All Chapters of 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版): Chapter 81 - Chapter 90

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第1章 79 もう1つの理由

「スヴェン。私がヤコブが怪しいと思ったのか、理由はまだ他にもあるわ。貴方はこの状況を見て何か感じない?」深い眠りに就いている『エデル』の使者達を見渡した。「皆、よく眠ってるよな。余程疲れているのか……?」「それもあるかもしれないけど、だったら今起きているスヴェンもヤコブも同じことよね? なのにスヴェンは起きていられるでしょう?」「まぁ確かにな」「逆に、馬車の中で休息が取れるリーシャもトマスも良く眠っているわ」「……そう言えばそうだな……」「私ね、嗅覚がすごく優れているのよ。今この周囲は風に乗って、ある特殊な匂いに満ちているのが分かるの」「特殊な匂い……? すまん、姫さん。俺には良く分からないよ」スヴェンが申し訳なさ気に頭を下げた。「いいのよ、別に謝らなくて。気付かないほうが当然だから」「そうか……それでどんな匂いが漂ってるんだ?」「ええ。この香りはワスレグサと呼ばれる植物で、別名『スイミンソウ』とも呼ばれているハーブの一種よ」「『スイミンソウ』? 聞いたことがないな」首を傾げるスヴェン。「知らなくて当然よ。これは不眠症の人に調合される睡眠薬みたいなものだから。多分特殊な製法で作られたのだわ」この睡眠薬はとても高級で、貴族や金持ちしか手に入れることが出来ないのだ。現に回帰前、私はアルベルトと『聖なる巫女』カチュアの存在のせいで、悩み苦しんだ。そのおかげで不眠症になり、『スイミンソウ』を毎晩常用する様になっていた。「それで皆眠ってしまったのか……ん? だったら何故だ? 俺も姫さんもヤコブも平気なんだ?」「ヤコブが何故眠らずにいられるのかは分からないけれども、ある意味彼が『スイミンソウ』の香りを充満させた証拠になるわ。そして私とスヴェンが眠らずにいられるのは【聖水】のお陰よ」「【聖水】……?」「ええ、食事を終えた頃から匂いを感じ始めたの。だからあらかじめ【聖水】を少し飲んでおいたのよ。ありとあらゆる毒物や身体に影響が及ぼされる成分を中和してくれるから」「【聖水】って飲めるのか?」スヴェンが驚いた様子で尋ねてきた。「ええ。勿論よ」「でも俺は飲んでないぞ? でもどうして平気なんだ?」「多分、今持っている剣のおかげだと思うわ」「え……?」スヴェンは腰に差してある剣を見た。「アンデッドとの戦いの前に貴方に【聖水】を渡した
last updateLast Updated : 2025-09-08
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第1章 80 提案

 午後1時――全員が目覚め、軽く非常食を食べ終えるとついに出発する準備が始められた。「う~ん。馬車の中で休息は取っているのに、何故また眠ってしまったのかしら……?」まだ少し眠そうな様子のリーシャが寝袋を畳みながら不思議そうに首をひねっていた。「そうですよね? 僕もそう思います。何故か急激に強い眠気に襲われて、気づけば眠りに就いていて、挙句に出発時間になっているのですから」トマスも寝袋を畳みながらリーシャ同様に首をひねっている。「きっと2人とも、疲れが取れていなかったからじゃないかしら?」「クラウディア様はちゃんとお休みになられましたか?」リーシャが尋ねてきた。「ええ、休んだわ」「それは良かったです。ここのところ、ずっとお疲れのようで心配だったのですよ」リーシャが笑みを浮かべた時、スヴェンがこちらにやってきた。「姫さん、『エデル』の連中が打ち合わせを始めるみたいだ。皆でユダが監禁されている家に向かったようだぞ」言われて見れば、確かに『エデル』の使者たちの姿が見えなかった。「一体ユダさんはどうなるのでしょうか……」ユダを信用しているトマスは心配そうだった。「そうですよね……まさか、ここに置いていくなんて言い出すつもりではないでしょうか?」リーシャが不安気にしている。「まさか……絶対にそんなことはさせないわ。その為にも今からスヴェンと説得に行ってくるわ。2人はここで待っていてくれる?」「はい、分かりました。ですが……うまくいくでしょうか?」「大丈夫よ、トマス。何とか説得してみるわ」「クラウディア様。私もご一緒しましょうか?」「平気よ、リーシャはいつでも出発出来る様に準備をしておいてくれる?」リーシャに返事をすると、次はスヴェンに声をかけた。「それじゃ行きましょう、スヴェン」「ああ。行こう」私とスヴェンはユダが監禁されている家へと向かった。****「クラウディア様……またこちらへいらしたのですか?」家の前にやってくると、扉の前に立っていた見張りの兵士がうんざりした顔で私を見た。「おいおい、そんな言い方は無いだろう? 仮にも姫さんはあんたの国の国王に嫁ぐお方なんだろう?」「う……」どうもその言葉を出されると彼らは弱いらしい。「わ、分かりました。では……どうぞお入り下さい」兵士は渋々扉を開けてくれた。ガチャ
last updateLast Updated : 2025-09-09
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第1章 81 拘束されるユダ

 結局、ユダをどうすれば良いのか名案が思い浮かばなかった彼らは私とスヴェンの提案に従うことになった。何より、ゆっくり話し合う時間が無かったことが大きな要因の一つでもあった――****「ええええ!? ユ、ユダさんを私たちの馬車に乗せるって言うのですか!?」リーシャとトマスの元に戻った私とスヴェンはユダを馬車に乗せることが決定したことを報告すると、やはり一番驚いたのは他でも無いリーシャだった。リーシャはユダのことをよく思っていないので、これは当然の反応だろう。「ええ、そうなの。取り合えず『シセル』に着くまでの間、ユダは私達と同じ馬車に乗ることになったわ。だからよろしくね」「確かに……足枷をはめられた状態では、馬に乗ることは不可能ですしね」遠くの方で、仲間たちの手によって腕を縛られているユダを見ながらトマスが頷いた。「次の『シセル』までは1時間弱で到着するらしいから、それほど長い時間一緒にいるわけじゃない。だから連中もユダを姫さんたちと同じ馬車に乗せてもいいだろうと思ったんじゃないか?」スヴェンの話にリーシャはそれでも不満そうだった。「それでも……私は嫌ですよ……。だってユダさんて目つきは悪いし、何だか私のことを敵視しているようですし。かと言って、ここでユダさんを置き去りにするのもどうかと思いますけど」「ごめんなさいね、リーシャ。貴女に何も相談せずに、勝手にこんなことを決めてしまって。でも他に方法が無かったのよ」こうでもしなければ、『シセル』に到着するまでの間……ユダの身の安全を確保できるとは思えなかった。「リーシャさん。ユダさんはリーシャさんが思っているほど、悪い人ではありませんよ?」ユダを信頼しているトマスがリーシャを説得しようとしてくれている。「ええ、少し不愛想なところはあるかもしれないけれど、根はいい人なのよ?」すると私の言葉にリーシャは首を振った。「クラウディア様の決められたことに反論するつもりはありませんが……それでも私はやっぱりユダさんと同じ馬車には……乗りたくありません」「リーシャ……」困ったことになった。まさかリーシャがここまで反対するとは思わなかった。するとスヴェンが提案してきた。「そうか、そんなにユダと一緒に馬車に乗るのが嫌なら…リーシャは荷馬車にのったらどうだ?幸い今はそんなに荷物は積んでいないから、余
last updateLast Updated : 2025-09-10
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第1章 82 回帰前の『シセル』の記憶

 馬車はゆっくり走り始め、それまでは少し離れた距離を馬で走っていた兵士達なのに今はピッタリ馬車に並走するように走っている。馬車の窓からは景色ではなく、今は兵士の顔が見える。彼等は時折、チラチラとこちらを見ているのが落ち着かない。「何だか、監視されているみたいで落ち着かないですね」トマスが小声で話しかけてきた。「ええ……そうね」馬車の扉は閉じられているし、車輪の音で外の兵士たちに話し声は聞こえていないとは思うけれども、ついつい声が小声になってしまう。「仕方ありません。本当に俺は監視されていますからね」ユダはチラリと周囲を警戒しながら返事をする。今、ユダは足かせをはめられ、両手首は一緒に縄で縛り上げられている。完全に拘束された状態の彼は見るも哀れな姿だった。「ユダ……私は貴方を信じるわ。何とか貴方の無実を晴らす方法を探してみるから、もう少しだけ待っていてくれるかしら?」「クラウディア様……何故そこまでして…」ユダは目を見開いて私を見た。「だって、ユダは濡れ衣を着せられただけでしょう? そして、おそらく貴方の立場が悪くなってしまったのは私が原因じゃないの?」「……」しかし、ユダは返事をしない。「え? それはどういう意味ですか?」まだ状況を余り把握していないトマスが尋ねてきた。「つまり私をよく思わない人達が『エデル』にいるということよ。でもそれは当然のことよね……何しろ私は勝手に戦争を起こした『レノスト』王国の生き残りの姫なのだから。父が起こした戦争のせいで『クリーク』の町の人達も巻き添えになってしまったわけでしょう?」「確かにそうですが、でもそれはクラウディア様のせいでは……」その時、馬車と並走していた兵士が馬車の扉をノックすると注意してきた。「話をするのはやめろ」「わ、分かりました……」トマスはおっかなびっくり返事をした。すると次に兵士は私に視線を移した。「クラウディア様も……その事を肝に銘じておいて下さい」「ええ、分かったわ」私は頷くも、ユダは口を閉ざして返事をすることは無かった。仕方がない……。『シセル』に到着するまでは会話をするのは諦めたほうが良さそうだ。第一、『シセル』に到着すればユダに注意を払っている余裕は無くなる。回帰前……私は『エデル』の使者達に『シセル』に連れて行かれた。そこで無数の『死』
last updateLast Updated : 2025-09-11
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第1章 83 襲撃

ガラガラガラガラ……馬車は森を切り開いて作られた馬車道を音を立てて走っている。『シセル』の村が近付いて来るにつれ、だんだん周囲の雰囲気が変わってきた。辺りは鬱蒼と茂った木々に覆われ、太陽の光もよく届かない。馬にまたがって先を進む『エデル』の使者達も緊張しているのか、会話をする者は誰もいない。「一体…何でしょうか……この森、随分嫌な雰囲気が漂っていますね。先程までは鳥のさえずりや小動物たちを見かけたのに……」流石のトマスも異変を感じているのか声が震えている。すると今まで無言だったユダが口を開いた。「当然だ。この辺りは『シセル』で大量発生したマンドレイクのせいで生物たちは恐れて近づかないからな」「な、何ですって?! マンドレイクッ!? まさかあの毒草ですかっ!?」トマスは驚きの声を上げ、次に私を見た。「王女様……ご存知でしたか……?」「ええ……知ってたわ……だって、あの村では……」そこまで言いかけた時、前方で悲鳴があがった。「ウワアァァッ! た、助けてくれ!」「で、出たっ! マンドレイクだ!」「火だ! 火を放て!!」「まずい! 助けに行かなくては!」「行くぞ!」馬車の側を並走していた兵士たちが馬で駆けていく。「うわああ! こ、今度は何が起きたのですか!?」トマスが頭を抱えて叫んだ。馬で駆けていく兵士達を見ながらユダが舌打ちした。「チッ! 出たか!やはり……あの時、処理しておけば良かったのに……!」「ユダッ! ま、まさか……マンドレイクって……」私は声を震わせながら尋ねた。「はい。おそらく巨大化したマンドレイクが現れたのかもしれません。前回この森を通った時、子供ほどの背丈のマンドレイクを見かけたのですが……その時は危険性は無いものとして放置してしまったのですが……」「そ、そんな……!」マンドレイクは巨大化すると意識を持つ。そして生き物を襲って生気を吸い取ると言われている、恐ろしい植物なのだ。「姫さん!」スヴェンが馬で駆けつけてきた。「スヴェン! 一体何が起きているの!?」「それが、いきなり茂みから人の背丈ほどもある巨大植物が現れたんだ! それで突然根を伸ばしてきて兵士たちの身体に巻き付けてきたんだよ!」その話にユダの顔色が変わった。「何だと!? まずいっ! マンドレイクは獲物を根で捉えて、生気を吸い取る
last updateLast Updated : 2025-09-12
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第1章 84 マンドレイクの襲撃 1

「クラウディア様!? 危険です! どこへ行くつもりですか!?」馬車を降りると、すぐ後ろの荷馬車に乗っていたリーシャの声が響き渡った。「リーシャ……」前方では兵士たちの悲鳴が響き渡っている。「ヤコブにユダの足かせの鍵と剣を返してもらうのよ!」「ええ!? な、何を仰っているのですか! 駄目ですよ! ヤコブさんは先頭にいたのですよ!?」「だからこそ、尚更よ!」それだけ答えると、私はヤコブの元へ向って走った。彼は魔物よけのお守りを持っている。ひょっとすると、マンドレイクからの襲撃は免れているかもしれない。足場の悪い道を走り続けると、前方に大人の男性並みの巨大なマンドレイクが根を伸ばし、2人の兵士たちを巻き取っていた。「うわああっ!! は、離せ!」「くそ! こいつめ!」巻き取られている兵士は根に剣を突き立てているが、全く効いていないようだ。その側ではスヴェンが剣を振るっている。「くたばれ!」スヴェンが剣で根を切り落と落とすと、そこからボロボロとマンドレイクの身体が崩れていく。「キェェェェェェェ!!」耳をつんざくような悲鳴に思わず耳を塞いだ。ドサッ!!ドサッ!!スヴェンの手によって、助けられた兵士は次々と地面に叩きつけられた。他にも近くで2体の巨大マンドレイクが暴れており、兵士たちは翻弄されている。「そ、そんな…! 1体だけじゃなかったの!?」「とどめだ!!」スヴェンがマンドレイクの中心に剣を突き立てた。「ギャアアアアアアア――ッ!!」まるで人間の断末魔のような悲鳴を上げて崩れてゆくマンドレイク。その様子を震えながら耳を抑えて立ち尽くしていると、スヴェンが私の姿に気付いた。「姫さん!? な、何故出てきたんだよ!!」駆け寄ってくると、両肩を掴まれた。「ヤコブを探しに来たのよ!! ユダの足かせの鍵と剣を取り返すために! ヤコブはどこ!?」すると1人の兵士が震えながら答えた。「あ……ヤ、ヤコブは……あのマンドレイクに取り込まれて……」「何ですって!?」「何っ?!」兵士が指さした先には2体のマンドレイクが兵士たちを相手に暴れている。「早く助けないと大変だわっ!!」マンドレイクは怖かったけれども、このままでは全滅してしまうかもしれない。【聖水】の瓶を取り出し、マンドレイクに向買って駆け出そうとした時、スヴェンに
last updateLast Updated : 2025-09-13
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第1章 85 マンドレイクの襲撃 2

「クラウディア様!」ユダが駆け寄って来た。「ユダ! 自由になれたのね!?」「はい、そうです。クラウディア様のお陰です」「それは良かったわ。前方にまだマンドレイクが残って皆が戦ってるわ! 貴方の剣ならマンドレイクを倒せるでしょう!? 早く加勢に行って!」「承知しました!」ユダは頷くと、他の兵士たちと共にマンドレイクに向かって駆けて行った。「ユダ……お、俺も……」ヤコブが苦しそうに息を吐きながら身を起こそうとする。「駄目よ、ヤコブ。貴方は一度マンドレイクの体内に取り込まれてしまったのよ。もう少し遅ければ死んでいたかもしれないわ。いくら【聖水】を飲んでもそんなにすぐには動けないわ」「【聖水】……? ほ、本当にそんなものがあったのですね……【エリクサー】と同じ、とても希少価値の高いものなのに……ひょっとして、やはりクラウディア様が……?」「……」黙っているとヤコブが苦笑した。「……俺が信用出来ないのは当然ですよ……ね……。クラウディア様は俺を疑っているでしょう……? ユダを陥れたのが……俺だって……」「それは……私は貴方の口から直接聞きたいわ」ヤコブはため息をついた。「ええ、そうですよ……俺がユダを陥れようとしました……あいつと俺は友人だったのに……戦争であいつは階級が上がってしまい……上司と部下のような関係になってしまった。ユダは勿論今までのように俺に接してきましたが……俺はそれが同情されているようで……悔しくて情けなくて……しかも俺たち兵士が憧れの銀の剣まで貰って……」「そう……」銀の剣は魔力を帯びている。闇の属性や毒を持つ生物に絶大なる効力を発揮する剣だ。「それで配給された匂い袋をすり替えたのね?」「ええ……そうですよ。すり替えるのは簡単な事だった……。【死の大地】でまさかあんなにことがうまく運ぶとは思わなかった。あのあたり一帯は毒蛇の巣がゴロゴロしていたんですよ……。それにアンデッドだって……」「貴方が鈴で呼び集めたのでしょう?」「やはり……気付いていたのですね?」「ええ、アンデッドは鈴の音に引き寄せられるから。貴方はユダが銀の剣を持っていくのを知っていたのでしょう? だから危険を承知でアンデッドの生息地隊で鈴を鳴らしたのね?」「そうですよ……。でも……クラウディア様……本当は俺たちは……」ヤコブがそこまで言いかけ
last updateLast Updated : 2025-09-14
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第1章 86 和解

「クラウディア様……」ヤコブが信じられないといった目で私を見ている。今、ここでヤコブが本当のことを言えばユダ以上に酷い扱いを受けるのは目に見えて分かっていた。けれども私はそんなことは望まない。ただでさえ、この旅は過酷なのだ。ここまできて、これ以上の争いごとは起きてほしくなかった。すると、スヴェンが助け舟を出してくれた。「うん、そうだな。姫さんの言うとおりだ。何しろかつて敵国だった敗戦国の姫が嫁いでくるんだから、姫さんをよく思わない輩が大勢いるはずだ。そいつ等が何らかの手を使ってきても別に不思議なことじゃないものな?」「スヴェン……」「そうだ。クラウディア様とスヴェンの言う通りだと思う。とりあえずマンドラゴラは撃退することが出来たのだ。早いところ、『シセル』へ向かおう。あと僅かで到着するはずだからな」ユダの言葉にその場にいた全員が頷いた。すると今まで口を閉ざしていたヤコブがユダに声をかけた。「ユダ、やはりお前がリーダーを務めてくれ」「ヤコブ……」「アンデッドもマンドラゴラもお前と、そこにいるスヴェンのお陰で我々は命拾いしたのだからな。他の皆も構わないだろう?」ヤコブが周囲にいた仲間たち全員を見渡した。そして……勿論そこには反対するものは誰一人としていなかった――****「でも、ほっとしました。元通りの関係に戻れて良かったですね」再び動き出した馬車の中でリーシャが嬉しそうにしている。「ええ、本当に良かったです。ここだけの話ですが……やはり、ユダさんがリーダーが一番安心できますよ」トマスが小声でそっと言った。「確かにそうですね。ユダさんは目つきが悪いですが、リーダーシップがありますよね? それに中々強いし」「そうね。確かにリーシャの言う通りかもしれないわね」「ええ。でもそれだけじゃありません。きっとこの先もユダさんはクラウディア様の為ならスヴェンさんの様に命懸けで守ろうとすると思いますよ? ね、トマスさんもそう思いますよね?」リーシャがトマスに同意を求めてきた。「ええ、僕もそう思います」「え……? そうかしら? だって私は敵国の姫なのよ? 確かに今は私を『エデル』に送り届ける為に護衛をしてくれているかもしれないけれど、それも到着するまでよ」何しろ回帰前、『エデル』の国では私の味方は誰1人としていなかった。ただ1人
last updateLast Updated : 2025-09-15
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第1章 87 ユダからの意外な言葉

 『シセル』の村が近づくにつれ、空気はどんよりと濁り始めた。薄紫色のモヤのようなものに村全体が包み込まれている。青空だったはずの空は重たい雲で覆われ、太陽が差し込むことは無い。同じだ……この光景は回帰前と……。「クラウディア様……。あ、あの村が『レノスト』国の最後の領地……『シセル』ですか?」リーシャが震えながら尋ねてきた。「ええ、そうよ……」私は眉をしかめながら、どんどん近づいてくる『シセル』の村を見つめながら返事をした。「そんな……噂には聞いていましたが、あれでは人が住んでいるかどうかも分かりませんね……」トマスも声が震えている。「あの村は、『エデル』から最も近い場所に位置する村ということで……悲劇に見舞われたのよ」「クラウディア様、それって一体どういうことですか?」リーシャが尋ねてきた。「ここへ来る時、マンドレイクに襲われたでしょう?」「ええ、そうですね。驚きましたよ。大体マンドレイクが生息しているとは思いもしませんでした」トマスの言葉に私は首を振った。「いいえ、違うわ。生息していたわけではないの。『シセル』の村で栽培されていたのよ。国の命令で……」「え!?」「何故ですか!?」リーシャとトマスが驚きの声を上げる。「それは……」そこまで言いかけた時突然馬車が止まり、窓から馬にまたがったユダが声をかけてきた。「クラウディア様、ご相談したいことがあります」「ええ、何かしら?」「もう後僅かで『シセル』の村へ到着します。しかし、仲間とも話し合ったのですが我々は立ち寄るのをやめようかと考えております。水も食料もまだ補給しなくても、持ちそうですし、第一村があの様子では、滅んでいる可能性もあるからです。我々が行きにあの村に立ち寄ったときはここまで酷い状況では無かったのですが……」ユダの言葉に驚いた。まさか、『エデル』の使者達の方から『シセル』に立ち寄ることをやめようかと考えているとは思いもしなかった。回帰前は私が、あんな不気味な村には立ち寄りたくないと必死で拒んだのに無理やり『シセル』に連れて行ったのに?「ユダ……本当に『シセル』の村に寄るのをやめるの?王命でこの村に立ち寄る様に言われているのではないの?」するとユダの肩がピクリと動いた。「何故それを……? い、いえ。確かにその通りなのですが……下手にあの村に近づけば
last updateLast Updated : 2025-09-16
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第1章 88 毒に侵された村『シセル』1

「贖罪だなんて……クラウディア様は何も悪くないではありませんか……」ユダは苦しげな、絞り出すような声を出した。「そうですよ、戦争を起こしたのは王女様ではありませんよ?」「ええ、御自分を責める必要はありませんよ。何があろうと私はクラウディア様が悪いと思ったことはありませんから!」トマスに続き、リーシャが力強く私に訴えてくる。「それでも私は父や兄を止めることが出来なかったわ。その結果戦争が起こってしまったのだから。そして……大勢の人達が犠牲になってしまったわ」「「「……」」」私の話を黙って聞いている3人。「いいじゃないか。姫さんの言う通り、『シセル』の村へ行こうぜ」不意にスヴェンの声が聞こえてきた。「スヴェン」スヴェンは反対側の窓からこちらを覗き込み、笑みをうかべて私を見ていた。「姫さんが贖罪の為に『シセル』へ行きたいって言ってるんだろう? それにまだあの村には生き残っている人達がいて、彼等を助けたいって姫さんが願ってるんだからな。俺はいつだって姫さんの意見を尊重するぜ」「スヴェン……お前……」ユダが妙にスヴェンを威嚇するかのような表情で睨みつけている。「姫さんの安全を願うだけが、姫さんの為になるとは言えないぜ?」「!」その言葉にユダの肩がピクリと動き……やがて彼はため息をついた。「分かりました……クラウディア様の言う通り、『シセル』へ行きましょう。どのみち、あの村にクラウディア様をお連れするように命じられていましたから……」「ありがとう、ユダ」「いいえ、俺のような者にお礼を言う必要はありませんよ。ですが……宜しいですか? もし……少しでもクラウディア様に命の危機が迫りそうな場合は……即刻あの村を出ます。それでも構いませんね?」「ええ、構わないわ」私は頷いた。「……分かりました……では参りましょう」ユダはそのまま前方へと移動していった。「良かったな、姫さん」スヴェンが笑みを浮かべて私を見た。「ええ。ありがとう、スヴェン。貴方のお陰よ」「い、いや。そんなふうに言われると照れくさいな。それじゃ、俺も後方へ下がるよ」スヴェンは再び後方へ下がっていった。2人がいなくなるとすぐにリーシャがトマスに話しかけた。「トマスさん。やっぱり、ユダさんとスヴェンさんて……」「ええ、そうですね。これはもう間違いないでしょう」「
last updateLast Updated : 2025-09-17
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