All Chapters of 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版): Chapter 111 - Chapter 120

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第1章 109 リーシャの正体

「え……? 逃げる……? 逃げるって……? 貴女と一緒に?」「ええ、そうです。一緒に逃げるのです。私ならクラウディア様を彼等から連れ去ることが出来ます。私と一緒に参りましょう」一体、リーシャは何を言っているのだろう?それに今私の目の前にいるのは……まるで知らない人物のように見えた。「そ、そんな……逃げられるはずはないでしょう? 私と『エデル』の国王との結婚は『レノスト』王国が属国となる証の為の結婚なのよ? それに私がもし逃げれば城に残った人達はどうなると思う? 恐らく見せしめの為に全員殺されてしまうわ」脳裏に幼い弟ヨリックの姿が浮かんだ。今の話を聞けば、流石のリーシャも逃げようなどとはもう考えないだろう。けれど、次の瞬間私はリーシャの言葉に耳を疑うことになる。「別にいいではありませんか」それは酷くそっけない口調だった。「え……?」「あの城の方たちは自分の身の保全の為にクラウディア様を『エデル』に嫁がせることにしたのですよ?要は自分たちのことしか考えない身勝手な人達なのです。そんな人達の為に、わざわざ人質となって御自分を犠牲にする必要などないじゃありませんか」「そんな……!」「あの城には……まだ10歳のヨリックがいるのよ? あの子を見捨てるなんて私には出来ないわ! この世でたった1人きりの血を分けた家族なのに……!」「そうですね。ヨリック様はまだ小さなお子様です。だとしたら……他の御家族の後を追わせてあげるのも良いとは思いませんか?」にっこり微笑むリーシャが信じられなかった。「リーシャ……貴女、本当に……本物のリーシャなの……?」「ああ、そう言えばそうでしたね。クラウディア様は私を今までリーシャだと思っていたのですよね?」「え……? あ、貴女はリーシャではないの……?」するとリーシャは片側の手でスカートの裾をつまみ、空いている手を胸の前に持ってくると頭を下げてきた。「申し遅れました、私の名はシーラと申します。今より一月程前からクラウディア様の専属メイドとしてリーシャに成り代わり、お側に仕えさせていただいておりました」「え……? ど、どういうことなの……?」するとリーシャ……基、シーラは説明を始めた。「私は錬金術師を集めているある組織に属しています。以前から、『レノスト王国』の城内に錬金術師がいるかもしれないという噂が流れ
last updateLast Updated : 2025-10-08
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第1章 110 シーラ

「そ、そんな……私は今までずっと貴女がリーシャだと思っていたのに……。だって顔も声も……何一つ一緒じゃないの……?」自然とシーラから距離を取るような形で問いかけた。「ええ。それは当然です。正確に言えば、この体はリーシャそのものですから」「え?」一体何を言っているのだろう?「私はクラウディア様のような錬金術師ではありませんが、実はある特殊な魔法を使うことが出来るのです。その為に今の組織に拾われたのですけど」ニコリと笑みを浮かべるシーラは随分大人びて見えた。「特殊能力……? そ、それは一体……?」「はい。対象人物に自分の精神を乗り移らせることです。この魔法はとても優れているのですよ? 精神を乗っ取った人物の基本的情報程度なら共有することが出来るのですから」シーラは自分の頭部に人差し指を当てながら説明する。「ま、待って……。それじゃリーシャは? 貴女に精神を乗っ取られたリーシャはどうなっているの!?」まさかリーシャの身に……!「あぁ、それならご安心下さい。クラウディア様のリーシャの精神なら、この身体の中で深い眠りに就いていますから。私がこの身体から出て行けばすぐにでも解放されますよ?」「そうなの? それなら貴女の身体は今どこにあるの?」私はシーラに質問を続け、今の状況をどうすれば打開できるか考え続けた。「私の身体ですか? 私の身体は今は『レノスト』国にいる仲間の魔法によって守られています。その魔法を掛けられている間は時間も止められるのですよ。私がその気になればいつでも自分の身体に戻ることが出来ます。つまり、私達のような魔法を使える者を集めるだけの力が所属する組織にあるということです。「……」私は黙ってシーラの話を聞いていた。それにしても……何故、彼女はここまで自分たちの秘密を聞かせてくれるのだろう?「シーラ。いいの? そんな簡単に貴女の属する組織のことを私に話しても……」警戒しながら質問した。「ええ、勿論です。何故ならクラウディア様は特別なお方。我々組織は強大ですが、残念なことにまだ錬金術師は1人もいないのです。いえ、それどころかお会いするのも初めてです。初めて『クリーク』の村で【エリクサー】の効果を目の当たりにした時は感動で震えました。恐らくクラウディア様は優秀な錬金術師に違いないと思っておりましたが、今回の件で確信を得ました。
last updateLast Updated : 2025-10-09
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第1章 111 脅迫

「この身体を返すかどうかはクラウディア様、貴女次第ですよ」「私……次第……?」「ええ、そうです。大人しく我々についてきてくれると仰るのであればこの身体は返します。でも……そうですね。もしクラウディア様が拒絶すると言うのであれば、あまりこの手は使いたくはありませんでしたが……」すると突然、シーラはポケットに手を入れて何かを取り出した。「クラウディア様、これが何かお分かりですか?」「え……?」よく見ると、シーラが手にしているのは小型のナイフだった。ま、まさか……。「よく見て下さい、クラウディア様」シーラはナイフの鞘を外すと床に落とした。カラーン木の床板の上に乾いた音が響き渡る。そして……。何と、シーラは自分の首に小型ナイフを押し付けたのだ。「な、何をするの!?」思わず叫んだ。「フフフ……どうですか? クラウディア様。元々この身体は私の身体では無いのです。仮にこの身体に……致命傷の傷を追わせたとしたら? どうなると思います?」「そ、そんなことをすれば……死んでしまうわ! だ、だいたいシーラ。貴女だってただではすまないはずでしょう!?するとシーラは首を振る。「いいえ、そんなことはありません。致命傷を負わせた後、私はすぐに元の身体に戻るだけですから……。大丈夫、今までこのやり方で失敗したことはありませんから」シーラの言葉にぞっとした。「失敗……したことはない……? それって……」「ええ、そうです。一度や二度ではありませんから」まるで大したことでは無いとでも言いたげにサラリと言って退けるシーラに言いしれぬ恐怖を感じた。「そ、それでは……貴女は過去にも何人もの人を……?」「ええ、そうですよ。ついでに言えば……私はクラウディア様よりはずっと年上ですから。それにしてもどうですか? 私の演技……中々のものだったでしょう?」何故か得意げに話すシーラ。「ええ……そうね。私も……ずっと騙されていたもの……」けれど、それを言うなら私もそうかもしれない。この人生は2度めの人生であることを誰にも言わず……先読みして今まで行動してきたのだから。「どうですか? 我々と来る気になれましたか? リーシャに死んでもらいたくはないのですよね? 私だって本当はクラウディア様を困らせることは不本意なのですから。何しろクラウディア様はまだ20歳とは思えない
last updateLast Updated : 2025-10-10
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第1章 112 沈む気持ち

 このままではリーシャの命が……!もう【エリクサー】も無いのに!その時――「姫さん!」「クラウディア様!」突然ドアが蹴破られ、スヴェンとユダが部屋の中に飛び込んできた。「きゃあ!」不意をつかれたシーラが叫んだ。2人に向かって私は必死に訴えた。「お願い! 彼女を取り押さえて!」「え? お、おい! 何やってるんだ!」「やめろ!」スヴェンとユダは首にナイフを突きつけているシーラを見て、飛びかかるとあっというまに床に押さえつけた。「やめて! 離してよ!」必死で暴れるシーラを取り押さえているのはユダ。そしてスヴェンはシーラからナイフを取り上げると、床にしゃがんで彼女に問いかけた。「おい、リーシャ。一体どういうつもりだよ。姫さんを心配させるような真似をするなんてお前らしくないじゃないか」「ああ、そうだ。どうしたんだ? リーシャ」何も事情を知らないユダも問いかける。「……」しかし、シーラは口を閉ざしたまま黙っている。「違うわ……。彼女はリーシャだけど……中身は別人だったのよ」私の言葉に驚いたように振り返るスヴェンとユダ。「「え……?」」怪訝そうな顔でこちらを見る2人に私は頼んだ。「お願い、彼女を……シーラの手足を拘束してもらえる? 私は……少し外の空気を吸ってくるから……」「……」シーラは私を黙って見つめている。「姫さん……」「……分かりました」スヴェンとユダの返事を聞くと、私は扉へ向かった。キィ〜家の扉を開けて外に出ると、眩しい太陽が差し込んでいた。周囲はのどかな農村の光景が広がり、あの毒霧に覆われていた光景が嘘のようだった。「良かった……。これで『シセル』の村は救えたわ……」けれど、私の心は少しも晴れることは無かった。信じられない。信じたくは無かった。まさかリーシャが私の知るリーシャでは無かったなんて。私は偽物のリーシャとここまで旅をしていたなんて……。「どうしよう……」力ずくでリーシャの中からシーラを追い出すなど不可能だ。大体、人の精神を乗っ取ることが出来る魔法など、回帰してから初めて知った。「どうしてこんなことになってしまったのかしら……。回帰前、私と一緒に『エデル』についてきて来れたのは……シーラだったのかしら……?」その時、ふと目の前の畑に目が止まった。その畑はすっかり毒が抜けた
last updateLast Updated : 2025-10-11
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第1章 113 ユダへの説明

「クラウディア様。リーシャの身体を盾に使って……とは、一体どういう意味なのですか? あの者はリーシャに化けた別人なのでは?」「いいえ、そうじゃないの。身体はリーシャのものなのよ。ただ、その身体をシーラが魔法で精神をのっとっているらしいわ」「魔法ですって!? そんなまさか……! まだ魔法を使える者がこの世に存在していたのですか?」ユダが目を見開いた。「ええ、そうね。私も驚いたもの。しかもそれだけではないわ。シーラの他にも組織の中で魔法を使える人物がまだいるそうよ」「そうだったのですか……。ですが驚きです。クラウディア様が錬金術師だったこともそうですが、まさかまだ魔法を使うことが出来た者がいたなんて……」ユダが驚くのは無理もない。かつてはこの世界にも多くの魔法を使えるものがいたが、いつしかその数は激減し……人々から忘れられていったとされていたからだ。尤も……いずれ『エデル』に突如として現れる、『聖なる巫女』と呼ばれるカチュアも神聖魔法を使うことが出来る人物だった。そして彼女はその神秘的な力により、国の人々から、そしてアルベルトから愛されることになるのだけど……その話を口にすることは出来ない。「本物のリーシャの精神は今はあの身体の中で、深い眠りについているそうよ」「それではやはり、リーシャは……いえ、シーラはクラウディア様の敵だったというわけですか?」ユダは眉をしかめた。「敵かどうかは分からないわ。ただ、彼女は最初に言ったのよ。私と一緒に逃げましょうと」「何ですって?」ますますユダの顔が険しくなる。「シーラ自身は『エデル』に人質として嫁ぐ私を組織に連れて行くことで人助けをしているつもりになっているのかもしれないわ。愛されない結婚でもいいのかと尋ねられたもの」「!そ、それは……」私の言葉にユダの顔が曇った。「でも、それでも構わないと言ったわ。だって私の背後には『レノスト』国の城の人達の命が懸けられているのだから。皆を守る為にも私はアルベルト新国王に嫁がなければならないのよ」「クラウディア様……」私の名を呼ぶユダの声はどこか悲しげだった。「けれど、それでも拒否したらシーラは、リーシャの身体を盾に、脅迫してきたのよ。リーシャの身体に致命傷の傷を負わせるつもりだったのね。そこへ2人が家の中に飛び込んできてくれて、助かったのよ。本当にあ
last updateLast Updated : 2025-10-12
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第1章 114 命懸けの錬金術

「これはマンドレイクの畑ですよ? もう解毒は済んでいますが、これをどう使うのですか?」「マンドレイクはよく錬金術に使われるのよ。今回このマンドレイクを使って、ある薬を使うわ。本当はあまり作りたくは無かったけれど……」「クラウディア様……」ユダは神妙そうな顔で私を見るものの、どのような薬を作るのかは尋ねてくることは無かった。「ユダ、私はもう一度錬金術で薬を作るわ。だからスヴェンと一緒にシーラを見ていてくれる?」「ええ、それは構いませんが……クラウディア様のお手伝いはしなくて大丈夫なのですか?」「私なら大丈夫よ。それよりも今はシーラをお願い」「分かりました。クラウディア様の仰せの通りに致します。ではスヴェンの元へ行ってきますね」「お願いね」ユダは頷くと、シーラとスヴェンがいる家に向かって去って行った。1人になった私は早速、マンドレイクを引き抜いた――****『シセル』の村は殆ど無人に近いので、誰にも見られずに1人で錬金術を行なうには適した場所だった。「今回はこの家を借りようかしら」家の中に足を踏み入れると、内鍵がしっかり掛けられることを確認した。錬金術は危険が伴う為、必ず1人で行なうことになっているからだ。「さて、始めようかしら……」テーブルの上に錬金術に必要な材料を全て並べると、羊皮紙の上に術式を描き始めた。シーラの為だけに使用する薬品を作る為に。やがて、羊皮紙に描かれた魔法陣が青白く光り始めた――****「……ハッ」どの位の時間が経過したのだろう。気づけば私の前には容器に入った液体が出来上がっていた。「……完成したのね……え?」気づけば着ている服の胸元に血が滲みていた。「どこか怪我でもしたのかしら?」慌てて自分の身体を調べるも、幸いどこも怪我をしている様子は無かった。「良かった……う!」突然喉元に鉄のような物が込み上げてきた。次の瞬間……。「ゴフッ!」咳き込んだ途端、激しく血を吐き出してしまった。「あ……」ひょっとすると錬金術を立て続けに行った為に、何処か内蔵を損傷してしまたのかもしれない。「う……」苦しい。胸がズキズキする。迂闊だった。こんなに頻繁に錬金術を使うことになるなら自分の為に【エリクサー】を残しておけば良かった。あれからどれくらい経過しているのか、時間の感覚がさっぱり分からない。
last updateLast Updated : 2025-10-13
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第1章 115 幸せな夢の間で

  体調を崩してベッドで横たわっていると、倫が覗き込んできた。『お母さんでも風邪を引くことがあるんだな〜』『ほら、倫! お母さんは具合が悪いんだから、静かに寝かせてあげなさい。それよりも家事の手伝いしてよ!』葵が洗濯物を畳みながら倫に声をかけている。『分かったよ。何すればいいんだよ?』『買い物に行ってきてちょうだいよ。ほら、これが買い物メモ』葵は倫に買い物メモを渡した。『なぁ、姉ちゃん。ついでにアイス買ってきてもいいか?』『いいけど、無駄遣いしてこないでよ』『分かってるよ。それで、お母さんはどんなアイスが食べたい?』え……?倫、もしかして私の為にアイスを……?『な〜んだ、倫。自分のじゃなくてお母さんに買ってこようと思っていたのね?』『それもあるけどさ、自分のもついでに買おうかと思ってたんだよ』『何よ、それ。ちゃっかりしてるわね。それじゃ私にはバニラアイス買ってきて』『姉ちゃんだって、ちゃっかりしてるじゃないか』口を尖らせる倫。そんな2人を見ていると幸せが込み上げてきて……。****「……さん! 姫さん! しっかりしてくれよ!」何処かで悲しげな声が聞こえてくる。目を開けたいのに、瞼が重くて目を開けることが出来ない。「クラウディア様! しっかりしてください! おい! スヴェン! 貴様……自分のことを専属護衛騎士だなんて勝手なこと抜かして、クラウディア様がこんなになるまで何やってたんだ!」「うるさい! 貴様だって同じだろうが! 人のこと言えるのか!? どうして姫さんを1人にしたんだよ!」スヴェンとユダが激しく言い争っている声が聞こえてくる。「あ……」やめて……喧嘩しないで……。けれど言葉に出そうとしても、口から言葉が出てこない。その時――「何やってるんですか! スヴェンさん! ユダさん! 王女様はお体の具合が悪いのですよ!?」2人の間に割って入ってきたのは恐らくトマスだ。「いいですか!? 王女様はユダさんに錬金術を行うと仰ったのですよね?」「あ、あぁ……そうだ……」振り絞るような声で返事をするユダ。「聞いたことがあるんです。錬金術は命を削って行う儀式のようなものだと。このところ、クラウディア様は立て続けに錬金術を行っておりました。そこでこのように血を吐くまで身体を酷使してしまったのではないでしょうか?」
last updateLast Updated : 2025-10-14
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第1章 116 服従薬

 【エリクサー】を飲み込んだ途端、身体の中が一瞬熱くなり……すぐに熱は冷めていった。「あ……」意識がクリアになり、目を開けた。どうやら私はベッドに寝かされていたようだった。すると、私を覗き込んでいるスヴェンとユダ、それにトマスの姿が目に入った。スヴェンとユダは今にも泣きそうな顔で私をじっと見つめている。「皆……」ベッドから体を起こした途端――「姫さん! 良かった……! 死んじまうんじゃないかと思った……!」スヴェンが私の手を握りしめてきた。「無事で……本当に良かったです……」ユダは涙声だった。「そうだわ、シーラはどうしているの?」「姫さん……意識が戻ったばかりですぐに……」スヴェンが眉を顰める。「少しはご自分のお身体を労ってください。俺たちがどれだけ心配したか……」ユダの声はどこか恨めしく聞こえる。「彼女なら、今ザカリーさん達が見張っていてくれていますよ」トマスが教えてくれた。「分かったわ。すぐにシーラのところへ行くわ。私が作った薬は何処にあるのかしら?」「その薬なら、今も姫さんが握りしめているぜ」「え?」スヴェンに指摘されて驚いて右手を見ると、たしかにその手にはしっかりと瓶が握りしめられていた。「まさか……。握りしめていたなんて……」「クラウディア様は倒れたときもずっとその瓶を握りしめて離そうとはしませんでした。本当に、貴女は意思の強い方ですね」ユダが静かに語った。「この薬……余程大切なものなのですね? 何に使う薬なのですか?」トマスが私に尋ねてきた。「この薬はね……相手を服従させる薬なのよ。本当はこんな方法を使いたくは無かったけれど、リーシャを取り戻すためには仕方ないわ」「どういうことだ? 姫さん」首を傾げるスヴェン。ユダ、トマスも真剣な表情で私をみつめている。「シーラにこの薬を使って、リーシャの身体から出ていって貰うわ」そして私はベッドから降り立った――****外に出ると空はすっかり日が落ちて、夜空に満天の星が輝いていた。「まぁ、すっかり夜になっているわ。今何時なのかしら?」「19時を少し過ぎたところですよ」私の隣に絶つユダが教えてくれた。「19時……」「ああ、そう言えばザカリーが言っていたんだよ。姫さんの意識が戻ったら食事を出したいって。実は俺たちもまだ何も食事をしていないんだよ
last updateLast Updated : 2025-10-15
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第1章 117 私の策

 スヴェン達の案内で訪れた家は、私が檻に閉じ込められた後に目覚めた家だった。ユダが扉を開けると、家の中には村人たちと『エデル』の人々の姿もあった。彼らは皆、長テーブルの前に座っていた。「クラウディア様、良かった。ご無事だったのですね!?」立ち上がり、真っ先に駆け寄って来た人物はヤコブだった。「ええ、お陰様で何とか大丈夫だったわ」ニコリと笑みを浮かべて返事をすると、ユダが私とヤコブの間に入って来た。「おい、俺はお前のことを完全に信用したわけでは無いからな。あまりクラウディア様に近付くな」「ああ……分かってるから、そんな今にも噛みつきそうな視線を向けるのはやめてくれ」ヤコブが苦笑しているところへザカリーの父親が話しかけてきた。「王女様、お目覚めになられて丁度良かったです。今、シチューが出来上がったところですのでお召し上がりになりませんか?」「ええと……確か貴方は……?」「はい、私はザカリーの父、ハリーです」「ザカリーは何処ですか?」ザカリーの姿が無いことに気付き、尋ねてみた。「はい、ザカリーは王女様の専属メイドの監視をしております」「俺達で二手に分かれてシーラを監視しているんだよ」スヴェンが教えてくれた。「そうだったのね……」シーラがどのような方法で相手の精神を乗っ取るのかは知らない。けれども恐らくはまだリーシャの中にいるに違いない。何故なら私を脅迫するにはリーシャの身体の中にいるのが一番良いからだ。「王女様、お食事にされますか?」振り向くとトマスが近くにいた。「いいえ、その前にまずはシーラの元へ行くわ。そこで食事を頂くことにしようと思うの」皆で食事をすれば、シーラも油断して食事を口にするかもしれない。けれど、シーラが仮に食事を拒んだとしても構わなかった。何故なら、別に直接口から【服従薬】を摂取しなくても大丈夫だからだった。「分かりました。ではすぐにご用意させていただきます」頭を下げるハリー。そして約5分後――台車に大鍋と、木製の取り皿にスプーンが詰め込まれた。****「クラウディア様、本当にこの方法でうまくいくのでしょうか?」夜道をシーラ達がいる家を目指しながら歩いていると、台車を引っ張っていたユダが尋ねてきた。「何だ? お前は姫さんを信用していないのか?」後ろから台車を押していたスヴェンが口を
last updateLast Updated : 2025-10-16
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第1章 118 牽制する2人

 私達3人はシーラが軟禁されている家へとやってきた。「俺が扉を開けますよ。中には『エデル』の仲間達もいますからね」そして何故かユダはチラリとスヴェンを見る。……何故かユダの口元は不敵な笑みが浮かんでいる。「……クッ……」一方スヴェンは悔しそうに歯を食いしばる。まさか誰が扉を開けるかというだけで、2人は牽制しあっているのだろうか?「王女様、あの2人……随分些細なことでも火花を散らしていますね」トマスが耳打ちしてきたので、私は無言で頷いた。やはりトマスも私と同じ考えのようだ。ガチャ……扉が開かれると、家の中央の柱に座った姿勢で縛られているシーラが目に入った。それだけではない。シーラは目隠しもされている。そしてシーラの近くには『エデル』の兵士たちと、4人の『シセル』の村人がいた。村人の中にはセトにザカリーの姿もある。「王女様!」ザカリーは扉が開かれると、真っ先に駆け寄ってきて……。「おい! それ以上姫さんに近づくな!」「ああ、どうも貴様は信頼出来ん!」スヴェンとユダが前に立ちはだかった。「あ…すまなかった。ただ王女様の意識が戻ったのが嬉しくて……」申し訳無さそうに2人に謝るザカリー。「スヴェン、ユダ。彼に話があるの。そこをどいて貰える?」「え……? クラウディア様?」「姫さん……あいつと話をするつもりか?」ユダとスヴェンは驚いた様子で私を見る。「ええ、そうよ」躊躇うことなく頷くと、2人は渋々どいてくれた。「王女様……目が覚められて本当に良かったです。血を吐いたと聞かされた時は本当に驚きました」ザカリーは何処かホッとした様子で話しかけてきた。「ええ、もう大丈夫よ。トマスが【エリクサー】を持っていて、飲ませてくれたお陰でね」そしてチラリとトマスを見た。「いえ。元々【エリクサー】は王女様の物ですから、当然です」「くそっ……トマスのやつ……」「いいとこ取りしやがって……」ユダとスヴェンが何やら今度はトマスを敵対視しているようだけれども……もう、聞かなかったことにしておこう。それよりも今、気になるのはシーラのことだった。「シーラが縛られているのは理解出来るとして……何故、目隠しまでされているの?」「はい、それはシーラがどのような手段で王女様の専属メイドの身体を乗っ取ったのか方法が分からなかったからです。中には相
last updateLast Updated : 2025-10-17
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