All Chapters of 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版): Chapter 121 - Chapter 130

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第1章 119 私とシーラ

「本当は……こんな薬を使いたくは無かったのだけど。この薬は【服従薬】と言って、必ず自分の言うことに従わせる薬なのよ」シーラから離れた場所に人を集めると、私は小声で説明した。「そうですか、それは中々恐ろしい薬ですね」セトが頷く。「ええ、これを食事に混ぜてシーラに食べさせるのよ」「だけど姫さん。シーラが素直に出された料理を食べるとは思えないけどな」「はい、クラウディア様。俺もです」「そうね。スヴェンとユダの言う通りだと思うわ」私の言葉にトマスが尋ねてきた。「だとしたら、どうするのですか?」「大丈夫よ。この薬の凄いところは無臭なのに効果があるというところよ。これを料理に混ぜてシーラに差し出すわ」そして私はスヴェン、ユダ、トマス、ザカリーの顔を順番に見渡した。「この薬は強力だから、私が1人でシーラに持って行くわ。貴方達は離れた場所で見ていて?」「だけど、クラウディア様お一人では危険なのでは?」「ああ、ユダの言う通りだ。俺は姫さんになら服従されてもいい。ついて行かせてくれ」「何だと? だったら俺もクラウディア様に服従する。お供させて下さい」スヴェンに引き続き、ユダまでとんでもないことを言ってきた。「な、何を言っているの? 私は2人を無理やり服従させるつもりはないのよ。冗談はそのくらいにして」2人はその言葉が不服だったのか、何やらブツブツ言っているが私は聞こえないふりをすると、部屋の中央に置かれたテーブルへ向かった。テーブルの上に乗せられたお椀に【服従薬】を垂らした。そして大鍋の蓋を開けるとお玉で熱々のシチューをよそい椀とサジを持ってシーラの元へ向かった。「シーラ」目隠しをされているシーラの元へ向かうと声をかけた。「その声は……クラウディア様ですね?」シーラの声はとても冷たかった。「貴女に食事を用意したの。今目隠しを外して上げるわ」近くにあった棚の上に料理を乗せ、シーラの側にしゃがみこんで目隠しを外した。「……」少しの間シーラは部屋の明かりで眩しそうに目を瞬いていたが、視線を私に合わせた。「クラウディア様。食事を用意したとのことですが、私が大人しくその料理を口にすると思いますか? 中に何が入っているかも分からないのに」それは予想通りの返事だった。「私を疑っているの? だったら私が試してみましょうか?」棚の上においた
last updateLast Updated : 2025-10-18
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第1章 120 シーラの尋問

「シーラ。お腹が空いているんじゃないの? このシチュー、とても美味しいわ。食べてみない? ほら、皆も食べているから」後ろを振り返ると、テーブルに座って食事をしているスヴェン達の姿があった。「ですが……」「私も食べるから、一緒に食べましょう? ほら。この縄も解いてあげるわ」もうこの様子では歯向かうことは無いだろう。「はい……お願いします……」力なく返事をするシーラの背後に回り、私は縄をほどき始めた。その場にいる全員は食事をしながらも、シーラの動きを注視しているのがひしひしと伝わってくる。「はい、解けたわ。それじゃ一緒に座って頂きましょうか?」わざとシーラの前にシチューの皿を見せて、臭いを嗅がせる。「分かりました……」シーラの目は力を無くしている。2人でテーブルの隅に腰掛けると、私はシーラの向かい側に座った。「それでは頂きましょう?」「はい、クラウディア様」そして、ついにシーラはスプーンでシチューをすくうと口に入れた。「どう? 味は?」「はい、とっても美味しいです」嬉しそうに笑うシーラ。「そう? それじゃ冷めない内に食べてね?」「はい!」シーラは私の言葉通りに、次から次へとシチューを口に運び……あっという間に完食してしまった。「……」私は少しの間、シーラの様子を伺っていたが……声をかけてみることにした。「シーラ、立ちなさい」「……はい、クラウディア様」シーラは立ち上がった。「貴女が所属する組織の名前は?」「はい、『ニルヴァーナ』と言います」「『ニルヴァーナ』……」回帰して初めて耳にする組織だ。「『ニルヴァーナ』とは、どういう人達の集まりなの?」「構成員は主に魔術師です」「貴女の魔術はどういう魔術なの?」「はい、相手の精神を乗っ取る魔術です」「方法は?」「自分に心を許した相手の瞳を見つめて、眠らせてから精神支配します」その話に思わずゾッとした。やはり目隠しをして拘束したのは正解だったかもしれない。周囲にいた人達もいつの間にか私達の周りに集まり、シーラの話を聞いている。「分かったわ……。それでは尋ねるけど、貴女は私を連れて逃げようとしていたわね? どうやって逃げるつもりだったの?」「はい。私の仲間がクラウディア様のお供についてきています。彼は瞬時に別の場所に移動することが出来る魔法陣を描くこ
last updateLast Updated : 2025-10-19
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第1章 121 シーラの仲間

「今の騒ぎは何だ!?」スヴェンが声を上げると同時に、ユダが扉へ向かって駆け出した。他にもその場にいた『エデル』の兵士達もユダの後を追うように慌てて家を飛び出して行く。「姫さん!」スヴェンが傍に駆け寄ってきた。「スヴェン」「いいか、姫さんは危険だからここにいるんだ。シーラの尋問を続けるんだろう?」「ええ。そうよ」シーラの目は虚ろになっている。これは私の強い支配下に置かれている状況だ。「シーラ。この中で仲間はカイロという人物だけなのかしら?」私は再びシーラの尋問を続けた。「はい、そうです。同じ組織の仲間です。彼は『エデル』に元々潜入していた人物です。今回『レノスト』王国に錬金術師がいると言う噂を聞きつけ、クラウディア様の輿入れの同行者として行動しております」「それで私が錬金術師だと気付いたのね」その人物がユダの話していた真の裏切り者なのだろうか?「その通りです。本当はもっと早くにクラウディア様を拉致しようと思っておりました。けれどクラウディア様はどうしても最後の領地まで立ち寄る意志が強かったので、ここまで一緒に参った次第です」シーラの話は少し意外だった。「もしかして、いつでも拉致出来る状況だったのに……私の為に『シセル』まで同行してきたの?」「そうです。『シセル』でクラウディア様の目的が達成された暁には我々の組織へ連れ去る予定でした」それは……彼等なりの私に対する気遣いなのだろうか?けれど、連れ去るという言葉にスヴェンは敏感に反応した。「何だって!? とんでもない話だな!」スヴェンが吐き捨てるように言ったその時――「おい! さっさと中へ入れ!」「もたもたするな!」突如開け放たれたままのドアから両手を後ろに縛られた人物がユダ達によって連れてこられた。その人物は無口な人物で、私は彼とは口も聞いたことが無かった。「クラウディア様、この男がカイロです。我らの裏切り者ですよ」ユダが私の前にカイロを連れてきた。茶髪に、年齢は20代と見られる彼は憎々しげな目でユダを睨みつけている。「貴方がカイロね?」「……ええ、そうですよ。クラウディア様。今まで一緒に旅を続けていましたが、口を聞くのは初めてですね? けれど……まさかこんな薬まで作れるとは驚きですよ。あのシーラを自分の言いなりにするのですから」カイロの言葉は何処か嫌味を含
last updateLast Updated : 2025-10-20
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第1章 122 移動魔法【ポータル】

「……どうだ? 姫さん?」「クラウディア様。いかがです?」スヴェンとユダが尋ねてきた。「……そうね。そろそろ手を離しても大丈夫かもしれないわ」私はカイロの鼻に押し当てていた【服従薬】の染み込んだハンカチを外すと頷いた。「分かった」「それじゃ離しますよ」2人はカイロを押さえつけていた手を離した。「……」カイロは何処か虚ろな表情でこちらを見つめている。「私の話が分かる? カイロ」「……はい、クラウディア様」コクリと頷くカイロ。「貴方の本当の名前は?」「俺の名はヨミです」「ヨミ……」何故だろう。ヨミと言う名前は黄泉を連想させて、あまりいい気がしない。それは私が過去において2度の【死】を経験しているからだろうか?「貴方の仲間は誰?」「はい、ここにいるシーラです」指差されたシーラは無言でその様子を見つめている。「貴方は魔術を使えるのでしょう? どんな魔術を使えるのか教えてちょうだい」「はい、俺の魔術は魔法陣を描いて【ポータル】を作り出すことです」「ポータル……?」「一体、何のことだ?」スヴェンとユダが首を傾げる。そして私とヨミのやり取りを聞いている他の人々も皆、首をひねっている。「ポータルとは何?」「はい。ポータルとは、いわゆる出入り口のことです。同じ形の魔法陣を違う場所で描いて、一瞬で違う場所に移動することが出来る魔術です」「え……?」知らなかった。そんなに凄い魔術がこの世界にあったなんて……!スヴェンにユダも相当驚いたのか目を見開いているし、周囲にいた人々もざわめいている。でも、これで分かった。シーラが何故私を連れて逃げようとしたのか。『エデル』の使者達の目を盗んで私を連れ去ることなど、ヨミのポータル魔法があればいとも簡単に別の場所へ瞬時に移動することが可能だったからだ。すると、その話を聞いユダが突然私たちの会話に入ってきた。「おい! 今の話が事実なら、本当に一瞬で海を越えた他の国へ行くことも出来るのか!?」「……」しかし、ヨミはユダの問いに返事をしない。「おい! 貴様! 答えろ!」痺れを切らしたユダがヨミの襟首を掴んだ時、スヴェンが止めた。「待てよ、落ち着けって。恐らくこいつは姫さんの言うことしか聞かないんじゃないのか? 何しろシーラの時もそうだったからな」「ええ。その通りよ」私は頷いた
last updateLast Updated : 2025-10-21
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第1章 123 魔法陣

突然の言葉に驚いたのか、トマスが2人に声をかけた。「ど、どうしたのですか? 2人とも。クラウディア様のおっしゃる通り、早く到着する方が良いじゃないですか?」するとトマスの言葉にスヴェンとユダが一喝した。「「黙れっ! トマスッ!!」」「ひぇっ!!」たまらず、トマスは悲鳴を上げる。「いいか? トマス! そんなことをすれば、あっという間に『エデル』に到着してしまうんだぞ!?」「そうだ! お前はそれでもいいのか!?」ユダに続き、スヴェンが叫ぶ。あまりの発言に私は2人に尋ねた。「あなたたち、一体どうしてしまったの? 一刻も早く『エデル』に到着したほうがいいに決まっているじゃない。全員疲れも溜まっているだろうし、何より陛下をお待たせしては悪いわ」何しろ回帰前のアルベルトは私が『エデル』に到着した時こう言ったのだ。『随分遅い到着だな。そんなにこの国へ嫁ぐのが嫌だったのか』と――今回は『レノスト』国の領地に立ち寄り、それぞれの問題解決に時間を費やしてしまった。これ以上長く時間を掛けて旅を続けるわけにはいかない。すると私の言葉に素早く反応する2人。「何言ってるんだ? 姫さん! ほんの少しでも『エデル』に到着するのは遅れたほうがいいに決まっているじゃないか!」「そうですよクラウディア様! 『エデル』に行けば、きっと窮屈な生活が待っているに違いないのですよ! それでもいいのですか!?」「それでもいいのよ。陛下をお待たせするほうが余程私にとってはまずいことなのだから」「う……」「そ、それは……」流石の2人もこの言葉で黙ってしまった。私は再びヨミに向き合った。「ヨミ」「はい、クラウディア様」「それではこれから私達全員を移動魔法を使って『エデル』まで連れて行ってちょうだい」「分かりました」ヨミは返事をした――****  これから『エデル』へ向う為、メンバー全員が集められた。その中には新しく仲間になったザカリーも一緒だった。「一体何が始まるんだ?」あまり状況を理解していないヤコブがユダに尋ねた。「俺は知らん!」するとすっかり気分を害してしまったのか、ユダはそっぽを向いてしまった。「は? 何だって?」ヤコブはユダの態度に驚いている様子だった。そんなユダの様子に他の仲間達も首を傾げている。「あいつ、一体どうしてしまったんだ?」
last updateLast Updated : 2025-10-22
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第1章 124 魔法陣と最後の服従

 ヨミは地面に杖で大きな円を描いていく。私は羊皮紙の上で魔法陣を描いたことが無かったので、その鮮やかな手付きに驚いていた。ヨミはその後も円陣の中に幾つもの幾何学模様を描き出し……ついに魔法陣が完成したのか、円の中心に立った。そして何か呪文を詠唱しているような声が聞こえ……。ドンッ!!ヨミは魔法陣の中心に杖をついた。すると途端に魔法陣が光り輝き、眩しい程に光のシャワーがほとばしった。「うわぁ!」「何だこれは!」「ま、眩しい!」途端にあちこちで目を押さえて声を上げる人々。光の中心でヨミは私に杖を地面に突き立てたまま話しかけてきた。「クラウディア様。『エデル』へ続く【ポータル】が開きました。どうぞお入りください」「ええ、分かったわ」頷き、魔法陣に近付こうとしたことろで突然ユダに腕を掴まれた。「クラウディア様! あいつを信じるのですか!? 本当にこの魔法陣が『エデル』へ続くと!」ユダの目は真剣だった。「……信じるわ」「クラウディア様……」ユダが息を呑んで私を見る。「私は自分の作った薬に自信があるの。シーラもヨミも完全に私に服従しているわ。だから、ヨミを信じるのよ」「そうだな。姫さんがそう言うなら、俺も信じる」スヴェンがユダの背後から現れた。「……分かりました」ユダは一度だけ俯き……そして顔を上げた。「それでは皆! 今から我々はこの魔法陣を使って『エデル』に帰還する! ただし、この魔法陣を恐れる者がいるなら、その者はこのまま馬に乗って旅を続けろ!」するとヤコブが進み出て来た。「俺はクラウディア様を信じます。この魔法陣で『エデル』に共に参りましょう」「ヤコブ…‥‥」「俺だってこの魔法陣で国に帰るぜ。何しろこれを使えば一瞬で移動できるんだろう? わざわざ馬に乗って何日もかけて国に帰るなんぞごめんだからな」そう言って魔法陣へ歩いて行くのはライだった。「王女様。僕は当然この魔法陣で『エデル』へ行きますよ」トマスは私に笑いかけた。「王女様が魔法陣で『エデル』へ向かうなら俺も一緒です」「ザカリー……」そして、結局この場にいる全員がヨミの作り上げた【ポータル】を使って『エデル』へ向かうことになった。**** 私たちは全員、眩しく光り輝く魔法陣の中に立っていた。「クラウディア様、それでは『エデル』へ向かいますが……
last updateLast Updated : 2025-10-23
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第1章 125  旅の終わりに

ガクンッ!まるで糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちるリーシャ。「リーシャッ!」咄嗟に叫んだ時。「おっと!」スヴェンが咄嗟にリーシャの身体を抱きとめてくれた。「ありがとう……スヴェン」「いや、これくらい別にどうってことはないって。だけど、本当にあのシーラってのはこの身体から消えたのか? あ、別に姫さんの薬の効果を疑っているわけじゃないけどな」「……大丈夫よ。多分…」スヴェンの腕の中で意識を失っているリーシャの顔を見つめた。心なしか、その顔には幼い表情が宿っているようにも見える。「スヴェン。リーシャを馬車の中に運んでくれる?」「ああ、お安い御用だ」スヴェンはリーシャを担ぎ上げたまま馬車へと運んでいく。「クラウディア様。次はどうされるおつもりですか?」ユダがまだ私の前に立っているヨミを見ながら尋ねてきた。「彼には帰って貰うわ。仲間の元に」私は再度、ヨミに声をかけた。「ヨミ。仲間の元へ帰ったら皆に伝えなさい。恐らく、もうこの世に錬金術師はいないと思うと。そして私のことも……今回の旅のことも全て記憶から消し去りなさい。そのことを胸に刻みつけて……今すぐここから去りなさい」「はい、分かりました」ヨミは頷くと、頭を下げ……先程私達が出てきた魔法陣の上に立った。そして魔法陣の光のシャワーに包まれて、ヨミは光とともに消え去っていった――「……」私はヨミの消えていく姿を最後まで見届けると、その場にいる全員に語りかけた。「皆さん、ここに辿り着くまでに色々ありましたが今迄お世話になりました」『……』全員黙って私の話を聞いている。「皆さんにお願いがあります。どうか、私が錬金術師であることはここだけの話にして下さい。誰にも口外しないと約束していただけますか?」するとユダが突然手を上げた。「はい。我々一同、クラウディア様が錬金術師であるということは……墓場まで持っていきます。皆もいいな 途端に……。ガクンッ!まるで糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちるリーシャ。「リーシャッ!」咄嗟に叫んだ時――「おっと!」スヴェンが咄嗟にリーシャの身体を抱きとめてくれた。「ありがとう……スヴェン」「いや、これくらい別にどうってことはないって。だけど、本当にあのシーラってのはこの身体から消えたのか?あ、別に姫さんの薬の効果
last updateLast Updated : 2025-10-24
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第2章 1 彩雲

ガラガラガラガラ……馬車はゆっくりと『エデル』の城下町を走っている。「……」リーシャは向かい側の席に横たえられている。彼女が心配でならなかった。「リーシャ…まだ目が覚めないの? もうすぐ『エデル』に到着するというのに……」このままでは城に着いても、リーシャは目が覚めないかもしれない。「その時は誰かにお願いしてリーシャを部屋まで運んでもらうしか無いわね」ため息をつくと、馬車の中から城下町を眺めた。城下町は大勢の人で賑わっていた。広々とした石畳の馬車道には多くの馬車が走っている。路面沿いには様々な店や屋台が立ち並び、町を歩く人々は皆良い身なりをしていた。「私の故郷『レノスト』国とは大違いね……とても戦争があった国とは思えないわ」『エデル』は強大な国家だ。父が勝手に起こした戦争も1年足らずで制圧してしまったのだ。父や兄……そして重臣達は戦犯として軒並み処刑されてしまった。さらに、ただでさえ数少ない領地は殆ど没収され……僅かに残された領地がここまで来るのに立ち寄った『アムル』『クリーク』『シセル』の3つのみだった。けれど、その領地も私とアルベルトの婚姻によって併合されることになるはずだ。「城が見えて来たわ……」城下町を抜けると、その先には新国王となったアルベルトの居住する巨大な城がある。城は美しい広大な森に囲まれ、湖も神殿もある。「神殿……」その言葉を口にすると憂鬱な気持ちになってくる。何故なら言い伝えでは、この空に虹色の雲が浮かぶとき……『エデル』に富みと繁栄をもたらす『聖なる巫女』が現れると言われていたからだ。回帰前の私はそのことを知らなかったが、カチュアが湖の神殿に現れた時に虹色の空が浮かんだらしい。そして『聖なる巫女』カチュアが現れたことで、私の立場はますます悪くなっていったのだ。「いやだわ……あの城を見ていると回帰前のことを思い出してしまう」首を振って過去の忌々しい記憶を忘れようとした。でも大丈夫、あの時の私と今の私は全く違う。回帰前の私はアルベルトに愛されることだけを願った傲慢な女だった。けれど今の私はそのような人間では無いし、何よりアルベルトのことを何とも思っていない。アルベルトに嫁いだ後は自分に与えられた仕事を淡々とこなすだけ。恐らく1年以内には『聖なる巫女』、カチュアがこの国に現れることになるだろ
last updateLast Updated : 2025-10-25
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第2章 2 ユダの決意

 虹色の雲……。間違いない、彩雲だ。回帰前。この城に到着した頃は疲れ切って眠っていた為に、彩雲が現れたのかどうかも分からない。なので私はカチュアがいつ、湖の神殿に現れたのかを知らないのだ。「ひょっとすると……私が回帰前とでは全く違う行動を取ってきた為に何かが大きな変化をもたらしたのかしら?それでカチュアもこの世界に現れた……?」「クラウディア様!」不意に馬に乗ったユダが馬車の側にやってきた。「どうしたの? ユダ」「クラウディア様、空をご覧になりましたか?」ユダは何処か興奮気味に尋ねてきた。「ええ、見たわ。とても美しい虹の空よね」「ええ、仰る通りですが……俺の話したいことはそこではありません。実は、この国には言い伝えがあるんですよ。空に虹の雲が現れる時、この国に富と繁栄をもたらしてくれる『聖なる乙女』が現れると」「そうなのね? 素敵な話ね」当然その話は知っていたけれども、あえて私は知らないふりをした。「ええ。俺も子供の頃からその話を聞かされてきて……『聖なる乙女』という女性はどのような女性なのか……会えたらどんなにかいいのにと思い描いたものです」マンドレイクの毒を浴びた後遺症なのだろうか?ユダは最初に出会った頃よりも随分と饒舌に語るようになった。「そうだったの? それほど『聖なる乙女』というのはこの国では崇められているのね」だからなのだろうか?アルベルトは私と言う妻がありながら、一切顧みることなくカチュアを堂々と傍に置いていたのは。そして、そのことについて諫言を呈する者がいなかったのも……。「そうなんです。そして俺は確信しました。クラウディア様こそ、『聖なる乙女』で間違いないと」「えええ!? ユダ、いきなり何を言い出すの? 私が『聖なる乙女』のはずなないでしょう?」あまりの発言につい、驚きの声を上げてしまった。私は『聖なる乙女』であるはずは無い。何故ならその人物を私は知っているのだから。「何故、そう言い切るのです? クラウディア様がこの国に到着した途端に雲が虹色に染まったのですよ?」「それは単なる偶然よ」「いくらクラウディア様が否定しようとも、俺は信じますよ。クラウディア様が『聖なる乙女』であると。でも……そうなると益々遠い存在になってしまいましたね……」「ユダ……」ユダの声はどことなく寂しげだ
last updateLast Updated : 2025-10-26
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第2章 3 城門を潜り抜けて

「ついに……城へ辿り着いたのね……」私の言葉にスヴェンが心配そうに声をかけてきた。「不安か? 姫さん」「……いいえ、大丈夫よ」首を振って返事をする。不安が何もないと言えば嘘になるが、回帰前と今とでは状況が異なる。何故ならあの時は私が『レノスト』国の領地を見捨てて、ここまでやって来たと言う噂が既に城の内外で知れ渡っていたからだ。けれど、今回は違う。自分の中では3つの領地を救ってきたと自信を持てる。スヴェンは少しの間私の顔を見つめていたけれども嬉しそうに笑った。「そうか? ならいいけどさ」「ところで城に着いたらスヴェンはどうするの?」私の問いに何故かスヴェンはチラリとユダを見た。「……?」するとユダが一度咳ばらいをすると私に視線を向ける。「実は、俺がスヴェンの身元を引き受けることにしたんですよ。彼には俺が所属する兵士の上官に兵士見習いとして受け入れて貰えるように頼むことにしたんです」「ああ、ユダのお陰でな」スヴェンが頷き、ユダを見た。「そう……だったの?」「ええ、そうなんです」私の問いかけに頷くユダ。知らなかった……いつの間に2人はそんな取り決めをしたのだろう?あれほど出会った当初は敵対していた2人なのに、今では何となく彼らの間に友情らしきものを感じる。すると、ユダが前方の隊列を見ると私に声をかけてきた。「クラウディア様。先頭の兵士が門を開城して、城の中へ入って行きました。我々も後に続きましょう」「……ええ」頷きながら、私は前方の城門をじっと見つめた。いよいよ……私にとっては敵だらけの城へやって来たのだ……。**** 巨大な門扉を潜り抜けると、広大な敷地の広場が現れた。左右には大きな対になった噴水から勢いよく水が噴き出している。そして眼前にそびえたつ巨大な城。とても美しく絢爛豪華な城……。ここは回帰前の私にとっては牢獄のような場所だった。けれど、今の私には何も感じることは無い。アルベルトには元より一切の興味は無いし、本日虹色の雲が現れたということはカチュアも現れたに違いない。敵国の姫が嫁いでくるよりも、余程の一大事件だろう。「きっと……今回もアルベルトの代わりに、あの人物が出迎えてくるのでしょうね……」私は姿勢を正し、馬車の窓から外をじっと見つめた……。**** 城の大扉に到着すると、そこには
last updateLast Updated : 2025-10-27
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