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【社会人編】14.神谷伊織の告白

last update Last Updated: 2025-09-13 17:00:35

「このチームって、あんまり上手じゃない人がいるんですね。……密林地帯で強い位置は、橋のそばにある岩の後ろ一択だろ」

「あれ、チームアリゲーターのエースって素人でしたっけ? 奥の洞窟からでも橋を狙えるの、知らないんだ」

「射撃する位置が遠すぎて話になんねーよ」

「岩の後ろは東側から狙われたら終わりじゃん」

「……本当、賑やかになったよなー。うちのチームって」

オンラインでの練習中。ゼノさんが呆れたようにため息をつくのがイヤホン越しに聞こえてくる。

カシラゲームズからKaiが正式に脱退し、チームアリゲーターのyumaが加入して数か月が経った。

世界大会をチャンピオンシップまで進んだカシラゲームズからカイさんが抜けたことは大きなニュースになったけれど、悠馬の加入はそれ以上に大きく報じられた。日本のゼログラ界で小神野悠馬の存在がどれだけ大きくなったのか……俺はその現実を肌で感じさせられることになった。

「まぁ、いいんじゃない? 雰囲気も変わってさ。新しくなったチームで、また頑張ろうって気持ちにもなるし」

「チャンピオンシップじゃ、歯が立たなかったもんなぁ……。賞金が出たとはいえ、8チーム中7位じゃ胸も張れない」

「せめてベスト4には入りたいよな。次は」

「……1位じゃなくていいんですか?」

ゼノさんとノヴァさん、ふたりの会話に悠馬が割って入る。

また強気なことを……と思ったけれど、ゼノさんは「おおっ」と感嘆の声を上げていた。

「いいね~、俺そういうの好き」

「ありがとうございます」

「何か悠馬ってさ……俺にだけ態度違わない?」

「気のせいだろ。……あ、3時の方向から敵来てるわ」

「だから、言ったじゃん!!!!! やっぱ洞窟だっただろ!!!」

つい語気を強める俺に、ハルさんが「声でかいって……」とたしなめる。

「前から知ってたつもりではあるけどさぁ……。お前らって、本当に仲悪いんだな」

呆れるようなハルさんの口調。さらっと流しておけばいいのにもかかわらず――俺たちはつい、ムキになっ

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