All Chapters of 離婚したら元旦那がストーカー化しました: Chapter 71 - Chapter 80

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第71話

承平は自分が怪我して良かったと思った。少なくともまた朝食が食べられる。温かいお粥は美味しくて胃も温まるし!隆浩は折原社長が爽やかな表情で笑みを浮かべながら車に乗り込むのを見て、今日の折原社長は朝食を食べたのだと察した。「折原社長、ネットでまた社長に関するニュースが話題になっています」隆浩は折原社長の機嫌が良いのを見計らって急いで報告した。承平は一瞬にして良い気分を壊された。「もう抑えたはずじゃないか?また出てきたのか?」「今回は奥様とのニュースです」承平はハッとして隆浩を見た。「どういうことだ?」隆浩はありのまま説明した。「昨夜、あなたが奥様を迎えにレストランに行かれた時、ホテルのロビーで待っているところを動画で撮影されました。折原社長、すぐに対処しましょうか?」ネット上には承平と清香の熱狂的なファンがおり、郁梨も文太郎との噂があったため、現在ネットの状況は混乱を極めているのだ!ネット上のファンたちは、郁梨は折原社長と清香の間にいる邪魔者だと考え、彼らのスレッドや関連トピックでは、郁梨が他人の彼氏を誘惑したと罵られ、誹謗中傷が止まらないのだ!文太郎のファンは当初郁梨に好意的で、二人のカップリングを応援する者もいたが、この件で一転して非難に変わり、文太郎が郁梨を引き立てたことを無駄にしたと責め、『遥かなる和悠へ』の公式アカウントで郁梨の降板を要求しているのだ!また別の人たちは、動画で折原社長が郁梨の後をそっとついていく様子が、折原社長のクールなイメージと合わないことから、郁梨と折原社長こそ本物のカップルだと信じているようだ。清香とのスキャンダルで郁梨が怒っているので、折原社長が郁梨をなだめているに違いないと!ネットとはこういうものだ。批判する者もいれば、称賛する者もいる。しかし郁梨のファンは清香や文太郎のとは比較にならないため、やはり郁梨を誹謗中傷するコメントが圧倒的に多いのだ。承平はこれらの状況を知らず、ただこう考えていた。郁梨は自分と清香の噂を嫌がっているのだから、今度は郁梨との噂になればいいと。そこで隆浩に指示した。「対応する必要はない」隆浩は驚きを隠せなかった。「対応しないのですか?でも折原社長……」隆浩が言い終わらないうちに、承平は遮った。「処理しないと言ったら処理しないんだ。余計な口を挟むな」
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第72話

「わかりました」二人は無駄な時間をかけず、すぐにLINEを交換し、郁梨は住所を明日香に送った。あとは明日香が来て相談するのを待つだけだった。——これは郁梨と明日香がコンビを組んでから初めての対面だった。郁梨は自分と承平が遅かれ早かれ離婚することを明日香に打ち明けた。契約結婚の真実は意図的に伏せた。郁梨と承平が契約を交わした時、秘密保持条項が明記されており、それだけは誰にも話せないのだ。それはそれとして、他にも打ち明けるべきことは出し惜しみなく全て話した。さすがはスター量産マシーンの明日香である。郁梨の現状に対し、慌てるどころか冷静に郁梨を慰めた。「心配しなくていいです。あなたと折原社長はまだ離婚手続きを済ませていないのだから、法律的にはまだ正式な夫婦です。清香さんは誰が不倫相手なのかよく分かっていると思います。この件に関して清香さんが公然とあなたを攻撃する勇気はないはずです。ただし、裏で工作員を雇って誹謗中傷する可能性はありますね」郁梨は頷いた。「分かっています。私のような芸能界の新人と、この業界とは無縁の承平のことについて、背後で誰かが仕掛けなければ、一夜にしてこんな大騒動になるはずがないんです」明日香は満足そうに眉を上げた。郁梨は頭が切れていて、明日香が指摘する前に既に清香が関わっていることを察していた。「おそらく清香さんは、折原社長がこの件をどう処理するか見極めようとしているのでしょう」郁梨は軽く眉をひそめた。承平がまだネットの騒動を知らないわけがない。しかし電話もなければ釈明声明もない。承平がどう出るか、郁梨には全く予測がつかなかった。明日香は率直に言った。「郁梨さん、今の最善策は折原社長自らが表に出て、あなたが折原社長の妻であることを公表することです。そうすれば全てが解決する。だから、折原社長に電話してみませんか?」郁梨は唇を噛んで無力に言った。「電話しても無駄です。承平は公表しないでしょう」公表するならとっくにしていたはず。どうして3年も経ってから今更公表などするというんだ!郁梨がそう言う以上、明日香にも手の打ちようがなく、別の道を探すしかなかった。「折原社長に表に出てもらうつもりがないなら、今私たちにできるのはこのニュースを抑え込むことですね。私にも業界に多少のコネがありますから、まず
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第73話

郁梨はこれにとても驚いた。郁梨はこの方面について詳しくはないが、ネットの話題トレンドを抑えるにはお金がかかり、それも大金が必要だということは知っていた!白井さんってそんなにお金に糸目をつけない人だったっけ?自分はまだお金を稼ぎ始めてもいないのに、コストを気にせずネットの話題トレンドを抑え込んだのか?郁梨がそう考えていたちょうどその時、明日香から電話がかかってきた。「郁梨さん、ネットの話題トレンドであなたを誹謗中傷するものが全部消されてるけど、どういうことですか?あなたまさかお金払いました?」郁梨はまばたきをして逆に尋ねた。「白井さんが払われたんじゃないですか?」明日香は苦笑して言った。「私にそんな大金があるわけないでしょう?一日かけて色々動き回った結果、いくつかのニュースや投稿は抑えましたけど、ネットの話題トレンドに載ってるものは抑えておりません。私が芸能界でそんなに強い力を持ってるわけがないじゃないですか」郁梨の頭にすぐにある人物が浮かんだ。でも、承平だろうか?もしそうだとしたら?なぜ承平は最初から手を打たず、突然動き出したんだろう?——承平は、ネットの話題トレンドをすぐに撤去しなかったことを隆浩のせいだと思った。はっきり説明しなかった隆浩が悪いんだ!多忙な折原社長は一日中働きづめで、ようやく一息つける時間ができたので、ネットで自分と郁梨のことがどう伝えられているか、二人に熱狂的なファンができたかどうかを見ようと思った。承平は密かにそれを期待していた。ところが、ネットには郁梨を罵倒する話題ばかりが溢れていた。文太郎とのスキャンダルで最近芸能界で注目されていた郁梨は、今や文太郎とのスキャンダルのせいで、ちょっと有名だった状態から一気にネット中から叩かれる存在になっていた!承平は頭を抱えた。この問題をうまく処理しなければ、今夜も確実に夕食にありつけない!そこで、承平は急いで隆浩を呼び入れた。「折原社長、何かご用でしょうか?」隆浩は呼ばれたとき、まだ困惑していた。もうすぐ退社時間なのに、まだ何か用があるのか?「ネットのニュースはどうなってるんだ?折原グループの社長夫人がどんなに罵られてるか見てみろ!お前は目が見えないのか?」承平はビジネスの世界では何事も即断即決で動き、結果を残すためなら手段を選ばな
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第74話

畑野部長は首をひねった。「周防さん、この長谷川さんという方は一体折原社長にとってどういう存在になるのですか?うちの折原社長って、女優の中泉清香とお付き合いされていらっしゃるのではないですか?」隆浩は畑野部長を一瞥した。「誰がそう言いました?」「違うんですか?」畑野部長は困惑した表情を浮かべた。このところ折原社長と清香のスキャンダルをいくつも処理してきたが、折原社長は否定したものの、二人の関係はかなり曖昧で、みんな密かに付き合っている思っているのだ!隆浩は眉をひそめた。「折原社長と中泉さんはただの友達です」畑野部長はスッと息を呑んだ。「では折原社長とこの長谷川さんは?」隆浩は畑野部長を見た。「畑野部長、世の中には口に出さずに心の中で分かっていればいいこともあります。折原社長のプライベートについては、私たちが詮索すべきことではありません」畑野部長は悟ったような表情で、へらへら笑いながら言った。「周防さん、ご丁寧に忠告をありがとうございます。折原社長から与えられた時間は30分だけですから、急いで仕事に戻ります。わざわざお越しいただき、お疲れ様でした」「こちらこそです、畑野部長。みんな折原社長のために働いているんです。私も畑野部長が折原社長からの指示をよりスムーズに対応して頂きたいと願っているだけですから」「分かってます、分かってます」「それでは畑野部長、こちらにて失礼致します」「お見送りしますよ」畑野部長は手で促す仕草をし、隆浩を広報部門の入口まで見送った。「畑野部長、どうぞお構いなく」「周防さん、お気をつけて。今度お茶でもご馳走しますよ!」畑野部長は思った。隆浩がわざわざ事情の補足に来てくれたおかげで、折原社長と郁梨の関係が分からないまま、折原社長を不快にさせる対応をする可能性があった。つまり、自分は隆浩に借りができたのだ。——30分で郁梨に関するネット上の誹謗中傷をすべてきれいに消し去るなんて、こんな迅速な対応は普通じゃできない。考えてみれば当然で、郁梨本人にそんな力があるはずがない。郁梨は芸能界に入ったばかりの無名の新人で、30分でネット上の話題トレンドを押さえ込めるわけがない。そんな力があるなら、とっくにやっているだろう。だから、郁梨以外でこの件に関与し得るのは、スキャンダルの渦中にいるもう一
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第75話

清香はこんなにも一喜一憂したことが今までになかった!清香はずっと承平が自分の所有物だと思っていた。たとえ自分が離れていたこの3年間で小さなハプニングがあったとしても、承平は結局自分のものになるはずだった!清香は郁梨が承平を3年間独占したことに嫉妬していたが、郁梨が自分のライバルだとは思っていなかった。承平は清香に約束がある。郁梨には何がある?ただのまぐれで3年間幸せに過ごしただけだ。しかし今、清香は確信を持てなくなった。承平は郁梨の母親がもう長く生きられないから、夫婦愛で親を安心させてあげているのか、それとも郁梨に対してあってはならない感情を持っているのか!清香は考えたくもなかったし、考えようともしなかった!「これはどういうことなの?私たちがやっとのことで事を大きくしたのに、逆に郁梨のために生き残る道を作ってしまったってわけ?」俊明は眉をひそめた。「清香さん、折原社長は一体どういうつもりなんですか?なぜ未だに釈明をされないんですか?長谷川さんをまだ助けるつもりなんですか?」俊明の言葉に、清香はイライラして落ち着かなかった。「知ってるわけないでしょ!」清香は怒りと焦りに満ちていた。「たぶん折原家の面子を保つためでしょ」「なぜ保つ必要があるのですか?長谷川さんが折原社長の妻だなんて誰も知りませんよ」俊明は核心を突いた。そう、誰も承平と郁梨が結婚したことを知らないので、承平がわざわざ郁梨のネット上の問題を解決する必要もない。「たとえ誰も知らなくても、郁梨は折原夫人の立場にあるんだから、万一に備えて何かする必要があるんでしょう」清香のこの言葉は俊明を慰めるためでもあり、自分自身を慰めるためでもあった。清香はそう考えるしかなかった。承平が約束を忘れていないことを願うしかなかった。いや!たとえ忘れていたとしても、承平に思い出させてやる!そう!承平は自分のものなのよ!——折原グループの広報部は、30分以内に郁梨の問題を解決したが、承平は依然として不安で、異常にイライラしていた。イライラの原因は、なぜ今不安を感じているのか自分でもわからなかったことだ。帰ったら夕食がないことを心配しているのか?それとも郁梨が怒っていないか心配しているのか?でも、なぜ承平は郁梨の気持ちをそんなに気にするんだろう?承平は
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第76話

「うん、わかった」承平は満足げに電話を切った。郁梨の口調は怒っているようには聞こえなかったので、承平は安心した。帰宅途中、車の中で承平はずっと上機嫌だったが、それは助手席に座っていた隆浩が電話を受けた時までしか続かなかった。「折原社長、調査の依頼があった件についてご報告があります」承平が最近隆浩に調査させていたのは一つしかなかった。承平はすぐに目を細めた。「話せ!」「ステーキレストラン、ザ・フィリップスの従業員がこっそり写真を撮り、あなたと中泉さんに関するスレッドに投稿したようです。その従業員は自分は折原社長と中泉さんのファンだと話しており、二人を見かけて興奮してしまい、つい写真を撮ってしまったとのことです」承平はあのスキャンダルで郁梨と大喧嘩したことを思い出し、一気に気分が沈んだ。「それだけか?」「現時点では誰か後ろに指示役がいるのかどうかは不明です」隆浩は慎重に言葉を選んだ。この件はさらに調査の余地があると考えていた。「写真を撮るのはファンとしての行動かもしれないが、ネットに投稿するのはどうだ?こんなプロとしての意識が欠如した人物が、ザ・フィリップスの従業員だと言えるのか?江城市内一の高級レストランもこの程度か」「折原社長、その従業員は既に解雇されました」「ほう?」「一点気になるのは、実際にこの件の犯人が誰か知る由もないのに、なぜその従業員は自ら名乗り出たのかということです。それかザ・フィリップスはコンプライアンスをかなり重視しているため、事件後すぐに内部調査を行った可能性もあります」隆浩の言いたいことは、従業員は何事もなかったように振る舞い、スキャンダル記事の責任をマスコミに押し付けることもできた、ということだ。承平は隆浩を見た。要するに、隆浩はまだ清香のことを疑っていた。「不審に思うなら、引き続き調べろ」隆浩の目つきがわずかに変化した。以前清香を疑った時、折原社長は調査すら許さなかったのに、今は徹底的に調べろと言っている。どうやら折原社長もようやく全てがあまりにも偶然すぎることに気づいたようだ!「はい!必ず真相を解明します!」承平はうなずき、眉をひそめて目を閉じた。黒いファントムが静かに別荘の前に停まった。承平がまだ目を開けていないのに、隆浩の困惑した声が聞こえた。「これは一体?
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第77話

今日の午後、郁梨は承平と電話を切った後、スーパーへ買い物に出かけた。いつもと変わらない買い物だったが、とても不愉快な出来事が起こった。スーパーは大型ショッピングモールの中にあり、郁梨はマスクを着用して出かけた。買い物を終えて帰ろうとしたところ、誰かに気付かれ、地下駐車場までつけ回された。郁梨の車を見て身元を確認すると、その人物は直接郁梨の行く手を阻んだ。相手は清香の熱狂的なファンで、郁梨が清香の彼氏を誘惑したと決めつけ、郁梨に対して敵意を持っていた。郁梨が道を開けるよう求め、地下駐車場にも監視カメラがあると注意したが、相手は頭がおかしいのか理解力に乏しいのか、相手は郁梨が自分を脅したり挑発したりしていると受け取った。口論の末、相手は郁梨に手を出した。モールの警備員がそれに気づくと、すぐに二人を引き離した。郁梨は大した被害はなかったが、髪の毛を何本か引き抜かれ、マスクも破られ、顔を爪で引っかかれた。出血はなかったが、赤い跡がくっきり残った。一方、清香のファンはもっと惨めな姿だった。先に手を出したのはファンの女性なのに、彼女は何発も平手打ちを食らい、髪の毛も大量に引き抜かれ、挙げ句の果てには口元から血まで出ていた。警備員が二人を引き離した時、ファンの女性は泣いていた。警備員たちは郁梨が被害者だとわかっていたので、当然郁梨をかばった。ファンの女性も狂ったように叫び、卑劣な言葉を浴びせた。郁梨も黙っておらず、すぐに警察を呼ぶよう要求したため、二人は警察署に連行された。——自分の推しに熱狂的になるファンは少なくない。郁梨はこの件を承平のせいにはできないと思っていたが、やはりどこか悔しかった。承平が郁梨の存在をちゃんと公表していれば、ファンの女性もあんなに堂々と郁梨を罵るなんてことは起きなかったはずよ!警察署に着いても、ファンの女性は郁梨を侮辱するのをやめなかった!「あの女はただのあばずれよ!他人の関係を壊したくせに、きれいだからって助けるの?それとも彼女が金持ちだから?あなたたち警察じゃないの?こんな道徳心のない不倫相手は、とっとと逮捕されるべきだ!見てよ、私こんなに殴られてるんだよ!」「少し静かにしてくれませんか?先に手を出したのはあなたで、防犯カメラにもはっきりと映っています。よくもこんなところで騒げますね!」一
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第78話

幸い傷は深刻な状態ではなかったので、一、二日もすれば治るものだった。警察官たちはファンの女性に劣らずびっくりしていた。みんな同じ若者だから、ゴシップニュースにも関心があった。ネット上でも折原グループのトップが清香の恋人なのか、それとも郁梨の恋人なのかで話題がもちっきりだった。ところがどっこい、承平は郁梨の夫で、郁梨こそが正真正銘の妻だったのだ!じゃあ清香は一体どういう存在なのか?ファンの女性はこの事実を受け入れられず、椅子から飛び上がるほど焦っていた。「そんなはずがない!どうしてあなたが長谷川さんの夫なの?清香様の恋人じゃなかったの?」承平は冷たい目でファンの女性を一瞥し、質問には答えず、警察官たちに向かって言った。「妻の弁護士ががこれから来ます。この件は徹底的に追及します!」郁梨は驚いて目を上げた。承平は気づいていたはずだ、たかが清香のファンのことで、承平は事を大きくせずに済ませると考えていた。実際、示談が最善の解決策だった。事が大きくなれば、清香が批判の的になるのは避けられない。ファンの女性も目を見開いた。「私を訴えるつもりですか!」承平はようやくファンの女性を見下ろすようにして言った。「俺の妻にけがをさせて、何の責任も取らずに済むと思っているのか?」「で……でも私は清香様のファンよ!」ファンの女性はついに恐怖を感じ始めた。ただの一般人が、折原グループに到底太刀打ちできるはずがない。「それがどうした?清香があなたに郁梨を殴るよう指示したのか?」ファンの女性は思わず首を振った。たまたま郁梨を見かけ、自分の推しのために正義を振りかざしただけだった!承平はファンの女性を見るのをやめ、しばらくすると隆浩がスーツ姿の男性を連れて入ってきた。その男性は端正な顔立ちで、金縁のメガネをかけ、どこか知的な雰囲気を漂わせていた。警察官の中でこの男性を知らない者はいなかった。彼を見た途端、何人かが声を上げた。「青山李人(あおやま りひと)さんだ!」郁梨はこの名前を聞いてハッとし、慌てて振り返ると、本当に李人だった。青山李人、弁護士界のトップエリートであり、承平のただ一人の親友。承平は大げさにも李人を呼んだのか?ふと郁梨はまた気が楽になった。李人を呼ぶのも当然だ。李人は数少ない、郁梨と承平の関係を知る人
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第79話

承平は郁梨の手を引いて警察署を出た。車に乗った途端、郁梨はさりげなく手を離した。「顔以外に、どこか怪我はしてないか?」郁梨は首を振り、何も言わなかった。「驚いたか?」承平はしつこく郁梨に問いかけたが、依然として返事は得られなかった。「どうしたの?本当に驚いたのか?」「別に」郁梨はようやく口を開いたが、その冷たい言葉に承平は郁梨が不機嫌だと気づいた。車内には隆浩と運転手も同乗しており、承平は眉をひそめ、沈黙した。家に着くと、郁梨は無言のまま食材をキッチンに運び、調理台に置いた。承平は郁梨について行き、向かい合って立った。郁梨が手慣れた様子で食材を下処理するのを見ながら、承平は慎重に言葉を選んで言った。「今日はお前に迷惑をかけた」郁梨は野菜を切っていたが、その言葉で手を止め、俯いたまま続けた。「あの人は清香のファンよ。騒ぎが大きくなって、清香の評判に影響が出るのを気にしないの?」「大丈夫だ。清香はこの件について何も知らない。一部の過激なファンは清香の手にも負えないからな」承平の口調は極めて自信に満ちていた。たとえ清香が批判を受けても、それは承平が解決するだろう。余計なお世話だったわ!「あなたは徹底的に追及すると言ったけど、私とあなたの関係がバレたらどうするつもり?」郁梨はまさか暴露されたくないのか?承平は考えを巡らせ、そして納得した。芸能界にいると、確かに既婚者という立場は市場価値に影響してしまう。「その点は心配無用だ。李人に処理させる」郁梨は自嘲気味に笑った。こんな馬鹿げた質問をするなんて。承平だったらこんな小事くらい簡単に片付けられるに決まっている。郁梨は俯いていたため、承平は郁梨の表情の変化に気づかなかった。その夜、二人は静かに夕食を済ませ、それぞれの部屋に戻った。——郁梨がモールで清香のファンに襲われ、もみ合いになったニュースは、案の定ネット上の話題トレンドに入った。明日香から電話がかかってきた時、郁梨と承平は朝食をとっていた。郁梨は思わず承平の方を見た。「郁梨さん、昨日あなたは清香さんのファンに殴られたそうですね?」郁梨はまだニュースを見ていなかったが、明日香の名前が携帯画面に表示された時、郁梨はこの件でかかってきたのだと察した。「白井さん、正確に言うと先に
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第80話

郁梨はうなずいた。「そう、青山さんは承平の友人なんです」明日香は驚きの声を上げた。「折原グループの社長夫人に逆らったらこうなるとは、あまりにも残酷すぎませんか?まあこれでネットの件は気にしなくても大丈夫ですね。後で青山さんの連絡先を教えてください。残りは私がうまくやりますから」「はい、白井さん。お手数をおかけします」「とんでもないです。話題が良くても悪くても、うまく活かせば注目を集められますから、新人にとってはむしろチャンスです。だからプレッシャーを感じる必要はありません、いいですね?」「はい、わかりました」明日香は非常に勤勉でプロ意識の高いマネージャーだった。明日香の太助を得た郁梨は、まさに鬼に金棒と言える立場になった。つまり……郁梨は文さんに大きな借りができたのだ。郁梨は心の中で考えた。この騒動が過ぎ去ったら、文さんを食事にでも誘ってお礼を言おう。郁梨の向かい側に座っていた承平が突然立ち上がり、椅子の動く音が郁梨の思考を現実に引き戻した。「じゃあ仕事に行ってくる」「あ、はい」「夕食は家で食べる」「うん、わかった」承平はやや不満だった。郁梨の反応がなぜこんなに薄いんだ?——不満はあったが、承平は李人の連絡先を郁梨に送るのを忘れなかった。郁梨にLINEした後、承平は李人に電話をかけた。弁護士界のエリート中のエリートである李人は、この時間にはすでに会社に向かっていた。承平が口を開く前に、電話の向こうから李人のからかうような声が聞こえた。「承平、お前様子がおかしいな。もう全部俺に任せたっていうのに、まだ何か心配事があるのか?」李人と承平は幼馴染みで、長年培ってきた阿吽の呼吸により、お互い用事がなければ連絡しないことが習慣になっていた。「郁梨のマネージャーがお前の連絡先を要求してきた。それと、郁梨は俺との関係が公になるのを望んでいない」李人は驚いた。「郁梨さんが公開したくないってこと?ずっとお前が公開したくないと思ってたよ」承平にはそんな考えはなかった。承平は別にどうでもよかったが、わざわざ公開する必要も感じていなかった。「久しぶりにメシでも行かないか?一杯やろうや」「しばらく後だな。腕の骨にひびが入ってて、最近はお酒が飲めないんだ」「ところで、その手は一体どうしたんだ?昨日聞
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