強引に押し入ってはいけないし、待っていても重要な情報を逃してしまうだけだ。ちょうどその時、慌ただしい足音が反対側から聞こえてきた。黒いベストを着た給仕が、うつむいて早足で近づいてくる。トレイの上にはウイスキーが載っており、エリアスのいる個室へ運ぶものだとわかった。礼央は、瞬時に決断した。彼は音もなく影から踏み出し、偶然を装って、廊下の中央に立ち塞がった。給仕は驚いて、慌てて立ち止まった。「あ、あの……そこを通してもらえますか」礼央は道を譲らず、低くかすれた声で言った。「何をそんなに急いでいる?中にいる客が、酒を交換してほしいと言ってるんだ」給仕はぽかんとした。「酒を、交換する?そんな連絡、受けていませんが――」給仕の言葉が終わらない内に、礼央は彼の脇腹を一突きにした。給仕は痛みに顔を歪めて手を放し、トレイが礼央の方へ滑った。礼央はそれをしっかりと受け止めると、親指で給仕の首筋を軽く突いた。給仕はめまいを起こし、全身の力が抜けてしまった。給仕は目を細め、よろめいた。礼央は手を伸ばして彼を支え、抱きかかえるようにしながら、素早く脇にある物置きに引きずり込んだ。その動きはあまりにも素早く、礼央は物音一つ立てなかったため、誰も気付かなかった。礼央は給仕が短時間の内に目を覚ましそうにないことを確認すると、素早くベストを脱がせ、自分のスウェットの上に引っかけた。サイズは少しきついが、人目を誤魔化すには十分だ。彼は襟を整え、帽子を深くかぶり、トレイを手に取ると、うつむいて腰をかがめ、ただ酒を運ぶことだけに専念する給仕を演じた。彼は肩の力を抜き、歩調を落ち着かせ、その佇まいを一変させた。礼央はトレイを手に、個室に向かった。入口の前で立ち止まると、彼は手を上げ、ドアを三度ノックした。「入れ」中から声が響いた。ドアがわずかに開いた。礼央はうつむいたまま言った。「お酒をお持ちいたしました」ボディガードは彼を上から下まで見つめると、身体をずらして道を譲った。礼央は目を伏せ、トレイを手に中へ進んだ。背後で、ドアがゆっくりと閉まった。室内の照明は暗く、テーブルランプがいくつか灯っているだけだった。エリアスは中央のソファに座っていた。表情は冷たく沈み、昼間の穏やかさはすっかり消
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