ことははまだフリーズ状態だった。こんなふうに思ってしまうのも無理はない。この小道もこの門も、ましてや隼人が彼女を錦ノ台レジデンスに住まわせた。いろいろと考え合わせると、隼人が最初から自分のために設計していたんじゃないかと、何度も錯覚しかけた。あの時も、彼は『お前があの人と長続きするはずがない』と断言した。三年後、本当にその言葉通りの結末になった。バカげている。けれど隼人なら、それが妙に現実味を帯びて見える。なにしろ彼には権力も金もある。帝都で自分勝手に振る舞う資格があるのは、彼ぐらいだ。ことはにはわからなかった。彼ほどの男が、たとえ一目惚れだったとしても、なぜ自分との賭けに、三年も付き合ったのか。金持ちの考えることって、なんでこうも常識外れなのか。暇だからってことか?彼女がそんなことを考えているうちに、隼人は彼女の右手首を取り、親指をつかんで指紋の登録を始めていた。ことははびくりとし、思わず手を引こうとしたが、しっかりとつかまれている。隼人はそのまま指紋登録を続け、淡々と告げた。「パスワードは、221108」この数字の並び……見覚えがある。隼人は彼女の表情を見て、ふっと唇を歪める。「三年前、俺たちが賭けをした日だ」「……神谷社長、記憶力いいんですね。しかし、五本の指すべてを登録する必要ありますか?」ことはは呆れ気味に聞いた。「親指を怪我したらどうする?」「……神谷社長、その言葉、気遣いには聞こえませんけど」「篠原さん、俺は心から気遣ってるつもりだよ」「……」翔真以外の男と、ことはがこんなに密着することはなかった。この距離感に慣れず、腕全体がこわばっていた。ほんの短い時間なのに、彼女にとってはかなり長く感じられた。背中にじんわりと汗がにじみ出ているのを感じる。「終わった」隼人は手を離し、「中まで送っていこうか?」と尋ねた。「結構です。ここまで送ってくださってありがとうございます」「これで失礼します」そう言いながら、ことははものすごい早さで門を通り抜け、ドアを閉めた。振り返りもせず、隼人がまだそこに立っているかどうかなど気にもせずに、さっさと歩き去っていった。部屋に入ってようやく、ことはは全身の力が抜けたようにソファへ身を投げ出した。隼人の車に乗ってからここまで、彼の存在があまり
Magbasa pa