それから数日後、シルヴァンとロレインは久しぶりに城下町を訪れることになった。「……本当に大丈夫かな」「あなたはどんな服も似合うが、今日の服も素敵だ」「ありがとう。……って、そういうことじゃなくて!」前にシルヴァンと一緒に城下町へ繰り出した時、ロレインは『リリア』として国民の前に姿を現したのだ。すなわち、あの時は女装をしていた。ロレインの瞳の色と同じだと言って、淡いピンク色の宝石がついたネックレスをシルヴァンから買ってもらった時は、シルヴァンに男だとバレているとは思っていなかったのだ。それに途中で子供とぶつかったのだが、その子供がロレインの手を見て違和感を覚えていたことを思い出す。あの時は咄嗟にシルヴァンが庇ってくれたので『リリア』として過ごせた。でも、今はもう状況が変わってしまった。ロレインは女性の皇后としてではなく、男性の姿でこの国の皇后として生きようとしている。王宮にいる者たちからは受け入れられたが、はたして国民から支持を得られるのかは分からないのでロレインは不安を抱いていた。「国民にはこれまでのことを説明する文書を各地に送っているし、ロレインがリリア嬢として嫁いできた理由も理解してくれているはずだ。そんなに恐れずとも、今まで通りでいたらいい」不安そうな顔をしているロレインの背中をシルヴァンがそっと撫でると、それだけで勇気をもらえるようだった。アストライア帝国に嫁いできた頃、この嘘は長く続かないと毎日不安だった。今はもう『ロレイン』としてこの国に残ることを決め、アストライア帝国の皇后としてシルヴァンの隣に立ちたいと願ったのはロレイン自身だ。その最初の一歩をずっと踏み出さないわけにはいかない。国の頂点に立つ者として、ありのままの姿を隠さずに見せなければとロレインはやっと決意できた。「お手をどうぞ、ロレイン」先に馬車から降りたシルヴァンがロレインに向かって手を差し出す。ロレインは一度深呼吸をして心を落ち着かせ、シルヴァンの手を取って城下町の広場に姿を現した。
Huling Na-update : 2025-09-07 Magbasa pa