頭の中に寧々と翔真のことが次々と浮かび、ことはは急にむかつきを感じた。「すみません、トイレに行ってきます」彼女は速く走り去り、歪んだ表情を隼人にはっきりと見られていた。彼は黒い瞳を沈ませて立ち上がり、飲み物カウンターでレモンソーダを一本取り、そのままゆっくりとトイレの方へ向かった。トイレでことはは何度もえづいたが、結局何も吐けなかった。気持ち悪い光景を思い出さないよう無理に頭を切り替えると、少しずつ吐き気が引いていった。バカみたい。どうしてあんなことを考えてしまうんだ。自分で自分を気持ち悪くしてたな。手を洗い、ことははトイレから出た。壁にもたれかかる隼人の姿が目に入り、彼女は驚く。「神谷社長もお手洗いに?」「君を探しに来た」「???」ことはは一瞬考え込む。てっきり佳乃との会話について聞きたいかと思った。「ご安心ください。杉浦さんは神谷社長のことを聞きに来たわけではありません」隼人は感情の読めない表情で、手に持っていたレモンソーダを彼女に差し出した。「吐き気に効く」「ありがとうございます」ことはは、やっぱり走ってトイレに向かった姿を見られていたと悟った。そのとき、彼は身をかがめ、底の見えない黒い瞳にことはの驚いた顔が映った。「篠原ことは、君と東雲翔真の離婚は本当か?」まさかこんなタイミングでその質問が来るとは思っていなかった。彼女は眉を寄せて答えた。「ええ、本当です」「本当なら、きれいに断ち切ることだ。二人を一生縛るようなものは、何一つ残すな」ことはは困惑した表情を浮かべた。一生縛るようなもの?すでに隼人はその場を去っていた。彼女はゆっくりレストランに戻ったが、隼人も芳川ももういなかった。佳乃は早く帰ってことはの提案を試したくてたまらない様子で、手を振って別れを告げた。ことはは隼人の最後の一言が頭から離れず、もう食欲も失せてしまい、一人でエレベーターを待つことにした。そして、エレベーターが開いたその瞬間、彼女は思いがけない人物を目にした。速水駿(はやみ しゅん)、涼介の友人だ!ことはが無意識に身を隠そうとした時、駿はすでに彼女に気づいていた。「ことはちゃん?!」駿が彼女を呼び止めた。彼はすぐさまエレベーターから飛び出し、彼女の前に立って顔を何度も見比べると、目を輝かせて叫んだ。
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