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第97話

Auteur: 知念夕顔
郁梨の手に激痛が走った。郁梨は顔色が青ざめ、唇を噛んで痛みの声を押し殺した。

「奥様、手が!」隆浩は鋭い目で、郁梨の包帯を巻いたばかりの手からまた血が滲んでいるのを見つけた。

承平はようやく郁梨の手の怪我に気づいた。

「手はどうした?」

郁梨は承平に弱みを見せたがらなかったので、怪我をした手をずっと袖に隠していたが、転倒の瞬間、反射的に手を晒してしまった。

承平は急いで郁梨に近づき、手の様子を見ようとしながら、郁梨を起こそうとした。

承平は郁梨を突き飛ばすつもりはなかった。郁梨が突然清香に手を出したので、反射的に押してしまったのだ。

承平はすでに後悔していた。

承平の謝罪を待たずに、郁梨は承平を制止した。

「触らないで!」郁梨は涙ぐんだ目で承平を見つめ、一語一句はっきりと言った。「汚らしい!」

承平が郁梨に差し出した手が凍りついた。

郁梨の視線はあまりにも冷たく、まるで知らない人を見ているようだった。承平は理由のない不安感に襲われた。

この不安を隠すため、承平は隆浩の方を見た。

「郁梨の手はどうしたんだ!」

隆浩は心の中で激しく呟いた。今さら聞いてどうするんだ、折原社長。もう手遅れだ。奥様は明らかにあなたの態度に深く傷ついているっていうのに!

「ええと……釘が奥様の掌に貫通しまして、医師によれば、あともう少しずれたら骨を傷つけるところで、最悪手が使えなくなるところでした」

後半の言葉は隆浩が付け足したが、ほぼほぼ事実だし、大袈裟ではないと思った。

承平は聞いて背筋が凍る思いがし、心配でたまらなくなった。こんなに重傷だというのに、今どういう状態なのかも知らなかったとは?郁梨は今カンカンに怒っていて、触れることすら許してくれない。どうすればいいんだ?

隆浩も何ぼーっとしているんだ?

「だったら何をぐずぐずしているんだ!早く医師を呼んで、郁梨の手の包帯を替えさせろ!」

隆浩は承平に怒鳴られて我に返った。「はい、すぐに呼んできます!」

「結構です!」

郁梨はもがきながら地面から起き上がった。承平は何度か手を差し伸べようとしたが、その勇気がなかった。あの「汚らしい」という言葉をまた聞くのが怖かったのだ。

清香はこの光景を見て、非常に目障りに感じた。承平の郁梨に対する心配は、自分に対する心配よりもはるかに大きかったのだ!

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