電話をかけてきたのは暮翔だった。「なんで出ないんだよ?三回も四回もかけたんだぞ。出なかったら警察に通報するところだったからな」「スマホがどうしたのか知らないけど、マナーモードになってて気づかなかったんだ」深雲は眉をひそめた。「それより、なんで仕事用の番号にかけなかった?」「この前半月くらい前に番号変えただろ?俺、まだ登録してなかったんだよ」「……」深雲は、ようやく思い出した。仕事用の番号を変えたのは、景凪が意識を取り戻す二日前のことだった。あの頃は本当に忙しくて、番号の手続きも姿月に頼んだっけ。「それで、何か用?」深雲はスマホの未読メッセージを流し見しながら尋ねる。指先がふと止まる。そこに、景凪からの着信履歴があった。時間は、今朝の仕事始めの頃。着信音は一分以上鳴っていたようだ。深雲は僅かに眉をしかめ、立ち上がって部屋を出る。ソファに腰掛け、仕事用のスマホを手に取って履歴を確かめると、姿月からの電話も景凪とほぼ同じタイミングだった。つまり、あのとき景凪が姿月にわざと嫌がらせをして研究室の機器を運ばせなかったのは、自分の電話が繋がらなかったからなのか?深雲は、こめかみに手を当てて軽く頭を押さえる。「今夜、研時がパーティーを開くって。界隈の有力者の二世たちも集まるから、たまには遊びに行こうぜ」暮翔の声が耳元で響く。深雲は断らなかった。「わかった。時間と場所は?」ちょうど気分転換したいと思っている。それに、研時が自分からパーティーを開くなんて珍しい。研時の家柄に免じて、名のある二世たちも顔を出す。「夜八時、場所は夜響(やきょう)だ」……開発部のオフィス。景凪は仕事を終えてふと顔を上げると、外はすっかり夜の帳が下りていた。凝り固まった首を回し、関節がコキコキと鳴る。スマホを手に取ると、深雲からの不在着信が二件。どちらも二十秒と鳴らずに切れていた。彼女がすぐに出なかったから、深雲はすぐに諦めて切ったのだろう。それきり、再び電話が鳴ることはなかった。実のところ、景凪はずっと開発部にいる。深雲が本当に自分を探したいなら、上の階から降りてくれば十分快適に会えるはずだ。景凪はスマホを握りしめ、ふと昔のことを思い出す。あの頃、深雲が暮翔や友人たちと山登りに行くと言い出し、三日で戻る約
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