All Chapters of 離婚したら元旦那がストーカー化しました: Chapter 91 - Chapter 100

ここは人が多すぎる。芸能人や番組スタッフ、そして噂を聞きつけた芸能人のアシスタントたち。承平は周囲を見回したが、郁梨の姿は見当たらなかった。逆に清香が鋭い目で承平を見つめ、驚いた表情を浮かべていた。清香は転んで以来、初めて痛みとは無関係の表情を見せた。「承くん、あなた……」清香は「どうして来たの？」と聞こうとしたが、考え直した。郁梨もここにいる。まさか郁梨に会いに来たのか？沸き起こる嫉妬で顔が歪みそうになったが、清香は感情をグッと抑え、すぐに口をつぐんだ。承平が誰のために来たのかはわからないけど、少なくとも今は自分のそばにいなければならないのだ！「承くん、私の足が……折れたみたいだわ」承平は郁梨を探すのをやめ、急いで清香の元へ駆け寄った。「大丈夫、すぐ病院に連れて行くから」傷ついた清香に対し、承平は優しく声をかけた。秘密トンネルに隠れていた郁梨は、それを聞いて体を微かに震わせた。承平にも優しく忍耐強い一面があるのだ。承平は人を気遣うことができるのだ。撮影現場にいた人々が清香を載せた担架を囲んで見送る中、郁梨は人目を避けるように秘密トンネルから静かに出てきた。人が一気に減り、葉平たちはその場に残っていた。秘密トンネルで何があったか郁梨に聞こうとした時、郁梨の手に気づいた。郁梨の右手は血に染まり、まだ指から血が滴り落ちていた。愛麗が叫んだ。「郁梨さん、あなたの手！」郁梨はぼんやりと我に返り、自分の手を見た。手をケガしたことはわかっていた。秘密トンネルの工事の際に残っていた釘のせいだ。清香に押し倒され、手のひらを地面についた時、鋭い釘が掌に刺さり、今も皮膚の中に埋まったままだった。痛むはずなのに、なぜか少しも痛くない。それよりも、胸の痛みの方がずっと強かった。「郁梨さん、救急車に乗って病院へ行きなさい。私が付き添うから」愛麗は急いで駆け寄り、郁梨を外へ引っ張り出した。葉平たちも後に続いた。郁梨は行きたくなかったが、みんなに無理やり引っ張られ、振りほどくことができなかった。郁梨は何か言おうとしたが、口を開くと鼻の奥がひどく痛み、目頭も熱くなった。結局、一言もはすることができなかった。撮影現場の外では、清香を載せた担架が救急車に運び込まれたばかりで、承平もその後を追って乗り込んだ。胡陽は救

承平が目を細めた。「これは郁梨が言ったことなのか？」清香は躊躇してから、軽く頷いた。「郁梨さんを責めないで、郁梨さんも発散する場所が必要なの」承平が現れたことで、清香に大きな打撃を与えた。清香が『真犯人は誰だ』の撮影に参加していることは完全に秘密とされていたので、承平は清香がここにいることなど知る由もなかった。つまり、承平は郁梨を探しに来たのだ！この事実は清香に深刻な挫折感を与えたのと同時に、これは運が味方をしてくれているとも感じさせた。清香はこの機会を逃すわけにはいかない。郁梨を奈落の底に突き落とし、二度と立ち直れないようにしなければならない！時にはネットのニュースで知るより、自らの目で見て知る方がより説得力があるのだ。清香の当初の計画では、『真犯人は誰だ』の撮影内容を漏らすことで、ネットユーザーたちに清香が怪我を負って入院したことを知らせようとした。俊明も早々にネットを荒らすサクラを手配してあり、郁梨が清香を平手打ちしたことを収拾のつかないところまで炎上させる準備を整えていた。そのために、彼らはわざわざ郁梨より早く番組出演の契約を取り付けた。そうすれば、誰かが仮に清香がわざとイチャモンをつけたと考えたとしても、彼らは郁梨より先に出演契約を結び、郁梨は後から来たのだと証明できる。そうすれば、イチャモンをつけた人は誰かがこれではっきりとわかる。今回の件について、全てを説明できる人は果たしているのだろうか？郁梨が仮に無実だったとしても、それがどうした？ネット上の奴らはアホしかいないから、ちょっと煽れば奴らは簡単に信じ込む。郁梨がどれだけ頑張って釈明しても身の潔白は証明できやしない！承平が仮にネットニュースを見て、疑いを持ったとしても、何も調べられない。なにせ、その時秘密トンネルにいたの清香と郁梨だけだし、清香は誰からの目から見てもわかるように怪我をし、被害者の立場である。繰り返すが、郁梨がどうあがいても身の潔白を証明することはできない。ネットユーザーたちに対しても、承平に対しても。清香の心の中は得意満面だったが、表向きは依然として自分を責める態度を見せていた。「承くん、私が自分で転んだことにして。これ以上追及したくないし、追及する資格もないわ」清香はただの愛人に過ぎず、愛人になったのも承平が約束を果たさな

「あれ？不満なの？どうしても私に謝罪させて、清香さんに私の尊厳を踏みにじらせろと？」郁梨は失望の極みに達し、目を赤くして言った。「承平、私は3年間もあなたと一緒に過ごしたのに、私の青春でもあるこの3年間はあなたにとって何の価値もないわけ？」承平は郁梨の言葉に動揺した。ただ謝罪をさせようとしただけで、郁梨が相手を殴り傷つけたのだから、詫びるのは当然ではないのか？どうして尊厳や3年間の青春の話になるんだ？「郁梨、俺は清香と話し合ったんだ。お前が謝れば、清香もお前のことをこれ以上追及しないって」追及？清香も本当にバカだな！清香が追及する勇気があるとでも？清香はただ承平が自分の味方だとたかをくくって、威張り散らしているだけだ！郁梨は無表情で清香を見た。「清香さんは私に対して刑事責任を追及するのですか？どうぞしてください。折原家の弁護団はいつでもあなたのために待機していますから。私を牢屋に入れられたら、あなたの実力を認めてやりますよ」清香は無実な人のような顔をして、承平に小さな声で言った。「承くん、もういいわ。私は大丈夫」人を殴っておいてなおこんな横柄な態度をとるとは。郁梨の野蛮な一面を承平は初めて目の当たりにした。「郁梨、調子に乗るな！」「私が調子に乗っている？」郁梨はあざけるように言った。「私が折原家の弁護団を動かせないわけでもないし、それとも弁護団を清香さんのために貸してあげたいの？この件、あなたのお父様はご存知なのかな？果たして首を縦に振るのかな？」「お前！」承平は言葉に詰まった。「清香さん、見ての通り、承平がついているからといって私をどうにでもできるわけではないのです。私は正真正銘、折原家が認めた嫁です。折原家のものは、あなたが使う資格はないが、私にはあるんです！」「承くん……」清香は内心激怒していたが、表向きは無力で弱々しい様子を装っていた。清香は、郁梨の顔を引っ掻いて、自分の力を思い知らせてやりたい衝動に駆られた。郁梨は軽蔑の眼差しで清香を見下ろした。「清香さん、承平を見ていても仕方ないですよ。直接私と話しなさい。この件について追及しようがしまいが、結局は賠償金の問題になるのです。折原家にはお金はいくらでもあります。だから清香さん、はっきり言ってください。いくら欲しいんですか？」清香は自

「清香さん、折原社長はどうして帰っちゃったんですか？それに、郁梨さんと一緒に帰るなんて、どういうことなんですか？」芳里は話し終わらないうちに、床の血痕に気づき、思わず叫んだ。「血！？どこから血が！？」「出て行って！さっさと出て行って！」芳里の不用意な発言に、清香はカッとなり、背後にあった枕を掴んで投げつけた。驚いた芳里は一目散に逃げ出した。——医師はため息をつきながら郁梨の手当てをした。「一体これはどうされたのですか？病院を出てまだそんなに経ってないのに、また怪我をされたのですか？骨には影響がないからって軽く見ちゃだめですよ。手には毛細血管がたくさんあるので、炎症でも起こしたら大変なことになりますよ」郁梨は黙ったまま、静かに話を聞いていた。傍らに立つ承平は自責の念に駆られ、医師の説明を一言も聞き漏らすまいとしていた。手当てが終わると、郁梨はすぐに病院を出た。承平と隆浩が後をついていった。肌を刺すような冷たい風が郁梨に吹きつけていたが、郁梨はまるで寒さを感じないかのように、病院を出るとバス停に腰を下ろした。承平は隆浩に車を呼ばせ、自分は郁梨のそばに残った。近づきすぎず、少し距離を取って見守るように。郁梨は携帯を取り出し、明日香に電話をかけた。「郁梨さん、どうしました？撮影は順調に進んでますか？」郁梨は苦笑いした。「すみません、白井さん。私、台無しにしちゃいました」電話の向こうで明日香の声が急に張り詰めた。「どういうことですか？詳しく話してください」「中泉清香がサプライズゲストとして番組に現れて、撮影中に私と同じグループになりたがっていたので、そうして秘密トンネルに連れて行かれたのです。そこで中泉さんは自分で自分の頬を叩いた後、トンネルから自ら転げ落ちたせいで、中泉さんも私も怪我をして、撮影は中断されました」夜に吹く風は強く、加えて承平も離れたところにいたため、郁梨が話す内容は承平には聞き取れなかった。「あなたも怪我したんですか？」「中泉さんが転げ落ちる前に私を押したんです。秘密トンネルの通路脇に残っていた釘が掌を貫通しまして。でも大したことないので、もう手当も終えました」「釘ですか？破傷風の注射は打ちましたか？」「はい、打ちました」「中泉さんよくもそんなことができましたね？カメラマンは後ろ

明日香は郁梨との通話を終えると、すぐに番組のチーフディレクターに連絡した。「南野さん、この件については必ず納得のいく回答をいただかないと困ります。うちの郁梨はまだ大スターではありませんが、これからかの有名な俳優の吉沢文太郎さんや池上義明監督と一緒に仕事をする、ポテンシャルを秘めた新人です。こちらは誠意を持って協力しているのに、こんな結果になるなんて。番組スタッフの管理が杜撰すぎませんか」明日香の一言一言は、南野を赤面させるほどだった。一度の撮影で二人のゲストが負傷するなんて、確かに弁解の余地がない。「白井さん、番組側も現在調査をしております。撮影が中断され、我々も大きな損害を被っています。どうかご理解ください」「南野さん、仕事は仕事。今後も撮影があれば引き続き協力しますが、うちの郁梨が撮影中に負傷し、郁梨に付き添うべきだったカメラマンも行方不明になっているとはどういうことですか？」「それについては……確認しましたが、カメラマンは一瞬の隙をつかれて長谷川さんを見失ったと言っておりました」明日香は笑い出した。「よくもまあ『見失った』なんて言えますね！南野さん、この理由を本当に信じますか？」南野の返答を待たずに明日香はきっぱりと言った。「私は信じません。撮影現場の広さもたかが知れてるっていうのに、よほどのバカでなければ見失いませんよね？こんなレベルで、彼らはこの業界でこの先もやっていけると思っているんですか？」南野は頭を抱えた。明日香の評判は伊達じゃなかった、本当に手強い！「白井さん、いずれにせよ我々の不手際です。本当に申し訳ありませんでした」「白井さん、これは謝罪するしないの問題ではありません。カメラマンが見失ったまさにその時に、中泉さんとうちの郁梨がともに負傷をしました。考えてみてください、これが公になったらどんな影響があると思いますか？うちの郁梨の将来をもてあそんでいるつもりですか？」「いやいや、白井さん、とんでもございません」「南野さん、私が強い口調で話しているのも無理はないんです。ネットのニュースはすでにご覧になりましたか？こんなタイミングでこんな事件が起きて、私も非常に困っているんです」南野はため息をついた。「分かりました。この件は必ずけじめをつけます」「南野さんのそのお言葉で安心しました。中泉さんとうち