婚約パーティーには、主役である篠はすでに到着していた。だがもう一人の主役、怜司と、本来なら早くから会場入りしているはずの清霜の姿がない。武は孫娘の篠に目を向けた。「お前、清霜に電話して様子を聞いてみなさい」――同じ頃、ホテル最上階のプレジデンシャルスイート。厚手のベルベットのカーテンが日差しを完全に遮り、床には男物のシャツと女物のラウンジウェアが無造作に散らばっている。倒れたワイングラスからこぼれた赤い液体がカーペットに暗い染みを作り、残る酒気とフリージアの甘い香りが、空気に微妙な艶を混ぜていた。大きなベッドのシーツはぐしゃりと乱れ、怜司はひどい二日酔いの頭痛に襲われながら目を覚ました。無意識に襟元を引っ張ると、そこには熱を帯びた肌が触れた。視線を落とした彼は、息を呑んだ。全身、何も身につけていない。昨夜の断片的な記憶が、破片のように脳裏を突き刺してくる。――従兄弟たちが自分の「独身最後のパーティー」を開くと言い出し、家族の年配者たちからも「うまく付き合え」と言われていたので、渋々顔を出した。だが、一杯の酒を口にしたあと、急に体が熱くなり、視界が揺らぎ、意識が遠のいていった。そして――あの、制御不能なキス。胸の奥が冷たく沈む。怜司は、ぎこちなく首を横に向けた。毛布の隙間から、雪のように白い肩と首筋がのぞいた。漆黒の髪が乱れ、一本が彼の指に絡まっていた。「……!」瞳孔がすっと縮んだ。二十年以上堅実で沈着だった顔が、ゆっくりと崩れていく。彼は震える手で毛布をめくった。そこには、眠りの中の清霜がいた。彼女も一糸まとわぬ姿で、鎖骨には淡い紅の痕が残っている。怜司の身体が、石のように固まった。二十六年生きてきて、人生の信条には「制御不能」という言葉は一度もなかった。しかし今、まるで荒唐な劇場の舞台に押し込まれたかのように、二日酔いで、裸で、隣には清霜が横たわっている。印象の中で、いつも元気のないエラロンのお嬢様は、静かに彼の隣で眠っている。身体に残るところどころの痕跡が、目に痛みを走らせた。「……そんな馬鹿な……」喉がからからに乾き、声は掠れていた。昨夜の記憶を繋ぎ合わせる。酒が回った自分を、従弟が「部屋まで送る」と言って支えていた。だが、そのままこのホテルに――エレベーターの中で、全身に
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