哲郎が蒼空を見る眼差しは、さらに複雑なものになっていた。もともと彼は、遥樹と蒼空の関係など所詮は若気の至り、遊び半分の恋愛にすぎないと思っていた。今日は愛を誓い合っていても、明日には喧嘩別れしていてもおかしくない――その程度のものだと。だが、会社で働く遥樹の様子を見る限り、彼には日下家へ頭を下げるつもりなど微塵もなかった。それどころか、本気そのものだった。哲郎は胸の内で小さくため息をつく。遥樹の性格とやり方を考えれば、ここまでやるということは、完全に蒼空を選び取ったということだ。それが、哲郎の考えを変えた理由の一つだった。そしてもう一つの理由も、やはり遥樹自身にある。遥樹は長年、会社経営には関わってこなかった。本格的に会社へ入ったのは、ここ数か月のことだ。時友家の事業は全国でも指折りの規模を誇る。だからこそ哲郎は、これほど巨大な家業を遥樹が本当に支えられるのか、不安だった。それで日下家との縁談を進め、遥樹の基盤をより強固なものにしたかったのだ。だがチャリティーディナーの件が起きた後、日下家は一方的に、時友家との未完了の協力案件を打ち切った。その影響で時友家が揺らぐほどではなかったが、それでも決して軽い痛手ではない。ところが遥樹は、この数日ずっと会社に詰め、騒動の最中でも表情一つ変えず、淡々と物事を処理していった。複数の企業トップと立て続けに連絡を取り、わずか数日で、日下家が抜けた穴を埋める目処まで立ててしまった。社内運営も安定したままだ。驚いたのは哲郎だけではない。これまで遥樹の能力に不満や疑念を抱いていた取締役たちまで、彼を見直し始めていた。遥樹の才能は、すでに誰の目にも明らかになっていた。そして彼は、その行動で哲郎に示していたのだ。――日下家の後ろ盾などなくても、やっていける。今回の件を経て、哲郎も認めざるを得なかった。自分は遥樹を見くびっていた。そして、遥樹の蒼空への想いも。哲郎は昔から、この孫を大切にしてきた。遥樹には能力があり、蒼空への気持ちも揺るがない。ならば、自分に反対する理由など、もう残っていない。あとは蒼空が、自分側の問題をきちんと片づけられるかどうか。それさえできれば、哲郎も認めるつもりだった。哲郎は蒼空を見つめた。
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