郁梨は台所で料理をしながら、心の中でどうしようもない気持ちになっていた。もう彼にご飯なんて作らないと言ったのに、結局また作ってしまった。けれどこれはお義母様が来たからであって、決して彼のためじゃない。彼はせいぜいそのおこぼれをもらうだけだ。郁梨は小さくため息をついた。自分をそうやって納得させるしかなかった。とはいえ、彼の方も気楽ではない。リビングを見ると、蓮子がまだ彼を叱っている。その光景に、郁梨の気持ちは少しだけ晴れた。三年前、郁梨は台所に立つだけで右往左往する大学生だった。それが三年後には、わずか四十分で四品の料理を仕上げる主婦になっていた。けれど、そんな努力と変化も、結局は報われないものになってしまった。蓮根の煮込み、ピーマンの肉詰め、ニラ玉、そして生姜焼き。香りが立ちのぼり、思わず食欲をそそる。蓮子はピーマンの肉詰めをひと口食べて言った。「うん、これにはニンニクも入ってるのね。辛くて香ばしいわ」郁梨の料理の腕前はもともと良く、いつも身近な食材で特別な味を生み出すことができた。承平はどこか誇らしげにピーマンの肉詰めを味わいながら、ついもうひと口箸を伸ばした。「お義母様、私は家庭料理しか作れませんけど……お口に合えばうれしいです」折原家の本邸には専属のシェフがいて、どの料理も手が込んでいて上品だ。蓮子がこの素朴な味に慣れていないのではと、郁梨は内心ひやひやしていた。「どうして嫌うものですか。この生姜焼きもとてもおいしいわ。うん、本当にいい味」蓮子は女として、郁梨がこの三年間どれほどの思いで過ごしてきたかを感じ取っていた。碗を置くと、やわらかく笑って言った。「郁ちゃん、承平と一緒にいて大変だったでしょう。こんなにおいしい料理が作れるなんて、きっと相当努力したのね」郁梨はなんと不幸なことに承平と結婚してしまったが、同時に、こんなにも思いやりのある姑に巡り会えたことはなんと幸運だった。承平は母の言葉を聞き、ふと胸の奥がざわめいた。そういえば、自分もかつて郁梨の作る料理を「口に合わない」と言ったことがあった。それは二人が結婚したばかりの頃だった。郁梨は毎日のように「今夜は家で食べる?」と訊ねたが、ちょうどその頃、彼は父から会社を引き継いだばかりで、連日の会食に追われていた。外食ばかりの日々にすっかりうんざりして
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