火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける のすべてのチャプター: チャプター 1751 - チャプター 1760

1831 チャプター

第1751話

真衣は沙夜を支えて言った。「前もって避難してるかもしれない。先輩は慎重な人だもの」沙夜は、涙を流して首を振った。彼女は誰よりもよくわかっていた。安浩は観測所の内部にいた。突然の爆撃に備える余裕などなかったはずだ。沙夜の頭の中に、次々と恐ろしい光景が浮かんだ。崩れ落ちる建物や燃え盛る残骸、立ち込める硝煙……考えたくないのに、考えずにはいられなかった。安浩は出発の朝、「必ず戻る」と言っていた。彼は優しく、いつも沙夜を守ってくれていた。彼女は、密かに彼を想い始めていたのに……彼の身に、何があったのだろう。遠くで聞こえていた砲撃音が、心なしか近づいてきているように感じた。二人の心とは裏腹に、実験室の灯りが辺りを明るく照らしていた。通信機は沈黙したままだった。GPSの画面も真っ暗なままだった。沈黙が、最悪の事態を告げていた。沙夜は血色を失い、傍にあった椅子に崩れ落ちるように座り、ぼんやりとした虚ろな目で前を見つめた。彼が戻って来てくれるなら、どんな覚悟もできる。彼女は心の中で、何度も祈った。-翌日。夜が明け始めた頃、遠くで響いていた砲撃音はようやくまばらになり、一晩中続いた銃撃戦はひとまず収まったように見えた。しかし、辺りは焦げ臭く、土埃が舞い、風に乗って微かに血の匂いが漂っていた。真衣は臨時指令室で、一睡もせず、目の前のテーブルには、通信機や戦況図が広げられていた。安浩との通信やGPSが途絶えた時から、真衣はずっと気を緩めていなかった。支援部隊と連絡を取って突破口を探り、後方の緊急対応策を調整し、さらに精神的に限界に達している沙夜を支えなければならなかった。沙夜は、一晩中ぼんやりとしていた。まるで、泣かずにいれば、安浩が無事でいていくれると信じるかのように、彼女は込み上げる涙を、必死に堪えていた。沙夜は食事はおろか、水も飲まず、大きく息をすることをも恐れ、耳をずっと通信機に押し当てていた。「安浩さん……」彼女は心の中で何度も呟いた。「お願い、どうか無事でいて……」崩れた瓦礫や、燃え盛る炎を想像すると、沙夜はたまらなく不安になった。ほんの数日前まで、彼は飛行機で彼女を気遣い、部屋ではクラッカーや紅茶を用意し、「何を見てるの?」と優しく尋ねてくれていたのに。あんなに優しく
続きを読む

第1752話

真衣は分かっていた。今、沙夜を一人にしてはおけない。そして、彼女自身も、ここでただ連絡を待っているわけにはいかなかった。「うん、行こう」真衣はためらわず、上着と簡易救急キットを掴んだ。「マスクを着けて。中は粉塵がひどいから。支援部隊の指示に従って、くれぐれも離れないようにね」「わかってる」沙夜は上着をさっと羽織、頬を伝う涙を拭いながら言った。「彼に会いたい、生きていてほしい……」沙夜は、途中で言葉を詰まらせた。二人はすぐに、待機していた車に乗り込んだ。車が爆撃区域に近づくほど、痛ましい光景が視界に入ってきた。爆撃で折れた木々や歪んだ金属片、石や瓦礫があちこちに散乱しており、地面には弾痕が点在し、黒褐色に焼けた大地が広がっていた。辺りには、濃い硝煙の匂いが漂っていた。沙夜は胸が締め付けられたように苦しくなり、張り詰めた表情で、車窓に身を乗り出し、じっと前方を見つめていた。ようやく、車が破壊されたビル――第三観測所の前に停まった。小さな観測所は、すっかり瓦礫の山と化していた。壁が崩れ、鉄筋が剥き出しになっており、小山のように積み上がった瓦礫やコンクリートの塊からは黒い煙塵が立ち上り、時折パチパチという音を立てていた。支援部隊と救助隊員はすでに現場で作業を開始しており、辺りには呼び声や工具の打撃音、無線の通報音が入り混じっていた。「区域ごとに捜索するんだ。特に下層や死角になっているところを重点的に確認してくれ!生存者も、遺体も探すんだ!」隊長が大声で叫んだ。沙夜は足がふらつき、ほとんど立っていられなかった。目の前の光景は、想像をはるかに超えるほど凄惨なものだった。安浩は、こんなところで、どんな風に過ごしていたのだろう。彼はパソコンしか持っていなかったはずだ。重装備もシェルターもない状況で、不測の事態にどう対処したのだろう。「沙夜、落ち着いて」真衣が言った。「救助隊の人たちと、東側を探そう。先輩はきっとどこかに身を潜めているはずよ」沙夜は力強く頷くと、涙を拭い、真衣について瓦礫の上を進んだ。瓦礫の上を進むのは容易ではなかったが、彼女は必死に進み、大声で叫んだ。「安浩さん!安浩さん!どこにいるの――?」沙夜の声は辺りに響き渡っていたが、返事はなかった。救助隊員は測定器を使用し、瓦礫を持
続きを読む

第1753話

その時、救助隊員が突然、大声で叫んだ。「生存者がいます!西側、床板の下です!」全身を震わせながら、ほとんど本能のままに駆け出す沙夜の後に真衣が続いた。傾いた分厚い床板の下に、狭く小さな隙間ができており、落下した瓦礫や衝撃をかろうじて防いでいた。そのわずかな空間に、全身埃と血まみれの人影が、静かにうずくまっているのが見えた。安浩だった。沙夜は息を呑んだ。今まで一度も……これほどまでに弱々しい彼の姿を見たことはなかった。彼はいつも、上品なスーツに身を包み、背筋を伸ばして、落ち着いた表情を浮かべている。しかし今、彼の上着はあちこち破れ、腕や額、頬は傷だらけで、すでにかさぶたになっているものもあった。こめかみには深い傷があり、まだゆっくりと血が流れていた。安浩は目を半開きにし、意識は朦朧としており、呼吸は弱く浅く速く、胸の起伏は目に見えないほど弱まっていた。彼の傍には、サンプルの採集キットとパソコンが置かれていた。パソコンの側面はひび割れていたが、内側は無傷だった。安浩は生きていた。しかし、瀕死の状態だった。沙夜はその場に立ち尽くし、崩れるように泣き叫んだ。彼女は顔を覆い、肩を激しく震わせ、声を押し殺しながら泣きじゃくった。傷ついた安浩の姿を目にすることは、砲火やどんな危険よりも、ずっと恐ろしかった――優しく、いつも彼女を守ってくれる、頼れる彼が、変わり果てた姿で、瓦礫の下に横たわっている。「安浩さん……」沙夜はかすれた声で言った。「どうしてこんなことに……」目の前で、力なく横たわる彼を見て、沙夜は言葉を失った。胸が、締め付けられるように痛んだ。救助隊員が近づき、瓦礫を慎重に取り除きながら、彼を救助する準備に取り掛かった。真衣は、医療チームに連絡を取って、受け入れ準備をするよう指示を出した。沙夜の声を聞いた安浩は、うずくまったまま微かに指先を動かし、苦しそうに顔を歪めながら目を開いた。ぼんやりとした視界の中に、肩を震わせてなきじゃくっている沙夜が見える。崩れるように泣きじゃくる彼女を見て、安浩はひび割れた唇を動かし、かすれた声で、振り絞るように言った。「……泣くなよ」沙夜は振り返り、ぼんやりと彼を見つめた。安浩の呼吸は浅く、苦しそうに顔を歪めていたが、その瞳は
続きを読む

第1754話

医療スタッフは手際よく安浩を担架に固定し、点滴、酸素吸入、簡易止血処置を行った。真衣と沙夜は担架の傍に寄り添い、医療スタッフに続いて救急車に乗り込んだ。沙夜は終始、傍で安浩の手をしっかりと握りしめていた。安浩の意識は朦朧としており、彼は痛みを堪えるように微かに眉をひそめていた。こめかみの傷は応急処置を施していたが、包帯からじんわりと血が滲んでいた。彼の身体には擦り傷や打撲傷が至る所にあり、腕には深い切り傷が一つあった。沙夜は唇を噛みしめ、涙を堪えながら、安浩から目を離さなかった。一度気が緩んでしまえば、二度と自制が効かなくなる、そんな気がしていた。「彼の容体は?命の危険はありませんか?」沙夜は震える声で、医療スタッフの腕を掴んで尋ねた。医療スタッフは点滴の速度を調整しながら静かに答えた。「軽い脳震盪と、身体中に外傷がありますが、命に別状はありませんよ。ただ、衝撃で内臓が傷ついている可能性もあるので、病院で検査を行う必要があります。しかし今は、状態を安定させ、治療することが先決です」「ええ、はい……」沙夜は何度も頷き、視線を安浩の顔に戻すと、指先でそっと彼の頬に付いた汚れを拭った。沙夜は優しく声をかけた。「もう少し我慢してね。もうすぐ安全な場所に着くから」真衣は、沙夜よりも冷静を保っていなければならないと自分に言い聞かせた。今は動揺している場合ではない。安浩が事故に遭っても、前線の任務は中断できない。その後の支援、業務の引き継ぎ、安全対策、それらのすべてを直ちに手配しなければならないのだ。真衣は携帯を素早く操作し、安浩の情報を暗号化して拠点に送信した。また、安浩が最善の治療を受けられるよう、現地の調整部門に連絡し、医療支援を要請した。沙夜は手を伸ばして安浩の身体をしっかりと支え、車内の揺れが彼の傷に障らないように気を配った。彼女の心が自責の念と後悔でいっぱいだった。あの時、彼が何と言おうと自分が同行していれば、こんなことにならなかったのではないか。自分が彼の身代わりになっていれば、彼がここまで苦しむことはなかったのではないか。だが、今更そんなことを考えても仕方がない。今、沙夜にできることは、傍で彼を見守ることだけだった。車はようやく比較的安全な市街地に入り、厳重に警備された臨時
続きを読む

第1755話

沙夜は顔を上げた。「分かってる。本当は、彼の傍を離れたくない……彼が目を覚ますまで。でも、仕事に行かなきゃいけないのよね。途中で任務を投げ出すわけにはいかない。彼の犠牲を無駄にしてはいけないもの」沙夜は、安浩のことが気がかりでならず、本当はベッドから一歩も離れたくなかった。しかし彼女もまた主要メンバーの一人であり、安浩が命がけでサンプルを採集に行ったのは、その後の材料分析とデータ検証のためだ。もし今、やるべきことを怠れば、瓦礫の中で耐え忍び、痛みに耐えて守り抜いた彼の行動やデータが、すべて無駄になってしまう。真衣は言った。「わかってくれてありがとう。まず、隣の仮設オフィスに行って、先輩が持ち帰ったデータと現場の記録を整理しよう。私は国内の本部に連絡をして、現在の進捗や戦区の状況、先輩の負傷について報告し、上層部の指示を仰ぐわ」「わかった」沙夜は涙を拭って立ち上がった。「彼が持ち帰ったデータを整理する。漏れのないように、しっかりとね」二人は安浩が命がけで守った採集キットや暗号化ハードディスク、記録用紙を持ち、隣にある仮設オフィスへと向かった。小さな部屋には、作業を行うには十分な、簡素な机とパソコンが数台置かれていた。沙夜は安浩が持ち帰った採集キットを開け、中のチップを慎重に取り出した。幸いチップは無傷で、前線で採集された航空材料のデータが完全に揃っていた。彼女震える指で、安浩が奔走しながらかき集めたデータをエクスポートし、分類し、照合していった。時折、隣の医療施設から慌ただしいスタッフの足音が聞こえ、そのたびに沙夜の心は締め付けられるように痛んだ。しかし、彼女は決して手を止めず、集中して作業を進めた。早く仕事を終わらせ、彼の傍に戻らなければならない。真衣は、暗号化された通信チャネルを開き、作業状況をアップロードした。彼女はまず、最近の航空材料調査の全体的な進捗状況と、実験室でのテスト結果を整理した。次に、前線で爆撃に遭ったこと、安浩が負傷して連絡が取れなくなったこと、瓦礫の中からの救出に成功した経緯を補足した。さらに戦域の情勢分析と、現在直面している安全リスクの評価を添付した。そして最後に、彼女は申請を行った。【任務地の情勢は悪化の一途をたどり、要員が負傷しました。本部に対し、専門
続きを読む

第1756話

「誰かが引き継いでくれれば、彼に付き添う時間が確保できる」ちょうどその時、救急室の赤いランプが消えた。医師がドアを開けて出てくると、マスクを外し、二人を見た。沙夜は医師に駆け寄って尋ねた。「先生、彼の容体は?意識は戻りましたか?彼は無事ですか?」「手術は無事に終わりました。内出血はなく、傷の状態も安定していますよ」医師は続けた。「ただ、身体が弱り、脳震盪を起こしているので、しばらく経過観察が必要です。問題なければ、明日の朝には目を覚ますでしょう」「安静に療養すれば、大事には至りません」ようやく、胸にのしかかっていた重荷を下ろすことができた。沙夜はほっと安堵の息をつくと、目に涙が込み上げた。真衣も長く深く息を吐き、ここ数日で初めて安堵した表情を浮かべた。「彼に会えますか?」沙夜が尋ねた。「ええ。ただ、彼の休息を妨げないように、お静かにお願いしますね」二人は頷いて礼を言い、そっと病室の扉を押し開けた。安浩は静かにベッドに横たわり、室内には彼の規則正しい呼吸音が響いていた。傷口には処置が施され、手首には点滴針が固定されていた。彼の顔色は、青白いままだったが、先ほどよりもずっと落ち着いているように見えた。沙夜はベッドの傍へ歩み寄り、彼の手を握ると、指先から微かな温もりが伝わってきた。仕事を終え、ようやくこうして彼の傍にいることができる。-翌日。安浩がゆっくりと目を覚ましたのは、空がすっかり明るくなった頃だった。彼は、ゆっくりと目を開けると、まぶしい光に思わず目を細めたが、意識が少しずつはっきりと引き戻されていった。身体にはまだ爆発時の衝撃や、瓦礫の下での鈍い痛み、言いようのないだるさが残っていたが、微かに感じる馴染みのある気配に、張り詰めた神経が緩んでいく感覚を覚えた。沙夜だった。安浩は首を傾けると、ベッドの脇でうつ伏せになって眠っている彼女が目に入った。徹夜で彼に付き添っていた沙夜は、体力が限界に達し、ベッドの脇でうたた寝をしていた。彼女の顔は青白く、苦悩したように眉をひそめていた。目の下には隈が色濃く残り、彼女が一晩中眠れなかったことを物語っていた。安浩は彼女の寝顔を見つめ、胸が締め付けられたように苦しくなった。彼は手を上げて彼女の髪を撫でようとしたが、その途
続きを読む

第1757話

安浩は、目を真っ赤に腫らしている沙夜を見て、優しく微笑み、かすれた声で言った。「もう大丈夫だよ、泣かないで」「泣いてなんかないわ」沙夜は慌てて涙を拭った。「大丈夫なわけないじゃない。先生は、あなたは脳震盪を起こして、身体中に傷があるって仰ってたのよ」「でも、もう大丈夫だ」安浩は優しい口調で続けた。「まだ傷は痛むけど、致命傷じゃないから、数日休めばよくなる。心配をかけて、すまなかった」身体中に重傷を負っているのに、安浩は目を覚まして真っ先に、沙夜に詫びた。痛みを訴えたり、状況を嘆いたりせず、彼は彼女を慰め、心配をかけたと彼女に詫びた。沙夜は心が温かくなり、すすり泣いた。「約束して。もう二度と、一人であんな危険な場所に行かないって。本当に……心配でたまらないの」「わかった」安浩は言った。「もう無理はしない。全部君の言う通りにするよ。二度と君に心配をかけたりしない」彼は元々、身近な人を守ることに慣れていたが、特に沙夜への想いに気づいてからは、全力で彼女を守りたいと願うようになっていた。ただ、今回の任務は特殊で、状況がそれを許さなかった。他に選択肢はなかったのだ。今、目を覚まし、彼女が傍にいるのを見て、安浩はようやく、自分の居場所を見つけたと感じていた。その後も、二人は病室で静かに会話を交わした。一方、仮設のオフィスでは。真衣は、画面に表示された本国本部からの支援受領確認書を見て、増員が明日到着することを確認し、ようやく安堵の息をついた。安浩が意識を取り戻し、仕事の引き継ぎも済んだ今、彼女が最も気にかけていたのは、国境地帯にいる礼央のことだった。彼女は携帯を取り出し、人気のない場所を選んで、番号をダイヤルした。呼び出し音が数回鳴った後、電話が繋がったが、礼央の声には疲れが滲んでいた。背後からは風の唸る音と、微かに無線機の音が聞こえた。「もしもし」「私よ」真衣はそっと口を開き、声を和らげた。「そっちは……大丈夫?」礼央は少し沈黙した後、重々しく口を開いた。「あまり、良いとは言えないな。エリアスはこの世から蒸発したように、一切の消息が掴めないままなんだ。さらに、山口社長も姿を消しているらしい。本当に完全に姿を消してしまったように、活動の痕跡も、部下の動向も一切確認できない」真衣の
続きを読む

第1758話

「わかってる」礼央はそう言うと、少し焦ったように尋ねた。「そっちはどうなんだ?安浩の件、聞いたよ。前線が爆撃に遭い、彼が重傷を負ったって本当なのか?」情報はすぐに伝わり、礼央は安浩が危険に遭ったことをすでに知っていた。情勢の不安定な異国の地で、仲間が危険な目に遭ったと知り、礼央はとても落ち着いていられなかった。真衣は情報の伝わる速さに驚き、慌てて彼をなだめた。「ええ。でも、大丈夫よ。先輩はもう意識を取り戻していて、命に別状はないから。こっちには警備も医療支援もある。明日には国内からの増援も来る予定だから安全よ」「安全?」礼央の声には隠し切れない不安が滲んでいた。「任務のエリアが爆撃に遭ったのに、安全だと言えるか?真衣、お前を連れ戻しに、これからそちらに向かう」礼央はどうしても安心できなかった。エリアスと宗一郎の行方がわからず、国境の情勢には暗流が渦巻いている。今、真衣のいる場所が戦火に見舞われ、仲間が重傷を負ったと知り、彼は国境に留まり続けることなどできなかった。しかし、真衣はすぐに反対した。「ダメ、あなたは来ちゃダメよ」「なぜだ?」礼央は焦った。「俺が行けば、少なくともお前を守れる。お前がそんな危険な場所にいるなんて、俺は安心できない」「私は一人じゃない。沙夜もいるし、支援スタッフもいる。警備だって厳重よ」真衣は彼を説得した。「危険なのはそっちの方よ。エリアスと宗一郎の行方がわからない今、あなたが国境を離れたら、作戦全体に穴が開いてしまうわ。あなたが国境に留まって、状況を安定させてくれたら、私は安心なの」真衣は声を和らげて言った。「礼央、気を付けてね。絶対に無理をしてはダメよ。こっちの仕事はもうすぐ終わる。片付けが済んだら、家に帰るわ。あなたと千咲の傍に。約束したでしょう、私が帰国したら、再婚しようって。だから、私の帰りを待っていて。危険を冒して、怪我したりしないでね」礼央は眉をひそめた。「わかった、待ってる。だが、お前も気をつけるんだ。外出を極力避け、危険な場所には近づくな。それから、毎日無事を知らせてくれ」「わかった」真衣は涙ぐんで頷いた。「約束する。毎日無事を知らせるわ。絶対に危険な場所には近づかない。安浩のことも、よろしく頼む」礼央は念を押した。「何かあったら、一人で抱
続きを読む

第1759話

安浩は青白い顔をして、ベッドにもたれていた。先ほど、スタッフが治療をしたらしく、こめかみには新しい包帯が巻かれていた。危険な状態は脱したものの、安浩の表情はまだ弱々しかったが、彼の沙夜を見る目は穏やかで、落ち着いていた。ドアの開く音を聞いて、二人は同時に振り返った。「真衣」安浩の声はかすれていたが、目覚めたばかりの時より、幾分力強く聞こえた。真衣はベッドの傍まで歩み寄り、白湯の入った湯呑を置くと、彼の顔色を確認し、わずかに頷いた。「気分はどうですか?どこか具合の悪いところは?」「さっき先生が回診に来てくれたんだ。しばらく安静にしていれば良くなるそうだよ。気分もずいぶん良くなったんだ」安浩は続けた。「まだ倦怠感は少し残っているけど、他は大したことないよ」沙夜が傍で彼の腕を支えた。「動いちゃダメよ。先生も言ってたでしょう。四十八時間はベッドで横になっていた方がいいって。動いて、傷に障るといけないわ」沙夜はたしなめるように言ったが、顔には隠し切れない心配そうな表情が浮かんでいた。彼女はしきりに手を伸ばし、彼の体温を確認した。沙夜の胸の中からは、前線での衝撃がまだ消えておらず、少しでも気を抜くと、また何か起きるかもしれないという不安に駆られた。安浩はそんな沙夜の様子を見て、わずかに口元をほころばせた。「わかったよ、君の言う通りにする。動かないように気をつけるよ」そんな二人のやり取りを見て、真衣の心は幾分和らいだ。生死の危機に遭遇し、二人は互いの気持ちを確かめ合ったのだ。今は、彼らにとって、嵐の後のささやかな慰めなのかもしれない。「そういえば」安浩が思い出したように真衣に尋ねた。「仕事の方はどうなってる?観測所から持ち帰ったサンプルデータや現地記録、それに以前の実験室での進捗は、すべて整理できたの?抜けているパラメータはなかった?」安浩は、やはり任務のことが気がかりだったのだ。何しろ、今回の重要課題は航空材料の調査と研究支援であり、前線でのサンプルの採取はその中で最も重要な任務だった。彼は、極限環境下でのデータを入手するため、ここまでの危険を冒した。そのため、その後の業務が中断したり遅延したりしていないか、彼はとても気がかりだった。「現地の担当者に進捗を催促されていない?その後の分析、データ検証、
続きを読む

第1760話

安浩は身体を起こそうとしたが、すぐに顔が青ざめた。沙夜がすぐに手を伸ばして彼を支えた。「横になってって言ったでしょう。仕事のことは気にしないで。今は、しっかりと睡眠をとって、体力を回復させることだけ考えるのよ」「でも――」「でもじゃない」沙夜は彼の言葉を遮った。「分かってる?自分がどれだけ危険な目に遭ったのか。そんな身体で、もう仕事のことを考えるなんて、命が惜しくないの?データは逃げないし、実験も止まらない。会議は延期できる。もっと身体を労わらなきゃ」沙夜は声を和らげて続けた。「安浩さん、言うことを聞いて。今はちゃんと養生するの。仕事は私と真衣に任せて。業務を遅らせたり、ドジを踏んだりしないわ。あなたが無理をして、状態が悪化したら、その方が却って皆の足を引っ張ることになる」安浩は、沙夜の真剣な表情を見て、言いかけた言葉を呑み込んだ。沙夜の言う通りであると分かっていたし、今の自分が役に立たないことも理解していた。しかし、このような重要な局面にいる以上、大人しく休んでいるわけにはいかない。真衣は安浩の葛藤した様子を見て、落ち着いた口調で言った。「先輩、安心して。今後のことは、私が責任を持って対応するから」彼女は丁寧に説明した。「先輩が持ち帰ったデータは、昨夜沙夜がすべてエクスポート、照合、バックアップしてくれたの。破損も漏れもなく、整合性は100%でした。実験室の成果や前線での突発的事態の報告、増援要請についても、すべて暗号化して本部に送信済みで、向こうからの受領確認も届いています。現地の協力機関には、あなたが突発的な事情で負傷し静養中であることと、私が今後の業務の指揮を執ることを伝えておきました。彼らは理解を示し、今後の材料分析、環境比較、合同会議の全てを延期し、増援が到着してから進めることに同意してくれています。セキュリティ、医療、後方支援、通信、全ての分野において再度確認を済ませ、抜かりなく手配をしておきました。だから、先輩は安心して、身体のことだけを考えて下さい」真衣は、不安そうな安浩の顔を見て、付け加えた。「今回の任務で、最も危険だった部分を乗り切ることができたのは、先輩のおかげです。今残っているのは後方での整理や調整、仕上げ作業だから、私でも十分に対応できます。先輩が今や
続きを読む
前へ
1
...
174175176177178
...
184
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status