清霜は少し間を置いてから、補足するように言った。「古賀さんとは、すでに意見が一致しています」隣にいた優馬が軽くうなずくと、会議室に満ちていたざわめきは次第に静まっていった。清霜が最初に沈黙を破った。「では、SRテクノロジーに盛大な拍手を」パチ、パチ、パチ――澄んだ拍手の音が響いた。和彦は長い指をゆっくりと組み合わせ、ひと呼吸置いてからもう一度拍手した。その動作に合わせて手首の血管が力を受け、うっすらと浮かび上がった。その姿は、祝福の拍手というより、むしろ陸川グループが落札を逃したことへの無言の不満のように見えた。入札会が終わり、美穂は律希を連れて食事会の会場へ向かっていたが、ちょうど和彦と美羽に出くわした。和彦の歩みは止まらず、柔らかなスーツの裾が美穂の手の甲をかすめた。和彦の視線は終始まっすぐ前方を向いたままで、まるで美穂など存在しないかのようだ。その眼差しの端にすら、美穂を映すことを拒んでいるみたい。だが美羽はすれ違いざまに足を止め、唇の端をやわらかく上げて言った。「水村社長、おめでとう」美穂は自然な表情のまま受けた。「ありがとう」勝ち誇ったようなその様子に、美羽の笑みは危うく崩れそうになった。奥歯をぐっと噛みしめ、二人にしか聞こえないほどの声量でささやいた。「まだ喜ぶのは早いわ。ビジネスの世界は、運だけでうまくいくほど甘くないの」挑発を含んだ語尾を残し、美羽は早足で和彦の後を追っていった。二人の背中が遠ざかるのを見送りながら、美穂は胸に抱えた資料を静かに抱き締めた。丸くて大きい瞳に浮かぶ感情は、きわめて淡い。律希が小さく肩をすくめ、ぼそりと漏らした。「陸川社長のオーラ……まるで氷室から出てきたみたい。うちが陸川グループの商談を横取りしたんだし、商界で報復されたりしませんか?」「勝負は勝負」美穂は穏やかで落ち着いた足取りのまま振り返った。「彼がそんな品のない真似をするとは思えないわ」入札会のあとには食事会があった。主に協力企業同士が親睦を深め、今後の業務を円滑にするための席だ。清霜はまだ十八歳で、酒は避けていたため、卓上には茶しかなかった。美穂はその茶を酒代わりに掲げ、支援への感謝として清霜に一杯を捧げた。優馬は年配で、この手の形式的な宴席を好まないため、早々に退席した。美穂と清霜はその
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