All Chapters of 望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした: Chapter 191 - Chapter 200

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7-2 食事の風景

 ダイニングルームではジェニファーがジョナサンに食事をさせていた。そして2人の向かい側にはニコラスが座って食事をしている。「はい、ジョナサン。あ~んして?」ミルク味のパン粥をスプーンですくってジョナサンの口元に運ぶジェニファー。「ア~ン」ジョナサンはパン粥を口にすると、嬉しそうに笑顔になる。「フフ。美味しい?」ジェニファーの問いかけにコクンと頷くジョナサン。「次はどれがいいかしら」「コレ」「そう、ニンジンがいいのね? このニンジンは甘くて美味しいのよ。はい、あ~ん」「ア~ン」ジョナサンはニンジンを飲み込むと、バタバタと足を振った。「ンマッ、ンマッ!」「そんなに美味しかったのね? はい、ア~ンして? これも美味しいでしょう?」「……」ジェニファーがジョナサンに料理を食べさせている様子を、ニコラスは呆然と見つめていた。(まさか、一口食べさせるたびに声をかけていたなんて……)自分の食事には一切手を付けず、ジョナサンに笑顔で食事させている姿にニコラスは心打たれた。ジェニファーが、どれだけ愛情深くジョナサンに接していたのかを改めて知ることになったのだ。(もっと早く、この姿を見ていれば……偏見の目でジェニファーを見ることも無かったのに……。恐らくジェニーだったら、こんな風に子育ては出来なかっただろう)病弱な伯爵令嬢として大切に育てられてきたジェニーは、あどけない女性だった。それ故大人になりきれない一面があり、何をするにも常に自分が最優先だったのだ。自分よりも子供を優先して食事を与える姿は想像が出来なかった。(だからこそ、ジェニファーに我が子を託したのだろう……)ジェニファーの食事は全くの手つかず状態だ。そこでニコラスは声をかけた。「ジェニファー」「はい、何でしょう?」「食事、まだだろう? 変わるよ」「え? ですが……」「俺はもう食べ終えているんだ。それに、我が子に食べさせるのは親の役目だしな」ニコラスは立ち上がると、ジョナサンの隣の席に座った。「すみません……残りは後半分ほどなのですが……お願い出来ますか?」申し訳ない気持ちでジェニファーはジョナサンの食事が乘ったトレーをニコラスに託す。「ああ、任せてくれ。よし、それじゃジョナサン。今度はパパが食べさせてあげよう。ほら、あ~んしてごらん」「ア~ン」ジョナサン
last updateLast Updated : 2025-12-29
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7-3 不安な気持ち

 その後もニコラスはジェニファー達と一緒に過ごす時間を積極的にとるようにしていた。仕事の合間にジョナサンの元を訪ねては絵本の読み聞かせをしたり、ボール投げで遊んであげたりと積極的に子育てに関わるようにしていた。今もニコラスはジョナサンに積み木で遊ばせ、その傍らではジェニファーが2人の様子を見守っている。ジェニファーはニコラスとジョナサンの間に徐々に信頼関係が出来上がってきているのを感じとっていた。それは同時に、苦労ばかりしてきた自分の人生で一番穏やかな気持ちで過ごせる時間でもあったのだ。(この幸せな時がいつまでも続けばいいのに……)けれど近い将来、ここを出て行かなければならない。その事を考えるだけで、胸が締め付けられそうになる。思わず目頭が熱くなりかけた時……。「ジェニファー。どうかしたのか?」不意にニコラスに声をかけられ、我に返った。「マァマ?」ジョナサンも不思議そうに首を傾げ、ジェニファーを見つめている。「わ、私が何か?」「いや……何故涙ぐんでいるのかと思って」「あ、こ、これはちょっと目にゴミが入っただけです」ゴシゴシ目をこすると、ジョナサンが近づいてきてジェニファーの顔を覗き込んできた。「マァマ? イタイ?」小さな手でジェニファーの頬に触れてくる。「ジョナサン……」ジェニファーは自分を心配するジョナサンが愛しくて、抱き寄せた。「ジョナサン、あなたはとても優しい子ね。大好きよ」「マァマ、スキ」抱きあう2人をニコラスはじっと見つめている。(本当に2人は親子のようだ。出来ればずっとここに残って貰いたいが……それは俺の身勝手な考えだ。彼女には彼女の生きる道があるのだから……)そのとき。「ニコラス様、少々よろしいでしょうか」開いていた扉から執事長が現れた。「どうかしたのか?」「はい。フォルクマン伯爵から電話が入っております」「!」その言葉にジェニファーの肩がピクリと動く。「分かった、すぐに行く」ニコラスは立ち上がると、ジェニファーに声をかけた。「ジェニファー。すまないが、ジョナサンを頼む」「はい、分かりました」頷くジェニファーの声が震えている。「大丈夫か?」「はい、大丈夫です。いってらっしゃいませ」「ああ」ニコラスは頷くと、執事長と一緒に部屋を出て行った。「フォルクマン伯爵から電話……」
last updateLast Updated : 2025-12-31
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7-4 来訪者たち 1

――翌日朝食を終えた3人はジョナサンの部屋で一緒に過ごしていた。ジェニファーがジョナサンとボール遊びをしている傍らで仕事をするニコラス。ジェニファーは笑顔でジョナサンに接していたが、その心中は穏やかではいられなかたった。(今日、フォルクマン伯爵が来る……私は一体どうしたらいいのかしら)出来る事なら会いたくなかった。けれど相手はジェニーの父親で自分の叔父。しかも伯爵なのだ。仮に会いたと言われれば、逆らうことなど出来ないだろう。思い悩んでいたその時。「ニコラス様っ!」突然扉が開かれ、慌てた様子のシドが部屋に現れた。「どうした、シド。ノックも無しに」ニコラスが眉を顰める。「申し訳ございません。急ぎの用だったので……」「ひょっとしてフォルクマン伯爵が来たのか?」ニコラスは立ち上がり、ジェニファーの肩がピクリと動く。「ええ、ですがそれだけではありません……イボンヌ様とパトリック様も一緒なのです!」「何だって!? それで3人は何処にいる!?」「はい、応接室にいらっしゃいます。執事長が対応していますが、皆さんニコラス様をお待ちになっております」「分かった……すぐに行こう。シド、お前もついてきてくれ」「はい、承知いたしました」ジェニファーは2人の会話を呆然と聞いていた。するとニコラスが視線を向けてきた。「ジェニファー」「はい」不意に名前を呼ばれて姿勢を正した。「大丈夫だ。伯爵が何と言おうとジェニファーには会わせない。……会いたくは無いだろう?」「ニコラス様……」静かな声に、優しい眼差しを向けられて戸惑うジェニファー。そして2人が見つめ合う姿に複雑な思いを抱きながら、シドは声をかけた。「ニコラス様
last updateLast Updated : 2026-01-01
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7-5 来訪者たち 2

「どうも、お待たせいたしました」ニコラスは3人が待ち受ける応接室にやってきた。「ニコラス!」「いつまで待たせるのよ!」「義兄さん、お久しぶりですね」伯爵とイボンヌは苛立ったように険しい声をあげるも、義弟のパトリックだけは笑顔を向けている。ニコラスは早速伯爵に話しかけた。「伯爵、お久しぶりです」「ああ。……1年ぶりだな」ぶっきらぼうに挨拶する伯爵は、ジェニーが生きていた頃とはまるで別人だった。頬は痩せこけ、落ちくぼんだ目は生気を失っている。(フォルクマン伯爵に会うのはジェニーの葬儀以来だが……それにしても、何て変わりようだ……以前の面影がまるで残っていない)噂によれば、フォルクマン伯爵は最愛の一人娘を失ってから自暴自棄になってしまったと聞いていた。「それにしても驚きましたよ。何故伯爵がこの2人と一緒に居るのです?」「さぁな、そんなのは知らんな。たまたま『ボニート』の駅に降り立ったら、鉢合わせしただけだ」「伯爵、そんな話を私が信じるとでも思っているのですか?」すると赤毛の髪を逆立てるかのように、イボンヌが声を張り上げた。「ちょっとニコラス! 私たちを無視して勝手に話を進めるとはどういうことなの!? これでも私たちは家族でしょう!? 」 「落ち着いて下さい、母上。兄上の言うことも尤もです。僕たちは招かれざる客なのですから。そうですよね? 兄上」イボンヌにそっくりな赤毛のパトリックは人懐こい笑みを浮かべた。「……」しかしニコラスは返事をせず、不審な目をパトリックに向ける。パトリックが狡猾な人物であることは、ニコラスは良く知っていた。笑顔の下には恐ろしい野心が備わっている、油断ならない人物なのだ。まだ本心をさらけ出すイボンヌの方が相手にしやすい。「ニコラス! 返事位したらどうなの!?」イボンヌは増々目を吊り上げた。「私は今、伯爵と話をしているのです。申し訳ありませんが、お2人は一旦席を外して頂けませんか?」「な、何ですって……? よくも私にそんな口を……!」すると、伯爵が口を開いた。「テイラー侯爵の言う通りです。私も彼と2人きりで話がしたいので、お2人は一旦退席を願います」「フォルクマン伯爵! 貴方と言う人は……!」イボンヌが激高するとパトリックが止めに入った。「落ち着いて下さい。母上」「パトリック! 何故止める
last updateLast Updated : 2026-01-01
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7-6 フォルクマン伯爵 1

 それぞれが緊迫した状況に置かれている頃――ジェニファーは自分の膝の上で遊び疲れて眠ってしまったジョナサンを膝の上に抱いて頭を撫でていた。(ニコラスは大丈夫かしら? それにフォルクマン伯爵は……)自分のせいで2人は仲たがいしてしまったのだ。そのことにジェニファーは責任を感じていた。「ジョナサン、ベッドで寝ましょうね」ジョナサンを抱き上げ、ベビーベッドに寝かせたところでポリーがお茶を持って現れた。「ジェニファー様、紅茶をお持ちしました」「ありがとう」椅子に座るとテーブルの上にカップが置かれる。「どうぞ」「いただくわね」ポリーが淹れてくれたのはアップルティーだった。リンゴの香りとほんのり甘さのあるお茶は緊張を和らげてくれる。「お味はどうですか?」「すごく美味しいわ、ありがとう。……ところでポリー。ニコラスは今どんな感じか分かる?」「はい。人づてに聞いたのですが、御主人様は今フォルクマン伯爵と2人だけでお話をしているそうです」「え? そうなの? それではニコラスの義理の母と弟はどうしているの?」「お2人の話が終わるまでは別の部屋で待たれているようです。シドさんが付いています」「シドが……」(ニコラスもシドも緊迫した状況に置かれている……私1人、こんなことをしていては駄目だわ……)カップを持つジェニファーの手が震える。「ジェニファー様? どうなさったのですか?」「ポリー」ジェニファーは顔を上げて、ポリーを見つめた。「な、何でしょう?」「ニコラスとフォルクマン伯爵は今も応接室にいるの?」「はい、そう聞いておりますが……」「それなら、ジョナサンをお願い」立ち上がるジェニファー。「え? 何処へ行かれるのですか?」「ニコラスの所へ行ってくるわ」「ええっ!? 何故ですか?」「このままここにいても、不安なだけなの。様子を見に行きたいのよ」「ですが……!」「中へ迄は入らないわ。扉の隙間からほんの少し見るだけだから。お願い、行かせて頂戴」(滅多に無理なことを言わないジェニファー様なのに……)「分かりました……。ジョナサン様は私が見ているので、どうぞ行かれて下さい」「ありがとう、ポリー」礼を述べると、ジェニファーは足早に応接室へ向かった――****――その頃。ニコラスと伯爵は向かい合わせで座り、話をしていた。
last updateLast Updated : 2026-01-02
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7-7 フォルクマン伯爵 2

「冗談じゃありません! ジョナサンは私の大切な息子です。何故伯爵に託さなければならないのですか!?」強く反発するニコラスに伯爵は不敵な笑みを浮かべる。「だが、ジョナサンは私にとっても大切な孫だ。それに先程君は言っただろう? 子供は諦めようと思っていたとな」「それはジェニーの身体が出産に耐えられるか心配だったからです! でも彼女は子供を産んだ。祖父だからと言って、ジョナサンを渡せるはずありません!」すると伯爵が声を荒げた。「だが君はまだ次の子供に恵まれるチャンスだってあるだろう!? 何しろ私はあれ程再婚に反対したのに、強引にあの娘と結婚をしたではないか! 今度はジェニーの代わりにあの娘に自分の子供を産ませれば良いだろう!? だからジョナサンは貰っていく! 今日はその為に、わざわざここまで足を運んで来たのだ!」その時――「待ってください!!」突然扉が開かれ、ジェニファーが部屋に現れた。「! ま、まさか……ジェニーッ!? いや、違うな……お前はジェニファーなのだろう?」背筋が凍りそうな冷たい目で伯爵は睨みつけた。その視線に足がすくみそうになるも、ジェニファーは挨拶した。「はい、ジェニファーです。……お久しぶりです、フォルクマン伯爵」「ジェニファーッ! 何故ここへ来たんだ!? 部屋で待っているように言っただろう?」立ち上がるニコラスに、ジェニファーは謝罪の言葉を述べる。「……申し訳ありません。どうしてもじっとしていられなくて、伺いました。そうしたら、伯爵がジョナサンを引き取ると言う話が聞こえたのでつい……」「全く、何処までも図々しい娘だ。ジェニーが亡くなった後釜に上がり込んで妻の座に収まるとは。それだけでは飽き足らず、今度は盗み聞きか? 外見はジェニーにそっくりなくせに、やっていることはまるで低俗だ!」伯爵はジェニファーに棘のある言葉をぶつけてきた。「そ、それ……は……」責められ、青ざめるジェニファー。これ以上ニコラスは黙って見ていることが出来なかった。「伯爵! いい加減にして下さい! 何故そこまで彼女を憎むのです!? 彼女はあなたのたった1人きりの姪ではありませんか! それに誤解しています! 伯爵はジェニーが喘息で苦しんでいたのを見捨てて遊びに言っていたと仰っていましたが、それは違います! ジェニー自らがジェニファーに町に行って、
last updateLast Updated : 2026-01-03
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7-8 フォルクマン伯爵 3

「し、知っていたって……まさか15年前からずっと……ってことですか?」伯爵への恐怖と緊張で震えながら、ジェニファーが尋ねた。「当然だ。何しろジェニーはずっと教会に献金に行けなかったことを気にしていたのだからな。今だから本当のことを話してやろう。お前を連れて来たのは単にジェニーの話し相手にする為じゃない。お前がジェニーとそっくりなことは覚えていたからな。何かあった場合、あの子の身代わりを演じてもらう目的もあって、連れて来たのだ。お前はジェニーにそっくりだったからこそ、親切にしてやっただけだ」もはやジェニファーの名前を口にすることも無く「お前」呼ばわりで、容赦ない言葉を投げつけてくる伯爵。ジェニファーは心無い言葉に、唇を噛みしめてじっと耐える。「伯爵! 何て酷いことを言うのですか! 仮にもジェニファーはあなたの姪でしょう!? 何故そこまで傷つける言葉を言えるのですか!」「そんなことは決まっている。何故ジェニーが死ななければならない!? 何故あの子はあんなに身体が弱かったのに、お前は元気なのだ! そんなにジェニーにそっくりなのに……何故お前が生きている! 代わりにお前が死ねば良かったのに!」伯爵は鋭い眼差しでジェニファーを指さした。「も、申し訳ございません……」ジェニファーは泣きたい気持ちを必死に堪えて、謝罪する。「伯爵!!」とうとう我慢が出来ず、ニコラスは声を荒げた。「ジェニファーは何一つ悪くない! むしろ、彼女は被害者だ! あなたの勝手な都合で連れて来られ、ジェニーに利用されただけの気の毒な女性に八つ当たりをするのはやめていただこう!」「何を言う? 君だって、あの娘を利用しているだけだろう? ジェニーの産んだ子供を育てさせるために再婚したのではないか。それだけじゃない。ジェニーを忘れられないから、そっくりなあの娘を傍に置いているのだろう? 利用しているのは君も同類だ! とにかくジョナサンを渡せ! 君はあの娘と新たに子を成せばよいだろう!?」ぎらついた目で怒鳴り返す伯爵。「それは違う! 俺がジェニーと結婚したのは、彼女がジェニファーだと思っていたからだ! 知っていたら結婚などしなかった!!」「!」その言葉に、ジェニファーは耳を疑った。「ニコラス……」するとニコラスはジェニファーを優しい目で見つめ、笑みを浮かべる。一方、激怒したのは
last updateLast Updated : 2026-01-04
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7-9 その頃の彼ら 1

 ジェニファーが応接室へ向かってすぐのことだった。「フウェエエエ~ン……」ベビーベッドで眠っていたはずのジョナサンが愚図り始めた。「ジョナサン様? まさかもう目が覚めてしまったのですか?」クローゼットの整理をしていたポリーは慌てて向かうと、ジョナサンは既にベッドの上で起き上がっていた。「まぁ、ジョナサン様。本当に起きてらしたのですね」怖い夢でも見たのか、ジョナサンは今にも泣きそうな顔をしている。「あ、あの……ジョナサン……様……?」恐る恐るポリーが声をかけた瞬間――「ウワアアアアアンッ!! マァマッ! ドコ!? マァマァ~ッ!」真っ赤な顔でジョナサンが泣き始めた。「キャアッ! ジョナサン様!」慌ててポリーが抱き上げるも、ジョナサンは泣きながら背中を反らせてポリーの腕から逃れようとする。「ヤッ! マァマッ! マァマ~ッ!!」「お願いです、ジョナサン様! どうか落ち着いて下さい!」ポリーの必死な訴えが1歳の赤子に通じるはずが無い。「マァマッ! マァマ~ッ! パパァ~ッ!」ついにジョナサンはジェニファーだけでなく、ニコラス迄求めて泣き始めた。「も、もう私では無理だわ……」身をよじって暴れるジョナサンを抱きかかえているだけで、今にも落っことしそうになって危なくて仕方がない。「ジェニファー様の所へ行かないと!」ポリーは激しく泣くジョナサンを抱きしめて部屋を飛びした。ジェニファーとニコラスのいる応接室目指して――****一方その頃―― 客間ではイボンヌとパトリックが紅茶を飲んでいた。「全く、ニコラスったら一体いつまで私たちを待たせるつもりなのよ!」カチャッ! イボンヌは乱暴にティーカップをソーサーの上に置く。「落ち着いて下さい、母上。仕方ないじゃありませんか。我々は連絡も無しに兄上の実家にお邪魔しているのですから」パトリックが母を窘め、扉の前で待機しているシドに視線を向ける。「……何でしょう?」パトリックの視線が気になり、シドはぶっきらぼうに尋ねた。「いや、そんなところに立っていないで君も座ったらどうだい?」「結構です。俺の仕事は、お2人の監視ですから」「何ですって!? シドッ! それは一体どういうつもりなの!?」イボンヌが苛立ちを込めた目で睨みつける。「言葉通りの意味です。ここは正真正銘、ニコラス様の
last updateLast Updated : 2026-01-06
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7-10 その頃の彼ら 2

「伯爵の話だと、ジェニファーはジェニーにそっくりだそうじゃないか。結婚式でしか会ったことが無いけれど、ものすごい美女だったからな。亡くなってしまったと聞いた時は、実に勿体ないと思ったよ。でも兄上もやるな~今度はジェニーの従姉妹を後妻にするのだから。伯爵はジェニファーのことを金に眼が眩んだ悪女だと言っていたけれども……ん? どうしたシド。随分恐ろしい目で睨みつけてくるじゃないか」シドの鋭い眼差しに怯むことなく、のんびりと膝を組むパトリック。「ジェニファー様は伯爵が言うような、悪女なんかではありません。亡くなった相手をどうこう言うのは気が引けますが、俺から言わせるとむしろ悪女はジェニー様の方だと思います」怒りを抑えつつ、シドは反論する。「何ですって? よりにもよってジェニーを私たちの前で悪女呼ばわりするとは、いい度胸をしているじゃない? ニコラスが愛妻家だったことを私たちが知らないとでも思っているの? 今の話をニコラスが知ったらどう思うかしら?」勝ち誇ったかのような表情を浮かべるイボンヌに対し、パトリックは面白そうに笑みを浮かべる。「ふ~ん……随分ジェニファーの肩を持つんだな? 使用人達の話によると、随分兄上から冷遇されていると聞かされていたけれど」「その使用人達とは、ニコラス様がクビにした者達のことですよね? でもここでは違います。今では誰もがジェニファー様を大切に思っていますから」「君もか?」「……どういうことです?」「君は他人に全く関心を寄せない男だと思っていたが……どうやら、ジェニファーという女性は、君にとって特別な存在なんじゃないか?」「一体何を……」シドが眉を顰めたその時。『ウワアアアアンッ! マァマッ! マァマ~ッ!』ジョナサンの激しい鳴き声がこちらに向かって近づいて来た。「あら? 赤子の声だわ。まさか……」イボンヌが首を傾げる。「ジョナサン様っ!?」扉を開けると泣きじゃくるジョナサンを抱きかかえたポリーが小走りで近付いて来る姿がシドの目に入った。「ポリー! 一体どうしたんだ!? 何故ジョナサン様を連れている!?」「あ、シドさん! 実はジェニファー様が部屋を出てすぐにジョナサン様が激しく泣き出して……もう、私では手に負えなくて……」「ウアアアアアンッ! マァマ~ッ! アアァアアアンッ!!」今もジョナサンは激しく
last updateLast Updated : 2026-01-07
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7-11 信頼関係

 シドとポリーがジョナサンを連れて応接室を目指していた頃――ジェニファーとニコラス、そして伯爵の間では緊迫した状況が続いていた。「ほう……お前はニコラスと離婚すると言うのだな?」伯爵は自分に頭を下げているジェニファーを見て不敵に笑う。「はい、そうです。明日にでもここを出て行きます」するとニコラスが青ざめた。「ジェニファー!? 本気で言っているのか!?」「はい、本当です」ジェニファーは顔を上げると、真っすぐニコラスを見つめた。「ニコラス様は最初に言いましたよね? この結婚はジェニーの遺言によるもので、少しも望んではいないものだと」「! それは……!」「私もそうでしたから」「……え?」ニコラスの背中に冷たい物が走る。「私がニコラス様と結婚したのは、実家に居場所が無かったからです。お金も無いので家を出ることも出来ず、結婚しか方法がありませんでした。ですが持参金を用意出来なかった私は嫁ぎ先がありませんでした。そんな矢先にニコラス様から結婚の申し入れがあったので、受けただけですから」ニコラスと縁を切る為、ジェニファーは思ってもいない言葉を口にした。「なるほど、確かにお前の家はとても貧しい。持参金など到底用意出来るはずも無いな。だから金目あてでニコラスと結婚したのだろう?」伯爵の言葉にジェニファーは頷く。「はい、伯爵おっしゃる通りです。この結婚はただの契約。本当に結婚するなら……好きな人と結婚したいと思っています。「ジェニファー……もしかして、好きな相手でもいたのか?」「……」青ざめた顔で尋ねるニコラスだが、ジェニファーは返事をしない。何故なら自分が好きな相手はニコラスだからだ。けれど、その沈黙をニコラスは肯定と受け止めた。「……答えないと言う事は……事実なのか_すると、伯爵が声を荒げた。「2人が離婚をしようが、そんなことはどうでもいい! 今はジョナサンの話だ! あの子はジェニーが産んだ子で、私のたった1人の孫だ! だから連れ帰らせてもらうぞ!」「駄目だ! ジョナサンは俺の子供です! 伯爵になど渡せるはずないでしょう!?」そのとき――「ジェニファー様!」応接室の扉が突然開き、シドとポリーが現れた。ポリーの腕には泣きじゃくるジョナサンがいる。「「ジョナサンッ!?」」ニコラスとジェニファーが同時に声を上げる。「申し訳
last updateLast Updated : 2026-01-08
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