All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1671 - Chapter 1680

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第1671話

穏やかに見えた提携関係の裏では、すでに激しい駆け引きが繰り広げられていた。海上では。白いヨットが紺碧の海を滑るように進んでいた。船内の会議室には、穏やかなBGMが静かに流れていた。エリアスは真衣の向かいに座っていた。彼は穏やかな笑みを浮かべ、紳士的に振る舞い、辺りには和やかな雰囲気が漂っていた。テーブルの上に置かれた書類は、すでに最後のページに達していた。「寺原さん」エリアスは言った。「こちらの材料についても、もう確認済みですよね。最初のロットが問題なく納品されれば、その後は長期的に安定した供給が可能となり、生産能力の拡大も見込めます」真衣は穏やかな表情で言った。「エリアスさんの誠意は、十分に伝わりました。短期間の提携関係であれば問題ありません。少しずつ擦り合わせていきましょう」「短期だけですか?」エリアスは笑顔で言った。「寺原さん、私はあなたと長期的に、排他的な提携関係を築きたいと思っています」真衣はすぐには返事をせず、ただ静かに彼を見つめた。「あなたが以前から海外市場の拡大を考えておられたことは、承知しています」エリアスは真衣の心中を見透かしたように言った。「あなたには技術も、リソースも、評判もある。足りないのは、安全で、安定した、頼れる海外拠点だけ。そして私が、その拠点を提供できる」エリアスは前のめりになり、声を落として、誘惑するように言った。「私と組めば、誰の顔色もうかがう必要はなく、地元の争いに巻き込まれることもない。共に技術を確立し、市場を拡大し、どこへ行っても、双方がウィンウィンの関係ですよ」真衣はわずかに指先を動かした。彼の話は、あまりにもできすぎている。単なるビジネスマンが口にする言葉とは思えない。「技術を共有し、ビジネスを拡大することは、皆にとっていいことです」エリアスは笑みを浮かべていたが、瞳にはどこか異様な確信が宿っていた。「さらに大きな視点で言えば――技術が通じ、情報が通じ、人心が通じれば、世界平和も決して不可能なことではない」真衣の表情が、微かにこわばった。海外の実業家が発する言葉としては、あまりにも唐突で、重みがあった。真衣は、変わらず微笑んで頷いたが、口を緩めることはなかった。「エリアスさんは、先見の明をお持ちなのですね。提携の件につい
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第1672話

真衣は向きを変えて会議室を出ると、ドアを静かに閉めた。浮かんでいた穏やかな笑みが、少しずつ薄れていった。彼女は左右にそっと目を走らせながら、静かな廊下を歩いた。廊下に、礼央が手配した人員を二、三人確認でき、彼らは何事もないように巡回していた。廊下の窓際にもたれていた亮太は、真衣を見ると頷き――安全であることを暗に知らせた。真衣は休憩室に入り、ドアに鍵をかけた。部屋は広くはないが、整然として居心地が良かった。真衣は、まずコンセント、スタンドライト、置物、電話を調べ、異常がないことを確認すると、ようやく少し安堵の息をついた。ベッドの傍に近づいた時、携帯が振動した。画面に名前が表示された。礼央。真衣の胸が痛んだ。彼女は、このような得たいの知れない場所で、決して気を緩めてはならないと心得ていた。盗聴、GPS、録音……一つでもミスがあれば、すべてを危険に巻き込む可能性がある。真衣は深呼吸し、努めて穏やかな声で電話に出た。「もしもし」「今どこにいる?」受話器から穏やかな礼央の声が聞こえた。「ヨットの上よ、さっき話し合いが終わったところ」真衣は続けた。「風も穏やかで、大きな揺れはないわ」風も穏やかで、大きな揺れはない。その言葉で、真衣は安全であることを暗に示し、礼央もそれを理解した。電話の向こうで礼央は少しの間沈黙し、淡々と言った。「疲れてないか?」「大丈夫、それほど疲れてないわ」真衣は続けた。「材料に問題もなく、すべて順調よ」貨物は正常、人員も自分も安全。「千咲は?」彼女は何気なく話題を変えた。「ちゃんとご飯を食べてる?」礼央はすぐに理解した。真衣は、周りに盗聴器はないため日常会話をしても支障はないが、宗一郎などについては口にすべきではないと暗に示している。「少し騒いでいたけど、もう寝かしつけたよ」彼の声は柔らかくなった。「君は自分のことに集中して。家のことは心配しなくていい」「ありがとう」真衣は頷いた。「また帰ってからゆっくり話そう」「ああ」礼央も頷いた。「道中気をつけて。何かあったら、すぐ連絡してくれ」「うん」真衣は声を潜めた。「じゃあ、そろそろ切るわね」「ああ」電話が切れた。真衣は携帯を握りしめ、ゆっくりとベッドにもたれ、長く息を吐いた。心は、落
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第1673話

「エリアスは、一体何者なんでしょう?」時正が言った。礼央は少し沈黙した後、淡々と言った。「表向きは海外の事業家だが、その素性は……まだ調査中だ。ただ、一つだけはっきりしていることがある――彼と山口社長には、面識がある」時正の表情が険しくなった。「それを知っていて、寺原さんを行かせたのですか?」「蛇をおびき寄せるためだ」礼央は時正を見て言った。「こちらから動かなければ、山口社長は決して姿を現さない。真衣を表舞台に立てば、彼はきっと本性を露にする」「彼女をおとりに?」「ああ」礼央はあっさりと認めた。「ただ、俺は命懸けで、そのおとりを連れ戻す」時正は、黙ったまま、礼央の瞳を見つめていた。彼は悟った。礼央は決して、動揺していないわけではない。彼は動揺を胸に押し込め、入念な計画や警戒、伏線に切り変えていたのだ。海の上、ヨットは穏やかに航路を進んでいた。しかし水面下では、一触即発の緊張感が渦巻いていた。真衣は静かに座り、指先でそっと携帯の画面を撫でていた。岸辺で礼央と時正が自分の身を案じていることや、この提携関係の背後に、どれほどの生死がかかっているのかを彼女は知らなかった。ただ分かっているのは――このヨットに乗ったことは、決して無駄ではなかった、ということだ。-次第に、空が暮れていった。空が暗くなるにつれ、海風は湿り気と冷たさを増し、船体に打ち寄せる波音が、海域全体をいっそう静寂に包み込んでいた。遠くには、数隻の貨物船がゆっくりと航行していた。貨物船の灯りは小さく、夜の闇に溶け込むように、微かに明滅していた。その中の一隻が、礼央の手配した貨物船であることなど、誰も想像できないだろう。彼は敢えて、護衛船を使って警戒するような、派手な手段を取らなかった。海上においては、目立たないことこそが最も安全な接近方法だといえる。礼央は着替えを済ませ、全身黒色の衣服を身に纏い、貨物船のデッキの暗がりから、鋭い目で遠くを航行するヨットを見つめた。礼央はまるで、獲物を待ち構えるように、微動だにせず、遠くから次第に近づいてくるヨットから目を離さなかった。「礼央さん、まもなくです」傍で部下が伝えた。「ヨットの速度は安定しており、警備の巡回ルートも把握済みです。三分後、死角が生じた隙に乗
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第1674話

時正は、指先にわずかに力を込めた。彼は礼央の言う通りだと、認めざるを得なかった。今の状態では、戦うどころか、少し動くだけで傷口が裂け、出血する可能性がある。礼央は時正を見て、口調を和らげた。「海上では、逃げ場はほとんど確保されていない」「俺には、真衣と君の安全を守る責任がある。君は貨物船に残り、退路を守っていてくれ」そう言うと、礼央はゴムボートの操縦者に合図した。ゴムボートは影のように、音もなくヨットの方へ向かった。時正はその場に立ち尽くし、ゴムボートを静かに見つめた。彼はゆっくりと目を閉じ、心に渦巻く焦燥感を押し殺した。礼央を信じるしかない。信じなければならない。ヨット内部には、穏やかな空気が流れていた。柔らかな照明に照らされた船内には、BGMが静かに流れていた。礼央が手配したクルーたちは連携し、巡回の視線を逸らしながら、監視の死角を広げていた。ゴムボートがヨットの乗船口に停まった。礼央は、物音を立てることなく、ヨットのデッキに移った。彼は静かに廊下の影に身を潜めた。亮太が物影に気付き、こちらを見たが、それが礼央だと気づくと、彼はさりげなく視線を背けた。亮太以外、誰も礼央に気付かなかった。誰一人として。礼央は、真衣のいる部屋へ向かった。彼はすでに船内のレイアウトを把握していた。礼央は、真衣の部屋の前に来ると、周囲に誰もいないことを確認し、鍵をこじ開けた。鍵が「カチッ」と音を立て、ドアが開いた。礼央は部屋に入ると、そっと鍵をかけた。一連の動作は素早く、風のように静かだった。部屋には、小さなランプが一つ灯っているだけだった。真衣はベッドに横たわっていたが、熟睡してはいなかった。エリアスの過剰な親切や大袈裟な言葉が頭から離れず、不安が募るばかりで、浅い眠りからすぐに目が覚めてしまうのだ。ぼんやりとした意識の中、微かにドアの開く音が聞こえた。その瞬間、心臓が激しく鼓動した。誰かいる。真衣は身体をこわばらせ、そっと手を枕の下に伸ばした――彼女は、枕の下に礼央から渡されたナイフを忍ばせていた。真衣は、静かに横たわったまま、耳を澄ました。近づいて来る足音には、慌てた様子はなく、ゆっくりとした、落ち着きのある足取りだった。薄暗い部屋の中、見慣
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第1675話

礼央は、片手を真衣の腰に、もう片方の手を彼女の首筋を守るように当てながら、力強く自分の胸へと引き寄せた。「俺がついてる」礼央はうつむき、低くかすれた声で、真衣の耳元で囁いた。「大丈夫、心配ない」真衣は顔を礼央の首筋に埋め、彼の匂いを深く吸い込んだ。一晩中、張り詰めていた気持ちが、この瞬間に少しずつ崩れ落ちていった。残ったのは、恐怖と依存心だけだった。「どうしてここに……?」真衣は震える声で言った。「こんな危険な船に、乗り込んでくるなんて……」「心配だったから」礼央は言った。「お前がヨットに乗ってから、ずっと落ち着かなくて。怖くて、仕方なかったんだ」礼央は、「怖い」などという言葉を口にするような男ではなかった。しかし、真衣の前では、彼は飾らない、素直な自分でいられた。「海は陸地とは違って、何かあっても、助けを求める相手がいない。どれだけ人を手配しても、お前の傍にいられなければ、俺は安心できない」真衣は胸が熱くなり、そっと「うん」と呟いた。「心配しないで、私は大丈夫だから」真衣は言った。「ここは安全だし、あなたが手配してくれた人たちも、後藤さんだっていてくれる。エリアスさんとも、仕事の話をしただけよ」エリアスの名を聞いて、礼央は表情を曇らせた。「彼、焦ってたみたい」真衣は声を潜めた。「提携の話の後、長期的な提携や独占契約を急いで進めようとしてた。さらに、話題を技術の共有や海外市場、世界平和にまで広げて……スケールが大きすぎるし、焦りすぎている。普通の実業家とは思えないわ」礼央は眉をひそめた。「なぜそんなに急ぐ必要がある」彼は独り言のように呟いた。「わからない」真衣は首を振った。「でも感じるの。彼は、できるだけ早く、私たちと独占契約を結びたがってる。遅れを取れば、何かが起こりそうな気がするの」礼央は真衣の頬を撫でて言った。「よくやった。承諾せず、関係を維持できている」「ただ、違和感を感じるの」真衣は声を潜めた。「今回の旅に、何か裏があるような気がして」「確かに単純じゃなさそうだ」礼央も声を潜めた。「でも心配ない、俺がついてる。要所には俺の部下がいて、安全ルートや緊急時の対応策、避難経路も全て整っている」礼央は、真剣な眼差しで言った。「ドアに鍵をかけて、俺が戻るまで部屋にいろ
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第1676話

「でも……」真衣は心配そうに礼央の手を掴んだ。「あなた一人じゃ危険すぎる。もし見つかったら……」「見つからない」礼央は自分の手を彼女の手に重ねて言った。「ここで、俺を見つけられる者はいない。俺を信じてくれ」礼央の眼差しは穏やかで力強く、真衣の心の中の不安は嘘のように消えていった。真衣は礼央を見つめ、そっと頷いて言った。「早く戻って来てね、待ってるから」「わかった」礼央は真衣の頬にキスをした。「必ず戻る、待っててくれ」彼はドアの隙間から、外に誰もいないことを確認すると、素早く飛び出し、ドアを閉めた。部屋は、再び静けさに包まれた。指先にはまだ彼の温もりが残っており、真衣はようやく心から落ち着くことができた。礼央がいれば、何も怖くない。礼央は、廊下の影に身を潜め、主要なルートを避け、壁沿いや非常口、機材室を通り、少しずつ進んでいった。礼央はヨット内の構造図を暗記しており、扉や身を潜められそうな場所まで、すべてを詳細に把握していた。彼はまず会議室へ向かった。エリアスはもうおらず、部屋には微かな香水の香りだけが残っていた。礼央はテーブル、床、コンセント、照明器具、通気口を素早く点検したが、盗聴器やGPS、爆発物は見つからなかった。続いて厨房、倉庫、クルーの休憩室を調べた。礼央の部下たちは、皆彼に協力し、目くばせして安全であることを伝えた。彼はそのまま、最下層の倉庫へと進んだ。機関室の設備は正常に作動しており、どこにも細工された形跡はなかった。倉庫には雑貨や予備物資が積み上げられており、整然としていて不審な物はなかった。非常口、救命ボート、非常用設備はすべて正常に機能しており、いつでも使用可能だった。彼は、静かに船の外周を確認した。防犯カメラ、サーチライト、巡回ルート、そのすべてが彼の監視下にある。すべてを調べ終えた頃には、すでに三十分余り経過していた。結果は部下の報告と全く同じだった――船内は清潔で、潜伏者や爆発物の仕掛けもなく安全だった。礼央は最上層デッキの影に立ち、漆黒の海を見つめ、ほっと安堵の息をついた。宗一郎は、まだ手を出す気はないようだ。或いは、まだその時期ではないというべきか。エリアスの異変は、まるで問題が起きることを知った上で、その前に提携を結ぼうと、
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第1677話

礼央は最愛の人を胸に抱き、一晩中張り詰めていた心の弦が、完全に緩んでいくのを感じた。「眠って」彼は優しく言った。「私がずっと傍にいる、どこへも行かないから」「本当に?」真衣は顔を上げて彼を見た。「ああ」礼央は静かに言った。「今夜は、俺がお前を守る」真衣は微笑み、安心したように目を閉じ、礼央の胸に寄り添った。-翌日。朝もやが海面に漂っていた。ヨットは国境の岸辺に到着した。ヨットは誘導艇に導かれ、ゆっくりと桟橋に近づいていった。国境に位置するこの場所は、管理が緩く、貨物船や個人が所有する船舶が混在している。一見何気ない光景が広がっているが、実際はさまざまな勢力が交錯する場所なのだ。ヨットが岸辺に着くと、ロープでしっかりと固定された。デッキに立つ真衣の髪を、海風が優しく揺らしていた。彼女は薄いグレーのスーツを身に纏い、上品な薄化粧を施し、昨夜の出来事を感じさせない、落ち着いた表情をしていた。周囲にいる大半のクルーが礼央の部下なのだということを、真衣だけが知っていた。亮太も真衣から離れず見張りを続けており、ヨット全体が、まさに礼央の支配下にあった。エリアスは舷側に立っていた。朝日が彼の美しい金色の髪に反射し、彼は穏やかな笑みを浮かべ、不自然な点は見当たらなかった。「寺原さん、昨夜はよく眠れましたか?」彼は自然な口調で話しかけた。「ええ、ありがとうございます」真衣は軽く頷いた。「とても快適で、ぐっすり眠れました」二人は、ごく普通のビジネスパートナーのように、さりげなく挨拶を交わした。下船手続きはスムーズに進んだ。税関と入国審査官による定例検査が滞りなく行われた。これも、礼央の部下たちが事前に手配を進めていたのだ。岸辺には、すでに原材料を輸送するための専用車両が数台停車していた。エリアスは手を挙げて合図した。「寺原さん、材料の確認に行きましょう。取り決めに従い、数量確認、照合、抜き取り検査を行い、問題がなければ正式に契約を締結できます」「はい」真衣は頷いた。一行はトラックの傍らまで歩き、作業員がコンテナの後部ドアを開けた。コンテナ内には密閉された木箱が整然と積み上げられ、防湿、耐衝撃、開封防止対策が施されており、各箱に貼られた専用ラベルは、契約書のリストと完全に一致してい
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第1678話

彼は、最近時正や礼央らが巻き込まれた騒動がいかに危険なものかをよく理解していた。ましてや、管理の緩い国境地帯で何かあれば、取返しのつかない事態になり兼ねない。「すべて順調です」真衣は落ち着いた声で伝えた。「今検品中で、すべて順調に進んでいますよ。貨物のロット、純度、数量も書類通りです。エリアスさんの方も、怪しいところは見られず、関係は良好です」真衣は安浩に余計な心配をかけまいと、礼央が昨夜来たことや、漠然とした不安を感じていることには触れなかった。「本当に大丈夫なんだね?」安浩はまだ心配そうだった。「ええ」真衣は口元を緩めた。「礼央がちゃんと手配してくれているので。安全に過ごせているので、安心して下さい。契約の手続きを終えたら、すぐに戻ります」安浩は小さくため息をついた。「くれぐれも気を付けるんだよ。何かあればすぐに電話して。こちらは、いつでも待機しているから」「わかりました」真衣は電話を切り、携帯をしまうと、検品現場へ戻った。ちょうどエリアスが視線を向け、穏やかに微笑んだ。「会社からの状況確認ですか?」「ええ、同僚が進捗を気にかけていて」真衣は淡々と応じた。「なるほど」エリアスは軽く笑った。「大規模な取引ですからね」検品はすぐに終わり、全てのデータが基準を満たしており、何も問題はなかった。作業員がトラックを再び施錠し、次の輸送手配を待った。エリアスは真衣に言った。「寺原さん、貨物に問題はないようなので、契約の詳細について話し合う時間を設けましょう。ただ一つだけ、先にお伝えしておきたいことがあります」「どうぞ」「さらに重要な材料が、明日の朝入港します」エリアスが続けた。「その材料は、今後のプロジェクトの中核となるものなんです。そこで提案なのですが、我々は今日ここで一泊し、明日貨物が到着してから一緒に検品を終えた上で契約書をまとめ、締結しませんか?」真衣の瞳が微かに動いた。やはり、そう簡単に終わるはずがない。彼女は表情を変えず頷いた。「構いません。では、私はこの近くで宿泊します」「宿泊先は、すでに手配済みです」エリアスがすぐに答えた。「この近くのホテルで、セキュリティも万全です。寺原さんには安心して滞在していただけますよ」彼はまるで、初めから計画していたかのように、自然
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第1679話

車の後部座席には、礼央が座っていた。彼はすでに普段着に着替えており、昨夜の鋭い気配はすっかり消え、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。「ホテルに泊まらないのか?」礼央が尋ねた。「ええ」真衣は車に乗り、長く息を吐いた。「一見、何の変哲もないホテルだけど、盗聴器やカメラが仕掛けられているかもしれない。誰かの監視下で過ごす気にはなれないから」礼央は真衣の手を握って言った。「確かにそうだな。近くに別の部屋を用意してある。目立たず、安全で、誰にも知られていない」彼は最初から、真衣がエリアスが手配した場所に泊まるのを嫌がると予想していた。車は静かに発進し、数ブロック先の目立たないビジネスホテルの前で停車した。受付でのチェックインは必要なく、内部の専用通路から直接部屋へ上がった。部屋は防音性に優れ、眺めもよかった。裏口は避難階段に直結し、いつでも脱出できる。ドアに鍵をかけると、真衣は張り詰めていた緊張が一気に解れ、礼央の胸に飛び込んだ。「本当は、とても怖かったの。エリアスさんの話は完璧だったし、材料も問題はなかった。私たちの考えすぎなのかもしれないと錯覚したぐらいに」「過度な正常は、却って不自然だ」礼央は言った。「彼がお前に泊まることを急かしてきたのには、必ず何か理由があるに違いない」「彼は明日、別の材料が届くと言っていたけど」真衣は顔を上げた。「届くのは、本当に材料なのかしら?」礼央は、暗い表情で沈黙した。「国境地帯には、裏の顔がある。エリアスは、表向きはまっとうな実業家だが、裏がないとは言い切れない」礼央は真衣から離れ、窓辺へ歩み寄ると、カーテンの隙間から階下の通りを見下ろした。「さっき、部下に探らせんだが」彼は続けた。「この近くに、ラウンジバーがある。表向きはごく普通のナイトクラブだが、裏ではグレーゾーンのビジネス――情報、人脈、闇市取引を行っているらしい……」真衣は胸を締め付けられる思いがした。「エリアスも関係しているの?」「ああ」礼央は頷いた。「部下から報告が上がっている。エリアスの部下が、最近そこに頻繁に出入りしているらしい。しかも、すべて夜間にだ」真衣はすぐに悟った。「あなた、行くつもりなのね?」「ああ」礼央は真衣を見つめた。「彼がお前を泊まらせようとしたのには、きっと何か目的があるから
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第1680話

二時間後、国境の小さな町は夜の闇に包まれた。薄暗い明かりの灯る路地には、様々な訛りのある言葉が行き交っていった。礼央は変装した。彼はゆったりとしたスウェット姿で、フードを深くかぶり、顔を覆い隠していた。さらに、顔を目立たせないよう、付け髭を貼り付け、肌の色を黒くし、夜の街をさまようあぶれ者のふりをした。歩き方や眼差し、気配を変えた。誰も、彼を気に掛けなかった。礼央はホテルを後にし、人混みに紛れながら、ラウンジバーへと向かった。目的地に近づくほど、周囲の気配は複雑になっていく。入口にはネオンの光がきらめき、様々な車が停まり、笑い声や歌声が混ざり合っていた。一見華やかに見えるが、誰もが警戒しながら辺りを見渡していた。礼央はうつむき、両手をポケットに入れ、人混みに紛れながら、ゆっくりと中へ入った。ラウンジバーの中は薄暗く、音楽が大音量で流れ、煙が立ち込めていた。ホール、ダンスフロア、ボックス席、カウンター、至る所が人でごった返していた。辺りには、酒、香水、タバコ、そしてグレーゾーン特有の陰湿な気配が微かに漂っていた。礼央は立ち止まらず、人目につかない奥の方へ向かった。奥へ進むほど、人は少なくなり、静かになったが、その分危険は増していく。ここが、裏取引の場だ。礼央は事前に調べた経路を頼りに、警備を避けながら、廊下の角に立ち止まった。彼は重い眼差しで、辺りを見渡した。しばらくすると、数人の人影が反対側の廊下から歩いてきた。先頭に立つ金髪の男は背筋を伸ばして颯爽と歩き、辺りには暗く沈んだ雰囲気が漂っていた。その男は――エリアスだった。彼の傍には、身体つきのいい、凶暴な面持ちのボディガードが数名ついていた。エリアスは最奥のドア前で立ち止まり、周囲を確認すると、そっとドアをノックした。ドアの向こうから微かに声がすると、ドアがすぐに開いた。ドアの隙間から、ひんやりとした気配が通り過ぎていった。礼央は影に潜み、微動だにせず、ドアの方をじっと見つめた。間違いない。エリアスは、決して気晴らしのためにラウンジバーに来たわけではない。彼は――取引をするためにここに来たのだ。落ち着きのある紳士的な振る舞いや、彼の言っていた言葉は、すべて偽りだった。彼の真の目的は、あの部
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