望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした のすべてのチャプター: チャプター 221 - チャプター 230

241 チャプター

8-3 夕食会 3

 一種の緊張感が漂う中で、夕食会が始まった。 ニコラスもジェニファーも緊張しながら食事をしているのに対し、イボンヌは饒舌でパトリックはそれに合わせていた。「やはり『イボニー』は高原に囲まれているだけあって、畜産業が盛んなのね。お肉がとても美味しいわ」「母上、それだけではありません。チーズも絶品ですよ。この地域限定のワインに良くあいます」「ええ。そうね……ところでジェニファー」「は、はい」突然名指しされ、ジェニファーは驚きながら返事をする。「先ほどからずっと見ていたけど……あなた、随分テーブルマナーがお粗末なのね。まるで子供のような食べ方だわ。もしかして食事のルールが分かっていないのかしら?」「あ……も、申し訳ございません。あまり、その……きちんと勉強してこなかったもので」真っ赤な顔で、ジェニファーは増々委縮する。「義母上。ここは身内だけの食事の席です。別にテーブルマナーごときに一々目くじらを立てることはないのではありませんか?」冷たい声で反論するニコラス。しかし、心の中では後悔していた。(しまった……難しい礼儀作法など必要ないメニューを用意するように伝えておけば良かった。そうすればジェニファーだって、あんなに身構えることなく食事が出来たのに……)委縮しながら食事をしているジェニファーが気の毒で仕方なかった。「何を言っているの? ニコラス。侯爵家当主の妻ともあろう者が、あんな食事の仕方で良いと思っているの? あれでは貴族同士の食事会に招かれた時、当主である貴方が馬鹿にされるのよ? それでいいと思っているの!? これだから、貧しくて学の無い者は嫌なのよ」「不出来で……も、申し訳ございません……」震えながら答えるジェニファー。「ジェニファー。謝る必要はどこにもない。さっきも言った通り、この場は身内だけの食事会なのだから気にせず食べてくれ」「ニコラスッ! 貴方は、まだそんなことを言っているの!?」「まぁまぁ、母上。テーブルマナー位、どうだって良いではありませんか」するとパトリックが助け舟を出してきた。「パトリック!? 貴方まで一体何を言うの?」「だってそうでしょう? 本来、食事と言うものは楽しむものです。堅苦しいテーブルマナーなんか必要無いでしょう?」そしてあろうことか、パトリックは骨付き肉を手で取るとそのままかぶりついた。
続きを読む

8-4 夕食会 4

 食事も終わりを告げる頃になっていた。「アッハッハッ! そうですか、それでは兄上。今度一緒にカードゲームで遊びませんか? 言っておきますが僕は強いですよ?」ワイン片手に陽気に笑うパトリック。彼の明るさが、この息詰まる雰囲気を和らげていた。イボンヌはパトリックがニコラスに親し気に話しているのが気に入らない。苛々しながら、睨みつけるもパトリックは動じない。「あ、ああ。そうだな……今度、一緒にやろうか?」返事をするニコラスはジェニファーの様子が気がかりでならなかった。委縮した様子で食事をしているジェニファーの皿は、まだかなり食事が残っている。(ジェニファー……先程の言葉を気にして食事が進まないのだろうな……)「そうだ、兄上。それなら今夜一緒にカードゲームでもやりませんか? 何ならジェニファーも一緒に」「え? わ、私ですか?」突然話を振られて、ジェニファーは目を見開く。けれど、黙っていられないのはイボンヌの方だった。「ちょっと! パトリック! 貴方、一体何を言っているの!? もしかして酔っているの? 大体ニコラスとカードゲームなんて……! ニコラスはねぇ、私たちとは違って忙しい人なのよ! そうよね? ニコラス」ニコラスに同意を求める。「え? あ……そうですね」警戒しながらニコラスは返事をする。「そうか……それじゃ仕方ないか」笑顔で納得する素振りを見せながら、パトリックは心の中で舌打ちしていた。(何とか、3人だけになって今夜の話をしたかったのに……駄目だったか)未だにパトリックは打開策が見いだせず、焦っていた。すると、突然イボンヌが嬉しそうに手を叩く。「あ、そうそう。すっかり忘れていたわ。実はワインのお土産を持ってきていたのよ。是非、皆に飲んでもらいたいわ」「ワインだって……?」その言葉にいち早く反応したのはニコラスだった。何しろ、ニコラスが毒殺されかかったのはワインだったからだ。毎晩、ニコラスは寝る前に1杯のワインを飲んでいた。あの時もいつものように自室に置いてあるワインを飲み……危うく命を落とすところだったのだ。ワインの入った棚は鍵が掛けられており、ニコラスは自分で管理していた。それが何者かの手によって、すり替えられていたのだ。毒で苦しみ、死にかけたあの時の記憶がニコラスの脳裏に蘇る。「ワインは……」ニコ
続きを読む

8-5 夕食会の後

――20時半 夕食会がお開きになり、全員がそれぞれの自室に戻ることになった。「兄上、今夜は楽しい時間をありがとうございました」足元をふらつかせながら、パトリックが陽気にニコラスに声をかける。「いや、そんなことは無いが……それより大丈夫か? パトリック。足元がふらついているぞ。飲みすぎたのではないか?」「ええ、そうよ。しっかりなさい、全くこんなに飲んで仕方ないわねぇ」イボンヌがパトリックを支える。「大丈夫ですって、でもそうですねぇ。兄上、部屋に戻るので肩を貸して貰えませんか?」「何だって……?」思いもよらない頼みごとにニコラスは眉を顰める。するとイボンヌが慌てた様子でパトリックに言う。「まぁ! 一体何を言い出すの? 肩なら私が貸すわ。さ、早く部屋に戻りましょう。それでは私たちはこれで失礼するわ」イボンヌは慌てた様子で、パトリックとダイニングルームを出ようとした時。「ジェニファー」不意にパトリックが呼び掛けた。「は、はい?」「またな、おやすみ」そしてウィンクする。「はい……おやすみなさい」そんな2人の様子を見たイボンヌがジロリとジェニファーを睨みつけ、「フン!」と言い放ってダイニングルームを出て行った。「あの、ニコラス様。それでは私も……」2人が出て行ったのを見て、ジェニファーも退席しようとした時。「ジェニファー」「はい?」「1人で部屋に戻るな。俺がついて行く」「え? で、でも……」躊躇うジェニファーの態度が、線を引かれたようでニコラスは良い気がしない。「少し話したいこともあるし、いいだろう?」ニコラスはジェニファーに近付くと立ち止まった。「はい……ではお願いします。私も話したいことがあったので」「そうか、なら行こう」笑みを浮かべると、ニコラスは左手を差す。「?」何の事か分からず首を傾げると、ニコラスはジェニファーの右手を繋いできた。「あ、あの!?」まさか手を繋がれるとは思わず、動揺するジェニファー。「では行こう」「は、はい……」ジェニファーは小さく頷くと、繋いでいたニコラスの手に力が込められた――****「申し訳ございません……わざわざ送って頂き、お手間を取らせてしまって」「いや、そんなことは気にしなくていい。それに、俺がジェニファーを部屋まで送るのは……体調のことが気がかりだったからだ
続きを読む

8-6 パトリックの策

――22時書斎にはニコラスとシドの姿があった。「ニコラス様、こんな時でも仕事ですか?」書類に目を通しているニコラスにシドは声をかけた。「気を紛らわすには仕事をしている時が一番だからな。何しろ今夜はイボンヌとパトリックが城にいるのだから。油断して寝るわけにはいかないだろう?」「確かにそうですね」頷くシドの腰には2本の長剣が差され、拳銃を入れたホルスターを装備している。「ジョナサンは……大丈夫だろうか」「ポリーとココに命じて、既にニコラス様達が食事をしている間にホテルに避難させているので多分大丈夫でしょう」「そうだな。大分ジョナサンも、あの2人に慣れてきているし……」「はい。俺もそう思います。ですが……やはりジェニファー様も、あの時行かせた方が良かったのではないでしょうか?」ポツリとシドが口にした。既にニコラスからジェニファーがこの城を出て行こうとしていた話を聞かされている。「俺も今、後悔している。あの時、引き留めずに行かせれば良かったのではないかと。だが……そんなことをすれば二度とジェニファーは俺の元に戻って来ないような気がして……」「ニコラス様……」シドにはそれ以上、かける言葉が見つからなかった――****――その頃パトリックは部屋の細工をしていた。クッションをベッドの上に並べ、上からキルトを被せた。「……よし、こんなものでいいだろう」ベッドは盛り上がりまるで人が眠っているように見える。「後は……」パトリックは扉に近付くと、ノブを回して開けた。すると扉の横には当然の様に見張りのフットマンが張り付いている。「パトリック様、どうされましたか?」「いや……少しワインを飲みすぎてしまったようで……頭が痛いんだ。何か薬を持ってきて貰えないだろうか? っイタタタタ……」額を押さえて眉間に皺を寄せる。「薬ですか……? しかし……」「クッ……た、頼むよ。頭が割れそうで眠れないんだ。もし薬が無いなら……ハーブティーでいいから。あれを飲むだけでも大分違うから。た、頼むよ」「わ、分かりました。では今すぐ薬が無いか見てきます。どうかお部屋でお休みになっていてください」「あぁ、ありがとう」フットマンが一礼し、急ぎ足で去って行くとパトリックは小さく呟いた。「……よし、ジェニファーの部屋へ行こう」パトリックは足音を立てないよう
続きを読む

8-7 罠

 ――コンコン「ジェニファー、俺だ。パトリックだ」『え? パトリック様ですか?』すぐにジェニファーの声が返ってきた。「頼む! 急ぎの用があるんだ!」『分かりました……』カチャリと扉が開かれ、ジェニファーが姿を見せた。「悪い! 中に入れてくれ!」「え? あ、あの!?」パトリックは戸惑うジェニファーを押しのけるように部屋に入ると扉を閉めて鍵をかけた。「い、一体何の御用でしょうか……?」用心しながらジェニファーが尋ねる。夜に突然男性が部屋に入ってきて、鍵をかけたのだから無理も無い話だ。「いきなり部屋に入ってきてすまない。ジェニファー、聞いてくれ。母が今夜兄上と君を殺害する計画を立てているんだよ」「え!? ほ、本当ですか!?」ジェニファーの顔が青ざめる。「こんな話、嘘つくはず無いだろう? それにジェニファーだって兄上が何度も暗殺されそうになった話は知っているんだろう?」「そ、それは聞いていますけど……でも何故私まで」「そんな説明は後でする! いいか? 母上は私兵を連れてここへ来ているんだ。23時にこの城を襲撃すると言っていた。だから今の内に逃げるんだよ!」「だ、だけど私だけ逃げられません! ニコラス様や城の人達が……」ジェニファーの話を遮るようにパトリックは訴える。「いいから聞いてくれ! 母のターゲットは兄上とジェニファーだけなんだ。兄上にはシドが付いているからきっと大丈夫だろう。だからここから逃げるんだ! 誰にも見られないように窓から……」その時。『大変だ!! 火事だっ! 城の倉庫が燃えているぞ!』『早く消すんだ!!』大騒ぎする声が廊下に響き渡った。「え!? 火事!?」「何だって!?」2人が同時に驚いた時。――ガチャッ!突然扉が開かれ、イボンヌが室内に入って来た。彼女の背後には私兵と思しき2人の男が付いている。「やはり思っていた通りね。パトリック」口元に笑みを浮かべるイボンヌ。「は、母上……? な、何故ここに……?」パトリックはジェニファーを隠すように前に立ちはだかった。「何故、ここにですって? それを言うのはこちらの台詞よ。パトリックは何故ここにいるのかしら? ここはジェニファーの部屋よね?」「くっ……」パトリックは悔し気に歯を食いしばる。するとイボンヌは笑みを浮かべた。「パトリック、私を騙
続きを読む

8-8 監禁 1

 その頃――「さぁ! この部屋に入りなさい!」両手を縛られ、自由を奪われたジェニファーとパトリックはイボンヌに空き部屋につれて来られた。「分かりましたよ、入ればいいのでしょう」パトリックは苦笑しながら先に部屋に入る。「……」ジェニファーはこれから何が行われるのかと思うと恐怖で震えが止まらなかった。「何をしているの! 貴女もさっさと入りなさい!」いつまでも部屋の中に入らないことにしびれを切らしたイボンヌがジェニファーを突き飛ばした。「キャアッ!」「危ない!」ドサッ!バランスを崩したところをパトリックが咄嗟に自分の身体で庇い、ジェニファーが倒れこんでしまった。「パトリック!?」パトリックがジェニファーの下敷きになったことで、イボンヌが驚きの声を上げる。「いたたた……大丈夫だったかい? ジェニファー」床に倒れながらパトリックが尋ねた。「は、はい。私は大丈夫ですが……申し訳ございません。お怪我はありませんでしたか?」ジェニファーは何とか起き上がると、すぐさまパトリックに謝罪する。「ああ、これぐらい平気さ。だけど……」パトリックは床に座ったままイボンヌを見上げた。「母上、ジェニファーに乱暴な真似をするのはやめて貰えませんか?」「あら、何よ。さっさと中に入らないのが悪いのでしょう? それにしてもパトリック……」「何ですか?」「一体どういうつもりなの? 今、ジェニファーを庇ったでしょう?」「それは当然でしょう? か弱い女性を助けるのは男の役目ですよ」ジェニファーは黙って、親子の会話を聞いている。「別に今更でしょう? だって、ジェニファーにはこれから死んでもらうのだから」「!」『死んでもらう』と言う言葉に、ジェニファーの肩がビクリと跳ねる。(イボンヌ様は…‥‥ほ、本当に私を……?)イボンヌはドレスのポケットから小さな小瓶を取り出した。中には液体が入っている。「パトリック、これが何か分かる?」「あ! そ、それは‥‥…! 兄上を毒殺しようとした時の……!」パトリックの顔が青ざめる。「ええ、そうよ。あの時は、パトリック。貴方の邪魔でニコラスを殺すことが出来なかったわ。まさか解毒剤を飲ませていたなんてね」「解毒剤!?」その話にジェニファーは驚いてパトリックを見つめた。「……気付いていたのですか?」パトリックが
続きを読む

8-9 監禁 2

「……驚きましたね。まさかこの城の警備員まで下調べしていたのですか。でも母上こそ、10名しか私兵を連れて来ていませんよね? 人数的には対等じゃないですか?」パトリックはイボンヌにバレないように、袖下に隠し持っていた小型ナイフをそっと握りしめた。「フフフ。パトリック、まだそんなことを言っているのね。 さっきも同じようなことを言ったと思うけど……私はね、もう貴方を信用していないの。だから嘘の情報を教えたのよ。けれどそれはそっちが悪いのよ? こっちは必死になって息子を当主にしてあげようと頑張っているのに、妨害ばかりしてくるのだから」「兄上の命を狙うような計画、妨害するのは当然じゃないですか。僕は当主になるつもりなど最初からありませんので」イボンヌに見つからないように、小型ナイフをロープに当てて小刻みに動かすパトリック。「だからよ! もう今後一切貴方には私の計画を話さないことに決めたの。これ以上妨害されたくは無いからね。私はね……パトリック! 何としても当主になってもらうわ! 貴方の意思など、この際どうでもいいのよ!」ヒステリックに叫ぶイボンヌ。その目は狂気に満ちていた。「ジェニファー。お前は邪魔よ。死んでもらうわ」イボンヌは毒薬の入った瓶の蓋を開けた。(駄目だ……母上は、おかしくなっている……!)後継者争いに敗れたイボンヌとパトリックは、テイラー侯爵家の辺境の地に追いやられた。何もないのどかな田舎村だったが、パトリックは満足していた。権力に眼が眩んでいたイボンヌに、当主になる為の無理難題な勉強を押し付けられていたが元来、田舎でのんびり自由に暮らしたいと思っていたからだ。けれど、その辺境暮らしが増々イボンヌを追い詰めていった。火を放ち、無関係なジェニファーを殺そうとしている。「それでは口を開けなさい」イボンヌは一歩ジェニファーに近付く。「い、いやです……」床に座り込んでいるジェニファーが小刻みに震えながら後退る。「既にこの城には私の私兵が20人以上入り込んでいるの。ニコラスは今頃、もう死んでいるでしょうね。何しろ倉庫の火消しで、警備がすっかり手薄になってしまっているのだから。あの世でニコラスが待っているわよ」「そ、そんな……」目に涙が浮かぶジェニファー。パトリックはもうこれ以上我慢出来ず、叫んだ。「待って下さい! 母上!」「あ
続きを読む

8-10 救助 1

「フォルクマン伯爵……!」ジェニファーは目を見開いて、部屋の中に飛び込んできた人物の名を口にした――****――話は数時間前に遡る。城を出た伯爵は1人、ホテルへ向かって歩いていた。「この辺りはあまり変わらないな……」懐かしい町並みを見渡しながら歩いていると、前方からマント姿の2人の男が会話をしながら近づいて来た。(マント姿……? 珍しいな)そんなことを思いながらすれ違った時。「あの城がテイラー侯爵の実家で間違いなんだよな?」「ああ。多分な。でも確認が必要だ。だから今から下見に行くんだろう?」男2人の会話が耳に飛び込んできた。そのまま伯爵は足を止めずに歩き、ある程度距離を空けたところで振り返った。見ると男たちは、城に向かって歩いている。(一体今の2人は何だ……? 確認とか下見とか言っていたが……?)けれど、ここ『ボニート』ではニコラスが所有する城は有名だった。中に入ることは出来ないが、遠目から城を眺めに来る観光客がいるという話も耳にしたことがある。そこで自分の中で、彼らは城を眺めに行っただけなのだろうと決め込み、そのままホテルへ戻ったのだった。****――18時 伯爵はホテルのレストランで早目の夕食をとっていた。レストランは満席で男性客が多く、騒がしかった。ボックス席でワインを飲み、食事をしながら周囲を見渡す。(それにしても珍しいこともあるものだ。今は繁忙期でも無いのに……しかも男性客ばかりだ)そんなことを思いながら2本目のワインに手を付けようとした時。「それで? 火をつけるのは城なのか?」突然背後に座る客の話が耳に飛び込んできた。「いいや、火をつけるのは城じゃない。裏手にある倉庫だって聞いているぞ」(城……? 火をつける?)『ボニート』には、城と言えばニコラスが所有している城しか存在していない。(一体、彼らは何の話をしているんだ)すると、別の人物の低い声が聞こえてきた。「おい! こんな場所で計画の話をするな! 誰かに聞かれたらどうする!?」「え?」何者かがこちらを振り返る気配を伯爵は感じた。「……ヒック」おもむろに伯爵はしゃっくりをすると、空いているグラスにワインを注ぎ込み一気飲みした。すると、再び背後で会話が始まった。「大丈夫だろう? 単なる酔っ払いだ。俺たちの話なんか聞こえていないさ」
続きを読む

8-11 救助 2

「フォルクマン伯爵……!」ジェニファーは目を疑った。まさか伯爵が現れるとは思わなかったからだ。イボンヌは驚きで目を見開く。「大丈夫だったか? 今、縄を解いてやろう!」伯爵はジェニファーに駆け寄ると縄を解き始めた。「ありがとうございます……」消え入りそうな声で礼を述べるジェニファーに伯爵は黙って頷くと、隣にいるパトリックに視線を移した。「君まで縛られていたのだな?」「はぁ……お恥ずかしい限りです」パトリックは苦笑いする。一方、イボンヌは警察が突然現れたことにすっかり動揺していた。「な、何故警察が……ここに現れたの……?」取り押さえようと警察官が近付くと、イボンヌが叫んだ。「近づかないでちょうだい! これが目に入らないの!?」突如イボンヌは懐から折り畳みナイフを取り出した。「おとなしくするんだ!」1人の警察官が背後から近づき、ナイフを叩き落として捕らえた。「何するの!? この無礼者! 離しなさい! 私は……!」「この城にいる全員を殺害しようと計画した首謀者だろう?」パトリックの縄を解きながら、伯爵が代わりに答える。「なっ……! まさか、伯爵が警察をここに呼んだの!?」イボンヌは伯爵を睨みつけた。「当然だろう? ニコラスは私の孫の父親であり、ジェニファーは私のたった1人の姪だからな」伯爵はジェニファーをじっと見つめる。その眼差しは優しいものだった。「伯爵……」今迄自分を憎んでいた伯爵からそんな言葉をかけて貰えるとは思わず、ジェニファーの目に涙が滲みそうになる。「……よし、縄は解いたぞ」伯爵がパトリックに声をかけた。「どうもありがとうございます」パトリックは礼を述べると立ち上がり、ジェニファーに手を差し伸べた。「立てるかい? ジェニファー」「はい……」パトリックの手を借りてジェニファーが立ち上がると、丁度イボンヌが警察に手錠をかけられたところだった。「ちょっと! 何するの!? この私に手錠をかけるなんて正気なの!?」手錠をかけられても尚、抵抗するイボンヌ。そこへパトリックが声をかけた。「母上、もういい加減観念したらどうですか?」「パトリック! あ、貴方って人は! 一体誰の為にここまでしたと思っているのよ!」2人の警察官に抑えられながら、叫ぶイボンヌ。するとパトリックが冷たい声で言う。「誰の為? そ
続きを読む

8-12 響き渡る音

 その頃、ニコラスは警察官と共に応接室で話をしていた。「……なるほど、それでは首謀者は侯爵様の義理の母親ということですか」警察官がニコラスから聞き取り調査をしている。「はい、そうです。父が病に倒れてから、後継者を巡る争いが起こりました。その時から何度も命を狙われて来ましたが、証拠が無く未遂で終わっていたので警察には報告していませんでした。今迄は自分の命しか狙ってこなかったのですが……まさか火を点けるとは思いませんでした」「ですが、近隣に燃え移らなくて良かったですね」警察官が頷いたその時、ニコラスはジェニファーが遠慮がちに部屋を覗き込んでいる姿に気付いた。背後には伯爵の姿もある。「ジェニファー!?」ニコラスは驚いて立ち上がった。「え?」警察官は振り向くと、ジェニファーが慌てて謝罪の言葉を口にした。「あ……お話し中、申し訳ございません」「いえ、いいですよ。どうぞお入り下さい」「はい、失礼します」「失礼します」ジェニファーと伯爵が応接室に入ってくると、ニコラスが駆け寄ってきた。「ジェニファーッ!!」「え?」次の瞬間、ジェニファーはニコラスに強く抱きしめられていた。「え!? あ、あの!?」今迄一度もニコラスに抱きしめられたことが無かったジェニファーの顔が真っ赤に染まる。けれどニコラスは気付くことも無く、まるで自分の胸に埋め込まんばかりに抱擁を強めた。「良かった……警察の方から、ジェニファーは無事だったと聞かされていたけれど、目にするまでは心配でたまらなかった……! 本当に……良かった……」「ニコラス……」その言葉はジェニファーにとって信じられないものだった。まるでニコラスにとって、自分が大切な存在に思われているような気がしてならない。「ジェニファーとパトリックはイボンヌによって縛られていたんだ。すぐに見つかって良かった」伯爵の言葉に、ニコラスはジェニファーから身体を離した。「伯爵がジェニファーを見つけてくれたのですか? ありがとうございます」「いや、別に気にすることでは……!」その時、伯爵は窓の外から見える木の上に銃をこちらに向けて構えている男に気付いた。(何だ? あれは……拳銃!?)ニコラスと警察官は窓に背を向けているので見えていない。男の銃口はジェニファーに向けられていた。「ジェニファーッ!」伯爵がジ
続きを読む
前へ
1
...
202122232425
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status