あの日、テーブルの上にみかんが一つあった。そのみかんには笑顔が描かれていた。晴美が周囲を見回す中、翔は顎を支えて、彼女ににこにこと笑みを向けていた。彼らはこの新メンバーの中で最年少の二人だったが、筆記試験の成績はトップだった。晴美が一位で、翔が二位だった。木村先生は二人を意図的にくっつけようとして、同じグループに配置し、ほかの生徒たちもからかっていた。翔は眉をひそめて、みんなに「シーッ」という仕草を見せた。授業が終わると、翔は晴美を食事に誘った。翔は目の前のご飯に一口も手をつけず、晴美も恥ずかしそうに箸を動かせなかった。「晴美、俺のこと本当に覚えてない?」晴美は少し気まずそうに笑いながら答えた。「この前、ホテルまで送ってくれた時のことは、まだありがとうと言ってなかったね」「それ以外のことは覚えてる?」晴美は考えた。あの時、彼に水をはねかけられて、ホテルに連れて行ってもらった以外に、何か関わりがあったか?彼女は脳内で素早く記憶を探した。こんなに容姿の目立つ人を、忘れるはずがない。晴美は首を振った。翔の目が暗くなり、少しがっかりしたようだった。「そうか、覚えてくれると思ったけどな。少なくとも顔くらいは覚えていると思ってた」「もしかして、私たちって、どの時期に同級生だったりする?」翔は彼女を軽くつついて言った。「あの夏休、一緒に参加した研究合宿のこと、もう忘れた?」晴美は少し思い出したようだった。たしかにその時、ルームメイトが話していた樋口様かもしれない。「ああ、思い出した……少しだけだけど」翔は笑いながら言った。「思い出せれば十分だよ。あの時はいつも君のそばに米村恒志がいて、すごく邪魔だった」晴美の胸はぎゅっと締め付けられた。恒志の名前を久しぶりに聞いたからだ。「木村先生が俺たちをくっつけようとしてる。気づいたか?」晴美は気まずそうに笑い、答えなかった。「じゃあ俺、君と一緒になりたいよ。気づいたか?」晴美は少し驚いて顔が真っ赤になり、頭がしびれるように感じた。「え……何?」突然の告白に、彼女は不意を突かれた。「俺は、君が好きだ。君と一緒にいるために、この研究チームに入ったんだ。入試がとても難しかったよ」翔は自分の真心を彼女に見せた。
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