All Chapters of 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版): Chapter 101 - Chapter 110

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第1章 99 ザカリー

 地下道には大きな鉄格子がはめられ、まるで檻のようになっていた。その中には4人の男性たちが足かせをはめられて拘束されている。彼等は皆目が血走り、獣のような咆哮を上げている。「こ、これは……」彼等を見て息を飲んだ。間違いない。これはマンドレイクの毒が回って狂乱状態に陥っているのだ。「どうだ? 温室育ちのお姫様には衝撃的な光景だろう? だがな……これがマンドレイクの毒に侵された者達の末期症状だ。俺たちの仲間は皆このような状態になって最後は死んでいった」松明の明かりで彼等を照らしながらセトが語る。「あの中の1人が俺の父親だ。最近まではまともだったのに、今じゃあんな状態だ」ザカリーはすべてを諦めたような……冷めた口調で檻の中で呻いている3人の男性を見つめている。「さぁ、あんたなら彼等を助けることが出来るんだろう? 一体どうするんだ?」別の男性が尋ねる。「これを使います」私は荷車の中から持ち出してきた瓶をメッセンジャーバッグから取り出した。そこには透明の液体が入っている。「これは【聖水】です。これを飲めば解毒出来ます」毒が全身に回っていなければ【聖水】を飲まなくても、身体にかければそこから体内に浸透してくれる。けれど彼等のように全身に毒が回ってしまえば口から摂取しなければ解毒するのは不可能だ。「おい、本当にそれが【聖水】なのか? 嘘じゃないだろうな?」ザカリーが私の左腕を強く掴んできた。「……っは、はい……そうです。嘘ではありません……」痛みに堪えながら返事をした。「本当は【聖水】ではなく、毒なんじゃないだろうな? 俺たちを騙して毒を飲ませて……殺して証拠隠滅するつもりなんじゃないだろうな?」尚も腕を握る力を強めてくる。「そ、そんなこと……しません……第一、証拠隠滅なんて……考えたことすらありません」するとそこへセトがザカリーを止めた。「おい、やめろ。とりあえず腕を離してやれ」「……チッ」ザカリーは私の腕を乱暴に離すと睨みつけてきた。「この【聖水】を毒だと疑うのなら、私が試せば良いですよね?」「何?」ザカリーが眉をしかめた。「私がこの【聖水】を飲んで、何ともなければ信用して頂けますか?」「……ああ、そうだな」「分かりました」持参してきた木製コップをバッグから取り出すと、瓶の蓋を開けて【聖水】を注ぎ入れた。「
last updateLast Updated : 2025-09-28
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第1章 100 解毒への挑戦

「足かせをはめているのはここから脱走出来ないようにする為だ。だが、昨日1人脱走してしまって、今も行方不明なのさ。どうやら足かせが腐っていたようだ。何しろ木製だからな」松明で、檻の中のマンドレイク中毒者を照らしながらセトが説明した。「そうですか……」それではあの時、現れたのが恐らマンドレイク中毒で監禁されていた人物だったのかもしれない。その人は今一体どうしているのだろう?「全員今は理性を無くした獣のようになっている。薬を飲ませるなら全員で押さえつけるしかなさそうだな。それじゃ早速始めるか。……誰から薬を飲ませるんだ?」セトがその場にいる全員に尋ねた。すると……。「俺の父親から飲ませてくれ」ザカリーが手を上げた。「え……?」ひょっとして私を信用してくれたのだろうか?思わずザカリーを見上げると、彼は不敵な笑みを浮かべた。「何をそんな目で俺を見る? まさか、あんたを信用しているから真っ先に父親にその【聖水】を飲まそうと考えていると思っているのか?」「違うのですか?」それでは一体何の為に……?「それは、わけもわからない薬を飲ませて他の連中を犠牲にするわけにはいかないからだ。だからまずは俺の父親で試させて貰うんだよ。親父はマンドレイクの毒の治療法をずっと探していたからな。仮に犠牲になるなら親父だけで十分だ」「そ、そんな……」まさか、そこまで自分が疑われているとは思いもしなかった。「信じて下さい。この【聖水】は毒などではありません。全ての毒を解毒してくれる薬なのです。現に私には何の異変もありません」「それはあんたがその薬に耐久性がついているからじゃないのか?」駄目だ、これでは埒が明かない。恐らくザカリーの耳には私が何を言っても届くことは無いのだろう。「まぁいい。飲ませてみれば分かることだ。皆もそう思うだろう?」見かねたのか、一番年長者のセトが声を掛けた。「ああ。そうだな」「俺もそう思う」「とりあえず飲ませてみるしか無いだろう」「よし、分かった。それじゃザカリー。お前の言う通り、村長から飲ませるぞ。いいな?」セトがザカリーに尋ねた。「いいだろう」ザカリーが頷くと、次にセトは私を見た。「よし、それじゃまずは彼から飲ませよう」セトが指さした先には虚ろな目で床に座り、奇妙な声で吠えている男性だった。「彼がこの村の村長、ハ
last updateLast Updated : 2025-09-29
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第1章 101 毒に侵された末期患者

「よし、それじゃまずは全員で檻の中に入ってハリーを押さえつけるんだ。いいな?」松明を持ったセトがその場にいる全員に声をかける。「ああ」「分かった」「確かに1人じゃ無理だからな」「俺が一番最初に入って親父を捕らえる。そうしたら全員で押さえつけてくれ」ザカリーが名乗りを上げた。「分かった。そうだな。息子のお前がやったほうがいいかもしれん」セトが頷く。「よし……それじゃ入るか」そしてザカリーは私を振り向くと声をかけてきた。「マンドレイクの末期患者とはどのようなものか、その目でしかと見るがいい」「はい、分かりました」頷くと、ザカリーが仲間に松明を手渡した。「持っていてくれ。それじゃ行くぞ」ザカリーの言葉に全員が頷く「気を付けろよ?ハリーは完全に理性を失っているからな」セトの言葉を聞きながらザカリーは扉に手をかけた。キィイイ〜…鉄の扉が開かれ、ザカリーが檻の中へと入った。足かせをはめられ、両足の自由を奪われて俯いている男性の元へザカリーが近づく。「親父……」すると……。「グワァァァアアッ!!」突然男性は顔を上げて吼えた。大きく見開かれた目は血走り、口からは獣のように涎を垂らした男性は腕を振り回してザカリーに襲いかかってきた。「親父っ! すまないっ!」ザカリーは叫ぶと、男性の背後に周りこんで羽交い締めにした。「皆! 来てくれ!」そのままの姿勢でが仲間たちに叫ぶザカリー。「分かった!」「行くぞ!」男性達は次々に檻の中へ駆け込み、一斉に男性を床に取り押さえた。「ガウッ!!ガアアアアッ!!」物凄い力で暴れる男性を抑え込みながらザカリーが私に叫んだ。「おいっ!早く薬を飲ませろ!」「はい!」大きな声で返事をすると、檻の中に入って男性に近づいた。「それでは口を開けさせて貰えますか?」「分かった!」ザカリーが男性の上顎と下顎を掴み、強引に口を開けさせた。「は、早く薬を……入れろ!」男性の抵抗する力が相当強いのだろう。「はい!」ザカリーの言葉に瓶の蓋を開けると、男性の口に【聖水】を流し込んだ。「があああ!」「お願いです! 【聖水】を飲んでください!」するとザカリーが今度は強引に口を閉じさせると、男性の喉が鳴って【聖水】を飲み込んだ。「の……飲んだか!?」ザカリーが尋ねてきた。「はい!」「ガウ
last updateLast Updated : 2025-09-30
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第1章 102 拘束

「よし。では今から親父が目覚めるまで拘束するぞ」ザカリーが私に近付いた。「では、どうぞ」両手を前に差し出すと、ザカリーが怪訝そうに首を傾げてきた。「これは一体何の真似だ?」「はい。拘束してもらう為です。私が逃げないように縛るのですよね?」「もしかして逃げるつもりなのか?」ザカリーの眉が険しくなる。「まさか! 逃げるはずありません」「だったら拘束するまではしなくても良いだろう? 空いている檻にいれておけばいいじゃないか」セトの言葉に他の仲間たちが頷く。「うん、そうだな。それでいいだろう?」「仮にも相手は王女だしな」「女に縄をかけるのは趣味じゃない」「……」ザカリーは彼等の言葉を唇を噛み締め、忌々しげに見つめている。やはり、ザカリーとしては私を檻の中に入れるだけでは気が済まないのだろう。「私は別に構いませんよ?」「何?」ザカリーが私の方を向いた。「貴方のお父様がマンドレイクの中毒になってしまったのは私達のせいです。なのでザカリー。貴方の思うようにして下さい」私はこの時、初めてザカリーの名を呼んだ。「……よし、ならいいだろう。お望み通り、拘束させてもらう」ザカリーは腰に縄をくくりつけていた。その縄を外すと私の差し出した手首に縄を掛け始めた。「おい、ザカリー。いくら何でも相手は姫なんだぞ?」セトが眉をしかめてザカリーに声をか掛けた。「いいんだよ、何しろこの女から言い出したんだからな」言いながら私の手首に縄を掛け続けている。「……っ」手首に巻かれる縄が意外にきつく、思わず眉をしかめてしまった。「きついか? だが緩く縛れば解けてしまうからな」ザカリーが不敵な笑みを浮かべた。「「「「……」」」」一方、ザカリーの仲間たちは眉をしかめながら私が縄を掛けられていく様子を黙って見つめていた。ついにザカリーによって私の手首は完全に縛られた。「どうだ? 縄で縛られた気分は? 屈辱的じゃないのか?」ザカリーは私を見下ろすとニヤリと笑った。「いいえ、そんなことはありません」「フン。強気な態度取りやがって」ザカリーは私の態度が気に入らなかったのか、腕組みすると睨みつけてきた。「すみません、そのようなつもりは無かったのですが……」何しろ回帰前の私はボロボロの麻の服を着せられた。そして裸足で観衆の前を鉄の足かせをはめら
last updateLast Updated : 2025-10-01
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第1章 103 檻の中からの目覚め

「がぅああああ!」「あうぅうううううう……」「ああぁぁっぁああ!」私の向かい側の檻に入れられ、足首を拘束された3人のマンドレイク中毒患者たちの身の毛がよだつような咆哮が地下道に響きわたっている。その声も恐怖だったが、最も辛いのは寒さだった。マンドレイクの吐き出す毒によって、『シセル』の村は毒に覆われてしまった。そのせいで太陽の光は届かなくなってしまい、今まで訪れた場所に比べて格段に寒かった。「寒いわ……」白い息を吐きながら、身を縮こませる。ただでさえ寒い村なのに、しかもここは地下洞。冷えるのは当然だった。腕を拘束されていなければ身体を手でさすってみたり、吐く息で冷える指先を温めることも出来るけれども今の私にはそれすら出来ないのだ。「ザカリーの父親は……助かったのかしら……?」彼は【聖水】を飲ませて意識を失った後に、ザカリーたちの手によって地上に運び出されてしまった。だから私には彼の目が覚めたのかどうかは分からない。「でも……きっと目が覚めたなら……知らせてくれるはずよね……」寒さと、錬金術を使った疲れが私の体力を奪っていく。だんだん頭がボンヤリしてきて、強烈な眠気が襲ってきた。とてもでは無いけれど、これ以上起きているのも困難だった。「その内……誰かが呼びに来てくれる……わよね……?」そして私はどうしようもない眠気には抗えず……目を閉じた。スヴェンとユダの叫び声のようなものを聞きながら――****『こうして家族4人揃って旅行に行くなんて久しぶりじゃないか?』夫が車を運転しながら笑顔で話している。『全く、高校生にもなって家族と旅行に来ることになるなんて思いもしなかったよ』後部座席で倫がスマホのゲームをしながら口をとがらせている。『何言ってるのよ。本当は一番倫が楽しみにしていたんじゃないの? 知ってるんだから。あんたがネットで観光スポット探していたの。スマホに検索履歴残っていたわよ?』葵が笑いながら倫をからかっている。『な、何だよ! か、勝手に人のスマホ見るなよ!』『ね~。お母さんは何処に行きたいの?』『そんなこと言ってごまかすなよ!』『うん。そうだな。母さんは何処に行きたいんだ?』夫が優しい声で尋ねてきた。そうね……私の行きたい場所は……。**** 暖かい……。ここは一体どこなのだろう……?「お
last updateLast Updated : 2025-10-02
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第1章 104 口論する2人

「姫さん! 無事で良かった……!!」スヴェンは遠慮なしに私を自分の胸に埋め込まんばかりにぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。「ス、スヴェン……く、苦し……は、離して……」「何してるんですか!? スヴェンさん!」リーシャが叫んでいる。すると、スヴェンの次に駆け寄って来たユダの声が聞こえてきた。「おい! 貴様! クラウディア様に何をする! その手を離すんだ!」ユダが強引に腕をはがしたのだろう。スヴェンの私を拘束する腕が緩んだ。い、今の内に……。何とかスヴェンの腕から逃れると、すかさずリーシャが尋ねてきた。「クラウディア様、大丈夫でしたか?」「え、ええ……。私は大丈夫だけど……」返事をしながら、スヴェンとユダの様子を伺った。「貴様……よくも断りもなく勝手にクラウディア様を抱きしめたりしたな……?」ただでさえ目つきの悪いユダがさらに眉を吊り上げてスヴェンを睨みつけている。「うるせぇ! 俺は姫さんの騎士なんだよ! 大体何でお前の許可がいるんだ!」「俺はクラウディア様の護衛兵士だ! 大体何が騎士だ! この民間人め!」「だったら俺は『エデル』で騎士になってやるっ! お前を超えてみせるぞ!」「何だと!?」スヴェンとユダは互いを睨みつけながら、激しく罵っている。「い、一体これは何なの……?」まさかまだマンドレイクの毒が抜けていないのだろうか?するとリーシャが耳打ちしてきた。「お2人とも毒はもう抜けているのですけどクラウディア様の姿が見えないことを知ると、血眼になって探し始めたのですよ。何時間も探し回って……あそこにいる人達を発見したのです」リーシャが視線で示した先には、『シセル』に残った村の住民……ザカリーやセトが呆気にとられた様子でいがみ合っているスヴェンとユダを見つめている。そしてザカリーの姿を目にした時、肝心なことを思い出した。そうだ! 彼の父親は……!?「ザカリーッ!」いがみあっているユダとスヴェンの傍で彼の名を呼んだ。すると……。「姫さん!」「クラウディア様!」いがみあっていた2人が突如、私を振りむいた。「な、何かしら?」思わず2人の迫力に後ずさると、矢継ぎ早に口々に訴えてきた。「姫さん! あいつに何の用があるっていうんだよ!? あいつのせいで姫さんは死にかけたんだぞ!? そうだよな? ユダ!」え? 私が死
last updateLast Updated : 2025-10-03
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第1章 105 ザカリーの謝罪、そして……

「ザカリー。貴方のお父様は……」ザカリー達の傍へ近付いて声をかけると、何故か全員が青ざめた様子で椅子から立ち上がった。そして次の瞬間、全員が片足で跪いてきたのだ。「え? な、何!? どうしたの?」彼等の変貌ぶりに戸惑っていると、ザカリーが答えた。「王女様、本当に大変失礼なことをしてしまいました。お陰様で俺の父親は元通りになりました。他の者達も同様に元通りになりました。これもすべて王女様が、貴重な【聖水】を惜しげもなく俺たちに分けて下さったお陰です。ありがとうございました」「え? そうなのね? 皆元通りに戻れたのね……。本当に良かったわ……」するとそこへ1人の初老の男性が進み出てきた。「王女様。私はザカリーの父親で、この村の村長だったハリーです。この度は我らを救っていただき、本当にありがとうございました」「「「ありがとうございます」」」するとマンドレイク中毒の末期患者だったと思われる3人も私に礼を述べてきた。「いいえ、お礼を言われるほどのものではありません。何しろこの村がマンドレイクの毒に侵されてしまったのは、私の父のせいですから。代わりに償いをするのは当然のことです」「ですが……俺たちは……いや、俺は王女様に酷いことをしてしまいました。無礼な態度を取ってしまいました。俺達のような平民を助けてくれようとしていたのにも関わらず……。挙げ句に俺は王女様を疑い、縄で縛っただけではなく、あんなに冷たい檻に入れました。王女様の命が危険に晒されるかもしれないことを知りながら」「ザカリー」すると――「「その通りだ!!」」「キャアッ! な、何!?」突然同時に背後で声があがり、思わず叫んでしまった。驚いて振り向くと、そこにはいつの間にかスヴェンとユダが立っていたからだ。何やら2人は相当激怒している様子だった。「ああ! そうだ! お前は俺の姫さんにとんでもないことをしてくれたんだぞ!」「俺のクラウディア様に無礼を働いた罪……償ってもらうぞ!」2人とも、何故か私を自分の所有物扱いの言い方をしている。「おい! 誰がお前の姫さんだ!?」「貴様こそクラウディア様を勝手に自分の物扱いするなっ!」激しくいがみ合う2人に私達は呆気に取られていた。「何だと……貴様、またやる気か!?」「面白い! 相手になってやるぞ!」互いに剣を抜こうとするユダとス
last updateLast Updated : 2025-10-04
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第1章 106 リーシャの説明

 テーブルの上に置いた小皿に入れた【聖水】を並べると、その場にいた全員に告げた。「とりあえず、ここにいる皆さん全員でもう一度【聖水】を飲んで下さい」私の言葉に『シセル』の村人たちは頷くと、それぞれ小皿に手を伸ばして【聖水】を口にした。「姫さん、俺たちも飲むのか?」「我々はもう飲んでいますが……?」「え? 私もですか?」スヴェン、ユダ、リーシャが戸惑いながら尋ねてくる。「ええ、当然あなた達もよ。勿論私も飲むから」先程の様子から、どう見てもこの3人の体内にはマンドレイクの毒が残っているとしか思えない。私が小皿を手にし、【聖水】を飲み干すのを見た3人もそれぞれ口にする。「それでは、誰が説明してくれるのかしら?」その場にいる全員を見渡すとリーシャが手を上げた。「はい、では私から説明させて下さい」「ええ、ではお願い」「はい。クラウディア様」リーシャは返事をすると、それまでの経緯を説明し始めた。あの後、トマスとリーシャはマンドレイクの畑を探し出して【聖水】をかける作業を始め、徐々に毒霧が治まって来たところに解毒から目覚めた仲間たちがやって来た。そこで現れたユダとスヴェンが私の行方を尋ね、何処へ行ってしまったのか分からないと答えると、慌てて2人は私を探しに行ってしまったこと。その為、残された仲間たちでマンドレイクの解毒作業を続けていたものの、【聖水】が無くなってしまったので荷馬車の中で休んでいた。そこへ村の様子を見に地下から出てきたザカリー達を発見したので私の行方を尋ねると、地下にある檻の中に閉じ込めている話を聞かされたそうだ。「その時なんです。偶然クラウディア様を探していたスヴェンさんとユダさんが戻ってきたのは」リーシャが背後にいるスヴェンとユダを振り返った。「ああ、そうなんだ。こいつら、とんでもないやつだ。俺の姫さんに酷いことしやがって」「全くだ。よりにもよって、俺の大切なクラウディア様に無礼を働くとは……許しがたい奴らだ」スヴェンとユダが忌々しげに言うものの……もう、私を所有物化する言い方には何も聞いていないことにしておこう。「はい……本当に申し訳ございません……」ザカリーを始めとして、『シセル』の村人たちは申し訳無さそうに頭を下げている。「もうそのことはいいわ。だってこの村を苦しめていた原因は紛れもなく私達王族なのだ
last updateLast Updated : 2025-10-05
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第1章 107 残るわだかまり

「他の『エデル』の人達はどうしているの?」リーシャに尋ねてみた。「はい、皆さんは今別の場所で休んでおられます」するとザカリーが教えてくれた。「ここの家の付近で皆さん休んでいます。何しろ今はまだ夜明け前の時間なので」「夜明け前……ということは今何時なの?」「今午前4時頃です」「そうなの……」するとスヴェンが近付いてきた。「姫さん。夜が明けるまではまだ時間があるんだ。休んでいたほうがいいぞ?」「そうです。クラウディア様は大分お疲れのようです。【聖水】を使った解毒作業は朝になったら始めましょう」次にユダが距離を詰めて声をかけてくる。「おい、ユダ。お前姫さんと距離が近い。もっと離れろ」「スヴェンこそ何を言う。いつもいつも何かと言って、クラウディア様の側から離れないだろう?」「当然だ、俺は姫さんの騎士だからな」「まだそんなことを言うのか? お前はただの民間人だろう?」「何だと? 貴様……」スヴェンの眉が上がる。「いつでも相手になってやるぞ?」そして……再び2人は口論を始めてしまった。「あ〜あ…。又しても口論を始めてしまいましたね。クラウディア様、もうあの2人は放っておきましょう」「え、ええ……そうね」リーシャが2人に呆れた眼差しを向ける。「王女様、俺たちで王女様とリーシャさんが休める家を用意しました。夜明けまでその家でお休み下さい」ザカリーが私とリーシャに話しかけてきた。「そうね、それは助かるわ」「それでは参りましょう」こうして私とリーシャは未だに歪みあうスヴェンとユダを残してその場を後にした。****「どうぞ、こちらの家でお休み下さい。ベッドも2台ご用意しております」ザカリーが案内してくれた家は先程目覚めた家の2軒隣にある家だった。「どうもありがとう」「ありがとうございます」リーシャと2人で交互に挨拶すると早速家の中へ入った。家の中はきちんと片づけられており、ベッドは清潔に保たれている。「ありがとう、あなた方は大変な時だと言うのにベッドまで用意してくれて」連れて来てくれたザカリーにお礼を述べた。「いえ、王女様に失礼な態度を取ってしまったお詫びにもならないのですが……」「そんなことはいいのよ。あなたがたの怒りは当然なのだから」「いえ。それでもやはり王女様に怒りの矛先を向けるのは間違えていました。そ
last updateLast Updated : 2025-10-06
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第1章 108 見知らぬ人

「……ディア様……クラウディア様……」誰かの呼ぶ声にゆっくり目を開けると、目の前にリーシャの姿があった。「あ……リーシャ。おはよう……」起き上がると目を凝った。「おはようございます。クラウディア様。ぐっすり眠られていたので起こすのはどうかと一瞬ためらったのですが、是非クラウディア様に御覧になっていただきたいものがざいましたので、お声掛けさせていただきました」リーシャは申し訳なさげに謝ってきた。「私に見せたいもの……?」一体何だろう?とりあえず、ベッドから起き上がり……あることに気付いた。部屋の中に明るい太陽が差し込んでいたのだ。「え……? 明るい? あ! もしかして!」ベッドから降り、室内履きに履き替えるとすぐに窓へと駆け寄り……その光景に思わず目を見開いた。窓から見える景色は農村地帯のありふれた光景が広がっていた。ポツポツと点在する家々、村の中を流れる小川に風車小屋に畑。そして集落を取り囲むように植えられた樹木……。始めてこの村に到着したときに漂っていた禍々しい気配はすっかり消え失せていたのだ。「リーシャ、これは一体……?」背後に控えているリーシャに尋ねた。「はい。実はクラウディア様がお休みになられている間に、全員でマンドレイクの解毒作業を行ったのです」「え? そうだったの? 私にも声をかけてくれるはずでは無かったかしら?」「ええ、最初はその予定でしたが……私がお断りしました。クラウディア様を休ませてあげて下さいと言って」「そうだったのね? ありがとう。ところで今は何時かしら?」「はい、今の時間はお昼を過ぎたところです。それで私はクラウディア様を呼びに参りました。皆さん全員村長さんの自宅に集まられています。そこでお昼を頂けることになっておりますので」「まぁ、そうだったのね」頷くと、リーシャが尋ねてきた。「クラウディア様。それではどうされますか?」「ええ、そうね。なら、お昼を頂きに行くわ」「そうですか。それではその後は?」不意にリーシャの声のトーンが変わった。「え? その後?」一体リーシャは何を尋ねてくるつもりだろう?「その後は……みんなで『エデル』へ向けて出発するのではないの?」「ええ、恐らく用事が済めば出発するとは思いますが……。クラウディア様は本当にそれでよろしいのですか? 本当にこのまま『エデ
last updateLast Updated : 2025-10-07
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