一種の緊張感が漂う中で、夕食会が始まった。 ニコラスもジェニファーも緊張しながら食事をしているのに対し、イボンヌは饒舌でパトリックはそれに合わせていた。「やはり『イボニー』は高原に囲まれているだけあって、畜産業が盛んなのね。お肉がとても美味しいわ」「母上、それだけではありません。チーズも絶品ですよ。この地域限定のワインに良くあいます」「ええ。そうね……ところでジェニファー」「は、はい」突然名指しされ、ジェニファーは驚きながら返事をする。「先ほどからずっと見ていたけど……あなた、随分テーブルマナーがお粗末なのね。まるで子供のような食べ方だわ。もしかして食事のルールが分かっていないのかしら?」「あ……も、申し訳ございません。あまり、その……きちんと勉強してこなかったもので」真っ赤な顔で、ジェニファーは増々委縮する。「義母上。ここは身内だけの食事の席です。別にテーブルマナーごときに一々目くじらを立てることはないのではありませんか?」冷たい声で反論するニコラス。しかし、心の中では後悔していた。(しまった……難しい礼儀作法など必要ないメニューを用意するように伝えておけば良かった。そうすればジェニファーだって、あんなに身構えることなく食事が出来たのに……)委縮しながら食事をしているジェニファーが気の毒で仕方なかった。「何を言っているの? ニコラス。侯爵家当主の妻ともあろう者が、あんな食事の仕方で良いと思っているの? あれでは貴族同士の食事会に招かれた時、当主である貴方が馬鹿にされるのよ? それでいいと思っているの!? これだから、貧しくて学の無い者は嫌なのよ」「不出来で……も、申し訳ございません……」震えながら答えるジェニファー。「ジェニファー。謝る必要はどこにもない。さっきも言った通り、この場は身内だけの食事会なのだから気にせず食べてくれ」「ニコラスッ! 貴方は、まだそんなことを言っているの!?」「まぁまぁ、母上。テーブルマナー位、どうだって良いではありませんか」するとパトリックが助け舟を出してきた。「パトリック!? 貴方まで一体何を言うの?」「だってそうでしょう? 本来、食事と言うものは楽しむものです。堅苦しいテーブルマナーなんか必要無いでしょう?」そしてあろうことか、パトリックは骨付き肉を手で取るとそのままかぶりついた。
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