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All Chapters of 唇に触れる冷たい熱: Chapter 31 - Chapter 40

48 Chapters

逃がさない 13

「ほら、冷める前に食べろ」 御堂《みどう》の言葉にそれ返事が出来ず俯いたままの私を御堂はそっと抱きしめた後、何も言わずソファーへと座らせてくれた。  一人でキッチンへと戻った御堂は、あっという間にオムライスとポトフを完成させテーブルに並べたのだった。「本当に、食べていいの?」 「紗綾《さや》のために作ったんだ、お前が食べてくれなければ意味がない」 「いただきます……」 お店で出てくるようなふわふわ、とろとろのオムライス。スプーンで掬うと卵がプルプル揺れる、ドキドキしながら口に運ぶと……「美味しい、ふわふわでクリーミー!」 御堂の手料理は想像していたよりもずっと美味しくて。悔しいけれど、私が作るオムライスよりとても美味しいと思う。「そうか、料理の出来る夫。そういうの、紗綾も嫌じゃないだろう?」 「……お、夫ですって? 御堂、あなた何を言ってるのよ!」 まさか御堂が、そこまで私との未来を考えているなんて思いもしなくて。私はその言葉に頭が混乱してしまった。「当たり前だろう? 俺は最初からその気だし、紗綾にも同じ気持ちになってもらうつもりだが?」 聞いてないわよ、そんな事。  御堂と結婚? まさか御堂の言っていた「迎えに来た」ってそういう意味だったりするの? 
last updateLast Updated : 2025-07-11
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逃がさない 14

「紗綾《さや》、付いてるぞ」「え?」 御堂《みどう》が私に自分の口元を指さして見せる。御堂の言っているのがオムライスのソースだと分かって、私は慌ててティッシュで口元を拭おうとしたのだが。「……違う、そっちじゃない。こっちだ」 そう言うと同時に御堂が私の右頬についているソースを自分の親指で拭ってしまった。そのまま彼はその指を舐めて――私を見つめてニヤリと笑う。「……そうやってあなたはすぐに私が恥ずかしがるようなことをする」 悔しくて睨みつけて文句を言っても、御堂は痛くも痒くもないようで。いつもこうやって、私一人が空回りする。「いちいち紗綾の反応が可愛いからな。どれだけ見ていても飽きそうにない」 御堂は楽しそうに笑うだけで、反省なんてかけらもしていない。彼は、きっとまた私で遊ぶつもりなのだろう。「これ以上御堂に見られたら減るかも……」「それは困るな、紗綾は今のままでいろ。ほら、ちゃんとスープも全部食べるんだ」 ぽんぽんと頭を撫でられて、食事を再開する。 「それは困る」なんて言ったくせに、御堂はやっぱりずっと私を見てるじゃない。でもいつもよりずっと優しい彼の視線は、そんなに嫌じゃなかった。 ……この日は遅くなったからと、御堂が私の部屋の前まで送ってくれた。戸締りをきちんとしろと、それはもうしつこく言われたけれど。 
last updateLast Updated : 2025-07-12
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守りたいんだ 1

「……あら? いつもはここに置いているはずなのに」 いつもより早い時間に会社に着いたので、簡単な書類からチェックしようと思って引き出しを開けたのだけど。 いつも使っているお気に入りのボールペンが、どこを探しても見当たらない。 ……それも二本も。 机に置きっぱなしにしたりすることは滅多にないし、昨日の終業時に机を片付けた時は有った気がする。 そのボールペンは私にとって特別なものだったので、念のため机の下まで探してみる。「あれー? 何してるんですか、主任。そんな事してると、スカート汚れちゃいますよ?」「あ、横井《よこい》さん。あのね……」 私は出社してきた横井さんに、あのボールペンを見なかったか尋ねてみる。だけど、やはり横井さんも見ていないそうで。「昨日までは確かに机の引き出しにあったんですよね? それじゃあ、もしかして……」 そう考えた素振りを見せた後に彼女は少し険しい顔をして。そのまま私の足元にあったゴミ箱を取り上げ、いきなり手を突っ込んだのだ。「何をしてるの⁉ あなたが汚れてしまうわ!」「ああ、あった……これ、ですよね? 主任のボールペン」  横井さんの手には私が探していたボールペンが二本。どうしてゴミ箱の中から……?「主任、プライベートな質問になってしまうかもなんですが。もしかして昨日、御堂《みどう》さんと何かあったんじゃないですか?」 横井さんは真剣な表情で私の答えを待っている。このボールペンと御堂の事がどう関係あるのだろうか? 
last updateLast Updated : 2025-07-12
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守りたいんだ 2

「主任、ちょっとこっちに来てください」 そう言うと横井《よこい》さんは、普段使われず物置代わりになっている部屋の扉を開けた。言われた通り私が部屋の中に入ると、横井さんはそのドアを閉めて鍵までかけた。「ねえ横井さん。私が御堂《みどう》と何かあったって、どうして分かるの?」 どうやら何か知っているらしい横井さん。もう二人きりになったので、私は素直に御堂の名前を出した。「やっぱりそうなんですね。もう! ちゃんと気を付けてくださいね、って私言ったじゃないですか」 「えっと、私なりに気を付けたつもりだったんだけど……」 横井さんの忠告はちゃんと覚えている。だから昨日は休憩室であまり話さず、彼の部屋に行くことになったのだから。「……多分ですけど、主任と御堂さんの行動をずっと見張っている女子社員たちがいるんだと思います。このボールペンも、その人達からの嫌がらせなんじゃないかと」 「御堂に憧れている女性社員達が「彼に近付くな」という意味でやってるって事……?」 それなら確かに納得出来る、御堂は女性から見てとても魅力的な男性だと思うから。  だからといって、私達を監視する必要まであるとは考えられないが。横井さんは間違いないと、頷いて。「……きっとそうでしょうね、本当にくだらないですけど!」 横井さんはまっすぐな性格だから、こういう裏でコソコソするようなのをかなり嫌っている様子。  私の代わりに彼女が怒ってくれてるせいか、思ったほど怒りは湧いてこない。むしろ味方でいてくれる横井さんの存在に救われた気がしてて。
last updateLast Updated : 2025-07-12
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守りたいんだ 3

「そうね、こんな事をされてもね……これから、どうしたらいいかしら?」 横井《よこい》さんからボールペンを受け取って、それをじっと見つめる。友人から誕生日プレゼントとしてもらった、小さな花柄のボールペン。 これをごみ箱に捨てられたことは本当に悔しかった。「ここはやっぱり、彼氏の御堂《みどう》さんに相談しておきますか?」「横井さん、私と御堂はそんな特別な男女の関係では無いのよ?」 どうやら横井さんの中では私と御堂は既にカップルになっていたらしい。私達って、そんなに親しそうに見えるのだろうか?「……そうなんですか、でも少なくとも御堂さんは主任を特別扱いしていますよね。あの人いつも主任を見てますから」 そんな横井さんの言葉に、じわっと顔が熱くなっていくのが分かる。彼女から気付かれるほど、御堂は私の事ばかり見ているってことなの?「こんな所で二人、コソコソ何をしてるんだ? そろそろ朝礼を始めたいから、デスクに戻ってくれるかな」 コンコンと扉をノックされて、ドアの向こうから御堂の声が聞こえてくる。それは課長代理としての、御堂の話し方……「御堂さん……すみませんでした。席に戻りましょう、横井さん」 鍵を開けて御堂に頭を下げると、横井さんと一緒に朝礼に参加する。朝礼中も御堂が私をジッと見ている、いつもの鋭い視線を感じるから。 ……彼はきっとこの後で、横井さんと二人で何をしていたのかを問い詰めてくるだろう。 横井さんは絶対に御堂に相談するべきだというけれど、私はそんな風に都合よく彼に頼っていいのかと迷っていた。 
last updateLast Updated : 2025-07-12
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守りたいんだ 4

「ちょっといいかな、長松《ながまつ》さん? ここに書いている資料を使いたいんだ、悪いけど資料室から探してきてもらえないか?」 御堂《みどう》から渡されてメモには、普段使わないような資料がいくつか書かれている。これは、他の社員には頼みにくいわね。「御堂さん、この資料は急ぎで必要ですか?」 「出来るだけ早く頼みたい。俺はここに来たばかりであまり分からなくて、悪いね」 そう申し訳なさそうに言う御堂。私と二人きりの時はそんな顔は見せないくせに……本当に会社では人の良い課長代理、なのよね。「そうですか、分かりました。丁度きりの良い所まで終わったので、今から探してきます」 メモを持って立ち上がり、隣の席の横井《よこい》さんに資料室に行ってくると告げる。  資料室はあまり大きくないし、普段人があまり入らないから埃っぽい。資料を探す間だけでも空気の入れ替えをしようと思いカーテンと窓を開けていると、後ろでドアの開く音がする。  珍しい、他に誰か何かを探しに来たのかしら? そう思って振り返ると、そこに立っていたのは鋭い目付きをした御堂で……「どうしたんですか? 資料ならこれから探すところですけど」 嫌な雰囲気を感じ御堂から一歩下がってそう言うと、彼は後ろ手でドアの鍵を閉める。そんな事をしなくても、御堂がそこに立っているから私は逃げたり出来ないわよ。「紗綾《さや》、俺が何を言いたいかお前はすでに分かっているだろう?」 ……ああ。私をここに来させた理由は、やはり資料だけでは無かったのね。分かってはいたけれど、まだ誤魔化す方法が思いついてなかったのに。
last updateLast Updated : 2025-07-13
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守りたいんだ 5

 だからと言ってダンマリを決め込めば、御堂《みどう》は強引に口を割らせようとするだろう。それも困るので、申し訳ないが横井《よこい》さんを口実にさせてもらうしかない。「なにかしら? さっき横井さんと一緒にいたことなら、ちょっと彼女に頼まれて恋愛相談に乗っていただけ――」 「嘘をつくときだけ早口になる癖、変わってないな。朝からお前の様子がおかしい事に、俺が気付かないとでも思っているのか?」 嘘をつくとき早口になる? そんな事、今まで誰にも指摘されたこと無いのに。そんな子供の頃からの癖まで、貴方は憶えているの?「私の様子がおかしかったら何だっていうの? それが御堂に何の関係があるのかしら」 ……もし嫌がらせが御堂が関係しているのなら、こうやって話しているのも危ないのに。私だけならともかく、このままでは御堂まで嫌がらせを受けるかもしれない。  それもあって、私はわざと御堂を突き放すような言い方をする。「関係ならあるだろ、俺は紗綾《さや》の上司で幼馴染だ。それに紗綾は俺にとってお前は特別な女性でもある。そんな相手の様子がおかしいのを放っておけなくて、いったい何が悪い?」 確かに御堂は上司で……大事な幼馴染よ。だから貴方までこの問題に巻き込みたくないんじゃない。「御堂は……そうやって私の事を何でも聞きだしてどうしたいの? そうする事で、私の全てを支配すれば気が済むとでも?」 心配してくれている彼に対して、酷い言葉を言ってることはちゃんと分かってる。だけど――「違う、支配したいとかじゃない。俺は紗綾を守れる立場の人間になりたいんだ」
last updateLast Updated : 2025-07-13
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守りたいんだ 6

「守りたい……? 私なんかを、どうして?」 「紗綾《さや》、お前は俺に何度も同じことを言わせたいんだな。好きな女性が困っているから力になりたい、理由なんてそれで十分だろうが」 御堂《みどう》の言葉はいつも少しの迷いもない、いつもうだうだと迷っている私とは違う。彼の中で優先順位がはっきりしていて、その上位に私が入っているという事なんでしょうけれど……「もし、私が困っている原因が貴方だとしたらどうするの? 私の前からいなくなってでもしてくれるの?」 本当はそんな事望んでいないけれど、私の問いに御堂がどう答えるのか知りたかった。気持ちに応えようとしないのに、駆け引きだけをしたがるなんて。  狡すぎる自分に呆れながらも、それでも聞きたいのはどうしてなのか。「……それは出来ない相談だな。何を言われようと俺は紗綾から離れる気はない、別の方法を探すだけだ」 ほらね、貴方はそういう人だもの。  私は彼まで嫌がらせを受けるのならばお互い離れた方が良いって考えるけれど、御堂はそうじゃない。「じゃあ言わせてもらうけれど、私だって御堂を守りたいのよ?」 「それは有り難いが、それで紗綾が辛い思いをしては意味がない。そうだろ?」 それって全部、貴方が勝手に思ってる事だけれどね? でもこんな風に私を甘やかしてくれる存在は、今までいなかったから。「……本当に頼っちゃっていいの?」 「ああ、むしろ俺だけを頼ってくれるともっと良い」 もう! そんな風にあからさまな独占欲ばかりみせようとしないでよ。今の私は誰のモノでもないのだから。
last updateLast Updated : 2025-07-13
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守りたいんだ 7

「……ふうん。じゃあ、もし私が御堂《みどう》じゃなく他の人を頼ったらどうするつもり?」 「ほう? そんな事が出来るのか、人の事ばかりを気にしてしまうお前に」 少しくらい御堂を困らせてやろうと思ったのに、彼は私の事を理解しすぎてて……  再会してたった数日しかたっていないのに、彼はこの会社で誰よりも私を知っている男になっている。「嫌な言い方ね、御堂が嫉妬したら面倒そうだから止めておくことにする」 「それが正解だ。……で、紗綾《さや》はアイツらにいったい何をされたんだ?」 御堂は私の嫌味をあっさりと流して、さっさと本題に入る。ちょっと待って、御堂は今「アイツら」って言わなかった?「その言い方だと御堂、貴方は犯人が誰だか知っているの?」 「悪いが俺の質問が先だ。紗綾、お前はアイツらに何をされた?」 さっきより少し低い声でもう一度同じ質問をしてくる御堂。もしかして、凄く怒っているの?「……ちょっとお気に入りのボールペンをゴミに捨てられていただけ。それだけだからそんなに怒らないでよ」 「そうか……」 大したことじゃないって言ってるのに、私の話を聞いた御堂の目付きは鋭くて。このまま御堂に任せてしまっていいのかと不安になる。「ねえ、犯人を教えてくれたら私自分で何とかするけど……?」 「駄目だ、紗綾に何かあったら俺は手加減出来なくなる。それが嫌ならば、お前は大人しくしていろ」
last updateLast Updated : 2025-07-13
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守りたいんだ 8

 そんな事言ったって……少し嫌がらせされたくらいで、貴方はその女子社員達に無茶しそうじゃない。「でも、これは私の問題なのよ? だから……」「つまり紗綾《さや》は今回の事を俺だけで決着をつけるのは納得出来ない、という事か?」 私の意見を聞くと、御堂《みどう》は顎に手を当てて何かを思案している様子。その事に私はちょっとだけホッとした。「私はその……御堂と自分が少し距離をとるのが良いかと思ったんだけど」 これは私だけで考えたこと、だけど私の言葉を聞く御堂の顔はすぐに険しくなってしまう。 こういう時だけ分かりやすいのは、どうかと思うわ。「却下だな……紗綾はそれを俺が納得すると思って言っているのか?」 そりゃあ、貴方が納得するとは思ってないわよ。だけど、私にはこんな方法しか思い浮かばなかったのだし。「じゃあ、御堂はどういう方法を考えてるって言うのよ?」 あれだけ自信ありそうに守ると言ったのだから、よほど良い案があるんでしょう? それならば、聞かせてもらおうじゃない。「そうだな……一つ目の方法は、俺がアイツらに本性でも見せて脅してみるとか?」「そ、そんなことして良いわけないでしょうっ⁉」 御堂はそう言って笑うけれど、とてもじゃないが私は笑えない。私が頼んだ事とはいえ、この人にそんな事をさせられるわけがない。 課長代理として頑張っている御堂だからこそ、そんな彼の立場を私のせいで壊すような事はして欲しくない。
last updateLast Updated : 2025-07-14
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