篠原の母の顔が青ざめた。後ろから歩いてきた典明は、陰のある鋭い目で全員をぐるりと見回すと、低い声で一喝した。「警察署の前で騒ぎを起こすな。恥をさらす気か。用があるなら家に帰ってからにしろ」「母さん、先に中へ」と、涼介が篠原の母の腕をそっと支え、静かに促す。篠原の母はことはに怒りの視線を投げつけると、そそくさと中に入り、大事な娘のもとへと駆け寄っていった。ことはの隣に立った涼介が声をかける。「ことは、一緒に来てくれ」その隙をついて、翔真が振り返り、ことはの手首をそっと取って懇願するように言った。「ことは」だが、ことははどちらにも目を向けず、無言で翔真の手を振り払い、自分の足で警察署の中へと歩いていった。その背中を見送りながら、涼介はふっと片方の口角を持ち上げ、翔真を横目に睨む。まるで汚れ物でも見るような、冷ややかな目つきだった。翔真は悔しさに奥歯を噛み締めながら、無言で後に続く。中にいる寧々は両親を見るなり、すぐに篠原の母に抱きつき、惨めに泣きじゃくった。「ママ、あのクソ……」翔真と兄がいるのに気づき、急に言い直す。「ことはが精神保健センターに電話して、私を連れていけって言ったのよ」その場にいた誰もが顔色を変える。中でも涼介は比較的落ち着いた口調で尋ねた。「ことは、本当に電話したのか?」「うん、したのよ」ことはが迷いなく答えると、篠原家の空気がまた一段と重くなった。ここが警察でなければ、篠原の母はもう一度手を上げていたかもしれない。翔真は小声で非難した。「ことは、これはいくら何でも家族の問題だ。そんな電話を本当にかけるなんて」その言葉に、寧々は歓喜に目を見開いた。翔真が自分の味方だと思い込み、さらに声を荒げる。「翔真、彼女がわざとあたしを煽ってきて、ちょっと我慢できなくて、ものを壊しちゃっただけなの。そしたら目の前で精神保健センターに電話して、警察まで呼んだのよ!本当なのよ、レストランの監視カメラ見ればわかる!」篠原の母は怒りを爆発させ、翔真に向かって怒鳴った。「あなた、それでもまだ、あの子をかばうつもりなのか!見なさいよ、あなたの本当の娘がどれだけ酷い目に遭わされてるか!あんな意地の悪い子、篠原家の娘なんて呼べるわけがない!」翔真は、ことはが篠原家との絆を最も大切にしていたことを知っていた。彼女が本
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