美穂は、その声に聞き覚えがあると感じ、本人からはっきり名乗られてようやく、彼があの日電話をかけてきた志信であることを確信した。二人の口調には、まるで親戚のような温かさがあり、不思議と気まずさは感じなかった。「ありがとうございます、千葉会長、清水おじさん」美穂は軽く会釈し、ソファの端に膝を揃えて座った。スカートの裾は自然に落ち、優雅な曲線を描いた。志信から差し出された茶を受け取りながら、品のある微笑みを浮かべた。「もちろん覚えています。小さい頃、父に連れられておじさんの家へ伺った時、書斎のプーアル茶を砂糖水だと思って飲んでしまって……」そう言ってから、美穂は視線を千葉孝雄(ちば たかお)へと移し、丁寧に続けた。「千葉会長とお会いするのは今日が初めてですが、清霜さんからは申市で若い頃ご活躍されたお話をよく伺っていました。お茶がお好きだと伺ったので、家から少し持ってきました。お口に合えばいいのですが」孝雄は、呵々と声を立てて笑った。まさか初対面でここまで礼節と距離感を心得ているとは──ましてや娘との交友を自然に言及してくるあたり、なかなか抜け目がない。「それで」志信が楽しげに笑った。「清霜は君に、何を話していたのか教えてくれる?俺も聞いてみたいな」不意の質問だったが、美穂は事前に清霜から情報を聞いていたため、落ち着いて数言選びながら答えた。その受け答えに、孝雄の目にほんの僅かだが賞賛の色が宿った。「記憶力がいいね」志信の言葉には、素直な称賛がこもっていた。孝雄も、黙って頷き、それに同意を示した。「面白いお話は、忘れるわけにはいきませんから」美穂はティーカップをそっと持ち上げ、二人に向けて軽く掲げた。所作は落ち着き、無駄がない。「むしろ、私の方が京市で小さな事業をしている身です。分からないことばかりで……もしご迷惑でなければ、おじさん、時々ご指導いただければ嬉しいです」わずかな会話の往復だけで、距離が一段縮まっていく。孝雄の口元には、先ほどより深い笑みが浮かんだ。表面は柔らかいが、その一言一語はきちんと線引きされている。出過ぎず、しかし礼儀と存在感は失わない。まさに人付き合いの術を心得た話し方だ。──商売に向いた気質だ。指先でソファの肘掛けを軽く叩きながら、孝雄は話題を変えた。「聞けば、君のSRテクノロジー
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