その頃、もう一方の多目的ホールで。開発部の面々が全員集合し、テーブルの上には食べかけの朝食が雑然と並んでいる。主席に座る真菜は、コーヒーを口にしながら、三十分前にグループチャットへ送られてきた詩由のメッセージを眺め、紅く彩られた唇の端をつり上げて冷ややかに笑った。15分以内に席に戻れって?戻らなければ、それなりの覚悟を?ふん、景凪って、自分を何様だと思ってるのよ!同僚のひとりが、不安げに呟く。「でもさ、今日が穂坂部長の復帰初日でしょ?こんなに堂々とボイコットしたら、さすがにまずくない?」真菜が冷ややかな視線を投げる。「何が部長よ?復帰早々、社長夫人って肩書き振りかざして、姿月を追い出したんでしょ?ああいう人は、痛い目を見なきゃ分からないタイプなの。みんな忘れたの?ここ数年、姿月がどれだけ私たちを気遣ってくれたか」その一言で、場の空気が一瞬静まり返る。誰もが真菜の言うことを素直に聞いて、朝早くからここに集まったのは、要するに姿月のためだった。開発部で真菜の意向は姿月の意向とイコールだったからだ。代理部長として姿月が開発部を預かったこの数年、いくつもの新薬開発プロジェクトを成功させてきた。下準備も計画も全部姿月がやってくれて、あとは指示通りに進めればよかった。新薬が発売されるたびに、みんな結構なボーナスを手にした。楽して稼げる――そりゃみんな姿月が好きになるわけだ。それなのに、景凪が戻ってきて、いきなり姿月を追い出す。誰だって姿月に同情する。だからこそ、景凪の復帰初日に、こうして堂々と反旗を翻しているのだ。とはいえ、景凪は社長夫人でもあるし……誰かが不安を口にする。「でも……もし彼女が社長にチクったら、俺たち全員処分されるんじゃ……」その言葉に、真菜はあからさまな嘲笑を漏らす。「社長夫人の座なんて、あの女がどれだけ長く座っていられるか、見ものよ!」そう言いながら、彼女はグループチャットにトレンド入りのリンクを投下した。【海洋公園ファミリーイベント、超美形夫婦が話題沸騰!】太字のタイトルがやたらと目立つ。皆がなんとなくリンクを開き、載っている写真を見て、次々に目を見開いた。「えっ……これ、鷹野社長と姿月さんじゃないか!」リンク先には、深雲と姿月のツーショット。深雲はラフな服
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