道中、彼女の乗ったタクシーは一台のごく普通のワゴン車に行く手を塞がれた。蒼空は目の前の車を見つめながら、胸の奥に不吉な予感が広がるのを感じていた。周囲はひっそりとして人通りも車通りもない。そのワゴン車はずっと後ろから彼らの後をつけてきていたのだ。タクシー運転手は最初こそ勢いよく罵声を浴びせた。「どこの野郎がこんなとこに止めてんだ!」だが次の瞬間、ワゴン車から黒いスーツを着た三人のボディーガードが降り立つと、運転手の口はぴたりと閉じられた。蒼空は力が抜けたようにシートにもたれかかる。その三人の中に、見覚えのある顔があった。敬一郎の側に仕えているボディーガードだ。それを見た瞬間、蒼空は悟った。この件は、もう追及することはできない。少なくとも、今は。運転席の男が震えているのを横目に、蒼空はシートベルトを外し、コンソールに現金を置いた。「巻き込んですみません......ここで降りるので」車を降りた途端、ボディーガードたちが彼女の前に立ちふさがる。頭を下げながらも、声音は冷ややかだった。「関水さん、じい様が一度お戻りになるようお呼びです」蒼空は彼らを素通りし、そのままワゴン車に乗り込んだ。松木家。「優奈のしたことは、もう聞いた。辛い思いをさせたな」そう言いながらも、敬一郎の顔には罪悪感の色はなかった。まるで事務的に指示を出しているような落ち着いた表情だった。「怪我もしているだろう。私の名義の病院へ行け。専門医を付けてやる。必要なものがあれば言いなさい。できる限り用意する」濁った眼差しに、しかし圧力は少しも欠けていなかった。「何があっても身内だ。優奈のことも大目に見てやれ。甘やかして育てたせいで、少しわがままになっただけだ。警察の件も、もう行かなくていい。こちらで片付けておいた」蒼空は黙って聞いていた。胸が詰まり、呼吸さえ苦しい。震える両手を必死で押さえ込む。片付ける?どうやって?つまり、被害者である自分に黙れと言うのだ。彼らにとっては取るに足らないものを、恩着せがましく施してやるという形で。自分に、何ができるというのだろう。敬一郎は膝を軽く叩きながら言う。「お前も母親や自分の将来のことをよく考えなさい。松木家に寄り添えるのは、誰も
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