エンドランスのインターフォンが鳴った。菜月が応答通話ボタンを押すと黒縁眼鏡に屈強な身体付きのスーツ姿の男性が映し出された。視線は菜月を凝視している。見覚えのない面差しに思わず目を逸らした。「どちら様でしょうか?」「警察です」「警察?」 緊張で心臓が跳ねた。その男性はカメラに向かい警察手帳を開いて見せた。警視 竹村 誠一たけむらせいいち「あの、どういったご用件でしょうか?」「こういうご用件だよ」 横からケーキの箱が差し出され、湊 がその男性を横に押し遣った。何やら揉めているようだ。「菜月、防犯対策は上出来!自分から名乗らなかったね!」「君のお姉さんは名乗るんですか」「そうなんだよ」「危ないですね」 菜月は褒められているのは貶けなされているのか微妙だったがエントランスの扉を開錠した。(お客様と、湊 と私、と) 菜月は三客のティーカップとソーサーを準備した。ピンポーン 玄関ポーチのインターフォンが鳴った。今度もちゃんと確認してから鍵を開けた。笑顔の湊とやや上背のある竹村誠一が両手で(マル)を作ってケーキの箱を手渡した。「上出来でした」「どうもありがとう」「お姉さん、初めまして竹村誠一です」「はじめまして」 握手を求められ手を差し出すと厚くて頼もしい手をしていた。「誠一は柔道の有段者、黒帯なんだ」「すごいですね!」「いや、それ程でもありませんよ。警察官ですから当然です」「そうなんですね、立ち話もなんですからどうぞお入り下さい」 賢治は「湊を入れるな」「綾野の家に行くな」とは言ったが警察官を部屋に入れるなとは言っていない。菜月は自分に都合良く解釈する事にした。「これ、僕と誠一から」「ありがとう!」 ケーキの箱にはイチゴのショートケーキが四個詰められていた。最後の一個は賢治の分なのだろう。「美味しそう、今、お茶淹れるね」「ありがとう」「ありがとうございます」「竹村さん、紅茶でもよろしいですか?」「はい、紅茶は大好きです」「お砂糖はどうされますか」「あ、大丈夫です。必要ありません」 ダージリンの香りが漂うリビングテーブルには一枚の名刺が置かれていた。「・・・・石川県警捜査一課」 「付き纏まといやストーカーは基本、生活安全課に届け出るんだけど如月倫子は少し異常な気配を感じるんだ」「そうなの?」
Last Updated : 2025-07-07 Read more