【今日ね、和也が私を抱きしめて、『愛してる』って言っちゃったの。そろそろ『藤堂家の奥さま』の座、譲ってもらってもいいかしら?】【昨夜は和也に泣かされちゃったけど、朝には元気出せってネックレス買ってくれるって約束してくれたの。ふふっ】【それからね、今日、あなたの息子さんがお花を切ってくれたの。誰かに花をあげたのは初めてって……あなたにすら、したことないんですって】紙片には、友香が書いた自慢話の数々が並んでいた。そしてその合間には、和也と友香の見苦しい写真までもが、貼り付けられていた。和也の全身を、かつて感じたことのない恐怖が駆け抜けた。顔もみるみる血の気が引いていった。静流は、すでに全部知っていたのだ。それなのに、自分は何ひとつ気づいていなかった。いったい、いつから?そんなことを考える余裕も、いまの彼にはなかった。彼女を探さなければ。すぐにでも。どんなに怒られようと、殴られようと、跪いて許しを乞うことになってもいい。静流さえ見つかれば、やり直せるかもしれない。必死に一枚一枚、書類をめくる。浮気の証拠の中に、彼女の行き先や伝言のヒントがないか、目を凝らして探す。しかし、なにもなかった。静流は、一言も言葉を残さずに去っていた。残されていたのは、結婚指輪だけ。二人で特注した、大切な指輪。どんなことがあっても絶対に外さないと、誓い合ったはずだった。その指輪が今、書類袋の中に――和也は、思考を止めた。これ以上、考えたくなかった。慶哉には、なにが起きているのか分かっていなかった。父親が最初は嬉しそうだったのに、急に顔から喜びが消え、うなだれているのを見て、胸がざわついた。不安になった慶哉は、すがるように和也に抱きついた。「パパ……ママ、なにかあったの?」手にしていた紙が、ひらりと地面に落ちた。和也はそっと目を閉じた。たった一言を発するのが、こんなにも辛いとは思わなかった。「……もしかしたら、ママ……俺たちのこと、もう……望んでないのかもしれない」その瞬間、和也の脳裏にガジュマルの木の下、静流に愛を告げた日の情景が浮かぶ。「静流、俺と一緒にいてくれ。永遠に、君を愛す――」そして、プロポーズの時の記憶。「静流、結婚しよう。俺は一生、君だけを愛して、絶対に裏切らない」当時
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