如実は午前八時に火葬された。見送りに来た教え子たちは皆、涙にくれるばかりで、「琴原先生!」と何度も叫びながら、ひざまずいて頭を下げる者もいれば、抱き合って声を上げて泣く者もいた。ただ郁梨だけは、静かに母の火葬を見つめ、黙って涙をこぼしていた。まるでこの世から切り離されたかのように。幼い頃、分別のなかった自分は、母を恨んだことがあった。母が教え子たちばかりを可愛がり、自分を愛してくれないと感じていたのだ。自分こそが実の娘なのに、と。けれど大人になる前に、郁梨はもう悟っていた。少しずつ母を理解できるようになっていたのだ。母は偉大な人だった。その愛で多くの人を導き、育ててきた。母のもとにはよく教え子たちから電話がかかってきた。「琴原先生、第一志望に合格しました」と報告する声を聞くと、母は喜びと感動で声を震わせ、電話の向こうの生徒と一緒に泣き笑いしていた。郁梨は一度、抑えきれずに母に尋ねたことがある。「お母さん、こんなに尽くして……報われることなんてあるの?」その時のことを、彼女は今でもはっきり覚えている。母は静かに笑って言った。「もう報いはもらっているのよ。私の教え子たちは、医者になった人もいれば、科学者や芸術家になった人もいる。中には私と同じように、今は誰かを教える立場になった人もいる。みんながそれぞれの場所で光を放ち、社会の役に立っている。それこそが、私のいちばんの報いなの」その時、郁梨の目に映った母の姿は、まるで神聖な光をまとっているようだった。お母さん、見えているの。お母さんへの報いは、これだけではなかったの。誰一人としてお母さんのことを忘れていないわ。皆、お母さんに別れを告げに来てくれたの。お母さんがしてきたことは、すべて価値のあることだったの。郁梨は必死に自分に言い聞かせた。もしかしたら母は、ただ場所を変えて、またどこかで子どもたちを教えているのかもしれないと。――火葬が終わると、郁梨は母の骨壺を抱いて霊堂へ戻り、そっと祭壇に安置した。そのあと静かに一歩下がる。承平は最初から最後まで彼女の傍に寄り添い、共にそこに立っていた。二人は黒い服に身を包み、弔問に訪れた人々からの慰めを受けていた。緒方は花束を祭壇の前に供え、如実に向かって深々と頭を下げたあと、郁梨の前に進み出た。「ご愁傷様です」郁梨と承平は
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