それから数日間、隆成は星奈の前に一度も姿を現さなかった。電話にも出ず、別荘にも帰らない。まるで星奈を避けるかのように、わざとそうしていた。仕方なく、星奈は隆成を会社で捕まえることにした。会社のビルの前まで来たとき、後ろから誰かに呼び止められる。振り返ると、陽の光の下、明るい笑顔を浮かべた若い青年が立っていた。そよ風に前髪が揺れ、目がきらきらと輝いている。「星也(せいや)、どうしてここに?」歩み寄る少年を見て、星奈は思わず昔を思い出してしまった。二人は児童養護施設で育てられた仲間で、苗字も養護施設の園長のものをもらった。星也は星奈より少し年下だ。星奈が六年前にこの街に来てからというもの、二人はほとんど会う機会もなかった。あの頃、いつも彼女のあとをついて回り、「お姉ちゃん」と泣きながら呼んでいた少年が、今ではこんなにも眩しい青年に成長している。「園長先生から、離婚裁判を起こすって聞いてさ。手伝いに来たんだ」星奈はそこで、星也が大学で法律を学んでいたことを思い出す。星奈は微笑んで星也の頭をぽんと叩き、嬉しそうにお礼を言いつつも、やんわりと断った。「まさか、あの泣き虫だった子が、今じゃお姉ちゃんを助けに来てくれるなんてね。でも、私にはもう弁護士さんがいるから、大丈夫。このくらいのこと、あなたに頼むまでもないわ」その親しげな仕草に、星也は顔を赤くして照れてしまう。少年のはにかむ様子に、星奈は思わず笑みを浮かべる。「でもこれは、星奈さんの人生で一番大事なことだから、どうしても手伝いたいんだ」星也は真剣なまなざしで言い切った。その気持ちに、星奈ももう断ることはできなかった。心の中でため息をつきながら、二人は並んで隆成の会社へと入っていった。星奈が再び会社に現れると、社員たちはざわめきながら噂している。「まさか星奈さんがまた来るなんて……」「聞いた?星奈さんと安藤社長、実は夫婦なんだって。でも今は離婚の最中らしいよ」「そういえば社長がずっと秘密にしてたんだって。あんなにきれいな奥さんがいたなんて、社長も何考えてるのかな……」星奈の耳にもその声は届いていた。彼女は眉をひそめる。夫婦だったことは、もうすでに過去のことなのに、まさか今になってこんなふうに広まるとは。隆成
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