言弥が家に帰ると、そこはもはや以前の家ではなかった。リビングは不気味なほど整然と片付けられ、美和が好んで使っていた柑橘系のホームフレグランスの香りも消え失せていた。もし自分で鍵を開けて入らなければ、他人の家ではないかと思うほど、胸の奥に不安と焦燥が一気に押し寄せてくる。言弥は必死に動揺を抑えながら、かつてのように美和の名前を呼んだが、その声は震えを隠せず、虚しく響いた。「……美和……美和、いるのか……?」だが返事はなく、家は静まり返っていた。言弥は気が狂いそうになって寝室へ駆け込み、彼女の姿を探すも、一筋の痕跡すら見つけられなかった。二人だけのペアのマグカップも、クッションも、ぬいぐるみも――すべてが跡形もなく消えていた。さらに絶望的だったのは、かつて壁の半分を飾っていた写真の数々もすべて取り外されていたことだ。まるで、笑顔で映っていた二人の思い出は、まるで最初から存在しなかったかのように。──老いるまでずっと一緒に写真を撮ろうと誓ったはずなのに。もしかして、一緒に人生を歩みたくなくなったのか?言弥の目は真っ赤に染まり、最後の望みを胸にクローゼットの扉を開いた。だがそこに並んでいたはずのドレスは跡形もなく消え、彼のシャツだけが整然と掛かっていて、異様なほどに寂しさを際立たせていた。言弥の足はもつれ、その場に崩れるようにベッドへ倒れ込んだ。心の中に大きな穴が開いたような、深い喪失感に襲われた。八年間の交際で、美和は言弥の人生に欠かせぬ存在となっていた。そして、言弥は一度も、美和が自分のそばを離れるとは思っていなかった。天涯孤独の彼女が、一体どこへ行くというのだろう?言弥は茫然と周囲を見回し、ようやく机の上に置かれた二枚の書類に気づいた。震える手で離婚届を手に取り、素早く最後のページをめくる。そこに記された見慣れた名前が、言弥の視界を突き刺した。長年愛した女性が、本当に離婚を望んでいる――その現実が容赦なく胸へと沈み込んでいく。言弥はまるで鈍器で殴られたように頭が真っ白になり、思考は停止した。だがその下にあった妊娠検査の結果を見た途端、彼の鼓動は再び激しくなり、生き返ったように感じた。長い闘いの末、ついに二人の子どもを授かることができたのだ。言弥は検査結果を抱きしめ、
Read more