All Chapters of 気づけば、愛も遅すぎた: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

あの日、テーブルの上にみかんが一つあった。そのみかんには笑顔が描かれていた。晴美が周囲を見回す中、翔は顎を支えて、彼女ににこにこと笑みを向けていた。彼らはこの新メンバーの中で最年少の二人だったが、筆記試験の成績はトップだった。晴美が一位で、翔が二位だった。木村先生は二人を意図的にくっつけようとして、同じグループに配置し、ほかの生徒たちもからかっていた。翔は眉をひそめて、みんなに「シーッ」という仕草を見せた。授業が終わると、翔は晴美を食事に誘った。翔は目の前のご飯に一口も手をつけず、晴美も恥ずかしそうに箸を動かせなかった。「晴美、俺のこと本当に覚えてない?」晴美は少し気まずそうに笑いながら答えた。「この前、ホテルまで送ってくれた時のことは、まだありがとうと言ってなかったね」「それ以外のことは覚えてる?」晴美は考えた。あの時、彼に水をはねかけられて、ホテルに連れて行ってもらった以外に、何か関わりがあったか?彼女は脳内で素早く記憶を探した。こんなに容姿の目立つ人を、忘れるはずがない。晴美は首を振った。翔の目が暗くなり、少しがっかりしたようだった。「そうか、覚えてくれると思ったけどな。少なくとも顔くらいは覚えていると思ってた」「もしかして、私たちって、どの時期に同級生だったりする?」翔は彼女を軽くつついて言った。「あの夏休、一緒に参加した研究合宿のこと、もう忘れた?」晴美は少し思い出したようだった。たしかにその時、ルームメイトが話していた樋口様かもしれない。「ああ、思い出した……少しだけだけど」翔は笑いながら言った。「思い出せれば十分だよ。あの時はいつも君のそばに米村恒志がいて、すごく邪魔だった」晴美の胸はぎゅっと締め付けられた。恒志の名前を久しぶりに聞いたからだ。「木村先生が俺たちをくっつけようとしてる。気づいたか?」晴美は気まずそうに笑い、答えなかった。「じゃあ俺、君と一緒になりたいよ。気づいたか?」晴美は少し驚いて顔が真っ赤になり、頭がしびれるように感じた。「え……何?」突然の告白に、彼女は不意を突かれた。「俺は、君が好きだ。君と一緒にいるために、この研究チームに入ったんだ。入試がとても難しかったよ」翔は自分の真心を彼女に見せた。
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第12話

晴美は実験をしている手を止めた。彼女は恒志を無視できても、木村先生を無視できなかった。彼女は振り返って木村先生を見つめた。「先生、彼には会いたくありません」木村先生は顔を上げて晴美に窓の外を見るよう合図した。雪が一面に降る中、見覚えのある背中が立っていた。「彼を説得できるなら、とっくに帰っているはずよ。彼はただあなたに会いたいと言っているので、あなたの意見を聞きに来た」その時、晴美のスマホが鳴った。警備員からの電話だ。「水村先生、お探しです。彼はあなたの夫だと言っています」晴美は落ち着いて答え、感情の欠片も見せなかった。「彼に帰らせてください。私は結婚していませんし、彼とは関係ありません」彼女は窓辺に立ち、入口に立つ恒志を見た。風雪の中で、コートはすでに濡れていて、震えが止まらなかった。遅れてきた愛情なんて雑草よりも価値がない。今のこの偽りの愛情は、一体誰に見せているのだろうか。恒志は数日間入口に立ち続けたが、晴美は現れなかった。晴美はまだ怒っているだけで、もう少し頑張れば、きっと許してくれると、彼は自分に言い聞かせていた。まもなく、チームに休暇が訪れた。翔は晴美の手を自分のポケットに入れ、二人で近くの通りに鍋を食べに行く計画を立てた。晴美は恒志がもう諦めていると思っていた。なぜなら琴星の方が彼を必要としているからだ。しかし近くにいた恒志は、眉をひそめ、ポケットに入れた両手を握りしめていた。晴美は無意識に振り返り、彼の姿を見た。翔は本能的に彼女を後ろにかばった。恒志は歩み寄った。「彼のために、婚約破棄したか?」「あなたはもう琴星と結婚しているはずでしょ?どうしてここに?」恒志はこの数日の疲れを隠せず、感情は爆発寸前だった。「晴美!俺が結婚したいのはずっとお前だけだったんだ!」晴美は冷笑した。「あの結婚式で、私を置き去りにして琴星のところへ走った時点で、もう私たちの縁は尽きたのよ」恒志は弁解しようとしたが、その視線は二人が握る手に止まった。「だから、お前は彼と一緒になったのか?それが何だかわかってるか?それは裏切りだ!」理不尽な非難に晴美の心に波紋が広がった。彼は相変わらずで、彼女が傷つくことなど考えていなかった。翔は反論しようと
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第13話

恒志は少し驚いた。以前、彼女は確かにそれらのものを食べなかった。しかし、それがすべて自分のせいで食べなかったことには一度も気づいていなかった。赤い鍋がグツグツと湯気を立てている。恒志は煙にやられて涙と鼻水が止まらなかった。それに対して、晴美は美味しそうに食べていた。辛さを全く怖がっている様子はなかった。「米村さん、食べられなければ、無理しなくていいのよ」翔は忠告した。しかし、相手が恋敵である以上、恒志がここで引くわけにはいかない。彼は箸で一口すくい、食べた途端に激しくむせて涙と鼻水が止まらず、額から大粒の汗が滴り落ちた。翔は彼にティッシュを差し出した。「食べられないなら無理せず、帰ったほうがいいよ」恒志はその含みのある言葉を察したらしい。男のプライドはこの瞬間に存分に表れた。彼はさらに何口か箸を運び、丸呑みした。晴美はうつむいて食べていた。久しぶりの本場辛鍋を味わい、二人の愛憎劇など気にする気持ちは全くなかった。ただ、こんな修羅場が自分に降りかかるとは思いもしなかった。食事を終えた後、翔は立ち上がって会計に向かったが、恒志に止められた。「俺が奢る」翔は眉を上げて、その好意を快く受け入れた。「では、ありがとうございます」翔が席に戻ると、後ろから驚きの叫び声が聞こえた。恒志はカウンターに寄りかかって倒れそうになった。晴美と翔は駆け寄り、彼を支えた。「彼はどうしたの?」晴美はよく知っていた。彼の胃腸炎が再発したのだ。先ほどの辛鍋は彼にとってほぼ致命的だった。「胃腸炎の再発だ。すぐに病院に連れて行ける?」翔は彼に蹴りを入れた。「食べられないのに、無理するなよ。最悪だな」翔は力を振り絞って彼を車に乗せた。恒志は痛みに耐えきれず、腹を押さえて震え続けていた。体の痛み以上に、心の痛みの方がずっと深かった。彼女のことを知っているつもりだった彼は、結局、何も分かっていなかったのだ。彼の腸胃の弱さは晴美が一番よく知っていた。かつては彼女がうるさいほど薬を飲むよう言い、友人の集まりでは彼の食べられないものを率先して伝えてくれていた。なのに今、彼が意地を張って辛鍋を食べているとき、晴美は止めに入らず、本当にただの同席客のように冷静で距離を置いていた。
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第14話

晴美の実験はあと一つの標本があれば完成するところだった。今回の研究チームの調査はまさにその標本を探すためだった。翔は作業服を着ながら、晴美に固く約束した。「安心して、その標本は必ず見つけてみせるから」晴美は少し心配そうに言った。「その標本の多くは切り立った崖断崖絶壁に生えているの。だからこそ貴重よ。みんな気を付けて」「安心して!君を一人にしておけるわけがないだろう」「標本は大事だけど、安全第一だよ」研究チームには女性は少なく、今回は男性が主力だった。こうした体力が必要な活動では、彼らが先天的に有利だからだ。研究チームが深い山に入ると、思いがけず恒志もついてきた。彼は研究チームの後ろの方についている。木村先生がそれを見て、晴美に恒志を説得するように呼びかけた。「米村さん、ここはあなたが来るべき場所じゃないよ」「入り口の警備員から聞いたんだ。今回は晴美のための標本探しだって。少しでも力になれればと思って」晴美は思わず口を開いた。「お気持ちだけで十分よ。でもここは本当に危険よ。地形もよくわかっていないし、私たちはあなたの面倒を見ることもできないの」言外に、恒志は素人で、役に立たないどころか迷惑をかけるかもしれないという意味だった。隊長が前で叫んだ。「後ろ、ついて来い!遅れるな!」晴美は仕方なく説得を諦めた。タスクが厳しい上、日没までに見つけなければならないので、一分一秒も無駄にできない。彼が来たいなら来てもいい。恒志は一行と一緒に山に入った。目の前で晴美と翔はずっと手をつないでいた。最後に晴美の手を握ったのはいつだったか思い出せなかった。彼は最後の希望をこの標本にかけていた。彼は標本を手に入れる決意を固めており、晴美にもう一度自分を見直してもらいたいと強く望んでいる。断崖のそばで、誰かが足を滑らせて、もう少しで崖から落ちそうになったが、幸いその転倒で彼らは目的の標本を見つけた。「見て!標本を発見したみたいだ!」みんなが集まってきた。木村先生が深さを測り、標本まで20メートル以上あり、誰かがロープを結んで降りる必要があると告げた。翔は意欲満々だった。彼はこの標本が晴美にとってどれほど重要か深く理解していた。彼が装備を整えて下山の準備をしていると、恒
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第15話

晴美は、泣きすぎて今にも気を失いそうだった。みんなが懸崖の下に行ける道を探していた。もしかしたら、人はまだ助かるかもしれない。……「社長、やっと目を覚ましました」そばにいた助手が近づいてきた。彼の目は赤く、まるで泣いたばかりのようだった。「社長、本当に怖かったです」恒志は話そうとしたが、声が出なかった。「動かないでください。高い所から落ちたけど、枝や雪がクッションになって助かりました。そうでなければ命は……今は高熱が出て、三日三晩も意識がなかったです」恒志は天井を見つめ、頭がぼんやりとしていて思い出していた。彼は必死に体を起こし、点滴の針を抜くと、指先から血が滴り落ち、少し怖い光景だった。「標本は?まだ使えるのか?」恒志は周りを見渡したが、晴美がいない。彼女は事故にあったのか?もし事故に遭っていないなら、なぜそばにいないのか?彼はこれほど気持ちを伝えたのに、彼女はきっと許してくれるはずだと思っていた。恒志は素足で冷たい床を踏んだ。「社長……」助手は彼を止められないと悟り、そのまま行かせた。いくつかの病室を探し、やっと一番奥の部屋で晴美を見つけた。その瞬間、彼の心は安堵した。幸い、彼女は無事だった。ただ、晴美は慎重に翔にお粥を食べさせていた。恒志の目に涙があふれながら、二人の親密な様子を見て、胸の中は複雑な思いでいっぱいだった。彼女はまだ彼を許していない。もしかしたら、彼女はもう彼を諦めてしまったのかもしれない。助手は後ろで見守っているだけで、前に出なかった。恒志は言葉を発しようとし、晴美に振り返ってほしかった。熱い視線が翔の目を引きつけた。晴美は翔の視線に従って振り返り、やつれた恒志を見た。晴美は翔の布団の端を直し、彼に何か囁いた。そして立ち上がり、恒志に歩み寄った。晴美は恒志の手の血を見て、眉をひそめた。こんなに自分の体を大事にしないなんて。おそらく、熱で感情が不安定になっているのだろう。恒志は子供のように泣き、晴美の服の端を掴んだ。「晴美」パチンという音とともに、晴美の平手打ちが恒志の頬にしっかりと叩きつけられた。「なぜ意地を張るの?あなたの行動で、自分だけでなく、研究チーム全体を危険にさらしたことがわかってる?
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第16話

恒志は力を失い、頭が爆発しそうな気分だった。涙が手先の血と混ざって床に落ち、とても怖い光景だった。彼は慎重に晴美の手を握ろうとした。「晴美、彼から離れてくれ。お前が何をしても、俺は応援するから。俺の元に戻ってきてくれないか?俺にはお前しかいないんだ!」晴美は冷たく言った。「あなたにはまだ琴星がいる。私の未来は翔のものよ」恒志は弱々しく床に座り込み、最後の力を振り絞って晴美の服を掴んだ。彼は真剣に跪いた。「晴美、一体どうすれば許してもらえるんだ?」晴美は一度も振り返らず言った。「恒志、私は許した。だから私を放っておいて」「晴美、お前と離れるなんて考えたこともなかった。過去に何があっても、お前を傷つけるつもりはなかった。どうかもう一度チャンスをくれないか?」晴美は力強く恒志の手を振り払った。「恒志、私をがっかりさせないで」彼女はこんなに惨めで卑屈な恒志を見たことがなかったが、むしろその姿を見て、恒志へのわずかな感情さえも薄れていった。彼女は恋人でいるよりも、むしろ赤の他人の方が合っていると思い始めた。翔は晴美の肩を抱いて去った。恒志は力なく壁にもたれかかり、助手が彼を支えた。いつの間にか、彼の顔は涙で濡れていた。やがて彼は意識を失った。夢の中で、恒志は晴美の視点に入り込み、自分が琴星を連れて去っていく後ろ姿を見つめていた。まるで先ほど、翔が晴美と去っていくのを見たのと同じだった。これまで何度も気づかなかったが、晴美はどんな気持ちで彼らに向き合っていたのか。恒志は重い病に倒れ、何度も救急室に運ばれた。助手は救急室の前をうろつきながら、晴美に電話をかけ続けた。十数回かけて、ようやく晴美が電話に出た。「水村さん、社長が救急室で治療を受けています。来ていただけませんか?」晴美はため息をついた。「私は医者じゃない。行っても彼の助けにはならない。逆に刺激になるだけよ」助手が何か言おうとしたところで、電話は切られた。どうしたらいいのか?そのとき、恒志のスマホが鳴り、画面には美代子の名前が表示された。美代子は晴美の様子を尋ねたかっただけだった。数日間連絡がなかったからだ。助手はこの数日の出来事を細かく美代子に説明した。美代子は一言残した。
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第17話

彼は新しくきれいな服に着替え、研究チームのもとを訪れた。警備員はもう彼のことを知っている。「また水村先生を追いかけに来たのかい?」恒志は警備員にタバコを二箱渡した。警備員は嬉しそうに受け取って、こっそり恒志の耳元でささやいた。「水村先生、どうやら樋口先生と喧嘩したみたいだよ!」恒志は微笑み、感謝を伝えて研究チームの本館に入った。だが一階でずっと待っても、晴美は降りてこなかった。しばらくして、木村先生がゆっくり階段を降りてきて、恒志のそばまで来た。「木村先生、こんにちは」「米村さん、もう帰りなさい。ここに長居しすぎだ。君にはまだ会社があるだろう?ちゃんと仕事しなくていいのか?」木村先生は遠慮なく、はっきりと追い返すように言った。恒志は木村先生の意図をすぐに理解したが、諦めるつもりはなかった。「木村先生、前のことはすみません、俺が軽率でした」木村先生は手を振り笑顔を見せたが、その口調は冷たかった。「私たちは自分の行動に責任を持つべきだ。私も、君もね。見た通り、今晴美のそばには翔がいる。二人はうまくやっている。結婚式の件も聞いている。君も晴美の気持ちは理解しているだろう?」恒志はまだ弁解しようとした。「私はただ晴美に、もう一度やり直すチャンスをもらいたいだけなんだ」木村先生は眼鏡を直しながら言った。「彼女は君に何度もチャンスを与えたよ」恒志は反論できなかった。これまでに多くの間違いを犯し、晴美をワインセラーに閉じ込めたこともあった。あの時、彼は自信過剰で、晴美を失うなんて思ってもみなかった。「米村恒志」背後から聞き慣れた声がした。晴美と翔だった。二人は指を絡ませながら階段をゆっくり降りてきた。「今日言いたいことがあるならはっきり言って。もう私のところに来ないで。木村先生も翔も困るから」恒志は彼らの手をじっと見つめ、目に血が滲んでいた。木村先生は晴美の肩を叩いて言った。「よく話し合って。私は先に帰る」「病院でのあの時、もうはっきり話したと思うけど」恒志は心が引き裂かれるような痛みを感じ、呼吸も苦しかった。彼女が何度も彼を突き放すたびに、彼はもう勇気を振り絞って、彼女を取り戻すことができなかった。翔が肩を叩きながら言った。「米村さん、帰ろ
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第18話

車は研究チームの敷地内に入ると、入口にいた警備員がすぐに通してくれた。木村先生が最初にその知らせを知り、彼らを直接会議室へ案内した。「皆さん、ここで少し休んでください。晴美はまだ実験が終わっていません。終わり次第、お会いします。今はこのプロジェクトの重要な時期なので、誰も気を抜けません。少しお待ちください」助手は挨拶を交わして木村先生を見送った。美代子は周りを見渡しながら、「やはり私たち水村家の実の娘だけあって、本当に優秀ね」と口にした。弘文は手を背中に回し、背筋を伸ばして壁に掛かっている多くの賞状を見ていたが、晴美がいつ大会に出たのかも知らなかった。彼は初めて、晴美を誇りに思った。ほぼ二時間近く待ち、皆の忍耐がほとんど尽きかけた頃、晴美は翔を連れて入ってきた。翔は弘文と美代子に敬意を表して、丁寧に挨拶した。「おじさん、おばさん、初めまして。樋口翔と申します」晴美は彼を制した。「そんなに丁寧にしなくていいわ。彼らは私の両親じゃないの」弘文は怒りをあらわにした。「この不孝娘!琴星と取り違えたと思っただけだろ?まだ根に持っているか?こんなに長く音信不通で、家にも一通の手紙も出さなかったのか?」晴美は一番遠い席を見つけて座った。翔は彼女の隣に座った。「あなたたちが琴星を認めたその瞬間から、私は親も家も失ったのよ。そんなに琴星が好きなら、なんで私を探しに来るの?」恒志は黙って隅に座っていた。「あなたと連絡が取れず、恒志にしか連絡できなかったの。連絡を取ったら、あなたが恒志を病院に置き去りにして、放っておいたことがわかったわ。彼だって、あなたの標本を取るために、入院したんだよ」弘文は美代子の言葉を聞いてだんだん怒りを募らせた。「こんなふうに育てた覚えはない。どうしてあんな冷酷な子になったんだ!」晴美は恒志を見つめた。「どうしたの?米村さん、今度は密告を覚えたの?でも、その相手を間違えたのよ。私が京市を出た時から、彼らには私という娘はいなかった」恒志は言葉を発しようとしたが、何も言えなかった。「ふざけるな!もう親子鑑定をした。あなたが実の娘だ。俺たちは琴星に騙されていたんだ!」晴美は無表情で答えた。「それで?だからって親の立場で、私の人生に口を出して、
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第19話

弘文は立ち上がり、晴美の写真を撮った。美代子は嬉しさのあまり涙を流した。各大メディアが競って報道した。しかし突然、一人の記者がスマホを取り出し、別の記者に見せた。やがて全員の記者がスマホを取り出して確認し始めた。会場は騒然となった。誰かがささやき、晴美を異様な目で見ていた。この知らせは審査委員会に伝わった。委員長は晴美のライバルの支持者であり、この絶好の機会を見逃すはずがなかった。彼はスタッフに命じ、スマホのライブ映像をスクリーンに映し出させた。スクリーンには琴星の顔が映し出された。琴星は車椅子に座り、涙をこぼして泣いていた。「姉は私の実験成果を盗作しました。私の婚約者も両親も奪いました。そのせいで。私は結婚式の式場で高所から落下しました。残りの人生を車椅子で過ごさなければならなくなりました!」観客席は大混乱となり、多くの人が晴美の賞の行方について議論を始めた。裏で皆が話していた。「これを見ると、この賞は彼女には与えられないね」「盗作と剽窃に何の違いがある?要は盗みだ!」「今や本人が自ら名乗り出て、はっきりと説明しているんだから、これは問題があるに違いない!」「妹の婚約者を奪ったのに気づいたのは私だけ?これは倫理の問題よ!この賞は純粋なものだ。下品な人には合わない」晴美は壇上で何も言い返せなかった。しかし、下にいた弘文が立ち上がった。「皆さん、この女に騙されてはいけません!彼女は水村家の取り違えられた娘だと言っていますが、全然違います!彼女がうちに来たのは、良からぬ企みがあるに違いません!」スクリーンのライブ配信にはコメントが次々と流れ、琴星に弘文の言葉が伝えられた。琴星は涙をぬぐい、より一層激しく泣き始めた。「取り違えの件だって、私も被害者です!彼らは私こそが水村家の娘だと言ってたから、自分のものを取り戻すのは当然です!それに、婚約者との結婚式で、姉が手を回し、私の面目を失わせました。私の実験成果は、婚約者が建てた実験室で完成したものです。こちらは婚約者が証明してくれた映像です。ご覧ください!」琴星は証拠映像を流して自分の主張を裏付けた。恒志がかつて琴星側につき、晴美の盗作を証明したあの場面が、彼の胸に深く突き刺さった。自分はどうして
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第20話

晴美は彼を見つめ、目に涙がたまった。観客席には、かつて家族だと思っていた三人が座っており、この件の全貌を知っているが、彼らは彼女のために声を上げる勇気がなかった。その代わりに、信頼できそうにない一見の男が無条件に彼女の味方になり、信じ、支え、力を貸してくれていた。観客席では議論が絶えなかった。その騒ぎの中で、翔は晴美の手を握り、片膝をついてポケットから指輪を取り出した。観客席の後方にいる人たちも、その大きなダイヤモンドをはっきりと見ることができた。「晴美、俺と結婚してくれないか?」さきほどの疑問の声はこの一幕によってすべてかき消された。よく言われるのは、最高の広報戦略は一つの出来事が別の出来事を上書きすることだ。スクリーンの琴星は明らかにライブ会場の様子を見ていた。流れが逆転したのを見ると、彼女は崩れ落ちそうだった。琴星は絶えず叫び続けたが、司会者は雰囲気が悪くなるのを察して、ライブ配信を切った。司会者は翔のことを知っており、手を出せない相手だと思ったのだ。晴美は笑顔で頷いた。翔は彼女の指に指輪をはめ、抱き上げてくるくる回った。美代子は弘文の肘を軽く押しながら言った。「彼らは私たちに相談もせずに決めちゃったわよ!」弘文は見ていて止めようとしたが、周囲のざわめきに気を取られた。多くの人がカップル誕生を盛り上げ始めた。そして翔について調べる者もいた。「この名前、やはりどこかで見たことある!」ある女性が驚きの声をあげた。「樋口翔!彼は京市四大名家のトップ、樋口家の末っ子じゃない?」「やっぱり、愛情深い男はお金持ちの家で生まれるんだね」阻止しようとしていた弘文と美代子は静かに席に戻った。樋口家?それは米村家とは比較にならない。もし米村家が名家なら、樋口家は京市の財閥のような存在だ。何世代も続く富と権力を持ち、皇族とつながりもある。恒志は目の前の光景に完全に打ち砕かれ、最後の切り札も失った。弘文と美代子さえ翔の味方になってしまった。彼は立ち上がり、背を向けて去っていった。スマホには琴星のライブ映像がまだ映っていた。授賞式は無事に進み、晴美は名誉だけでなく恋も手に入れた。会場の全員が激しい拍手を送った。恒志との幼なじみの婚約とは違い、翔の愛は激
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