All Chapters of 身代わり花嫁の女装王子は狼陛下を遠ざけたい: Chapter 31 - Chapter 32

32 Chapters

第5章:3

 「クラウス卿……」急いできたのだろう、肩で息をしているクラウスを見るダミアンが冷ややかな笑みを浮かべた。「お疲れ様でした。もうあなたの出番はありませんよ」「何を言っている? 我々の計画では……」「計画?」ダミアンが顎に手を当て、宙をぼんやり見つめる。そして何かを思い出したようにパチンッと指を鳴らし、今度はにこっと人懐こい笑みを向けた。「ああ、あの幼稚な人間至上主義の妄想のことですか? 子供が描いた絵本のような題材の」くっくっと喉を鳴らしながら笑うダミアンをクラウスは真っ青な顔をして見つめていて、やはりクラウスはただ利用されていただけなのだなとロレインは確信した。「貴様……まさか……」「はい、その通りです。最初からあなたを利用するだけして、あとは捨てるつもりでした。あなたが提供してくれた帝国内部の情報、皇帝陛下の秘密、軍事機密……全て有効活用させていただきました。感謝しておりますよ」「裏切ったのか……!」「裏切り? とんでもない。最初から対等な関係など結んでいません」クラウスがいつからヴァルモン魔国と手を結んでいたのか定かではないが、シルヴァンとリリアの結婚すら仕組まれていたことなので、ずいぶん前からこの日を計画していたのだろう。ただ、クラウスは完全に嵌められ、計画していた『人間至上主義』の理想郷は一瞬して崩れ去った。「人間ごときが魔王陛下と対等だと思っていたのですか? 身の程知らずにも程がありますね」「人間ごとき……だと?」「そうです。我々魔族にとって、人間も獣人も等しく支配すべき対象でしかありません。あなたが獣人を見下していたように、我々はあなた方全てを見下しているのです」ダミアンは抑揚のない冷たい声でそう言い放ち、ロレインの体には氷のような冷気が付き纏う感触がした。「特に、自分の種
last updateLast Updated : 2025-07-31
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第5章:4

 「陛下!」セレスティアが血相を変えて飛び込んできた。その後ろには帝国騎士団の騎士たちが続いている。「セレスティア!」シルヴァンの変身が一瞬止まった。ロレインの言葉と、信頼する宮廷魔導師の登場によって、かろうじて理性を保っているようだった。「陛下、その魔法陣から離れてください! 完全変身すれば取り返しがつきません!」「分かっている……だが……!」「まずは私が魔法陣を破壊します!」セレスティアが詠唱を始めると、床に刻まれた魔法陣が不安定に明滅し始めた。「邪魔をするな!」ダミアンが片手でロレインを拘束したまま、もう一方の手で黒い魔法を放った。セレスティアは防御魔法でそれを弾くが、詠唱が中断されてしまう。「くっ……!」「せっかくの楽しみを台無しにしてくれますね」ダミアンがロレインの首筋に鼻を寄せる。その瞬間、ロレインは全身に鳥肌が立った。「やめろ!」シルヴァンの怒りが爆発し、彼は完全に黒き狼の姿になってしまったのだ。牙を剥き出しにし、真紅と琥白の瞳には憎悪が浮かんでいる。まるで『シルヴァン』であることを忘れているような姿に、ロレインはダミアンの腕から逃げようともがいた。「シルヴァン様、だめです! お願いです、止まってください!」ロレインが必死に叫ぶが、愛する人を汚されそうになっている狼の怒りは収まらない。ダミアンに向かって吠えたシルヴァンは真っ黒な毛を逆立てていた。「もう手遅れですね。皇帝陛下は完全に獣となり、私の忠実な駒になるでしょう」ダミアンが勝ち誇ったように笑った時、動けないはずのクラウスが突然動き出した。「貴様……私を騙していたな……」「おや、まだ諦めていませんでしたか」ダミアンが振り返ると、クラウスは憎しみに燃える瞳で睨みつけていた。「私は確かに国を裏切った。だが
last updateLast Updated : 2025-08-01
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