その少し懐かしくも、どこかよそよそしい声を聞いた瞬間、紗季は一瞬呆然とした。振り返ると、案の定そこには悠真の姿があった。その顔には、悲しみと喜びが半々に入り混じっていた。四年以上の歳月が過ぎ、彼はまるで十年も老けたかのようだった。相変わらず整った顔立ちではあるが、目元には深い疲れが滲み、そこからは拭いきれない陰りが見えた。誰が見ても、五年前に意気揚々とした畑川グループの社長だったとは思えないだろう。悠真は紗季の手を強く握った。目の前の彼女の凛とした柔らかい顔立ちが、夢の中のぼやけた記憶とは異なり、くっきりと現れてきた。それが現実であることを物語っていた。まるで心の中の空洞が埋められたかのように、この数年の不安と焦燥が一気に消え去った気がした。「紗季……」もう一度そう呼びかけた彼の目尻は赤く染まり、今にも涙をこぼしそうな表情だった。紗季は我に返り、少し眉をひそめながらも、声は冷静で淡々としていた。「手を離して」しかし悠真はその言葉が耳に届いていないかのように、ひとりでに言葉を続けた。「この数年、いったいどこにいたんだ?どれほど探し続けたか、君は分かっていない……でも、もう大丈夫だ。やっと見つけた。一緒に帰ろう。紗季、僕が悪かった。君がいなきゃ、僕は生きていけない……桑原美玲とはもう別れた。約束する。これからの僕の世界には君しかいない。信じられないなら、全財産を差し出してもいい」四年以上押し殺していた感情が、まるで噴水のように溢れ出した。こんなに熱烈な愛情――それは、五年間一緒にいた頃ですら、彼女が感じたことのないものだった。昔なら、紗季はきっと感動で涙を流しただろう。しかし今は、ただただ不快と嫌悪しかなかった。「畑川悠真」深く息を吸い、平手打ちしたい衝動を抑えながら、彼女は冷たく言い放った。「手を離してって言ってるでしょ。聞こえないの?」彼女の瞳に浮かんだあからさまな嫌悪感。それは、鋭い針のように悠真の胸に突き刺さり、息が詰まるほどの痛みを与えた。彼の目はさらに赤くなり、今にも涙がこぼれそうだった。「紗季」悠真の唇は震え、信じられないという色を浮かべながら言った。「僕のこと、嫌いになった?」紗季はようやく自分の手を振りほどいた。そしてドレスの裾を軽く持ち上げ、後ろに数歩
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