファーは思わず赤くなり、顔を背けた。「分かった。では明日から、なるべく3人で一緒に過ごすことにしよう。書斎にジョナサンが遊べる場所を作ればいいな。いや、それよりも俺がジョナサンの部屋で仕事をすればいいだろうか?」その言葉に、ジェニファーは慌てた。「い、いえ。そこまでしていただかなくても大丈夫です。1日数時間の間でも一緒の時間が取れればいいので」「いいや、それでも足りない。出来るだけ長く一緒にいたいから」じっとジェニファーを見つめるニコラス。まるで自分自身に向けられている言葉のように感じ
last updateLast Updated : 2025-12-27
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7-1 迎え

――翌朝「う~ん……」ベッドの中、ジェニファーは温もりを感じて目が覚めた。するとジョナサンがぴったりジェニファーにくっついて眠っていたのだ。その姿が愛しくてたまらない。バラ色の肌に金色の巻き毛のジョナサンはまるで天使のように見える。「フフフ……本当に何て可愛いのかしら」ジェニファーはジョナサンの頬に自分の頬を擦りつけると、笑みを浮かべた――**** 7時過ぎ―― 着替えを済ませて、身支度を整えているとベッドの上でジョナサンの声が聞こえてきた。「マァマ~……ドコ? マァマ~」「ジョナサン? 目が覚めたの?」ドレッサーの前で髪をとかしていたジェニファーはブラシを置くとベッドへ向かった。するとベッドの上ではジョナサンがお座りして不安そうに周囲を見渡している。「おはよう、ジョナサン。目が覚めたのね?」ジェニファーが声をかけると途端にジョナサンは明るい笑顔になり、両手を伸ばしてきた。「マァマ、ダッコ~」「はいはい、抱っこね?」ジェニファーが抱き上げると、ジョナサンは嬉しそうにすり寄ってくる。「マァマ、ハヨ」「おはよう、ジョナサン。愛しているわ」ジョナサンの額にキスしたとき。――コンコンノックの音が部屋に響いた。「あら、誰かしら」ジェニファーはジョナサンを抱いたまま、扉によると声をかけた。「どなたですか?」『ニコラスだ。今、大丈夫だろうか?』「え? ニコラス様?」すぐに扉を開けると、ニコラスが目の前に立っていた。「おはよう、ジェニファー。それにジョナサン」ニコラスは手を伸ばして、ジョナサンの頭を撫でる。「おはようございます、ニコラス様」「朝早くから訪ねてすまない。その……昨夜はよく眠れたか? 夜中にジョナサンが愚図ったりはしなかったかい?」「いいえ、そのようなことは一切ありませんでした。一晩中ぐっすり眠っていて、つい先ほど起きたところです」ジョナサンの背中を優しく撫でるジェニファー。「そうだったのか? 俺が見ていた時はそんなこと一度も無かったのに……」「私は昔から子守りをしていたので、子供の世話は慣れています。その差がジョナサンには分かるのかもしれませんね」「いや……多分、ジョナサンは分かっているんじゃないかな。自分のことを大事にしてくれる相手のことを。だからジェニファーに良く懐いているんだと思う」
last updateLast Updated : 2025-12-28
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