All Chapters of 神ゲーマーふたりは今日もオンライン: Chapter 31 - Chapter 40

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【社会人編】7.ZGWS本戦プレーオフ

煌びやかなライトの装飾に彩られた、アリーナでのプレーオフが始まった。オフラインでの開催ということもあって、会場内はゼログラが好きな人たちや、各チームのファンで賑わっている。プレーオフは全世界の地区大会を勝ち抜いた計32チームで争われ、Aグループに振り分けられた俺たちは初日の試合、8チームの中で上位6チームを目指すことになった。(チームアリゲーターとは……離れたな)グループ分けガチャではゼログラで日本最強と言われるチーム、イグニスとも離れたみたいだ。戦ってみたい気持ちもあったから、ちょっと残念な気もする。「まぁ、勝ち抜いていけば、そのうち当たるでしょ」明るく言うゼノさん。俺たちは初日の5試合を総合3位で勝ち抜け、無事に2日目の試合に進めることになった。「あのさ……ちょっと、みんなに話しておきたいことがあるんだけど」試合後、チームのメンバーを集めたのはリーダーのカイさんだ。「どしたの、急に」マイペースを崩さないノヴァさんの問いかけにも、彼は真剣な表情を崩さない。「……もう、契約絡みの話は済んでるから、あとはメンバーだけなんだけどさ……。俺、この大会が終わったらチームを抜けようと思ってるんだ」「はぁ!!?」「ちょっ……なんで、いきなりっ」「これは前から話してたと思うけど……単純に力量の話だよ。俺が隊長で、国内では成績を残せても、たぶん世界では難しいと思うんだ」淡々と話す彼に、ハルさんが珍しく声を荒らげる。「……だとしても、それはさすがに今する話じゃないだろ!? 大会の途中だぞ!? ここまで、みんながどれだけ頑張ってきたか……」「だな。それに、今日だって成績は3位で……決して悪くないんじゃないかと思うけど」ゼノさんがフォロ
last updateLast Updated : 2025-09-02
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【社会人編】8.あの日を超えるために

ゼログラは近年アップデートが頻繁に入るようになり、マップの種類も格段に増えた。ただ、今回の一戦は初期からあったいつものマップで、俺たちは運よく東の要塞基地を本拠地として引き当てた。クエーサーが工業団地、フェニックスフォースが港、そして……。(チームアリゲーターは北の地下施設か……。手ごわいな)火山帯のエリアにある地下施設は、本拠地として最も強固な砦だ。本拠地ガチャとしてはいちばんの当たり。司令塔のカイさんがイヤホン越しに俺たちに指示を出す。「ハルとイオリ、ふたりは南の工業団地へ。俺はチームアリゲーターの攻撃を警戒して防衛部隊とここに残る」「了解」「俺が先行します、ハルさん」「頼んだ」というハルさんの声を聞きながら、俺はクエーサーの本拠地へと走る。途中で手に入れたライフルのスコープをのぞくと、工業団地のフラッグが見えた。防衛部隊の数は2人だ。――いける。「俺がオトリになって、裏側から敵の部隊を引きつけます」「わかった。捕まるなよ」「大丈夫です。……俺は今日、ヴァイパーですから」キャラクターの選択については、俺は今でもルークが好きだ。上手く裏をかけたときは特に気分がいいし、相手の先回りをするような攻撃の仕方は俺の性にも合っている。でも、色んなキャラクターを練習していくうちに、先輩がいつも使っていたヴァイパーの良さにも気がついて――。今では2番目によく使うキャラクターになっていた。体力がない代わりに機動力が高く、素早い動きができる。俺は工業団地のフラッグに裏から侵入し、防衛チームをライフルで陽動した。ヘイトが十分に集まったところで、『スナイパー』という長距離射撃のキャラを使ったハルさんが次々とヘッドショットを決めていく。「ナイスです、ハルさん!」「イオリもナイス! ……で、この後どうする? カイ」「……っ! 本拠地が攻撃されてる! 悪いけど、戻れそうか?」「わかった。イオリ、行ける?」「はいっ!」
last updateLast Updated : 2025-09-03
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【社会人編】9.未来への切符と先輩の

俺の読みはほぼ当たっていたらしく……北の施設に向かってしばらくすると、本拠地のフラッグ周辺は戦場になった。「イオリっ! この要塞基地を攻めて来ているのは、現状4人だ!」「小神野悠馬が来てる。ひどい銃撃戦で、そんなには持たないぞ」敵チームの攻撃を、ゼノさんが扱う鉄壁のブルワークを中心に何とかしのいでいるみたいだが……戦況はなかなか厳しそうだ。「俺が他の拠点を奪還するまで、耐えてください!」「了解、急げよっ!!」いつもはマイペースなノヴァさんの、余裕のなさそうな声が返ってきた。俺は機動力の高いヴァイパーで、北の地下施設までの道を急ぐ。火山のある山岳地帯。目立たない入り口から中へ入ると、奥にフラッグが見えてきた。俺たちの基地を攻めているのが4人ということは、あとひとりはこの堅牢な施設を守っているはずだ。周囲に警戒しつつ進んでいくと、銃弾が飛んでくる。ギリギリで避けて、銃撃戦に突入した。(……っ! さすがに強いな)敵の使っているキャラクターは守りに特化した、鉄壁と呼ばれるブルワーク。まともに弾を受ければ耐久力の差で負けることは必至だった。ただ、幸運なことに、この地下施設と操作キャラであるヴァイパーとの相性は――最高だ。俺は固有のアビリティで毒ガスを出すと、シールドが破壊されて弱った相手をライフルでハチの巣にした。「地下施設のフラッグ、取れましたっ!!」「ナイス! 他の空いた基地も、そのまま占領できるか?」「やってみます!! ……耐えられますか?」「カイがやられたけど、こっちもひとりキルしてるし、何とかするっ!!」「さっきからyumaの姿が見えない。もしかしたらそっちに行ってるかも……気をつけろよっ!」「わかりました!」うちの最強防衛チームふたりが、代わる代わ戦況を伝えてくれる。俺は西の港に走ってフラッグを取り、ついでに南の工業団地へと足を運んだ。(誰もいないはず、だけど……)さっきの忠告が胸をかすめ、ライフ
last updateLast Updated : 2025-09-04
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【社会人編】10.神谷伊織の本性

部屋はひと言で表すと荒れていて、服や書類など雑多なものがあたりに散らばっていた。机の上に倒れているジュースの缶はよく見るとアルコール飲料で、もしかしたら部屋に引きこもって飲んでいたのかもしれない、と思う。薄暗い部屋のテレビには携帯ゲーム機が接続されていて、プレー中のゼログラの画面が表示されていた。「練習、してたんですか?」「……ん」先輩は「そこ座って」と室内にあるひとり掛けのソファーを指す。「つき合えよ」「えっと、練習を……ですか?」「そう。お前を倒す練習がしたい」「べつに、いいですけど……」先輩は掠れた声で言うなり、俺に小さなコントローラーを押しつけてきた。そのまま対戦モードでプレーする。キャラクターの選択画面になり、俺は何となくヴァイパーを選んだ。先輩がルークを選び、旧マップで試合がスタートする。レジェンドランクの野良のプレーヤーはそこそこの強さがあり、味方との連携がいまひとつだと拠点を制圧するのも苦労する。港を本拠地にした先輩と、工業団地を本拠地にした俺が、それぞれ北と東の施設を攻め始めた。「今日のは……お前と最初に出会ったときの一戦に、よく似てた」コントローラーを操作していた先輩が、ぼそりと呟くように言う。どうやら、先輩も同じ印象を抱いていたらしかった。あの広い会場でも、全世界の配信でも……そう思っていたのが俺と先輩のふたりだけなんだと思ったら、胸の奥が熱くなる。「俺も……そう思いましたよ」「キャラクターは逆だったけどな」「結果も逆でしたけどね」いつもならこっちを睨んできそうなところなのに、先輩はモニターを見つめながら淡々と手を動かしていた。それぞれのチームが拠点をひとつずつ占領し、お互いに市街地の真ん中でぶつかり合う。激しい銃撃戦になり、仲間がひとり、またひとりと消えていった。最後に残ったのは――先輩と俺で。先輩の使うルークが、罠と壁を使って動ける範囲を狭め、俺のことをじりじりと追い詰めて
last updateLast Updated : 2025-09-05
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【社会人編】11.隣に並びたくて(悠馬side)

ゼログラの天才・神谷伊織は本当に身勝手な奴だと思う。俺が高校3年のとき。プロチームへの所属が決まり、もう部活では会えなくなるからと勇気を出して合鍵を渡したら、思いっきり突き返された。理由は「俺だってすぐプロの世界に行くし」みたいな、よくわからないもの。その上、「俺の方が賞金を稼いで、先輩を俺の家に住まわせる」なんてプライドの高そうなことを豪語して、ついには俺の前に姿を見せなくなってしまった。1年以上経った頃に札幌で再会はしたけれど、練習が忙しいのか連絡はたまに来るくらい。向こうが卒業式の日。ようやく部屋にやって来て、久しぶりにキスをした。卒業旅行という名目で温泉にも泊まり、「ああ、これからはこんな風にたまに会えたりするのかな……」なんて思っていたら、『俺はもう、しばらく先輩には会いません』。なんて身勝手な奴だろう、と思った。だけど、そんな身勝手な奴が好きで好きで仕方ない……俺が悪いだけの話なのかもしれない。神谷伊織を――こんな身勝手な後輩を、うっかり好きになってしまったから。結局、「先輩には会わない」なんて言っていたくせに、遠征先のロサンゼルスのホテルには出没するし、こっちの話を遮っていきなり宣戦布告とかしてくるし……。そんな奴に心を乱されて、試合のときにトリガーを引くのが一瞬の遅れたこともまた、途方もなく悔しかった。部屋に戻ってちょっとだけ泣いたら、その泣き顔も見られて……最悪だ。その後、ベッドの上で散々いじわるをされて、また泣かされた。(こんなことされても……まだ好きなのか)目が覚めて、まず最初に呆れがくる。朝日が射し込むホテルの部屋。広いベッド、ぐしゃぐしゃになったシーツの上で俺はまるで抱き枕みたいに伊織の腕の中におさまっていた。無理な態勢もあったから身体はあちこち痛いし、痕だらけだし、喘がされたせいで声は枯れてるし……。伊織が目を開けたので、俺は寝返りを打つようにしてふい、と背中を向けた。「……んー……」まだ寝ぼけてるのか、後ろから強く抱きしめられる。心臓がうるさかった。シャワーを浴びようとベッドを抜け出すと、腰が抜けて床にへたり込んでしまう。気づいた伊織が、ベッドを降りてこっちに近づいてきた。「ごめん……色々しすぎた」「……っ! べつにっ」強がってみるものの力は抜けたままで――俺は伊織に横抱きにされて、シャワール
last updateLast Updated : 2025-09-06
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【社会人編】12.俺たちの『これから』

取材やメディア向けの対応に追われながらも、翌日にはロサンゼルスをあとにして日本へと戻った。チームの仲間と別れた後、こっそり悠馬と合流して部屋へと向かう。半年ぶりに来た悠馬の部屋は、以前よりもさらにチームカラーのグッズが増えたような気がした。「はぁ……やっと着いたぁ」「長かったよな、フライト。11時間だっけ」「映画、何本観たかわかんないかも」「俺はずっとゲームやってたよ」「ああ……携帯ゲーム機、持って行ってましたもんね」「それじゃなくて。機内モニターについてた、怒った鳥をパチンコ玉みたいに飛ばして敵倒してくやつ」「そっちか……」「意外とハマるんだよな、あれ」行きも帰りも、ずっとやっていたらしい。悠馬がパズル系のゲームをやってるイメージがなかったから少し意外だったけど、真剣になって鳥をスリングショットで飛ばしている姿を想像すると、ちょっとかわいいような気もする。「取材とかは、もういいの?」緩めのスウェットに着替えた悠馬が、冷蔵庫の牛乳の賞味期限を確かめながら聞いた。「うーん……直近のものはなさそう、かな。SNSの更新も済んだし」「じゃあ、明日まではとりあえず休みなんだ」「うん。あとは、ミーティングがあるくらい。金曜からは普通に練習」「そっか。……まぁ、俺も似たような感じかな」着替えてベッドの上に陣取る。スマホの通知を確認していると、チームのチャットに連絡があったことに気がついた。「ごめん、悠馬。……これからミーティングやるっぽい」「あー……いいよ。じゃあ、ちょっと静かにしとくわ」「ありがと」俺は礼を言ってからスマホを操作し、専用のアプリを立ち上げる。チームのオーナーも入ってのミーティングだ。もしかすると、チャン
last updateLast Updated : 2025-09-07
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【社会人編】13.帰るべき場所(悠馬side)

伊織はパジャマ代わりのスウェット姿のまま、神妙な顔つきでローテーブルの前に座っている。あのことを聞いた、と言っていた。伊織が参加した昨日のミーティング。俺は疲れて途中で寝てしまったから、伊織とカシラゲームズのメンバーとのあいだでどんな話し合いをしたかはわからない。(緊張……するな)もしかすると、プレーオフの最終戦のときより緊張するかもしれない。俺は手にじっとりと滲んだ汗を拭って、口を開いた。「それで……どっちから先に話す?」「べつに、どっちでもいいけど……。でも、先に悠馬の話を聞きたいかも。どうして、チームアリゲーターを辞めるのか」伊織はキッチンに立っている俺のことを、真剣な顔で見上げている。俺は深く息を吐き――「ちょっと長くなるけど」と前置きして、事前に伊織に相談しようと考えていたチーム離脱の件について話し始めた。「すべては……今パートナーを組んでいるsigmaが、別のチームに移籍するっていう話から始まったんだ。知っての通り、俺はsigmaに憧れてこのチームに入った。同じチームでプレーするのが夢だったし、彼からは本当に多くのことを教えてもらったと思う」チームに入ってから今までの日々が脳裏をよぎり――胸の奥がちくりと痛む。あんな選手になりたい、と。そう思える人の隣でゲームをプレーできたのは、自分の中でとても大きな出来事で、同時にすごく恵まれた日々でもあった。チームアリゲーターの先輩方のもとで、俺はたくさん成長することができたし、たくさん勉強もさせてもらった。プレーの面でも精神的な面でも……多くのことを学び、経験を積むことができた。「チームのメンバーやオーナーには育ててもらった恩もあるし……sigmaがいなくなってからもこのチームでプレーしたいと思ってた。そんな中、ちょうど契約期間が切れるタイミングが来たんだ。それに……sigmaの代わりに入るリーダーの候補が『そのチームのサブリーダーと一緒なら』という条件をつけてきた」「ふたりで移籍したいってことか……。だから、悠馬も移籍を考えることにした?」「そういうこと。それで色々と聞いて回るうちに、カイさんが辞めるって噂を聞いて……カシラゲームズに問い合わせてみたんだ。俺はチームアリゲーターでは火力担当って感じだったけど、元々リーダーに戻ってみたいなって気持ちもあったから」「それに……俺がい
last updateLast Updated : 2025-09-08
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【社会人編】14.神谷伊織の告白

「このチームって、あんまり上手じゃない人がいるんですね。……密林地帯で強い位置は、橋のそばにある岩の後ろ一択だろ」「あれ、チームアリゲーターのエースって素人でしたっけ? 奥の洞窟からでも橋を狙えるの、知らないんだ」「射撃する位置が遠すぎて話になんねーよ」「岩の後ろは東側から狙われたら終わりじゃん」「……本当、賑やかになったよなー。うちのチームって」オンラインでの練習中。ゼノさんが呆れたようにため息をつくのがイヤホン越しに聞こえてくる。カシラゲームズからKaiが正式に脱退し、チームアリゲーターのyumaが加入して数か月が経った。世界大会をチャンピオンシップまで進んだカシラゲームズからカイさんが抜けたことは大きなニュースになったけれど、悠馬の加入はそれ以上に大きく報じられた。日本のゼログラ界で小神野悠馬の存在がどれだけ大きくなったのか……俺はその現実を肌で感じさせられることになった。「まぁ、いいんじゃない? 雰囲気も変わってさ。新しくなったチームで、また頑張ろうって気持ちにもなるし」「チャンピオンシップじゃ、歯が立たなかったもんなぁ……。賞金が出たとはいえ、8チーム中7位じゃ胸も張れない」「せめてベスト4には入りたいよな。次は」「……1位じゃなくていいんですか?」ゼノさんとノヴァさん、ふたりの会話に悠馬が割って入る。また強気なことを……と思ったけれど、ゼノさんは「おおっ」と感嘆の声を上げていた。「いいね~、俺そういうの好き」「ありがとうございます」「何か悠馬ってさ……俺にだけ態度違わない?」「気のせいだろ。……あ、3時の方向から敵来てるわ」「だから、言ったじゃん!!!!! やっぱ洞窟だっただろ!!!」つい語気を強める俺に、ハルさんが「声でかいって……」とたしなめる。「前から知ってたつもりではあるけどさぁ……。お前らって、本当に仲悪いんだな」呆れるようなハルさんの口調。さらっと流しておけばいいのにもかかわらず――俺たちはつい、ムキになっ
last updateLast Updated : 2025-09-13
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【社会人編】15.ふたりの部屋

「うわっ……これ、PCの配線やばすぎね?」「2台分だもんなぁ。繋ぐだけならいいけど……掃除できんのかな、これ」「って、なんかインターホン鳴ってない?」「鳴ってる! ソファー届いたかも」引っ越しは、世界大会の予選が終わった5月の連休にした。その日は朝から慌ただしくて……午前中から悠馬の荷物の運び込み、午後からは俺の荷物と家具が届くようなスケジュールだ。「悠馬、ソファーってここでいい?」「もうちょい手前~」業者の人にお礼を言って、設置までしてもらう。まだ何もないリビングだけど、テーブルとソファーが揃えば何だかそれっぽくなるから不思議だった。「こうやって見ると、テレビも欲しくなるかも」「でっかい画面でゲームやるのも楽しそうだよなー。映画とか観るのもいいし」「悠馬も映画とか観るんだ」「そりゃあ、見るよ。アニメも観るし」「ちょっと意外かも。一緒にいるとき、観てたこととかなかったから」「たしかに、伊織といるときは話したり、ゲームしてたりすることの方が多かったかも……」「じゃあ、新しいの買ったら、一緒に観る?」「いいね。注文しよ」ネットで良さそうなテレビとテレビ台を見つけた悠馬が、さっそくスマホで情報を送ってくる。新居の入居にかかる費用と引っ越しの費用、家具の購入にかかった費用……。銀行の預金残高を思い浮かべつつ、ざっと計算しようとしたけれど――途中から具合が悪くなってきたので、やめることにした。(使った分は、また頑張って稼げばいいわけだし……)そう言い聞かせて、ゲーム部屋の作業に戻る。部屋に入ると、悠馬が待っていて「こっちこっち」と手で招かれた。PCの電源がついていて、配信で使うカメラがオンになっている。「配信用の画面、今のところこんな感じなんだけど……。ドアとドアノブが映ると、家がバレる気がしない?」「うわっ、たしかにそうかも……!」盲点だった。
last updateLast Updated : 2025-09-14
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【社会人編】16.配信と嫉妬(悠馬side)

伊織と同じ部屋に住むことになった。特に、何か大きなきっかけがあったわけじゃない。話を切り出されたのは、ある日突然って感じだった。「前にした約束って、憶えてる?」「そろそろ……一緒に住まない?」ちょうど、カシラゲームズに移籍して半年が経った頃だった。そう言われた俺がどれだけ嬉しかったかなんて……伊織には絶対にわからないだろう。高校のとき。合鍵を断ったあいつが言い放った言葉を、俺はずっと忘れられずにいた。『先輩より多くの賞金稼いで……先輩を俺の家に住まわせるので』。稼ぐ賞金の額で伊織に負けるつもりなんて、さらさらない。だけど、「いつかそうなったら嬉しいな」という気持ちだけは持ち続けていて――。『一緒に俺の家に住んでよ』なんて言われた日には心臓が止まるかと思ったし、その日の夜は嬉しすぎて一睡もできなかった。我ながら単純だとは思う。それでも、俺にとっては心の底から嬉しい出来事だった。好きな奴と四六時中、一緒にいることができる――。そのふわふわとした幸せは、新居に移ってからもずっと続いているようで。ゼログラのワールドチャンピオンシリーズ、ZGWSプロリーグ予選が春に始まり、昨日の夜はその振り返り配信を個人でしていた。雑談も交えて話していたとき、視聴者のひとりが急に変なことを書き込んできた。●引っ越してからyuma、ずっと何か嬉しそうだよねそんなコメントが目に留まったけれど、普通にスルーしようと思っていた。それなのに――。●それな●機嫌がいい気がする●すぐ怒んなくなったよね●幸せそう●何かいいことでもあった?●口元ゆるんでるぞみんなその話題に触れたかったらしく……何故か盛り上がるコメント欄。「べつに……そんなことないけど」否定したにもかかわらず、流れるコメントは止まることがなくて――。●ひとり暮らし?
last updateLast Updated : 2025-09-15
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